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70話:ユメリア、再び 2

「ユメリア……!」


 僕の隣に立つロイさんが、声音を震わせながらそう言った。

 きっと、その言葉には、たくさんの感情が込められていたのだろう。


 2人だけの過去を振り返るように、彼はユメリアに尋ねる。


「どうして、何も言わずに俺の元を去ったんだ」

「そうしなければ、いけなかったからです」


 ロイさんの疑問に、ユメリアはにっこりと微笑んで口にした。


「俺の何がいけなかったんだ。教えてくれ、頼む!」

「決して、あなたが嫌いになったというわけではないですわ。

 けれど、それが運命だったのよ、ロイ。いえ、ロイおじさん」


 その言葉に、ロイさんばかりでなく、僕もハッとした。


「やはり……あの日記は、きみが意図的にあそこに捨てたものだったのか」


 僕の言葉に、ユメリアは淡い微笑を浮かべるだけだった。

 やがて、間を置いて彼女は言った。


「世界最高の魔導師、ルーク様。いえ、()()()

 わたくしが何者なのか、そろそろ分かった頃合いでしょう」


「きみは……未来の僕とリリの、娘なんだな」


 僕の発言に、ユメリアは重々しく頷いた。


「ユメリア。お前は何をしようとしている?

 どうして、『ノアの箱舟計画』および『ホロウグラフ』というものを追っている」


「見ていて下さい、お父様は正しかった。それを、世界に証明してみせます。

 お父様の『ノアの箱船計画』。不肖の娘であるこのわたくしが、必ず、必ず成功させてみせます。

 だから、どうかわたくしの頑張りを見ていて下さい。

 お父様のために、わたくしは自分の人生のすべてを捧げて、ここまできたのです」


「そんな事……少なくとも、今の僕は望んでいないぞ」


 僕の言葉に、ユメリアは一瞬傷ついた表情を見せたが、やがて諦めるようにふっと笑った。


「そうですね……今のお父様に理解していただけないとは、分かっていました。けれど、ここで立ち止まるわけにはいかない。わたくしが『ノアの箱船計画』を途中で放棄することができるほど、ここに来るまでに積み重ねてきた犠牲は少なくないのです」


「その『ノアの箱舟計画』について聞きたいことが山ほどあるんだ。何のためにやるんだ? 日記にもあったが、未来の僕らの世界では、それほどまでに酷い状況なのか」


「悲しいことです。どれだけ言葉を尽くそうとも、今のあなたへは、わたくしの想いは通じない」


 僕の質問に、ユメリアは郷愁(きょうしゅう)を思わせる微笑を浮かべて、そう言った。


「残念ですが、こちらの詳しい状況をお父様たちに教えて差し上げることはできません。

 わたくしやリリがこの時代に来ていることもかなりギリギリなことですので」


 彼女は寂しげな表情で首を横に振って、僕から視線を切る。

 ロイさんの方を向いて、ユメリアは言った。


「予言しましょう。ロイ。あなたは必ず、わたくしの手元に戻ってくる。

 『ノアの箱舟計画』を完成させるためには、あなたの力が必要なのです」


「どういう意味だ? 俺の前から突然いなくなったのは、お前の方だぞ」


「いつかきっと、わたくしの言っている意味が分かるはず。

 その日が来れば、必ずあなたはわたくしの側につく。あの日々は、そのためにあったのです」


 ロイさんが意味不明な事を言われた様子で、硬直する。

 事実、僕にも彼女の言っている意味が理解できなかった。


「じゃあ、何のために僕らの前に現れた? まさか、おはようの挨拶しに来たわけじゃないだろうな」

「もちろんです。あなた方に、これを直して頂きたたくて」


 ユメリアはローブのポケットから、大きな羅針盤のようなものを取り出した。

 中央に青白く光る鉱石、デレストグラムの宝石が埋め込まれていて、それを起点として指針が少しずつ動いている。


「なんだ、それ?」

「散々探し回った、ホロウグラフです」

「っ……!?」


 手に入れていたのか、もうすでに。

 ロイさんが得心した様子で、こう言った。


「……なるほど、そういう事か。お前は未来からこの時代に跳んできて、なんらかの経緯によってホロウグラフを手に入れた。それは良かったが、ホロウグラフは未来の状態と同様で壊れている状態で、そのままでは使えないし、自分でも直せなかった。

 だから、将来優秀な魔道具職人になるであろうヒメリとの接点を、俺たちに作りたかった。

 それが、レスティケイブの地下迷宮第五階層に通じるあの階段の、土石封鎖だったというわけだ」


 ちら、と背後のヒメリを振り返ってみれば、顔色が青ざめていた。


「相変わらず、頭が回りますのね、ロイおじさん」

「お前がわざとらしく、ちょくちょく痕跡を残していたからな。

 俺たちに、ある程度は教えたかったのだろう?」


 ユメリアは、筆記試験で満点を取った生徒を褒めるように、ロイさんに向かって満面の笑みを浮かべた。


「リリに一方的に妨害されたくなかった。

 あなた方にもわたくしのやっていることを、ある程度は追えるようにここまで導いてきた。

 だから、お父様の腕に魔導具をつけ、あなたたちの行動を逐一チェックしていた。

 剣神ロイ……いえ――ロイおじさん。やはりこの時代ではお父様よりあなたを選んでよかった」


「それは光栄の極みだな。で。どこまで計算し、ノアなんちゃらという計画を進めてきた?」

「もう少しで完成するはず。あと一歩なのです」


「俺たちが素直にホロウグラフを直し、それをお前に渡すと思っているのか?

 もしかすると、未来から来たリリの方に渡すかもしれないんだぞ」


「ロイ。あなたはわたくしを裏切れない。絶対にです」

「絶大な信頼を置いていただき、ありがたいね」


 くっくっと、ロイさんが笑った。


「ともあれ、そこの未熟なヒメリを使って、このホロウグラフを直していただきたいのです」


 ユメリアはそう言って、青白く光る鉱石で作られた魔道具を僕に投げ渡してきた。

 宙を滑ってくるホロウグラフを、僕は慌てて掴む。


「おっとと……。乱暴だな。大事な魔道具じゃないのか」

「落としたところで、どうにかなる魔導具ではありませんし。では、仔細は任せました」


「おいおい、待てよ。このまま俺たちがお前を逃がすとでも思ってるのか?」


 ロイさんが剣を抜き、ユメリアの退路を断つように、彼女の後方に回っていく。


「逃げるのではありません。わたくしはあなた方に『ホロウグラフを直せ』と命令し、ここから悠然と立ち去るのです」


「ルーク。お前のこいつへの教育はどうなってんだ。ちゃんと(しつ)けたのか?」

「今の僕にそんなことを言われても……。ともあれ、ユメリアには聞きたいことがたくさんある。僕としても、このまま立ち去らせるわけにはいかないな」


 そう言って、僕は水神の盾が反応発動可能(リアクト)になっていることを、再度確認した。

 念のため、2つ目の魔法枠を使って『ウンディーネの加護』をパッシブONにする。


「えぇ。そう仰ると思っていましたわ。では、二人まとめてかかっていらっしゃい。わたくしが遊んであげましょう」


 ユメリアが魔導ローブをはためかせ、前後を抑える僕らに向かって、大胆不敵に宣告した。


「ルーク。娘に舐められてるぞ」

「これはちょっと、お灸を据えなければなりませんかね」


 ロイさんが剣を構え、僕は魔法を即座に発動できるように間合いを測った。


「弱い犬ほどよく吠える。これは、わたくしたちの時代でお父様の口癖でしたわ。

 まさか、ご自分や親友のロイおじさんに返ってくるなどとは、お父様も思っていなかったでしょうけれど」


「ぬかせ!」

「『スリヴァーシュトローム!』」


 ロイさんがユメリアに斬りかかり、僕が雷蛇の聖級魔法を放った。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
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