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71話:VS ユメリア 1

 最速の雷蛇と、剣髪の斬撃が、前後からユメリアに襲いかかる。

 しかし彼女は不敵に嗤い、魔導衣の中から手を広げた。


「ふ……、わたくしが、誰の娘だと思っているのです」


 魔法の光がきらめく。

 ユメリアの手から、僕のスリヴァーシュトロームとまったく同じ魔法が発動した。


 雷蛇と雷蛇がぶつかり、激しい音を立てながら相殺される。


「お前の敵は、ルークだけじゃないぞ!」

「えぇ、分かっていますよ、ロイ」


 ユメリアの背後から襲いかかるロイさんに向き直ると、彼女はパチン! と指を鳴らす。

 その瞬間、ユメリアの姿はその場から消失した。


 そして、わずかな時間の後、ユメリアは僕らから少し距離を取ったところに出現した。

 あれは、ゾンビボーンドラゴン戦で、未来リリが使っていた次元系統の神級スキルだ。


「空間跳躍……!」

「さすが、僕とリリの娘だけはある……」


 脱帽する思いだった。

 ユメリアの白銀にきらめく髪が、空間跳躍の反動で流れる。


 未来視ができるというエジンバラ皇女のルーン殿下もそうだが、この世界において銀髪は天才の証だ。


 僕の魔導師としての資質と、リリの空間跳躍のスキルを受け継いだ。

 魔法の寵愛(ちょうあい)を一心に浴びて生まれてきた子。


 それがユメリアか……。


「まずいですね。空間跳躍があるかぎり、僕らが正面攻撃で彼女を捉えるのは非常に難しい」

「近接戦闘に入ればまず負けないとおもうが、あのスキルでぴょこぴょこ飛び回られるのは、鬱陶(うっとう)しいな。お前の魔法で足止めできないか?」


 そう言われて、考え込む。

 僕が手持ちの妨害で有効打となるのは、魔法とスキルを封じるサイレントクライだ。


 これが刺されば、だいぶこちらに有利となる。


「ッ――!! ッ――!!」


 ロイさんの前進とともに、僕は少し離れたところに佇むユメリアに、甲高い叫びを立て続けに放った。

 しかし2度、3度と続けて放っても、ユメリアの魔法を封じた感触はない。


「スキル封じの抵抗を持っているのか……。やりにくいな」


 サイレントクライが通用しないことが分かると、僕はサンドロックによるロイさんの援護に徹した。

 高速のステップワークで彼女に詰めるロイさんの斬撃を、ユメリアは再び空間跳躍で回避する。


「まずいな……。空間跳躍を敵に回すと、これほど厄介だとは思っていなかった……!」


 剣を空振りさせるロイさんが、吐き捨てるように言った。


「その上、サイレントクライが通用しないですね。なにか耐性か、抵抗スキルがあるんでしょうね」


 また離れたところに出現したユメリアは、ピクリと眉を上げて言う。


「なるほど。さっきお父様が打っていたのは、サイレントクライでしたか。

 しかし残念でしたね。わたくしにも、ウンディーネの加護はあるのですよ、お父様」


「おいおい……。ってことは、状態異常や低下、呪いなんかを、全部防ぐのか」

「あなたの娘ですので」


 にっこり笑って言うユメリアが、憎たらしかった。


「『ウンディーネの加護』を持ってるとなると、だいぶ話が違ってくるぞ……」


 こうなると、空間跳躍で逃げるユメリアを捕まえることは、非常に困難になってくる。

 ロイさんも無闇に追うことが不毛だと感じたのか、その場に立ち止まり、静かに剣を下段に構えた。


 ユメリアは少し離れたところで、ふわふわと浮遊しながらこちらを見て微笑んでいた。


余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)と言う感じだな、あいつ」


「本気で僕らと戦うつもりはないんでしょうね、彼女は。

 あるいは全力逃げようと思えば、空間跳躍を使っていつでも逃げられる。

 だって、この研究所の外に跳躍すればいいだけのことですしね」


「遊ばれてるんだろうな。さて、クソ生意気な女を懲らしめる策はあるのか、ルーク」


 そう言われて、考え込む。


「パッと思いついた一つの案は、戦闘空域を狭めて彼女の動きを封じる。

 空間跳躍というのは、要するに広い空間の中で戦うことで、最も効力を発揮する。

 だったら、その移動する空間が少なければ少ないほど、効力は弱まっていく」


「なるほど。道理だな。で、どうやって戦闘空域を狭めるんだ」

「危ない策ではありますけど、天井を崩落させて瓦礫の山を作り、ユメリアの可動空間を小さくする、ですかね」


「おいおい……俺たちが生き埋めになるだろ」


 僕の言葉に、ロイさんはぽかーんとして言った。


「危険な賭けではありますが。

 研究所の入り口に陣取って、奥から徐々にユメリアの退路を潰していけば、ロイさんの得意な近接戦闘でユメリアを捕まえることができるかと思います。ヒメリ、こっちへ来てくれ!」


「は、はいっ」


 僕の言葉に、研究所の一番奥の部屋から僕らの戦いを震えながら見守っていたヒメリが、こちらに駆けてくる。

 途中、ユメリアによる妨害があれば、僕が魔法による援護を行おうかと思っていたが、ヒメリが戦場を走る様子を、ユメリアは無表情で眺めていた。


「あいつの計画からすると、俺たちを殺すわけにはいかないんだろうな」


 ロイさんが言った。


「その上で、ユメリアは僕らにホロウグラフを直すように仕向けたい。

 だから多分、彼女は僕らがホロウグラフを使わざるを得ない状況に持っていきたいんでしょう」


「俺たちはあいつを捕まえることだけ考えていればいいが、ユメリアは難しいことを考えているんだな……」


 ユメリアは本質的には、僕らに手出しできない。

 僕らを殺せば未来が変わるかもしれないし、ヒメリがいなければホロウグラフを直せる職人もいなくなるから。


 デミウス鉱山の研究所の入り口に陣取る僕とロイさんの元に、ヒメリが息を切らしてたどり着いた。


「はぁ……はぁ……。き、来ましたよ、ルークさん」


「お疲れ、ヒメリ。

 これから天井を爆破して瓦礫の山を作り、ユメリアの空間跳躍の可動空域を狭めていくつもりだ」


「はぁ。そうなんですか」


 きょとんとした顔で、ヒメリが首をかしげる。


「そこで、万が一のことが起こらないとも限らないし、いざという時のためにホロウグラフを使える状態にしておきたい。

 僕らがユメリアを引きつけている間、ここの施設でホロウグラフを直してみてくれないか」


 僕は手に持った羅針盤のような魔導具を、ヒメリに渡した。


「これが……ホロウグラフなんですよね。『あらゆる願いを一度だけ叶える』という、魔導具」


「そう。これがユメリアや未来リリの求めているものだ。

 この魔導具がこちらにある限り、彼女は僕ら手出しできない。

 逆説的に、ホロウグラフとそれを直せるヒメリが、僕らの切り札でもある。

 研究所の施設を使って、直してみてくれないか、ヒメリ」


「分かりました。でも、そんなすぐには直せないと思いますけど……ん?」


 ヒメリは受け取ったホロウグラフを、まじまじと観察して、唸る。


「んー? あれ、でもこれ、なんか他人が作ったとは思えない親密性を、設計から感じますね……」


 僕とロイさんは、顔を見合わせる。

 やはり、未来の世界でヒメリがホロウグラフの作成者なのだ。


「とにかく、僕らがユメリアを引きつけておく。

 その間、ホロウグラフの修理を頼んだ」


「できなくはないと思いますけど……。えっ、でも、デミウス鉱山の最奥部で天井の爆破とか本気でやるんです? 危なくないですか」

「いざという時のために、ホロウグラフで外に脱出するんだよ」


「分かりました。少しお待ち下さい、至急、ホロウグラフの修理を行います!」

「頼んだ」


 ヒメリが鞄から羊皮紙をペンを取り出し、その場に膝をついて、ホロウグラフの修理のための数式を書き連ねていく。

 その彼女を守るようにして立ち、僕とロイさんは研究所の床から少し浮いたユメリアと対峙する。


 彼女は余裕を崩さず、こう言った。


「空間跳躍の対策会議は、もう終了したのですか?」

「ありがとう。おかげで、ホロウグラフが直りそうだよ」


「そうですか。それは結構なことです。では、わたくしはその成果だけをもらって、立ち去ることにしましょうか。それまで、お父様とロイおじさんと遊んであげてもいいですよ」

「言うねぇ、お前」


 くっくと笑って、ロイさんがいた。

 その時、研究所の入り口に陣取る僕らの背後から、突如として、凛、とした声が響いた。


「ルーク。天井を崩落させる必要はないよ。

 及ばずながら、私も助太刀します」


 驚いて振り返る。

 揺れる黄金の髪、海を思わせる深い蒼色の瞳。


 そこには、フードを目深にかぶったウェルリア王国の聖女。

 リリが立っていた。



 ◇


 黄金の髪を揺らして、リリはわずかに僕の方を向いた。


「久しぶりだね、ルーク」

「リリ……!」


 僕は思わず彼女に駆け寄り、抱きしめそうになるのをこらえた。


「おやおや、リリも登場ですか。20年後の主要人物が勢揃いですね」

「ユメリア。あなたの『ノアの箱舟計画』は、私が必ず止めてみせる」


 リリの言葉に、ユメリアはふっと笑う。


「そうですか。リリごときにわたくしとお父様の悲願を、止められると思っているのです?」

「そのために、ルークを()()()()()()ために、私はこの時代にやってきたから」


 生き返らせる……?


 リリの言葉に、胸を射抜かれる思いだった。

 僕は、未来の世界では死んでいるのか……?


「だから、ホロウグラフを必要としていると? わたくしが必死の思いで探し出した物を横からかっさらおうだなんて、やはりあなたには品性がありませんわね。これが自分の母親だとは、思いたくないですわ」

「残念だよ、ユメリア。歪んだ思想を持ったまま成長してしまったあなたを、可哀想に思う」


 僕とロイさんは、2人の会話に聞き入っていた。

 ユメリアとリリのあいだには、隠しきれないお互いへの憎悪が浮かんでいる。


 僕は言葉を震わせて、リリに問う。


「リリ……今のきみは……、一体どの時代のリリなんだ……?」

「詳しいことは後で。私がこうして時間を超えてあなたの前に姿を現したのは、ヒメリが持つホロウグラフをユメリアに渡さないためです」

 

 リリがちらり、とヒメリに視線を向ける。

 彼女は状況が飲み込めていないのだろう。ポカーンとした様子で僕らを見ていた。


「そうか……。僕にはどっちが正しいことをやろうとしているのか、どちらに修理したホロウグラフを渡すべきなのかすぐには判断できないな」

「私の言うことが信頼できるまで、それは持っておくといいよ。

 ともあれ、お互い積もる話はあるけれど、今はユメリアのことを」


「そうだな……。まずはユメリアの身体を拘束し、彼女の口から計画の全貌、そして僕らに関して知っていることをすべて語ってもらおう」

「うん。それでいいと思う」


「と、言うわけだ。ユメリア。

 きみは僕ら3人を相手取らなくてはならなくなってしまったようだ」


 僕がそう言うと、ユメリアは「おやおや、まぁ」と楽しそうに笑った。


「世界最高の魔導師ルーク、剣神ロイ、そして空間と時間を超える禁忌の聖女リリ。

 世界最強のオールスターチームですわね」


「今なら、俺たちにごめんなさいと謝って投降すれば、痛い思いをしないで済むかもしれんぞ、ユメリア」


 にやりと笑うロイさんを、ユメリアは一笑に付す。


「繰り返しますが、わたくしがだれの娘だと思っているのです?

 世界最高の天才2人の才能を受け継いだ、奇跡の寵児(ちょうじ)ですのよ」


 たしかに。

 僕の魔法の性能とリリの空間跳躍の才能を受け継いで生まれたユメリアは、事実上の最強とも言える。


「ルーク、ロイさん。空間跳躍はたしかに強力なスキルではあるけど、万能のスキルじゃないよ」


 そうリリが語るのを、僕とロイさんは興味深く耳を傾けた。


「ほう。ではお前に、元祖・空間跳躍の使い手様に、攻略法をご教授願おうか」


「ロイさん、空間跳躍は飛びたい場所を強くイメージしないと使えないスキルなんです。

 だから自然と、空間跳躍を使う前は視線や身体の向きがそっちに引っ張られる。

 ユメリアはそこのところを上手くフェイクを入れたり制御してるけど、私たち3人を相手取った戦闘中にすべてを完璧にコントロールすることは難しいでしょう。

 基本的に、ユメリアの視線を追えば空間跳躍は捕まえられます。

 なにより私も、そのスキルを持った女ですしね」


「なるほど。タネさえ分かれば、攻略法は存在するというわけか」

「えぇ、ロイさんの技量なら、それだけ分かれば充分かと」

「だそうだ、ユメリア。一気にピンチになったようだぞ」


 ロイさんがにやりと笑い、ユメリアを見た。


「本当に忌々しい女ですわね、リリ……。お父様、今からでも遅くはありません。

 その女を切り捨てて、わたくしの元に来て下さい」


「残念だけど、この時点では僕は知りもしない自分の娘より、幼馴染のリリの方が信用が上がっているんだよ」


 僕がそう言うと、リリは嬉しそうにはにかんだ。


「そう……四面楚歌(しめんそか)というわけですか。

 では、わたくしも全力であなた方を叩き潰します。

 天才2人から生まれたわたくしの才能に、ひれ伏すが良い――!」


 ユメリアが魔導ローブを(ひるがえ)し、僕らに襲い掛かってきた。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
+注意+

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