98話:ピオネー攻略 2
僕たちはピオネー山岳の先住民と交渉し、登攀ルートを策定するために、彼らの居住区と思われる洞窟に飛んでいた。
リリが使う、空間跳躍のスキルによってだ。
「リリの空間跳躍は、本当に使えるよね。
僕らまで運べるなら、かなり戦術の幅が広がる」
洞窟を隊列を組んで行く僕らは、雑談をしながら進んでいく。
「えへへ。そう言ってくれると嬉しいなー」
リリは鼻頭をポリポリと掻いて表情を赤らめた。
「でもルークとの戦いでは読まれてたけどね。
あれって、なんで私、跳躍先を読まれてたの?」
リリの言葉に、僕とロイさんが目を見合わせ、「あー」という表情になる。
「言ってもいいんですかね、ロイさん」
「もう身内になったわけだし、構わんと思うが」
「じゃあ答えるか。空間跳躍って万能に見えるけど弱点があるんだ」
僕の言葉を聞いて、リリは「弱点?」と首を傾げる。
「空間跳躍で跳ぶ先は、強くイメージしないといけないらしくて、視線に引っ張られる。
つまり、リリの視線を追っていれば、大体どのあたりに跳躍するというのが予測できる」
「あー……、あー、あぁー!!!」
そこには思い至らなかったと、リリは柏手を打ちながら声を高らかに上げた。
「あー、なるほど! 視線か! たしかに、跳躍する先は見ちゃうなぁ」
「でしょ。リリはだいぶ分かりやすかったよ」
「え……ってことは、私の他に、別の空間跳躍の使い手もいるってこと?」
「いるんだよなぁ、それが。ユメリアって子なんだけど、これがちょっと複雑で——」
僕がそう言いかけたところで、ロイさんが遮った。
「ルーク! お喋りは終わりだ。この先から、人の気配が探知スキルにひっかかった」
洞窟の通路は、ゆるやかなカーブになっていて先が見えない。
「……了解。ロイさん、相手は武装してますか?」
「おそらく。殺気がする。
どうする、戦うか?」
「最初にこちらの実力を見てもらったほうが、交渉しやすいでしょう。
ある程度は、叩きのめして構いません」
「あぁ」
ロイさんが頷く。
「リリも分かっているとは思うけど、僕らは交渉しに来たんだ。殺さないようにね。
それと、このメンツで負けることはないだろうが、みんな、油断はしないように!」
「「「おう(はい!)」」」
「では、前衛から、ゴー!」
「「「了解!!」」」
前衛のロイさんとリリが抜剣し、ゆるやかなカーブの通路の先へと走る。
その後を中衛の僕がついていき、最後尾を守るのは後衛のベアトリーチェだ。
前衛2人の加速力は凄まじく、一瞬にしてカーブの通路の先へと到達し、ピオネー先住民と戦闘に入った。
「ふっ……!」
青白い光を撒き散らしながら、ロイさんの剣が軌跡を描く。
先住民が手に持っていたハンドアクスが、ロイさんの剣閃によって弾かれる。
「コイツラ……! ナニモノダ……!」
「悪いが、隊長の命令なんでね。ちょっと痛い目にあってもらおうか」
ロイさんの蹴りが、バーバリアンのような先住民の腹部を直撃した。
「ゴハッ……!」
強化された身体能力から繰り出されるロイさんの蹴りは、先住民の男を壁に叩きつけた。
「キサマ……!」
別の先住民の男がロイさんを狙って、ハンドアクスを振り下ろそうとするが、それをリリが空間跳躍で割って入る。
「やっ!」
少女騎士ながら、美しい半円を描く防御剣さばきで、リリは先住民の斧攻撃をいなす。
先住民のハンドアクスが地面に突き刺さり、それをリリは左足で踏んで固定。
斧の上で絶妙なバランスを取りながら、リリは右足で男の胸部を蹴った。
「グウッ……!」
「コ、コイツラ、ツヨイ……!」
一瞬の攻防で、先住民たちはロイさんとリリの実力を推し量ったようだ。
やはり、このパーティーは世界最強の実力を誇る。
「リリ、ロイさん。もう大丈夫です!」
彼らを制止して、僕は先住民の前に躍り出る。
「僕らは戦いに来たわけじゃない。交渉に来たんだ」
「コウショウ、ダト……?」
「シンジラレルカ!」
「嘘じゃない。
嘘だと思うなら、これをくれてやる」
僕は魔導師のローブのポケットに入れていた、貴金属のアクセサリーを彼らに放ってなげた。
「コレハ……ホウセキ……!」
「カネニナル!!」
「このとおり、僕らはきみたちにお願いがあってここに来たんだ。
なにもピオネーの先住民と戦いに来たわけじゃない。
話を聞いてもらえるなら、こんなちっぽけな宝石なんかじゃなく、山積みの金貨だって用意してる」
「…………」
先住民の男たちはお互いの顔を見合わせて、僕の言葉の真偽を測っているようだった。
やがて、少しの沈黙の後、彼らは口にする。
「ゾクチョウニ、アワセル。ツイテコイ」
その言葉を聞いて、僕らは顔を綻ばせた。




