表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/100

89話:公爵位

「ではこれより、我が師団の戦闘報告をさせていただきます」


 僕らはリパンダール城塞都市の、会議室に集まっていた。

 僕やロイさん、師団の副官や部隊長級はもちろんのこと、今はここにリリとベアトリーチェが加わっている。


 傲岸不遜(ごうがんふそん)……もとい、度胸のあるベアトリーチェはともかくとして、捕虜身分かつ新顔のリリは僕らにしゃしゃり出ないように神妙な顔つきで佇んでいた。


「聞こうか」

「はい。まずロイ様やアウトレンジ攻撃部隊が戦闘を行なったウェルリア第1師団ですが、森の中で追撃しほぼ全滅に陥れ、壊滅状態です」


 副官の報告に、僕は目を丸くさせる。


「それはすごいな。こちらの魔導師部隊は1000ほどしか動員しなかったはずだが、1万いたウェルリア兵が、ほぼ全滅?」

「そのようですな。殿を務めて一騎当千の働きをしたロイ様のおかげかと」


「さすがですね、ロイさん」

「それはどうも」


 ロイさんは肩をすくめて、どうでもよさそうにしている。


「それより敵の総大将であるユースの首は獲ったのか?」


 ロイさんの問いに、副官は残念そうな顔で首を横に振った。


「いえ……それが森で残党狩りをしても、敵の指揮官は見つけられず……。おそらく、手勢に囲まれて逃走したのではないかと。

 そしてルーク閣下が指揮及び対応にあたられたウェルリア第2師団ですが、こちらは目立った被害もなく、7000近いウェルリア兵が捕虜として投降しております」


「指揮官が現場に出て行って、大金星を上げたな、ルーク」


「はは……。成功して良かったです。で、その捕虜となったウェルリア兵は、今はどこに?

 まさか城塞都市の中に全員収容できるはずもないだろう」


「ひとまずスタイン城塞都市の外れに待機させておりますが、色々とやるべきことが積み重なっているので、彼らに無駄飯を喰らわせるつもりはありません。

 なのでひと段落つけば、城の土木工事や、近くの男手が足りない農村で強制労働でもさせようかと思っております」


「そんなところだろうね。兵士は屈強だから、多少無理が効く。

 焦土戦で焼いた農村やシリルカの街を一刻も早く復活できるように、復旧作業にあたらせておいてくれ」


「かしこまりました」


 僕の言葉に、副官が頷いた。


「それからきみは引き続き騎兵を指揮し、敵の指揮官であるユースの掃討に当たってもらえるか」

「承知いたしました。どのぐらいの規模の部隊で探させましょう、閣下?」


「騎兵が300でいいかな。

 残りは周辺の街の警備や哨戒に。

 ウェルリア兵はほぼ壊滅したとはいえ、その残党が無辜なるエジンバラ民へ襲いかからないはずがない。

 無辜の民に被害がでないように、周辺の警戒を厳に」


「御意に」


 副官は胸に手を当てて頭を下げた。


「僕はこの度の戦いの報告をレティス皇帝に上奏するため、これから皇都へ向かう。

 スタイン城塞都市の防衛指揮はきみに任せていいな?」


「閣下の御心のままに」


「では、会議はこれで解散としよう。

 あとはよろしく頼む」


「「「はっ! ご拝命頂戴いたしました、ルーク閣下!」」」


 副官や部隊長級の兵が、僕へ敬礼を送った。



 ◇ ◆



 その後、僕らは早馬が引く馬車に揺られて、皇都へ辿り着いていた。

 皇都の丘の上にある皇宮へ赴くと、レティス皇帝陛下がいつものように歓待してくれる。


 皇帝陛下のみならず、各省の閣僚、軍の上級幕僚、高級官僚などが集まる広間にとおされ、全員の視線が僕に集まっている。

 妬み嫉み混じりの視線が。


「ウェルリアから追放された男が、随分とまぁ偉くなったものだ」

「本当に。……しかし、初戦で圧倒的な手柄を上げたのも事実だ」

「その実績は認めなければならん。これからの対ウェルリア戦略が、だいぶ楽になった」


 ヒソヒソと、皇宮の官僚たちが語る声が聞こえる。

 そんな中、レティス皇帝が大きく手を打ち鳴らし、全員の注目を集めた。


「皆も知っていると思うが、今回、皇帝軍中将のルーク殿が、ウェルリアとの初戦で多大な戦果を上げてくれた。

 これで随分、大陸の諸外国がうちにつくことになると思う。皆の者、英雄ルークに万雷の拍手を!」


 皇帝陛下がそう言って、割れるような拍手と翔さんが僕の身に降り注ぐ。


「さて、これでルーク殿の能力に半信半疑だった面も認めなければならんだろう。

 1万の手勢で2万のウェルリア兵を打ち破るという、結果を出したのだからな。

 よくやってくれた、ルーク殿」


「お褒めに預かり、光栄に思います、陛下」


「褒賞には何が欲しい? なんでも言ってくれ」

「いえ……。陛下の腹心として、やるべきことをやったまでなので、特にはいりません」


「そうか。ならば戦争が終わったら、ルーク殿には皇国の公爵位を与えようか」


 レティス皇帝の言葉に、広間の全員にどよめきが起こる。


「こ、公爵位……! へ、陛下、よそ者に公爵位はあまりにも……」


 財務相の男が震える声を上げた。

 エジンバラ皇国だけでなく、ウェルリア王国を始めとした多くの国が、貴族制度の最上位に公爵位を置いている。


 つまり僕に公爵位が与えられたのなら、この国で僕に指図できる人間は皇族の限られた人間しかいないということになる。

 ウェルリア王国から追放された男に与えるには、あまりにも破格の待遇であった。


「歴史と格調を重んずる公爵位はさすがにそうホイホイ与えられるものではありません。再考を、陛下」

「そうです! こんな汚らわしいウェルリア出身の男に、誇り高き我が皇国の公爵位は、あまりに分不相応の褒賞です!」


 閣僚たちが矢継ぎ早に僕を批判するのを、レティス皇帝は一蹴して黙らせた。


「お前ら、何か勘違いしていないか?」


 レティス皇帝は、冷たい声音で周囲をねじふせる。


「は……? か、勘違いと仰いますと、何をでしょうか」


「お前ら並みの才能しか持たない閣僚や官僚は、ただの俺の手駒。

 ひいてはエジンバラ皇国が繁栄を維持するのに必要なだけの、従順な駒でしかない。


 しかし、俺はルーク殿には単なる駒である、お前ら以上のものを見出している。

 この大陸戦争の覇者を勝ち取るために、ルーク殿という英雄が必要なのだ。


 天性の英雄は、育てることができない。

 だから、金や地位を惜しまず与え、手元につないでおく。


 それだけの価値が、俺はルーク殿にあると、言っている」


「っ……!」


 皇帝陛下に真っ向から侮辱され、閣僚たちは顔を真っ赤にさせて黙り込んだ。


「わ、我々とて……! これまで皇国の発展に尽力してきたではありませんか!」

「それは感謝しているよ。だから俺も、お前らにちゃんと褒美は与えてきただろう?」


「しかしながら、陛下。

 公爵位を与えるともなれば、単なる栄誉や金だけでなく皇国の政治社会で、絶大な発言力を有するようになるのですよ!?」


「それでいいじゃないか。

 優秀なルーク殿が発言力を持って、何が困るんだ?」


「そ、それは……」


 閣僚や官僚たちは、ぐっと言葉を詰まらせた。


 まぁ、あれなんだろうな。

 ウェルリア出身という異物の僕が、皇国の宮廷社会を急速な勢いで駆け上がっていくから、彼らにも不安と嫉妬があるのだろう。


「そういうわけだ、ルーク殿。戦争が落ち着いてからになると思うが、公爵位を受け取ってくれるか」

「はぁ……、そうですね。まぁもらえるものならば、頂いておきましょうか……」

 

 そもそも僕がウェルリア王国を追放された原因は、貴族権力を持たなかったからだ。

 それでリリを悲しい目にあわせた。もうあんな悲劇は繰り返さないために、自衛としての権力を握ることは大切だ。


「では、これは内々の話ではあるが、決定事項だ。ようこそ、エジンバラの貴族社会へ」


 レティス皇帝が満面の笑みで差し出してくる手を、僕はドギマギしながら握り返した。


 ウェルリア王国の平民として生まれ、16年。


 遥かな異国の地で、僕は最上級の貴族にまで成り上がることとなった。


 この時より、僕はエジンバラ皇国民に嫉妬とやっかみ混じりで、『皇帝の寵愛(ちょうあい)を手にした男』と呼ばれるようになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ