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72話:VS ユメリア 2

 ユメリアが魔導ローブを(ひるがえ)し、魔法を放つ。

 両手を身体の前に出した。

 ユメリアは虚空を抱くかのような仕草を見せ、妖艶(ようえん)に笑う。


「これは私たちの世界(未来)で、かつてお父様が最も得意としていた魔法です」


 ユメリアのその微笑は、まるで伝説の魔女を思わせる笑みだった。

 膨大な魔力から構築される魔法が、ユメリアを媒介にして練り上げられていく。


「今となっては、わたくしだけが使える至高の魔法です」


 デミウス鉱山最奥部の、研究所の中空に、光の輝きが満ちていく。

 無数に生まれる光球は、星の輝きに似ていた。


 無数の極星から(ほとばし)(きらめ)きがあまりに強すぎて、それがとんでもなくヤバイ魔法であることだけは察知できた。


「ユメリアっ……! ルークがあなたに残した最強の魔法をここで使うなんて、本気なの!?」


 リリが驚愕した声音で、ユメリアに言った。


「黙れ、雌犬(めすいぬ)が! お父様の寵愛(ちょうあい)を抱きながら、最後にはお父様を裏切った女が、図々しくその名を口にするなッ!」


 極光の星が、研究所を支配していく。


「私はルークを裏切ってなんかいない! ルーク、この魔法はとんでもなくヤバイよ! 防御手段はある!?」

「見れば分かる! 僕はまだ『水神の盾』が2回分残っているからいいけど、ロイさんはどうですかっ」


「俺も剣神と呼ばれた身だ。自分のケツは自分で拭く!」

「だそうだ、リリ。きみはヒメリを安全な場所まで、空間跳躍で運んでくれるか!」


「分かった、すぐ戻ってくるね!」

「頼む」


 僕とそうやり取りし、リリは空間跳躍でその場から消失し、ヒメリの側に出現した。

 ヒメリはホロウグラフを直すための数式を一心不乱に書き続けていたが、リリは羊皮紙とペンごと彼女の身体を抱きかかえる。


「わっ、な、なんですか」

「ごめん、ヒメリ。ちょっと我慢してね」


 そう言って、リリは空間跳躍をもう一度使って、研究所の中から姿を消した。

 ユメリアが構築する魔法に対し、僕は『水神の盾』で、ロイさんは剣を構えて防御姿勢を取る。


「ふ……、リリは逃げましたか。まぁ、妥当な判断でしょう。あの女は、所詮(しょせん)はお父様の才能を最も色濃く受け継ぐわたくしの敵ではない」

「ユメリア、頼むから研究所ごと崩壊させないでくれよ」


「さて。どうでしょうか」


 ユメリアは息を吸い込み、そして極星の魔法を僕らに向けて放った。


「星の瞬きよ、すべてを灰燼(かいじん)に帰せ! 光系統神級魔法――『ディザスター』!!」


 ユメリアが歌うように魔法の名を読み上げた。


 そして瞬間、星光の魔法が、僕とロイさんに向けて放たれる。

 それは、光の暴力とでも形容すべき魔法だった。


 僕が使う『レイ』よりも遥かに強く、そして速い。

 星の閃光が、ユメリアを起点として全方位に向けて射出された。


 光の暴雨は、研究所の荘厳(そうごん)な柱や壁を壊し尽くし、天井にも無数の亀裂を生み出した。

 その爆流のような攻撃を、僕は水神が作り出す万能の盾によって、見事、ディザスターを完璧に防ぐことができた。


「ぐぅっ……!」


 しかし、ロイさんはデレストグラムで作られた剣を盾にして身を守ろうとしたが、完全には防御できなかったようだ。

 閃光の一部を食らって、壁に叩きつけられる。


「がはっ……!」

「大丈夫ですか、ロイさん!」


「……俺は大丈夫だ! それより、アレをもう一度ユメリアに撃たせると、俺たちはともかく研究所が崩壊するぞ!」

「分かりました。ユメリアに応戦します!」


 僕はユメリアに向けて、自分が持つ魔法の中でも最速主力の、『スリヴァーシュトローム』を放った。

 神速の雷蛇がユメリアに向かって突撃するが、彼女は「ふふふ」と笑ってその場から消失する。


空間跳躍(くうかんちょうやく)……!」


 視線を追えば、空間跳躍は捕まえられる、とリリが言っていた。

 消える前に残したユメリアの視線を追えば、僕から見て左奥に移動したはずだ。


 そう思って身構えていると、予測地点からは少しずれていたが、本当にそこにユメリアが出現する。

 跳躍が終わった瞬間に、ユメリアと目が合う。


「おや。もう空間跳躍攻略のコツを掴んだのですか。さすがはお父様ですね」

「それはどうも」


「しかし、先の魔法で分かったでしょう。わたくしは、お父様の魔法の才能と、リリの跳躍スキルを受け継ぎ、未来では最強の魔導師です。いかにお父様が努力の天才であろうが、この差はいかんともしがたい」


 たしかに、あのディザスターという魔法一つ取っても、ユメリアは別格の強さを誇る。

 しかしそこに、


「それはそうだけど、ユメリアの本質はルークと同じ魔導師だからね。ならば近接戦闘であなたの魔法詠唱を封じることができる近接職がいればいいだけ」


 (りん)、と鳴るような声音が、崩壊寸前の研究所に響く。

 黄金の聖女が、戦場に再び復帰してきた。


「リリ……!」

「ルーク、ヒメリは安全な場所に移したよ。ここからは私も加勢するね」


「頼む。僕だけじゃ、ユメリアに敵いそうもない」

「おいおい。俺は戦力外か、ルーク」


 口からぺっ、と血を吐き出しながら、ロイさんが剣を振りながら戦場に戻ってくる。


「ロイさん。傷は大丈夫ですか」

「叩きつけられた時の衝撃がでかくて呼吸を乱しただけで、身体に致命的な傷は何もない。さっきはユメリアに先制打撃をかまされたが、もうあんな失態はしない。あいつが魔法を使うよりも早く、追い詰める」


 そうして、僕ら3人は揃って、ユメリアの方を向く。


「ふん……。気に食いませんね。わたくしは、崇高な理想のためにこうして動いているというのに、まるでわたくし1人が悪者扱いではありませんか」


「きみが知っている情報と握っている秘密、それから『ノアの箱舟計画』に関することを、ここで洗いざらい喋るならば、こうして僕ら3人でよってたかって女の子1人に攻撃することもないんだけどね」


「『ノアの箱舟計画』の真相を言ってしまえば、きっと今の理解ないお父様はわたくしに反対するでしょう。

 わたくしはそれが心苦しくてしょうがないのです」


「では残念だが、力に物を言わせて、僕らはきみをねじ伏せるとしよう。リリ!」


 僕はリリを向いて、言った。

 緊迫した戦場だと言うのに、リリの背筋がピンと伸びた姿は昔と変わらず、とても美しかった。


「ん? なに、作戦があるなら聞くよ、ルーク」

「ロイさんが空間跳躍の捕まえ方に慣れるまで、きみがユメリアと同じよう空間跳躍でユメリアを追ってくれ。できれば、あのディザスターなんて魔法は二度と使う余裕が無いくらいに」


 金髪ショートカットの聖女は、僕の言葉にゆっくりと頷いた。


「分かった、やってみるね。たぶん空間跳躍に関しては、長年使ってきた私の方が上かもしれないけど。

 でも、ユメリアは魔法の天才だよ。あのディザスターだけじゃない、たぶん今のルークが使える魔法をほぼすべて取得してる」


「それは困ったな……。でも僕らは1人じゃない、3人が連携してことに当たれば、必ずあいつを倒せる」

「俺の動きについても具体的な策があるなら、聞くぞルーク」


 ロイさんの問いに、僕は頷いて続ける。


「まず、ユメリアとの空間跳躍による追いかけっこはリリがやる。そして僕は、魔法でユメリアの跳躍先を狙い撃つ。最後にロイさんが、高速のステップワークでもって後詰めとしてユメリアを追撃してください」


「「了解!」」


 2人の声が重なる。


「行きます、ゴー!」

 

 僕の掛け声と同時に、リリが空間を飛ぶ。

 リリがその場からユメリアの前に跳躍し、彼女の至近距離に入ると同時に腰に下げていた騎士刀を抜き、一閃した。


「チッ……!」


 ユメリアは舌打ちしながら、空間跳躍でそれを避ける。

 しかし、視線はバッチリとリリから右に逃れるように、向いていた。


 右という情報だけでは研究所のどの辺りに跳躍するのか的を絞ることが難しかったが、一瞬の戦術判断でユメリアが逃げたそうにしている場所を、僕がこれまでの経験から先読みする。


 ユメリアの空間跳躍の出現場所に対する決め打ちを行って、スリヴァーシュトロームを発射しておく。

 それが、ピタリと当たった。


「うっ……!」


 ユメリアが飛んで現れた瞬間、その地点に、僕が放った雷蛇が彼女に襲いかかる。

 それをユメリアは一瞬驚いた表情を見せたものの、また空間を跳躍し、逃げる。

 

 しかし瞬間の判断によるものだったのか、ユメリアの2回目の跳躍距離と精度は、明らかに落ちていた。

 近場に緊急回避という感じで逃げたユメリアを、後詰めのロイさんがきっちりと捉えていた。


「ロイっ……!」

「これが俺とルークの連携だ!」


 ロイさんは高速のステップワークで、ユメリアが逃げた場所ピッタシに、剣を振り落とす。

 刃でユメリアを斬ってしまい致命傷を与えないよう、ロイさんは剣の腹となっている場所でユメリアを攻撃した。


 剣の腹がユメリアの頭に叩き落され、ガツンッ! という鈍い音が、響いた。


「うっ……! こ、この……! 乙女の頭を叩くなんて、ロイ、あなたは紳士ではありませんわねっ!」

「お前が淑女(しゅくじょ)だと思っていた頃もあったな!」


 空間跳躍による緊急回避は、やはりイメージが正確でない以上、距離も稼げず、精度が高くないらしい。

 ユメリアはステップバックを2度、3度と挟んでロイさんから逃げようとしたが、そこは近接戦闘では大陸最強の能力を誇る・剣神ロイである。


 ユメリアに、ぴた、とくっつきながら、ロイさんは正確に彼女の後を追った。


「くっ……!」

「おいおいどうした。空間跳躍が使えないと、そんな程度かユメリア」

「このっ……、わたくしを抱いた恩も忘れて!」


 必死で逃げるユメリアの顔に、冷や汗が流れるのが見えた。

 ユメリアはステップワークではロイさんに到底かなわない。


 だとするなら、


「はっ……!」


 その場から、魔法の力を使って、ユメリアが消失する。

 しかし。


「――だと思ったよ、ユメリア」


 ユメリアが空間跳躍で逃げた先には、僕が先読みしてサンドロックによる妨害・拘束を用意していた。


「あっ……!」


 ユメリアが回避先に現れた瞬間、岩の鎖がユメリアの身体に巻き付く。


「あ、あうっ……!」


 サンドロックによって手足を縛られ、拘束されたユメリアは、その場に崩れ落ちた。

 ロイさんがすかさずユメリアに歩み寄り、彼女の首根っこを捕まえる。


 これで、空間跳躍で逃げようが、もう彼女はロイさんを引き離せない。

 

「勝ったな」

「勝ちましたね」


「さすが往年の名コンビ。見事な連携だったね、ルーク、ロイさん」


 リリの称賛に、僕とロイさんは気を良くして苦笑した。

 岩の鎖で捕らえたユメリアは、観念したようにうなだれていた。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
+注意+

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