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73話:あなたの事を想わない日は、1日だって無かった

 ユメリアとの戦いで勝利した僕らは、彼女を拘束することにした。

 ヒメリが持っていた、魔法を使えなくさせる魔導具を使って、サンドロックで研究所の柱に縛り付けておく。


 それから僕らは、研究所でささやかな勝利の祝杯(しゅくはい)を上げることにした。

 と言ってもここには気の利いたワインなんてないから、各自の水を入れた革袋の水筒(すいとう)を掲げただけなのだけど。


「では、勝利を祝して」


「「「乾杯ー!」」」


 僕とロイさん、それからヒメリが、満面の笑みで水筒(すいとう)を掲げる。

 勝利に酔いしれて楽しそうに笑う僕達の一方、ユメリアは心底つまらなそうな表情だ。


「いやー、一時はどうなることかと思いましたけど、勝ちましたねぇルークさん!」

「はは、そうだね。リリの助太刀もあったからね。だよね、リリ?」


 僕はそう言って、金髪ショートカットの幼馴染、リリを見た。

 彼女は所在(しょざい)なさげに立ちすくんでいて、しきりに腕を組み替えたり落ち着かない様子だ。


「リリ?」


 僕が呼ぶと、彼女はハッとこちらを見た。

 お互いの視線が交わる。


 あれから、何ヶ月が経っただろうか。

 あの日、リリと決別した日から。

 長い、長い時が経ったような気がする。


 万感の思いを込めて、僕は彼女に言った。


「久しぶりだね。会いたかったよ、リリ。きみが来てくれて嬉しかった」


 僕の言葉に、リリの澄み渡ったスカイブルーの瞳が揺れた。


「そんなことないよ……。私、ルークには謝らなきゃいけないことがいっぱいあるもん」

「謝る? 何を」


「たとえば、ウェルリア王国から追放された時、私、あなたのことを勘違いしたままで終わってしまった」

「いいよ。リリが無事で、幸せに暮らせたのなら、それで」

「ちがうの」


 リリはなにか辛いものから逃げるように、かぶりを振った。


「ルーク……。信じてくれないかもしれないけど、あなたは近い将来、とても悲しい目に()う。

 でも、どうかこれだけは分かって。私は、あなたの事を想わない日は、1日だって無かった」


 リリのその言葉には、どこか悲壮感のようなものがにじんでいた。


 そういえば、さっきも言っていたな。

 僕を生き返らせるために、この時代に飛んできたというようなことを。


「リリ、きみはいったい何を目的に……」


 僕がそう言いかけたところで、ユメリアが大きな声をあげる。

 

「リリ! あまりこちらの情報をベラベラ喋って、未来が崩れたらどうするつもりですの!」

「ユメリア……。分かってるよ、私だって」


 リリは僕の方を向いて、(たたず)まいを正した。


「今は多くは言えないの。ノアの箱舟計画のこともそうだけど、あなたがこれからどうなるかというのも、すごく大事なことなの。

 でも、私は最後までルークの味方だから。それは今、ウェルリア王国にいるこの時代のリリも、そうなんだよ。

 それだけは信じて欲しいの」


「そうか……。きみが未来で何を見てきたのか分からないが、きっと多くのことに傷ついてきたんだろうね、リリ」


 そう言って、僕は彼女に歩み寄った。

 リリの震える肩を抱きしめて、言った。


「なんにせよ、もう一度きみに出会えてよかった。あれが今生の別れになったとしたら、寂しすぎたもんな」

「ルーク……」


 至近距離で見るリリの瞳には、透明色の雫が浮かんでいた。

 感情が震える音がする。


 どちらからともなく、そっと口づけをかわそうとしたところで、


「はいはーい! イチャラブタイムは終了でーす! はいはいはい、そこ別れてくださいねー! 淫らな男女生活は聖教会の戒律(かいりつ)で禁止されてますからねー!」


 と、ヒメリが僕らのあいだに割って入った。


「ヒメリ……少しは空気を読んでくれないか……?」

「読みませんよー! あたしは断固として読みませんよー!」


 涙目になりながら、ヒメリが無駄な闘争心をたぎらせている。

 そんなヒメリの様子を見て、リリは「あはは」と笑った。


 リリは自分の(まなじり)に浮かんでいた涙を、そっとぬぐう。


「なんか、懐かしいな、こういうの。

 あぁ、いいよね。ルークがいて、ヒメリがいて。そしてロイさんがいる。

 みんなが幸せそうに、笑ってるこの瞬間。あぁ、いいなぁ……」


 リリが郷愁(きょうしゅう)を思わせてそう言った。

 僕とヒメリは顔を見合わせ、「どうしたんだ?」と首をかしげた。


「ともあれ、私の役目はここで終わりかな。

 ホロウグラフが修理できたら、取りに来ます。では、また」


「リリ。待ってくれ、もう少し話を――」


「あまり今のルークと話していると、幸せになりすぎちゃうから。それは許されないことなの。

 ルーク。あなたは私が必ず救ってみせる。これは、あなたへの恩返しだから。

 だから……じゃあね、ばいばいルーク。大好きだよ」


 そう言って、リリは空間跳躍を使って、デミウス鉱山の最奥部にある研究所から消失した。


「な、なんだったんです、あの女は……? あれがルークさんの恋仲ですよね」

「恋仲になるかどうかは、あぁ、まぁ決まっているようなもんか。そう、あれがリリなんだけど、あの子はいったいどの時間軸からこの世界に飛んできたんだろうな?」


 ユメリアが言うように、20年後の未来の主要人物が、

 僕、リリ、ロイさん、ヒメリ、それからユメリアだ。


 そして、リリやユメリアの言動を察するに、どうやら20年後の僕は死んでしまっている可能性が高い。


 とするなら、20年後のリリが僕を生き返らせるために、この時代に飛んできた?

 でも、あのリリは、見た目が今の時代のリリとそう変わらない。

 20歳も年を取った彼女に見えなかった。


 だとするなら、あのリリは、いったいいつの時間軸から、この世界にやってきたのだろう?

 一人で考えても分かるはずはなかった。


 僕は柱に岩の鎖で拘束されているユメリアを向いて、言った。


「ユメリア。リリに関して、そして僕ら全員に関して、知っていることは全部喋ってもらおうか」


 ユメリアはぶっきらぼうな様子で、こちらを見上げてくる。


「はいはい、お父様。敗残の将であるわたくしに話せることがございましたらー? なんでも申し付けていただきましょうかねー?」

「ふてくされるなよ」


 僕は苦笑しながら、ユメリアの前にしゃがみこんで、いくつかの事を聞く。


「ユメリアに聞きたいことは大まかに分けて、3つだ。


1、ノアの箱舟計画の全貌(ぜんぼう)を教えろ。誰が発案者で、なぜそれを遂行しなければならない?


2、なぜホロウグラフを使わなければ、ノアの箱舟計画は完成しないんだ?


3、未来の世界で、僕やロイさん、それからリリやヒメリがどうなるのかを教えろ」



 はぁ、という重い溜息をつきながら、ユメリアはこう口にする。


「未来世界の崩壊につながることで、いくつか答えられないことをございますが、まぁいいでしょう。


1、ノアの箱舟計画とは、天空に大地を作りそこに人民が移住する計画です。

 起草者は、ルーク・フォリア。もちろん、あなたのことです、お父様。

 未来世界ではホロウグラフをめぐって激しい戦争が行われた結果、大地が荒廃(こうはい)してしまいます。

 すでに未来では、地上で人間が生きていける環境ではない。

 それを、選ばれた人間だけをよりすぐって大地を捨てて、天空に活路を見出す計画が、ノアの箱舟計画です。



2、ホロウグラフを使わなければノアの箱舟計画が完成しない理由は簡単です。

 馬鹿でかい人工大地を、空に浮かばせ続けるのに、一体ホロウグラフ以外の魔導具の何で達成できるというのです?

 未来のヒメリが作った『神の魔導具』とも名高いホロウグラフでなければ、人工の大地を上空に飛ばし続けることはできません。



3、未来の世界では、主に『ノアの箱舟計画推進派』と『反対派』に分かれております。

 もちろん、お父様は推進派です。わたくしも、ロイもそう。

 しかし、リリとヒメリは反対派に所属しており、散々に渡ってノアの箱舟計画の妨害を行ってきました。

 このようにして、わたくしたちフォリア家およびロイ、ヒメリの5名は、ノアの箱舟計画をめぐって対立しているのです」


 ユメリアの言葉は、衝撃の事実をもたらした。


「じゃあ、僕は未来の世界で、ノアの箱舟計画をめぐってリリと対立しているのか……?」

「えぇ、そうですわね。ただし、20年後の未来では、お父様はすでに死亡していますが」


 こともなげに、ユメリアは言った。


「だから、リリはホロウグラフを使って、未来の僕を(よみが)らせようとしている……?」

「そうなのでしょうね。あの恋愛しか頭にないバカ女からすれば」


「待ってくれ。未来の世界では僕とリリが対立状態だとするなら、なぜリリが僕のことを蘇生させなければならない。そもそも、人体の蘇生なんて、ホロウグラフだろうが可能なのか?」


「そこはわたくしには分かりません。わたくしはお父様を蘇らせようとしたことなんてないので。

 でもきっと、さっきのリリは信じているんでしょうね。再びあなたに会える日というのを」


「僕が死んでいることは百歩譲っていいとして、蘇らせるなんてそんな馬鹿な……いきなり情報が入ってきたから、頭が混乱していて……」

「それより、もうこの鎖をほどいてくれませんこと、お父様? レディに対する扱いではないですわ」


「あ、あぁ……そうだな。ヒメリ、鎖と魔導具によるユメリアへの魔法封印を、解除してあげてくれるか」

「はぁ。でもいいんですか? 自由にさせたら、また逃げるんじゃ?」


 視線をユメリアに向けた。


「心配しなくとも、逃げたりしませんわよ。ホロウグラフがあなたがたの手にある限り、それを修理してもらい奪還しなければわたくしの目的は達成しませんもの」

「頼む。不思議な感覚だが、ユメリアは僕の娘なんだ。丁重に扱ってあげてくれ、ヒメリ」

「分かりました」


 そう言って、ヒメリはユメリアの魔法を妨害している鎖と魔導具を外していく。


「ともあれ、一連の事件はこれで終結、ですかねロイさん」

「そのようだな。あとはそこのホロウグラフを小娘が直せるか、そしてユメリアとリリのどちらに渡すかが、問題となってくるが……そもそも小娘、ホロウグラフを直せるのか?」


 僕らは、ユメリアを解放していたヒメリを見る。


「なんとも言えないですけどねぇ。設計はたしかに自分が作ったみたいで親近感わくんですが、なにせ使用されてる構造技術が高すぎるので……」

「ふむ」


 僕は曖昧な相槌を打った。


「とりあえず目的は達成したわけだ。俺もユメリアと2人きりで話したいこともある。小娘の任務だった鉱石を採取し、デミウス鉱山から出ることにしよう」

「あ、了解ですー。パパっと採掘してきますね」


 ロイさんに言われて、ヒメリが採掘道具をカバンから取り出した。


「そうだね、ヒメリの仕事が終わり次第、出ることにしましょう。しかし、いや……長かったですね、ロイさん。謎が全て紐解(ひもと)かれるここまで来るのに」

「さんざん、思わせぶりなヒントを散りばめられてきて、頭を悩ませられていたからな」


 そう言って僕らは一連の事件を解決し、デミウス鉱山から退去することにした。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
+注意+

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