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91話:懐かしき祖国へ向かって

「1万の師団でウェルリア王国を落とすって、大見得切ったね、ルーク……」


 リリが心配そうな顔で僕を見る。

 広間の大会議から退席した僕らは、別の部屋に再び集まり、師団レベルでの会議を開いていた。


 師団長の僕に、部隊のエースであるロイさん、いつもの副官と部隊長級、それから臨時戦力としてリリ、ベアトリーチェ。

 これらルーク部隊の面々が、会議室で僕を注視している。


「大会議の時も指摘されてたけどさ、あたしたちとユースの師団を潰しても、ウェルリア王国にはまだ総動員兵力数が10万いるんだよ。さすがに1師団だけで戦うのはキツくない?」


 ベアトリーチェが首を傾げながら、僕に言った。


「割合、イケると僕は思ってる。

 そりゃ、会戦で1万vs10万をやれば負けるよ。

 でも、何も戦争は真っ向からガチ勝負しなくたっていいんだ。

 ウェルリア王国を内部から徐々に切り崩していくには、少数精鋭の方がいい」


「具体的にはいかがするおつもりでしょうか、閣下?」


 僕の部隊の副官が、そう尋ねてくる。


「少し、非人道的な方法かもしれないが、策はある。

 まず僕らの師団……もうこの際ルーク師団と呼称しよう。

 ルーク師団が、レスティケイブの北部を越えてウェルリア王国内に突入する。


 そして、ウェルリア王国内で糧秣保管地を優先して襲い、食料や物資を略奪するとともに焼き払う。

 黙って糧秣を焼き払われるバカはいないだろうから、そこに対応のために釣られて出てきたウェルリア軍を撃破する。


 おそらく、ウェルリア軍は王都や別地方の防衛にも割かなければならないから、僕らの対応に出てくるのは多く見積もって1~2師団。

 つまり、2万の兵だ。どうだ? 10万は負けるだろうが、1万vs2万なら、戦術次第では勝てる気がするだろう」


「それは、確かにそうですが……」


 副官やリリたちの顔は晴れない。

 本当にそんなことが可能なのか? と疑っている。


「糧秣地を焼き払われるのは、物資や金銭的に不安の抱えているウェルリア金庫への大打撃にもなる。

 おそらく必死で止めようとしてくるはずだ。


 そこを、僕らが罠を張って待ち構え、各個撃破する。

 これを、ウェルリア全土の糧秣保管地で同じことを繰り返す。


 ウェルリア全土の糧秣地を焼き払った時には、すでにウェルリア兵は壊滅状態のはずだ。

 作戦は以上だ。何か質問は?」


「なるほど。まず俺からいいか?」


 僕の発言に、まずロイさんが挙手した。


「どうぞ、ロイさん」

「つまりルークは、ウェルリア王国がやろうとした戦術を、やり返してやろうと言うんだな」


「そうです。ウェルリアの弱点は、物資にある。

 そこを集中的に叩きます」


「逆に俺たちが、ウェルリア王国に焦土戦をやり返されたらどうする?」

「本国から補給を送ってもらいます」


「もう1つある。ウェルリア王国に侵犯するルートは、ウェルリア軍が通って来たレスティケイブのつり橋を使うのか?

 さすがにそれは読まれ、警戒されてるんじゃないか」


「使いません。別のルートを選択します」


「となると……吊り橋の下の大峡谷の中を抜けるのか?

 あそこは地下迷宮から出て来た魔物がわんさかいるぞ」


「そのルートも使いません」

「だったら、どこを」


 彼の疑問に、僕はテーブルの上に広げられた地図の一点を指差した。


「大陸の東と西を分断するレスティケイブ。その北部に非常に険しい山脈、ピオネー山脈が連なっています。

 ルーク師団はここを通ってウェルリア王国に侵入します」


 僕の発言に、師団のメンバー全員がどよめいた。


「ピオネーを越えるのか!? 確かにあのルートを通ってウェルリア国内に入るのは無警戒だ。

 しかしそれは、ピオネーが険しいだけでなく、厳しい寒さと酸素の薄い高山で、部隊行軍不能で有名な山脈だからだぞ?

 万が一抜けれたとしても、ウェルリアの地を踏んだ時に、どれだけの兵力がついて来れているか……」


「そのピオネー攻略対策として、リリを起用します」

「わ、私?」


 リリがパチクリと、瞬きをして僕を見返す。


「リリには空間跳躍という次元系統の神級スキルがある。

 そのスキルを利用して、ルーク師団が山岳攻略できるルートを見つけてもらう。

 僕らの部隊は、かつて誰も発見したことのないルートを通る」


「それは構わないけど……、でも師団丸々が通れるピオネーの行軍路って見つかるのかな」

「空間跳躍は何人か連れて飛べたりしないかな、リリ」


「私の手か体に触れていれば、数人は同時に跳躍できると思う」

「なら、万が一の事態は、全員リリに空間跳躍でピオネー山脈を超えてもらおう」


 リリは呆れたように笑って、僕に言った。


「ルーク。それはさすがに私も魔力がもたないよ」


「それは冗談だけど。でも、剣神ロイ、空間跳躍のリリ、騎士団のベアトリーチェ。

 これだけのメンツがいるんだ。魔法とスキルを駆使して、超えられない山はないはず」


 リリがごくりとつばを飲み込み、綺麗な蒼眼で僕を見返した。


「私が責任重大ってわけだ……。わかった。全力を尽くすね」


「あぁ。空間跳躍でルートを探すときは、僕も一緒に連れてってくれ

 ルートの選定に協力する」


「うんっ」


 リリは華が咲いたかのように笑った。


「ピオネー攻略については以上。他に疑問は?」

「では、閣下。私からもいいですか」


「副官のきみか。どうぞ」


「ちなみに私はアンドレと申しますが、まぁ今まで通り副官と呼んで頂いても構いません。

 それで疑問点なのですが、無事にウェルリア王国に侵入したはいいものの、こちらは1万の兵しかおりません。

 総兵力10万を超えるウェルリア兵に包囲され、集中打撃を食らう恐れがあるのでは?」


「それはない」

「な、なぜですか」


 断言しきる僕に、副官は動揺の色を表情に浮かべた。


「ないというより、ウェルリアにそれができなくさせるように、僕らが立ち回る。

 糧秣保管地を焼き払ったら、速やかにその地方から移動し、別の糧秣保管地に移ってはまた襲う。 

 これを延々と繰り返す。僕の言っている意味が分かるか?」


「ええと……」

「ゲリラ戦」


 言葉に詰まる副官に、リリが助けの手を差し伸べた。


「そうだ、リリ! ウェルリア国内で、僕らは神出鬼没のゲリラ戦を行う。

 糧秣保管地を襲っては、また別の地方に移動し、襲う。


 あるいは先も言ったとおり非人道的なやり方ではあるが、防御が手薄な街を攻撃し、略奪してこちらの物資を回復させてもいいな。


 そうすれば、ウェルリア王国はどの街や糧秣保管地が僕らに襲われるのか分からない。

 王都やエジンバラとの国境線も防備を手薄にできない以上、ウェルリア軍を戦力分散して僕らに当たらざるを得なくなる。


 そこを僕らが各個撃破していく」


「なるほど……。分かりました。

 あぁ、だからこそのピオネー越えですか。

 レスティケイブのつり橋を通れば、どうしても出口で待ち伏せされるから」


「そういうことだな。機動を持って、大軍を制す。

 これが今回の戦略の基本方針だ」


「承知しました。

 浅慮な質問をしてしまい、申し訳有りません、閣下」


 恥ずかしそうにする副官に、僕は苦笑して首を横に振った。


「いいよ。僕だって、神様じゃないんだから間違える時の方が多い。

 会議や軍議っていうのは、ヒューマンエラーによるミスを少なくするためにあるんだから。

 他に質問は?」


「じゃ、あたしからもいいっすかね」


 今度はベアトリーチェが手を挙げる。


「どうぞ、ベアトリーチェ」


「戦略の方針は分かった、妥当っていうか、これ以上ないぐらいだと思う。

 でも、ウェルリア師団との戦闘で確実に勝つと決めつけているところが、少し危うい感じがする。

 あっちはまだ、エースオブエースの騎士団を本格投入してきてないんだよ?」


「それに関しては、何の心配もしていない。

 だって僕らには、剣神ロイと、空間を超える聖女リリがいるんだから。

 この2人は、僕から見ても強すぎる。

 カードゲームでジョーカーを2枚手札に持っているようなものだ」


「まぁ、そこまで褒められると」

「恥ずかしいですね……」


 ロイさんとリリが顔を赤らめさせた。


「まぁー、確かにリリは騎士団でもエースだったし、ロイさんもめちゃ強いけどね」

「それに僕らにはベアトリーチェもいるしね」

「あたしぃ? いやぁー、あたしはダメダメっすよ……」


 ベアトチーチェは自虐の笑みを浮かべて、卑屈になった。


「ま、そういう理由で、局地戦では負けない自信が絶対にある。

 負けるなら、僕が勝てる戦術を練ればいいだけだ。

 他に質問は?」


「「「…………」」」


「ないようだな。では、今回の軍議で決めた方針に従って、ウェルリア王国に攻め入る!

 長く困難な戦いになると思われるから、これより1週間はルーク師団全体を完全休養日とする。

 存分に英気を養ってくれ!」


「「「了解!!」


 僕らは、再び祖国ウェルリア王国の地へと向かう。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
+注意+

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