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83話:森林道の戦い 3

 森林の奥深くで、激しい戦闘の音が響いていた。

 森の奥は魔法による攻撃だろう。


 木々を焼き尽くすような火炎が立ち上り、ウェルリア軍兵士の悲鳴が聞こえてきている。


「リリ。ユースたちが戦ってるみたいだね」


 私の隣を行くベアトリーチェが、そう言った。

 私たちはウェルリア師団の第2部隊を任され、彼らを率いて森林道の出口を目指して行軍していた。

 

「そうみたいだね」

「あたしたちは、このまま出口まで向かえばいいわけ?」


「うん。まずは退路を確保すること。

 それから師団の第1部隊に予定外の事態が起こっても、即座に対応できる遊撃を残しておくこと。

 これら2つを達成するために、森林道の出口に陣取るよ」


「オッケー。みんな! 聞いた!?

 このまま出口めがけて行軍するよ!」


 ベアトリーチェが後続の部下たちにそう声を掛けると、彼らは「イエス、マイ・ロード!」と唱和した。


「なんだかビーチェも、指揮官っぽくなってきてる」


 少し茶化すように、私は微笑んで彼女を見た。

 ビーチェは気まずそうにそっぽを向く。


「うるさいな。あたし、知ってるんだから。

 ユースたち騎士団の一部が、陰であたしのこと『ダメビーチェ』とか呼んでるの」


「気にしなくていいよ。ビーチェは頑張ってるよ」


 馬の手綱を操りながら、私とビーチェは部隊の先頭に立って主導していく。


「いいよねー、リリは。みんなから期待されてて。

 騎士団の中でも、空間跳躍ですっかりもうリリがエースって感じだし。

 特別の優等生だもんね」


「そうかな。そうでもないけど」


 思わず苦笑しながら、私は明るく振る舞って、部下たちに声をかけることにした。


「兵站が確保できない中、苦しい戦いだけど頑張ろうね!

 ここを乗り越えられれば、必ず勝機はあるから!

 大丈夫、みんなで乗り切ろう!」


「「「はい!!」」」


 ウェルリア兵士にとって、騎士団はやはり特別な存在らしい。

 私の言葉に、彼らは鉄靴を鳴らしてそう応えた。



 ◆



 私たちが森林道の出口をめがけて進撃して、ようやく終わりが見えてくるかというところで。

 その奇襲を受けることとなった。


 パッパラッパー! という、天高く鳴り響くラッパの音とともに、地面を踏み鳴らす馬の蹄の音が森林道の背後聞こえてきた。


「全軍、突撃ィ――!!」


 そう気炎を上げながらエジンバラ軍の騎兵が、私たちが行軍する後背から押し寄せてきた。


「っ!?」


 私が何が起こったのかと行軍の後方を見ると、エジンバラ軍が砂塵を上げて突撃してきていた。

 彼らの突撃は、森林道の出口に向かって隊列を組んでいた我らウェルリア軍の背中に、突き刺さった。

 

「うわああぁぁー!」

「背後から襲ってきやがった!」


「エジンバラ軍の騎兵だ!」

「こいつら、別働隊を用意していたぞ!」


 隊列の後方で、悲鳴と血しぶきがあがる。

 部隊の先頭を行く私と、奇襲を受けている最後尾では距離があり、私がいる場所からでは後方の状況がつぶさに確認できない。


「待って! 何があったの! 状況は!?」


 私は近くにいた下士官の兵士に尋ねた。


「はっ、リリ様! なんでも、我々の背後からエジンバラ軍の騎兵による奇襲が行われている模様です」

「エジンバラ軍は、ユース騎士の第1師団が相手にしているはずではなかったの?」


「おそらく、エジンバラ軍別働隊による、騎兵の迂回奇襲かと思われます。

 我々の最後尾を進んでいる輜重(しちょう)部隊は積荷を運んでいるので、足が遅く、小回りも効きません。

 そこを彼奴らの騎兵に狙われたのではないかと」


「なるほど……。エジンバラ軍はただでさえ寡兵(かへい)のところをさらにふた手に分けていた、ということ。

 一方はユース騎士たちのウェルリア主戦力を引きつけておく遅滞戦術を敷き、そのエジンバラ軍は囮だった。

 そしてもう一方の、私たちの後背を攻撃する騎兵こそが、本命というわけ」


「その線が濃厚です」


 私と下士官の男が議論している中でも、隊列の最後尾からは混乱と悲鳴の声が上がり続けている。

 おそらく、急に背後から出現したエジンバラ軍の騎兵に完全に奇襲され、戸惑っているのだろう。


「まずい……。奇襲を受けることは、人的被害よりも、心理的被害のほうが大きい。

 ただでさえ私たちの士気はだだ下がりだと言うのに、ここに来てさらに奇襲を受けるなんて」


「どうなされますか、リリ様」


「私とベアトリーチェが救援に向かいます!

 あなたはこのまま軍を率いて、出口を突破してください」


「分かりました。ご武運を、ユア・グレイス!」


「ありがとう。ビーチェ、聞いた!? 行くよ!」

「了解!」


 そう言って私が馬の手綱を引き、方向を転回させ森林道を逆走し、最後尾への救援に向かおうとしたところで。


 その男が現れることとなった――。



「ここできみを援軍に行かせるわけにはいかないんだ、リリ」

「ッ――!?」


 懐かしい声だった。

 もう何年も聞いてない、大切な大切な人の声。


 私は、驚愕の思いで振り返る。


 森林道の出口方向には。


 赤と黒を基調にした魔導ローブを羽織った男。


「久しぶりだね、リリ」


「ルーク……!」


 国を隔てて離れ離れになったかつての幼なじみが、そこに立っていた。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
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