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62話:基本に帰る

 とにかく、基本に立ち返ろう。

 松明だけが少し先の薄闇を照らす坑道を探索しながら、僕は決意する。


 前衛にロイさん、中衛に僕、後衛に非戦闘職のヒメリ。

 この3人にヘイストをかけて移動速度を上げて、縦陣を組んでデミウス鉱山の攻略を再開していた。


 デミウス鉱山の坑道は途中まで一本道だったが、奥深くへ進行していくと分岐路にさしかかる。

 前と左右、坑道の行く手が三つに分かれている。


 ロイさんが立ち止まり、こちらを振り向いた。


「ヒメリ。どっちだ?」


 ロイさんの疑問を代弁して、僕がヒメリに尋ねた。


「坑道内の地図は一応あたしの頭の中に入っていますが、完全に迷わないとは言えませんし、坑道のどこに魔物の発生源があるか分かりません。ルークさんは一度通った経路なら、魔法の効果で頭にマッピングできるんでしたよね?」


「そうだね。魔法の探知もあるし、杖の探知もある。地図と現在地を照らし合わせることもできる」


 僕が「しかり」と頷いて言った。


「ルークさんって、魔法職として万能ですね……」

「それほどでも」


 さして凄いことでもないので、軽く流した。


「では、まずは左折探索法でいきましょう。どこに魔物の発生源があるかわからないですし、虱潰(しらみつぶ)しにルートを攻略して、一つ一つ異常がないか確かめて周ります。それでルークさんが経路を覚えてくれれば、次回からは通ってない道を潰していけばいいだけです」


 左折探索法とは、すべての曲がり角を左折していって行き止まりにぶつかって帰る時、すべての分岐路を右折すれば入り口に戻れる方法のことを言う。


「だそうですよ、ロイさん」

「了解だ」



 ◆ ◆



 ロイさんが先頭に立って、左の坑道に入って進んでいく。

 坑道内の道順を、頭に刻み込みながら、僕らは先へ進む。


 しばらく左折を繰り返して進んでいると、闇の奥からうごめく気配がした。

 杖の探知に魔物がひっかかる。


「来ました。数は6から7です」

「了解」


「ヒメリは少し離れた後方に待機で。間違っても、前みたいにローブを引っ張らないでくれ。きみは護衛対象だから必ず守る」

「わ、分かりました」


 ヒメリがやや後ろに下がり、僕とロイさんが魔物を迎え撃つ。


 敵の魔物は、


 前衛に鉱石で身体が造られたゴーレムが3体、中衛に鉄の身体に鋭い尾を持ったスコーピオン型の魔物が2体、後衛に魔法職が3体。


 いずれも鉱山の魔物特有な、ゴテゴテした感じのパーティー構成だった。


「前衛はミスリルゴーレム、中衛はアイアンスコーピオンだな。いつもどおり、俺が受け持つ。

 ルークは、後衛のアンデッドキャスターを頼む」


「了解しました!」


 先日から読んでいる戦術書の基本に立ち返って、やるべきことに優先順位をつけてやる。

 このパーティーで僕がしなければならない仕事は、ロイさんの援護であり、いかに彼に気持ちよく戦ってもらうか、それに尽きる。


 そのためには、敵の主攻を食い止めることが必要になる。

 それにはまず、サイレントクライで敵全体に沈黙をばらまきつつ、ダブルキャストでロイさんにリンクアタックをかける。


 自軍と敵軍がエンカウントすると同時、サイレントクライの射程圏内に全魔物が入る瞬間、僕は魔法を撃った。

 甲高い声が辺り一帯に響き、魔物に中確率の沈黙の効果を与えた。

 

 魔法・スキルが使用不可にになる『沈黙』にかかったのは、

 

 ミスリルゴーレム 0/3

 アイアンスコーピオン 1/2

 アンデッドキャスター 1/2


 だった。


「チ……アンデッドキャスターは一気に沈黙に落としたかったのに……!」


 ロイさんに『リンクアタック』をかけると同時に、沈黙にかかってない残りのアンデッドキャスターから、魔法攻撃が飛んで来る。

 

 魔物が使ったのは、土系統中級魔法の、ロックランスだった。

 岩の槍がお互いの前衛を飛び越え、こちらの中衛から後衛に雨のように降り注いでくる。

 僕はそれをスリヴァーシュトロームを使って、迎撃した。


 岩の槍に、雷の蛇が食らいつく。

 空中で、岩槍が粉々に砕け散った。


「――ッ!!!」


 もう一度、サイレントクライを撃った。

 今度こそ、アンデッドキャスター2体を沈黙の状況下に陥れることができた。


 これで後衛の脅威は封じた。

 サンダーランスで威嚇射撃してアンデッドキャスターの行動を封殺しておく。次。


 ロイさんが戦っている前線に視線を向けて、アースシェイクを放った。

 ちょうどミスリルゴーレムが太い腕をロイさんに向けて振り落とそうとしていたが、坑道の地面が激しく揺れて、ミスリルゴーレムたちが態勢を崩す。


 そんな中でも、ロイさんは平気な顔でバランスを取ってステップを踏む。

 揺れる地面に足を取られていたミスリルゴーレム一体を、彼に斬り伏せた。


 ミスリルゴーレム、残り2体。

 

 複数のミスリルゴーレムを敵に回しても、『リンクアタック』による追撃効果によって、ロイさんは術技硬直(スキルスティッフネス)の時間を埋められる恩恵も大きく、回避ステップを踏む回数が明らかに減っていた。

 矢継ぎ早にミスリルゴーレムを斬り倒し、ゴーレムが悲鳴を上げて魔石へと変わっていった。

 

 ミスリルゴーレム、残り1体。

 確実に殲滅速度が速くなっている。


「よっ!」

 

 こちらの前衛剣士が活躍する光景を眺めながら、僕は敵中衛と敵前衛の連携を分断させるために、ウォーターウォールで敵陣に水の壁を作った。


「ギィィ!」


 ロイさんに攻撃を仕掛けようとしていたアイアンスコーピオンの前に、妨害となる水壁が出来する。

 その壁を苛立った様子で、アイアンスコーピオンは尾による攻撃で水壁を壊す。


 壊したそばからすぐに新しい水の壁を創り上げた。

 

 ウォーターウォールは初級魔法だし、数秒で壊される。

 けれど、敵の中衛~後衛からの援護射撃が降ってこない状況を作るのは、ロイさんにとってすごくやりやすいはずだ。

 実際、彼は目の前の戦いに集中できる状況で、残り1体となったミスリルゴーレムの両手両足を斬り落としていた。


 サンダーランスを放って牽制しつつ、水壁によってアイアンスコーピオンの妨害と分断をこなす。

 わずかな時間を稼いで、その間にロイさんがミスリルゴーレムを殲滅(せんめつ)し終えた。


「水壁を開けます」

「頼む」


 バシャア、と水の壁が瓦解し、向こうからアイアンスコーピオンが尾を怒らせてやってきた。


 次に僕は敵中衛と後衛の間に水壁を立てさせて、また彼が近接戦闘に集中できる環境を作った。

 もっとも、今のアンデッドキャスターは沈黙の状況下にあるから、何もできないけれど。


 そうしてロイさんが確実にアイアンスコーピオンも倒し終えると、あとは魔法の使えない魔法職――アンデッドキャスターというただのカモを倒し、戦闘が終了した。


「お疲れ」

「お疲れ様です」


「お、おぉー……! 流れるような連携ですね」


 魔物を速やかに倒し終えた僕らを見て、ヒメリが後方で拍手していた。


「ルークの動きが非常に改善されたな。独りでも戦える力はすでにあるんだが、スタイルをより俺との連携重視に切り替えたのか?」


「昨晩に戦術書を読んで、パーティーの主攻にいかに気持ち良く働いてもらうかに集中しました。今まで持ってた魔法を組み合わせただけですけど、効果は高かったですね」


 敵戦力の分断と、火力の集中。

 今まで何度も繰り返してきた、基本中の基本だ。


「俺にとってはありがたいが、お前も火力になりたいんじゃないのか? せっかく、新魔法の……なんだったか」

「光系統中級魔法の、レイ」


「そう、レイを取ったのに、使わずに腐らせておくにはもったいないレベルの魔法だろう」

「必要であれば使いますよ。ただ、支援と妨害で効果的な働きができるなら、別に僕が焦って魔物を倒す必要はないかなと」


「世の火力一辺倒の魔導師に見習わせたい言葉だな」

「はは……」


 別にこの戦闘で新しいことは何もやってない。

 今までの自分の動きを見つめ返しただけの、基本だ。


 でも、最近は高性能魔法を覚えて、忘れていた動き。

 困ったら、基本に戻るに限る。


 ヒメリが拾ってくれた魔石をバックパックにしまう。

 さて、探索を再開するかとなったところで、ロイさんが意地悪な笑みを浮かべてヒメリに言った。


「あぁ、そうだ小娘。今回は魔物が怖くて漏らさずに済んだのか?」

「もっ、漏らしてなんかませんよ!!! なっ、なななっ、何言ってるんですか、ロイ様!?」


 ヒメリが顔を真っ赤にして否定するが、ロイさんはいじるように笑い声を上げた。


「ほぉ? 宿屋についてすぐに洗い物をしていたから、てっきりそうだと思ってな」

「ヒメリ。最初にデミウス鉱山に入った時、すごく怖がってたけど、そうだったの?」

「え、いやっ、ちょっ、それはちがくて!!」


 僕が問いかけたが、ヒメリはぶんぶんと、首を横に振る。


「ろっ、ロイ様ー!? 何を言っちゃってるんです!?」

「いや。パーティーメンバーとして情報は共有しとかないとな」

「何が情報共有なんですか! プ、プライバシーの侵害ですよ! ヘンタイ! スケベオヤジ!」


 そのヒメリの反応を見て、「あぁ……そうだったのかぁ……」と生暖かい気持ちになった。


「ルークさん? ご想像のところ悪いんですけど、事実無根ですからね?」


 ヒメリが凄絶な笑みを浮かべながら、キレていた。

 笑顔で怒っているのが、余計に怖い。


「あぁ、別にそういうんじゃないよ。随分とロイさんと仲が良くなったなって思ってただけ」

「違うんですってば! あれはほんの少し、わずかに油断しただけなんです!」

「はいはい、分かってるって」


 頬を膨らまして地団駄を踏む彼女に、僕は苦笑を浮かべる。


「おい。お漏らしの話はこれきりで、もう行くぞ」

「そうしますか。ヒメリ、大丈夫。誰だってそういう事、あるから」

「いや、だから違うって言ってんでしょー!?」


 普段の丁寧な敬語が崩れるほど、ヒメリが怒っている。

 僕らは苦笑しながら、先へ進むことにした。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
+注意+

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