65話:神級魔法
鉱山の休憩所でユメリアの日記を拾った僕らは、衝撃を受けつつも鉱山の探索を再開した。
最終ルートを除いてすべての攻略が終わり、どこにも魔物の発生源となった場所は見当たらなかった。
おそらく、最終ルートの最奥部に魔物の発生となった原因……そしてユメリアにつながる鍵が隠されているのだろう。
僕らは予定どおり、万全の状態で最後のルートを攻略するために、一度、鉱山外の宿に戻って休息をとることにした。
坑道からの帰り道に、こう会話しながら宿に戻る。
「しかし……こういう日記が鉱山の内部で見つかったとなってくると、デミウス鉱山に魔物が大量発生した件は、ユメリアが意図的に行ったんじゃないかって可能性が高いですね」
「その線が濃厚そうだな。はてさて、最奥部では何が待ち受けているのやら」
「ユメリア本人。または、彼女につながる重大な鍵がありそうだな……」
そうつぶやきながら、僕は考え事に埋没した。
「ルーク」
「はい?」
ロイさんの声に、面を上げる。
「今更の話だが、レスティケイブの地下迷宮の最深階層に、何があるか知ってるか?」
唐突な話題の転換だった。
「えーと……聞いた話によれば……、たしか、どこかにつながっている巨大な転移魔法陣があるんでしたっけ」
「その転移魔法陣がどこにつながっているのか、興味が出てこないか?」
「まぁ、興味はありますね。僕らがそもそも最終目標にしている地点なので。でもなぜ今、その話を?」
「突如として魔物が出現するようになったデミウス鉱山に、レスティケイブの地下迷宮の最奥部にある巨大転移魔法陣と同じものが、この鉱山にもあると思わないか?」
「ふむ……」
考え込む。その線もナシではないだろう。
シリルカの街でルーン皇女殿下から緋龍褒章をもらった時、未来視のある彼女はこう言っていた。
『――では、レスティケイブの地下ダンジョンの最深部に行けば、謎が氷解するでしょう。25層の転移魔法陣。あれに彼女たちの答えが隠されています』
ルーン皇女殿下の言葉を信じるのなら、25層の転移魔法陣にすべての謎につながる鍵が隠されている。
それが、デミウス鉱山にもあると?
考えられない話ではない。
とにもかくにも、一刻も早くデミウス鉱山の最奥部にたどり着き、そこに何があるのか確認しなければならないだろう。
迷宮の攻略も再開したいところだし。
そんな事を考えながら、坑道を脱出した。
鉱山街まで降りて来て、僕らは二手に分かれる。
僕は聖教会に、ロイさんとヒメリは宿に向かうために。
◇ ◆
「では、今回も成長の儀をお願いします」
「うむ。分かった」
早速と、聖教会に向かった僕は、神父さんにいつもの儀式をお願いした。
デミウス鉱山の最奥部攻略に備え、新しい魔法を取得するためだ。
少し多めの銀貨2枚の寄付を払って儀式が行われ、水晶にいつものように取得可能な魔法が浮かび上がった。
◆ ◆
【ルーク 取得可能魔法・スキル一覧】
<新規取得可能魔法>
闇系統初級魔法 スロウ
威力E 攻撃速度C 消費魔力C
(※妨害魔法 対象の敵1体の移動速度と攻撃速度を落とす)
水系統神級魔法 水神の盾
威力E 攻撃速度S 消費魔力SS
(※反応型魔法 致死性のダメージを、1度だけ『水神の盾』が完全に防御する。
使用限界 1日3回迄)
<前回取得可能魔法・スキル>
無系統上級魔法 リンクアドバンスド
魔法三重発動
<前々回までに取得可能な魔法>
ファイアバレット
ファイアランス
フレア……etc.
取得可能数 2
◆ ◆
「神級魔法! ついに僕も神級魔法が取得できるようになったのか!」
喜色満面とした声をあげた。
魔法の『級位』の中で最高のランクとなる、
――水系統神級魔法 水神の盾
致死性のあらゆる攻撃を一度だけ完全に防ぐことのできる、防御の薄い僕にとっては持って来いの魔法だった。
使用制限はあるが、これは非常に強力な魔法だ。
「私はレスティケイブに潜っていた時代のきみを知らないから、偉そうなことは言えないけど、ついに神級魔法に到達したね」
「ここまで来るのに、長かったです……。とは言っても、そんな苦労してきたわけでもないですけど」
苦笑しながら、僕は言った。
そして、闇系統の魔法も取得することができるようになっていた。
――闇系統初級魔法 スロウ
「これで次元系統以外は、全系統を覚えることができるかな」
現在の僕の職業は『上級魔導師』。
ロイさんのような前衛剣士と違って、取得できるパッシブスキルや攻撃スキルは少ないが、ありとあらゆる魔法を覚えることのできる万能の魔法職だ。
いずれ、この世の存在するすべての魔法を覚えられる時も来るかもしれない。
そうなれば、対人も対魔物でも、ほとんど敵がいなくなるのではなかろうか?
最強まで、成り上がれる日も近い。
「ルークくん、取得魔法はどうする?」
「とと、そうですね……」
僕は考え込んだ。
闇系統の魔法も、妨害魔法が主となる土系統の上位版という感じで、かなり使える。
スロウは特に移動速度と攻撃速度のダウンという、低下魔法だから、実用性はかなり高い。
スロウを取れば、妨害戦法で早速主力として働いてくれるだろう。
しかし、何よりも魅力的なのは、水系統神級魔法の水神の盾。
これは外せない。ただでさえ薄かった防御だが、水神の盾さえあれば非常に堅くなる。
「まずは、『水神の盾』で」
「うん。いつ取得するにせよ、これは確実に取ったほうがいい魔法だろうからね。神級魔法まで到達できる冒険者は、ザラにいない」
「はー……僕もようやく、一端の冒険者になれたんだなぁって思います」
「一端どころか、すでに魔導師の中では上位1%に入るだろう」
神父さんがそう言って笑った。
いつか、ロロナ村時代の村長が言っていたことを思い出す。
――ひとかどの人間になりなさい。近い将来、必ず人を幸せにできるような人間になるのだ。
と、淡い郷愁が胸に浮かんだ。
村長……。どこかで見ていてくれていますか。僕は、強くなりましたよ。
取得魔法その1は、水神の盾。
2つ目は……。
「これから、自分をどう育てていこうかな。リンクアドバンスドを取るものいいですけど」
「ルークくんの成長速度、取得魔法から鑑みれば、水系統でガードをガチガチに固めて、闇系統で妨害しつつ、光系統でフィニッシュという形が中心になるんじゃないかな」
「うーん、そうですねぇ……」
何にするか。
素直に闇系統の『スロウ』を取るか、それとも無系統の『リンクアドバンスド』を取って、ロイさんへの支援能力を極めていくか。
支援に特化するスタイルは、仲間がいなければ何もできなくなるという矛盾も抱える。
ここは、デミウス鉱山の最奥部に待ち構えるであろう大勝負に向けて、鉄板の常時発動型スキルを取っておくか。
「取得可能数が2なので、2つ目は鉄板の常時発動型スキル・魔法三重発動を取っておくことにします」
「分かった。それでいいんだね?」
「はい。これは確実に使えるし、戦術の幅が広がるので」
現状では『ウンディーネの加護』をつけると、戦闘時の使用魔法枠が1つになってしまうので、これがあれば『ウンディーネの加護』で状態異常を防ぎながらも、妨害と攻撃を同時に行えることができるようになるのだ。
聖なる光がきらめいて、僕の身体に新たな力が付与される。
『水神の盾』と『魔法三重発動』を覚えた僕は、聖教会を辞した。