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69話:ユメリア、再び

 休憩を交えながら、僕らはデミウス鉱山の最終ルートを攻略し、ついに最奥部へとたどり着いた。

 鉱山の土を切り開いて造られた坑道の最後には、鉄製の大きな扉が待ち構えていた。


「間違いありません。この先が採掘場の最終ポイントとなっているはずです」


 鞄から羊皮紙を取り出して見ていたヒメリが、そう言った。

 これまで探索してきた坑道には、魔物の発生源となるようなおかしな物はなかった。


「ということは……、この先に魔物が発生した原因があるという訳か」

「十中八九、そうだろうな」


 僕とロイさんが目を見合わせて頷いた。

 目の前に鎮座(ちんざ)する鉄の扉は、天井いっぱいまで伸びていて、荘厳な文様が彫られていた。


「じゃ、行きますか。何が出ても驚かないように、心の準備だけして」

「開けるぞ。二人は下がっていろ」


「はい。ヒメリは僕の後ろから出ないでね」

「分かりました」


 ヒメリを安全な後方に下がらせ、僕は念には念を入れて『水神の盾』をリアクトした。

 これで使用回数が2/3になってしまったが、いざという時の保険になるから仕方ない。


 僕らが少し離れた場所に陣取るところを見て、ロイさんが鉄の扉をゆっくりと開けていく。


 ゴゴゴゴ、という大きな音が鳴った。

 やがて松明の炎だけが照らす薄暗い坑道に、扉の先からまばゆいばかりの光がこぼれてきた。


「っ……!」


 あまりに鉄の扉の向こうから漏れ出てくる光がまぶしかったので、思わず顔をしかめて目に手をかざした。

 視界に入ってくる光量を絞りつつ、ロイさんが開いた鉄の扉の向こうを見た。


 扉の先にあった光景は、床と壁と天井が真っ白に染め上げられた、何やら神聖な雰囲気の施設だった。

 それはどう控えめに見積もっても、鉱山の中の採掘場には思えない。


 何かの研究施設と考えたほうがしっくりくるような場所だった。

 

「おい、ヒメリ。ここは採掘場じゃなかったのか?」

「そのはずだったんですけど……あれぇ? ここって違うのかな……?」


 ヒメリが何がなんだか分からない様子で、首を傾げる。


「なにやら神殿みたいな施設ですね。とりあえず中に入ってみましょう」

「そうするか」


 僕ら3人は、神殿のような施設の中に歩み入っていった。

 縦陣をやめて、真ん中にヒメリ、僕とロイさんで彼女の左右を守る形で慎重に探索していく。


 神殿のような施設の床や壁が真っ白なのは、大理石で作られているからだった。

 真っ白に輝く施設の内部は神々しい雰囲気を出している。


 歩くたびに、カツン、カツン、と床から音が鳴る。


「内部はだいぶしっかりとした造りになっていますね。地震や崩落が起きても、ここだけはびくともしなさそうだ」

「おい。これを見ろ」


 そこでロイさんが床に落ちていた資材を取り上げてみせた。

 それは青白く光り輝く鉱石だった。


「これ、ロイさんの剣と同じ鉱石……なんていうんだっけか」

「デレストグラム」


 僕が答えに(きゅう)していると、ヒメリが即答した。


「そう。デレストグラムだ。なんでロイさんの剣と同じ鉱石が、ここに?」

「ここで採られたから、って考えるほうが自然じゃないですか?」


 ヒメリは床に散らばる作業道具を見て、そうつぶやいた。

 彼女は、何かの暗号のような物が描かれている羊皮紙を拾って眺めていた。


「ここ……単なる採掘場じゃないですね」

「ヒメリには何をしている場所なのか、分かるのか?」

「おそらく……魔導具を作る研究所です。この羊皮紙を見て下さい。数式が書かれているじゃないですか」


 ヒメリが見ていた羊皮紙を突き出されたので僕も見たが、僕には理解できない数式と図がたくさん書かれていた。


「あぁ。なんだか難しそうな数式がたくさん並んでいるね」

「これ……ある魔導具を作る時に使う式なんですよね。どんな魔導具を作るか、ルークさん分かります?」

「さぁ。魔物でも退治するために使う魔導具とか?」


 僕の答えにふるふると、ヒメリは首を横に振る。


「――人を殺すための、魔導具ですよ」


 彼女の言葉に、絶句した。


「デミウス鉱山は、採掘場じゃなかったのか?」

「採掘場としての機能も、もちろんあったんでしょうね。あったっていうか、今まで私たちが探索してたところが、そうなんでしょう。でも、ここはそれだけの施設じゃなかった、ということです」


 なんだかきな臭いものを感じた。

 そのままヒメリを護衛しながら、魔導具を作るらしき研究所を探索していった。

 

 3つ目の部屋に入ったところで、ヒメリの言葉が正しかったと証明する物が見つかった。

 魔導具の製造に使われる器具や、完成途中の魔導具がたくさん散乱していたのだ。


 この部屋で製造されていた魔導具を手にとってみると、それは銃の形をしていた。

 明らかに殺傷を目的とした魔導具だ。


「これ……人を殺すための魔導具なのか」

「ですね。散弾魔法銃と呼ばれるもので、魔法の弾丸を散らばせて広範囲に撃つのが得意な銃ですよ。ルークさんやロイ様はともかく、これで攻撃されてとても困る人がいます」


「誰だ?」

「ウェルリア王国の、騎兵です」

「…………」


 僕が魔力を流しその散弾魔法銃を撃ってみたが、魔法で圧縮された弾丸が、研究所の壁に向かって射出された。

 ドガガガ! という音が鳴り響き、横に広く弾丸が壁に撃ち込まれた。


「威力も十分……」

「なるほど。レティスはこれでウェルリアに勝つつもりだったのか」

 

 ロイさんが納得したように頷いている。


「このデミウス鉱山で、レティス皇帝は対ウェルリア戦争用の殺人兵器を作っていた。

 しかし、ある時、突如として現れた魔物に妨害されるようになった。

 それはたぶん、レティス皇帝にとっては頭痛の種だったんでしょう。

 だから、別件でこの鉱山に入る用事のあった僕らに、ちょうどいいから、と魔物の駆逐を依頼した。

 じゃあ、なんで魔物が現れたんだ? こんな大事な兵器を作っているんだから、厳重に管理されていたはずでは?」


「こいつを作られて、困るやつがこの国のどこかにいたんだろう」


 僕の推測に、ロイさんが言った。


「どうやってレスティケイブの地下迷宮から魔物をここまでおびき寄せたんだろう。

 魔物の行動を意図的に操れたということになりませんか?」


「分からないな。ただ確実なことは、この魔導具が大量生産されれば、ウェルリアの騎兵戦力はガタガタになり、戦争はエジンバラが勝つということだ」

「それも、圧倒的な勝利で、ですね」

「だな」


 僕が生まれ育ったウェルリア王国が。

 あの数百年という歴史を重ねてきた大国が、滅ぶ時が来るのか……。


 それは哀愁を感じさせることだった。


「はあー……。デミウス鉱山でこんなものを作っていたんですね。あたしも知りませんでしたよ」


 おそらく、軍事機密の研究所だったに違いない。


「あたしは一応、この研究所を全部探索して、工房ギルドに依頼された鉱石を採ろうかと思いますが、ルークさんたちはどうされます?」

「僕らもついていくよ。もともと護衛が仕事だったしね」

「はいっ」


 ヒメリがはにかんで頷いた。

 この研究所のどこに魔物が潜んでいて、何が発生の原因になっているか分からない。

 念のため、杖の探知をつけた。


 杖の探知を活性化(アクティベート)させて、それから僕らは研究所の探索を再開した。

 ところどころ施設が壊されているのを見ると、おそらく魔物に荒らされたのだろう。


 その研究所の一番奥で、興味深いものを見つけた。

 白い空間の中に、幾何学模様の魔方陣が取り付けられていたのだ。


「この魔方陣が、もしかして魔物の発生源?」


「あるいは、ここから魔物が飛ばされてくるのかもな。

 乗ったら何が起こるんだろうな。魔物の住処に飛ばされたりしてな」


「まさか……」


 ははは、と僕は乾いた笑いを浮かべる。

 適当に拾った崩れた壁の残骸(ざんがい)を、拾って魔方陣の中に投げ込んだ。


 その岩石が魔方陣の上に落ちると、魔方陣に光が集まって、輝き出す。

 そして一瞬のあと、その岩石は消えた。


「転移魔方陣か……。とりあえず、これが諸悪の根源みたいなんで、壊しますね」

「できるか?」

「魔方陣が描かれている床ごと壊せば、たぶん」


 僕は『レイ』を使って、転移魔方陣が描かれている床を破壊しようと、光線を放った。

 閃光が転移魔方陣に殺到し、大理石程度なら簡単に打ち砕けると思ったが、転移魔方陣に『レイ』が到達する直前に、なにかによって光線が弾かれた。


「うへ……障壁がかかってる」

「現場に魔法の使用者がいないのに、障壁を張るなんてことができるのか」

「うーん……この転移魔方陣自体とは別に、どこかにこれを守っている仕掛けがあるみたいですね」


「転移魔方陣を守る、障壁魔方陣がある、ということか」

「そのとおりです」


「込んだ仕掛けだな……」


 僕が2人が頭を悩まされてると、背後から鈴を鳴らすような声が響いた。


「あぁ、それはもう必要ないので、壊していただいて構いませんよ」


 女性の声だった。

 それも、聞き覚えのある。


 僕とロイさんが、ハッとして振り返る。


 そこにいた女性は、毛先にいくにしたがってウェーブした銀色の髪。

 誰かを彷彿とさせる、スカイブルーの瞳。

 品性を感じさせる柔和な物腰。


 流れていく時間が、凍りつくような思いがする。

 僕とロイさんは、信じられない者を見るかのように、その人物を凝視していた。


「お前……!」


 超然とその場に立つ、多くの謎に包まれている女。


「ご機嫌麗しゅう、ルーク様。ロイも、お久しぶりね。少し、お話したいことがあります」


 渦中の人物――ユメリアだった。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
+注意+

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