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85話:ルーク VS リリ

 森林道の戦場に、一迅の疾風が駆け抜けた。

 それが戦いの開始の合図となる。


「はぁぁっ!」


 リリが騎士剣を構え、僕に向かって一息に突撃してきた。


 油断や慢心をするつもりはない。

 全力でリリを迎え撃つ!


 開幕早々から、僕の魔法でずっと主力を張ってきた『スリヴァーシュトローム』を発動させる。

 地面にできた雷の沼地から、3頭の雷蛇が出現した。


 高速のステップワークで僕に詰め寄るリリに、その雷蛇が食らいつかんと矛を向ける。


「やぁっ!」


 3頭の雷蛇の頭を、リリが白銀に光る騎士剣で打ち砕く。

 頭を剣で砕かれた雷蛇は、魔法光をきらめかせながら消えていく。


 やるな、リリ。

 さすがにこれじゃ、止まらないか。


 リリは高速のステップワークで僕に詰め寄るが、距離を空けて戦いたい僕はステップバックで逃げる。


 後退しつつ、次の魔法を展開させる。


 魔法とスキルを封じる魔法、サイレントクライ。

 

「ッ――!! ッ――!!」

「……?」


 悲鳴のような叫びの魔法を使ったが、しかしリリは平然としている。

 サイレントクライもダメか。


 おそらく、抵抗アビリティがあるんだろうな。

 なら、他の魔法の組み合わせで戦うしかない。


 水神の寵愛(ちょうあい)を、この身体に。


 水系統神級魔法、水神の盾、発動待機(リアクト)


 ステップバックでリリの突進から距離を取りながら、水神の盾を起動した。

 これで万が一の事態に陥っても、3回までならリリの攻撃を完全に防げる。


 しかし、近接専門職のリリに、魔法職の僕がステップワークの速度で勝てるはずもない。

 やがて追いつかれる。


「ルーク! 覚悟!」


 リリは高速のステップインで、一息に距離詰めてきた。

 そして、光り輝くような騎士剣を振りかざし、僕に剣閃を放ってきた。


 それを、ゼロ距離から雷の槍で迎撃する。


「サンダーランス!」

「はっ!」


 リリは放たれたサンダーランスを、ものの見事に剣で打ち砕いてみせた。

 続けて振るわれる剣を、僕は慌てて横に飛び退りながら回避する。


 ブオン! と、虚空を切り裂く音が、リリの剣からした。


 リリ……強いな……!

 雷系統の魔法じゃ、まるで太刀打ちできないか。


 地面に転がりながら逃げる僕を、リリは追撃のステップを踏む。

 しかしこちらも近接範囲にそうそう安々と入れさせはしない。


 起き上がりながら、牽制の光系統中級魔法の『レイ』を放った。

 矢継ぎ早にリリに殺到する閃光の魔法に、リリはそこで始めてたじろいだ。


 幾条もの光線を受けて、リリは始めて防御に回る。

 ステップを踏んで回避し、致命傷となる閃光だけを剣で弾き返す。


 なるほど……レイは使えるな。

 だが、あまり見せるとモーションを盗まれそうなので、頻用はしたくない。


 リリがレイに対応しているあいだに、僕は体勢を素早く立て直し、またステップバックでリリから離れる。


 リリはそこで、足を止めた。

 静かに剣を構えたまま、安易にこちらを追う戦術を見直している。



 ◆



 これが……今のルークか。

 私は感嘆とする思いだった。


 強くなってる。

 最下位職の低位魔導師だったあの頃の面影は、もう今の彼にはない。


 ルークの戦闘は、やりたいことがハッキリしている。

 どれだけのコストを支払おうが、私を徹底して近接範囲に入れないつもりだ。


 中距離圏に縛り付けて、魔法戦で挑もうとしている。


 サンダーランス、スリヴァーシュトローム、レイ。


 それらの魔法がそう、物語ってる。


 ルークが使う魔法は、すべて出足の早い、迎撃力に優れた攻撃魔法。

 その高い迎撃性能を誇る魔法の構成で、鉄壁の守備を築いていることから、その戦略思想が容易に読み取れる。


 つまり、ルークのやりたいことは、ミドルレンジの空間制圧戦だ。

 この距離で戦うことに、よほどの自信を持ってるんだろうな。


 事実として、ルークは中衛の魔導師として高いレベルでまとまってると思う。

 精鋭揃いの王国の騎士団員たちですら、みながルークの実力の前にひれ伏すだろう。


 でも。

 でもね、ルーク。


 私だって、この日まで遊んでたわけじゃないんだ。


 鉄壁の魔法要塞を敷いて、それほど近接範囲に入れたくないってのはね。

 僕の弱点は近接戦闘です、って言ってるのと同じことだよ。

 

 ――空間跳躍で、あの領域(近接範囲)に割って入る!




 ◆


 リリが攻勢の手を止めて、静かにその場に佇む。

 僕も中距離を取って、リリの動きをつぶさに観察した。


 この間合いは、魔法職である僕の距離だ。

 

 それをリリがあえて距離を詰めてこないとなれば。

 まず間違いなく、狙っているであろう、アレを。


 彼女だけが持つことを許された神級スキル。


 ――空間跳躍、を。


 デミウス鉱山で未来からやってきたリリに、空間跳躍は視線のイメージに引っ張られると教わった。

 それで実際、ユメリアの空間跳躍を攻略した。


 今のリリが、ユメリア以上の実力を持つかどうかは分からないが、空間跳躍は視線を追っていれば基本的には問題にならない。

 それに、水神の盾という保険もある。


 ならば――僕は攻めさせてもらう!


 僕が攻撃魔法を使った火力一辺倒の成長スタイルをとらなかったのは。

 この日のためだ、リリ!


 神級騎士のリリを超えるために、この日のために取得してきた、多彩な妨害魔法。


「アースシェイク!!」


 土系統の中級魔法。

 地面を激しく揺らす妨害魔法を使って、僕はリリの足場を揺さぶった。


 その場に制止していたリリは、地震に足をとられ、体勢を僅かに崩した。

 僕は続けて、彼女の手足を拘束する魔法を放つ。


「サンドロック!!」

「ふっ……!」


 激しく揺れる地面から、土と岩の鎖がリリの身体にまきつこうとする。

 その瞬間、リリの身体に青白い魔法の光がきらめいた。


 来た、空間跳躍!


 リリの視線を追う。

 視線の先は、僕の真上。上空。


 そこへ予め、最速の攻撃魔法を発動させておく。


 次の瞬間、フォン、という音とともに、リリの身体がその場から消失した。

 わずかな間のあと、僕の真上から彼女の声が響く。


「獲った――!」


 リリの声音が、頭上から降り注いできた。

 空間跳躍で僕の真上に現れたリリは、裂帛の気合でもって、僕の脳天に剣を振り落としてきた。


 しかし、リリの剣は僕に届くことなかった。

 水の神が作り上げる、あらゆる攻撃を弾く鉄壁の盾によって、僕に到達する以前にリリの剣戟(けんげき)は阻まれる。


「リリの空間跳躍が、読まれてた!?」


 僕らの戦いを見守るギャラリーの中で、動揺が起こる。

 ウェルリア軍の、騎士甲冑を着た少女(ベアトリーチェ)が、そう叫んでいた。


「水神の、盾……!? 神級魔法も覚えているの、ルーク!」

「あぁ、そして、お返しだっ!」


 水神の盾に攻撃を防がれ、わずかな硬直を起こしているリリに向かって、スリヴァーシュトロームが疾走する。

 3頭の雷蛇が、僕の真上に現れたリリに高速で向かって噛みつかんとする。


「ぐっ!?」


 僕の上空で水神の盾に剣を止められていたリリは、驚愕に目を見開いた。


 リリは、空中で3頭の雷蛇に襲われた。


「ふっ……!」


 リリは雷蛇のうち1頭を剣でもって引き裂いたが、身動きの取れない空中で残りの2頭の雷蛇に噛みつかれることになる。


「あぐぅぅっ……!!」


 雷の蛇が、リリの身体に電流を走らせた。

 彼女の気高い悲鳴が、戦場に舞う。


 スリヴァーシュトロームを食らったのなら、普通の人間なら感電死する。

 それかあまりの痛みに気を失って地面に激突し、大怪我を負うところだったのだが、さすがはリリ。


 空中で素早く受け身を取って、落ちた地面をゴロゴロと転がっていく。


「あ、あうっ……。はぁっ……はぁっ……はぁっー……!

 な、なんで……!?」


 電流の焦げ跡をぷすぷすと身体から立ち上らせるリリは、驚きに目を見開く。

 おそらく空間跳躍は希少なスキルすぎて、ウェルリア王国では今まで破られたことがないのだろう。


 それを、初見であるはずの僕に破られた。

 リリの瞳が、信じられない、という感情を浮かべている。


 未来リリ様々だった。

 あのデミウス鉱山で、彼女のレクチャーがなければ、おそらく僕は今の一撃で負けていた。


 いや、水神の盾があるから負けていたは尚早かもしれないが、少なくとも確実に度肝を抜かれていた。

 空間跳躍の攻略法を知っていたのは、非常に大きい。


 リリは未だスリヴァーシュトロームのダメージから回復しきっておらず、僕は続けて光系統のレイを放つ。

 ほとばしる閃光が、リリを襲う。


「くっ……!」


 リリは傷んだ身体に無理を重ね、閃光の攻撃をステップを踏んでかわした。

 しかし、彼女の俊足のステップワークが、明らかに動きが鈍っている。


 レイの攻撃をいくつかかわしきれず、リリは騎士甲冑の上から閃光を食らった。


「がはっ! く……」


 ステップワークで僕の魔法を避けきれなくなった。

 となれば、また――。


「はっ!」


 リリの視線が、彼女の背後を見据える。

 魔法の青白い光が輝いて、リリの身体が消失した。


 一瞬のあと、僕から大きく距離をとった後方に、リリの姿がテレポートした。



 ◆



 信じられない思いだった。

 まさか、初見で私の空間跳躍が見破られるとは。


 ウェルリア王国では、最強を誇る私のスキルが、どうして。

 頭の中が混乱でぐるぐると回る。


 距離を取った私に、続けざまにルークの魔法が襲い掛かってくる。

 驚異的なのは、あの雷の蛇の魔法スリヴァーシュトロームと、閃光の魔法(レイ)


 あの2つを軸にルークは戦闘を組み立てている。


 どちらも非常に強力な魔法で、マジックパリィングできないことはないが、神経をすり減らす。

 私は再びルークの攻撃範囲外に、空間跳躍で逃げようとした。


 しかし――。


「それは、もう見たよ、リリ」


 静かなルークの言葉が、私の心に突き刺さった。

 空間跳躍を行う前に、アースシェイクで足下を激しく揺らされて、空間跳躍の発動を妨害された。


 続けざまに、閃光の魔法が放たれる。


 遮二無二になって、私はサイドステップをする。

 私がついさっきまでいた場所が、魔光のような線状によって、(えぐ)られる。


「はぁっ……! はぁっ……!」


 ステップを踏む身体が、悲鳴を上げる。

 ダメージに重なって、激しい回避運動を続けて息があがってきた。


 まずい……。

 空間跳躍が通用しないとなれば、このレベルの魔導師をどうやって攻め入ればいいのか。


 強力な火力魔法。豊富な妨害魔法。

 そして、私の渾身の一撃を、完全に止めたあの障壁魔法。


 ルークの魔法のどれもが、非常に高いレベルにある。


 まさに魔法で創り上げた、絶対領域。

 何人たりとも、ルークを侵すことを許さない。


「はぁ……はぁ……」


 戦いの最中だと言うのに。

 悪魔に魅入られたかのように瞬きも忘れて。


 私はただ、彼の佇まいを見つめていた。


 強い。

 ここまでの強さなの。


 これが、今のルークか……。


 剣神ロイに大切に大切に育てられ、


 あらゆる魔法に精通し。、

 あらゆる状況に対応できる。


 世界最高の魔導師――!



 ◆


 

 身体にダメージを負って、動きの鈍ったリリは、空間跳躍に頼った戦い方に偏重(へんちょう)するようになった。

 それを僕は、空間跳躍の終わりを狙って、出現したところにアースシェイクで足を止め、サンドロックで手足を封じる。


 妨害をやらせたら、土系統はピカイチだ。

 妨害で動きを止めて、フィニッシュのレイを放つ。


 しかし、リリもさすがと言ったところで。

 レイが刺さるギリギリのところで空間跳躍で緊急回避する。


 だがユメリア戦のときのように、緊急回避としての空間跳躍はそれほど精度が高くない。

 そして別の場所に現れたリリに、またアースシェイクとサンドロックからのレイ。


 それを、さらなる消耗戦として、空間跳躍で逃げるリリ。

 あとは、リリの魔力がなくなるまでこれを続ければいいだけだ。


 このパターンに、リリは完全にハマっていた。

 この戦術でフィニッシュまで削りきる!


 ディスターブ(妨害)アタック(火力攻撃)

 

 僕の基本形にして、最強の戦術だった。



 ◆



 アースシェイクとサンドロック!!


 くっ……、これに一瞬でも捕まると、後続の火力魔法が追撃に来る……!


 私は手足を砂の鎖でがんじがらめにされながらも、空間跳躍で逃げる。

 しかし逃げた先にも次のアースシェイクとサンドロックが先回りで用意されてあって、私は続けて空間跳躍を使う羽目になる。


 私の空間跳躍は便利で非常に強力なスキルだが、魔力消費もとんでもない。

 いつまでもこんな戦い方はしていられない。

 

 なのに。

 次に打つべき手が見つからない。

 あのルークの、鉄壁の魔法要塞を突破する手立てが思いつかない。


 ルークの間近に跳躍して特攻を仕掛けてもいいが、水神の盾による鉄壁防御を崩せないのが痛い。


 これは、事実上の、消耗戦だった。

 冷静に分析して、私の現状の手持ちのスキル・魔法では、ルークの魔法が織りなす金城鉄壁の防衛ラインを崩せない。


 ルークは私が戦闘で1番輝く近接距離に入ることを一瞬たりとも許さず、ルークの最も得意な中距離に釘付けにされている。

 完全に負けパターンに入っていた。


 このまま、私の魔力がなくなるまで空間跳躍をさせられて、魔力がなくなったと同時にジ・エンドというわけか……。


 圧倒的戦力差。

 完全敗北。


 私の脳裏に、そんな言葉が浮かんだ。


 一矢も報いずに、終わりたくない。

 こんなに簡単に負けたくない。


 せめてルークに、リリも強かったねって。

 頑張ってきたんだねって。


 そう、思わせたいんだ!!


「あああああーっっ!!!!」


 私は、最後の気力を振り絞って。

 これまでただの一度も成功したことのなかったスキルを試みることにした。



 それは、禁忌のスキル。



 空間の座標軸を超えるスキルの遥か上。



 時の流れを遡る、時間跳躍であった。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
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