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79話:ダメ押しの一撃

 エジンバラ皇都へ続く森林道で、僕らは森林に伏兵を潜ませて、ウェルリア王国の2個師団に徹底したアウトレンジ戦闘を挑んだ。


 ウェルリア軍が通る道に、炎槍や火矢などの攻撃を浴びせかけ、即座に撤退するのだった。

 これを繰り返し行うことによって、壊滅的な打撃は与えられないまでも、ウェルリア軍はそのたびに行軍を止めて対応しなければならない。


 当然、疲労するし、心理的な疲れも大きい。

 いつどこから襲ってくるか分からない恐怖、ちまちまとした攻撃を何度も繰り返される苛立ちに、ウェルリア軍は焦燥している様子だった。


「さすがですな。皇帝陛下が直々に連れてきた人材だけはあります。まずは狙いどおりというところですか、ルーク師団長」

「そうだね。だいぶウェルリア軍も疲れが見えてきたようだし、こちらに目立った被害はない。美味しい戦いだよな」


 僕が任された師団の副官を務める男が追従してくるので、淡い微笑で応えた。

 現在は森林道の出口付近に伏兵を配置しており、僕と副官はそこで作戦会議を行っていたところだった。


「しかし作戦が徹底しておられますな。

 普通、奇襲が成功すればその勢いで敵軍に食いつき、蹂躙(じゅうりん)したくなるところですが、さっと退くことを兵士たちに厳命されるとは」


「僕はこの森林道の戦いでウェルリア軍に勝とうなんて、微塵(みじん)も思ってないからね。

 まぁ、攻城戦で完膚(かんぷ)なきまでに叩き潰すための、種まきと言ったところかな」


「なるほど……。しかしここまでアウトレンジ戦を徹底される必要があるのですか? 

 先程の斥候(せっこう)の報告によると、ウェルリア軍は断続的なストレスと疲労によって、行軍を維持する事にすら困難な影響が出始めているとか。

 このままであれば、森林道で戦いを仕掛け、敵戦力の分断も狙えるのでは?」


 副官の男は、神経質な表情でそう言った。


「うーん……、それも悪くはないんだけど……」

「けど、何が問題なのでしょう、閣下?」


 問いかけてくる副官に、僕は答える。


「今後のエジンバラの国家戦略から逆算して、この戦いでは圧倒的勝利が求められる。

 大陸の二強国家が争うということは、一大事もいいところだからね。

 今、周辺諸国の沈黙を守っている国は、この戦いの趨勢でどちらにつくか決めるはずだ」


「そうでしょうな」


「となれば、エジンバラ皇国はこの戦いで、将来の大陸の圧倒的覇者として君臨できるだけのポテンシャルを、周辺諸国に見せつけなければならない。

 ただ戦って勝つだけではダメだ。もうウェルリア王国の時代は終わった。

 そう、周辺諸国に思い知らせるほど、エジンバラ皇国が圧勝する必要がある。

 それにはもうちょっと、ダメ押しが欲しいな」


「なるほど……。エジンバラの国家戦略も策に含まれておいででしたか。

 慧眼(けいがん)恐れ入ります。……それで、ダメ押し、とおっしゃいますと?」


「今回やっている森林道におけるアウトレンジ戦闘のような、戦場において敵軍に断続的な奇襲を加えるもっとも効果的なものに、敵兵に高ストレス環境を与えられるということだ」

「まぁ、一方的に攻撃するわけですからね」


「そう。人間は瞬間的なストレスには強くても、断続的に続くストレスには非常に弱い。

 そういう断続的に続く心理的負担をかけつづけられた兵士は、最終的にどうなると思う貴官は?」


「そうですな……。イカれちまう、でしょうな」

「正解。戦場のような高ストレス環境が続けば、戦争神経症を発症させたりもする。

 ありもしない幻覚を見たり、死んだ仲間の夢をいつまでも見たり、戦場で過度に攻撃的になって判断力やパフォーマンスが激減したり。

 俗に言う、シェルショックだな」


「なるほど……。ルーク閣下はウェルリア兵士を精神病に追い込みたかったわけですな」

「それができれば、理想だと思ってはいたよ」

「悪魔ですか、閣下は……」


 副官が恐怖の表情を浮かべて震えるので、僕は苦笑して肩をすくめた。


 リリだけにはそうなって欲しくないと思うのは、まぁ、偽善だな。


「……戦争に慈悲なんていらないか。ともあれ、もうひと押ししよう」


「はっ。なんなりとご命令をお申し付けください、閣下。

 おおよそ副官らしからぬ不躾(ぶしつけ)で失礼な言葉を並べ立てましたが、勝ち馬様には乗らせていただきます!」


「勝ち馬『様』、ね……。貴官も面白いことを言うものだ」


 思わず失笑するしかなかった。


「よし、じゃあ森林道の出口付近でウェルリア軍に対し、最後のアウトレンジ戦を仕掛けよう。

 ただし、今回は騎兵を別働隊として起用する。

 (あらかじ)め、周辺の地理に詳しい現地人を雇い、森林道の抜け道を選定しておく。

 そこを通り、ウェルリア軍に気づかれることなく、敵軍の後背にエジンバラ騎兵をつけておけ」


「はっ!」


 副官は敬礼をして、軍の規定である、上官(=僕)の命令を復唱する。

 それが終わるのを待って、僕は指示を続けた。


「いつものように伏撃として置いていた遠距離狙撃部隊が攻撃を開始し、ウェルリア軍がそれに反応すると、今回は付かず離れずの距離で逃げていく。

 それでウェルリア騎兵をおびき出せ。

 万が一、狙撃部隊が捕まった時の事を考え、ロイさんを殿(しんがり)として起用しておいてくれ」


「剣神ロイを殿として使ってまで、ウェルリア騎兵をあぶり出して何をなさるおつもりですか?」

「騎兵の迂回奇襲(うかいきしゅう)


 僕は副官の疑問に、一言だけ応えた。

 聡明な彼なら分かるかなと思って言ったが、どうやら要領を得なかったようだ。


 僕は苦笑いを浮かべて、追加の説明を行う。


「ウェルリア軍の主戦力である騎兵をあぶり出して本隊を隙だらけにさせた上で、彼らが大事に大事に抱えている輜重(しちょう)を、こちらの別働隊である騎兵部隊に襲わせるんだよ。

 わかりやすく言えば、これまでさんざん行ってきたアウトレンジ部隊を陽動に使った、積荷破壊だな。

 敵国のただ中で、ただでさえ補給が届かないのに物資がなくなれば、ウェルリア軍はどうするだろうね」


 僕の言葉に、副官は恐ろしい異形の化物でも見るかのような目つきで、僕をまじまじと観察した。

 やがて彼は、震える息を吐き出して、こう言った。


「ルーク閣下に、我がエジンバラ皇国に来ていただいて、本当に良かった。

 一軍人として、貴方のような性格の悪い将軍だけは、敵に回したくない」


「光栄だよ」

 

 僕は乾いた笑いを上げた。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
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