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59話:デミウス鉱山

 皇都でレティス皇帝陛下の厚遇を受けた僕たちは、彼に近隣にあるデミウス鉱山の入山許可証を発行してもらって、件の鉱山街へとやってきていた。


 デミウス鉱山は、皇都の20クピテ《約45キロメートル》圏内にある衛星都市の一つで、ここで採掘された鉱石が鉱山街の工房で加工され、皇都に運ばれて商品になる。

 しかし、最近では鉱山に魔物が蔓延(はびこ)るようになり、鉱夫たちがまともに働けない状況になっている。


 皇国としても鉱山の商売があがったりだったところに、僕らが入山して魔物を駆逐してくれるなら、と、レティス皇帝は気前よく許可してくれた。


 まぁ、それも当たり前だろう。

 僕らが勝手に入って勝手に魔物を倒し、問題解決をするのだから、多少鉱石が採られたところで皇国には嬉しい悲鳴しかない。


「鉱石って、そもそも何に使うんだろうな」


 皇都から専用の馬車を出してもらって、鉱山街へ到着した僕は、馬車から降りながらぽつりとつぶやいた。


「いっぱい用途がありますよ」


 僕の独り言に答えたのは、工房ギルドの見習い女子・ヒメリだった。


「たとえば、貴族様が使うような金銀財宝のアクセサリーは、鉱石を原材料にして粉成(こなし)精錬(せいれん)という過程で金銀を抽出しますし、魔道具や剣・槍などの装備品に使われる金属も、鉱山で採れる金属が元になっています。たぶん、ロイ様の剣も特殊な鉱石で作られていますよね」


「そうなんですか、ロイさん?」


 僕とヒメリに顔を向けられ、鉱山街を一望していたロイさんがこちらを振り向いた。


「あぁ、そうだな。俺の剣はデレストグラムという鉱石で作られている」


「デレスト……? え? それってなんなの、ヒメリ?」


「最上級の硬度と強靭性(きょうじんせい)を持つ、とても高級な鉱石から採取できる金属です。滅多なことで折れないので剣や槍などの武器素材に適していますし、デレストグラムはそれ自体が青白く光り輝く特性があって美しい金属なので、貴婦人への贈答用としても人気です」


「へぇぇ……」


 ヒメリのうんちくに、素直に感嘆した。


 そう言えば、ロイさんの剣はいつも青白く光っていた。

 魔法による加工がしてあるのかと思っていたが、鉱石特有の現象だったらしい。


 こういうのに答えられるところは、さすが工房ギルドの職人であった。

 

 ヒメリの解説を聞きながら、僕らはそのままデミウス鉱山目指して、ふもとの街を歩いていく。

 デミウス鉱山のふもとに広がるのはいかにも職人の街という感じで、あちらこちらに工房が建てられているが、デミウス鉱山に入山できない今は、閑古鳥(かんこどり)が鳴いていた。


 そのまま街を抜けて、鉱山街の一番奥にあるデミウス鉱山へとやってきた。


「じゃ、準備オーケーなら、突入しましょうか。ヒメリ、鉱山内での行動の確認事項は?」

「まず入山し、目的地となっている最奥部の採掘場所まで行きます。その道中に魔物との戦闘が予測されるので、ルークさんとロイ様はその対処をお願いします」


 当然だ、とばかりに僕たちが頷く。


「なにが魔物の異常発生となっているのかを探り、可能であればその根本を潰して問題解決を行います。問題解決しつつ最奥部の採掘場所に到達すると、そこであたしが鉱山を採掘し、鉱石を入手します。入手した鉱石は、選鉱(せんこう)という作業を行って、有用鉱物と不要な岩石鉱物などを分離します」


「そのままじゃ、鉱石は使えないのか」


 僕は瞳を瞬かせた。


「鉱物には必要なところと、そうでないところがありますからね。鉱物をそのまま全部持ち帰れればよかったんですが、あたしたち三人では持てる量に限界があるので、鉱山内で選鉱しちゃいます」


「分かった。そして?」


「選鉱した後、デミウス鉱山を下山し、ふもとの工房を借りて精錬(せいれん)します。ここで鉱物を金属へ加工。そのままギルドの素材として使えるようにします。例えば、金銀を分離する作業で、硫黄分銀法(いおうぶんぎんほう)というのがあるのですが、これは硫黄を添加して銀を硫黄に変えて取り除き、純金を手に入れる手法です」


 ヒメリの専門知識に、僕は舌を巻く思いだった。


「職人の専門的な技術知識は分からないけど……、とにかく、鉱山内で鉱石を採掘。その場でおおざっぱなふるい分けを行って、それから下山して工房を借りて、もう一段階精度の高いふるい分けをして、シリルカの街まで持ち帰る、と」


「大体そんな感じです。どの鉱石を採掘し、選鉱するかは、すべてあたしが判断するので、ルークさんたちは魔物からあたしを護衛してもらえれば、作業はこっちで全部やります」


「了解だ。僕らは出てくる魔物を倒せばいいというわけだね」

「です」


「よし、では行きましょうか。ロイさんが前衛、僕が中衛、ヒメリが戦闘能力のない後衛で」

「あぁ」

「はいっ」


 僕らは一度だけ、顔を見合わせて、頷き合う。

 入り口を見張っていた兵士に入山許可証を見せて、僕らは鉱山の中に入った。


 高い鉱山の入り口――抗口(こうぐち)から、坑道が一直線に掘り進められている。

 坑道が崩壊しないように、ところどころに木で天井の支えが作られている。


 坑道の中には等間隔で松明(たいまつ)が設置してあり、薄闇を炎が照らし出していた。


「中に入ってみたけど、いきなり魔物がうじゃうじゃいるというわけではなさそうだね」


「そうですね。デミウス鉱山は、いわゆる水平坑道(すいへいこうどう)です。坑道がまっすぐ続いていて、迷宮のような迷路構造になっていると思います。坑道に急激な登り降りがないので幾分かは楽だと思いますが、魔物との戦闘で天井が崩落しないように気をつけてください。帰り道がなくなりますからね」


 ヒメリがそう言った。

 そうか。ここで雷系統聖級魔法・スリヴァーシュトロームのような高火力魔法を使うと、天井にぶち当たって崩落する可能性があるんだ。


「地形で使用魔法が制限されるのか……、厄介だな」

「ルークはサンダーランスを中心に、牽制射撃および援護攻撃で戦闘を組み立てろ。基本、鉱山内では近接職の俺が魔物を倒す」

「了解しました」


 縦陣の先頭を進むロイさんに、僕は頷いた。

 僕が中央にいて、戦闘能力のないヒメリは最後尾でついてくる。


 薄暗い坑道を、慎重に進んでいく。

 デミウス鉱山の内部はひんやりとしていて、松明の炎に照らされ、使い捨てられたトロッコや鉱石がいたるところに放置されていた。


 魔物に荒らされたのだろうか。

 トロッコを運ぶレールが、無残にも破壊されている。


「どうだ、ヒメリ? ここら辺に目的の鉱石はありそうか」

「今のところは、ダメですね。鉱脈の探査には、鉱物を見極められる知識と、鉱脈と岩石の区別、地形の理解が必要なんですが、目利きの一流職人ならともかく、あたしでは坑道の途中にある鉱石で、どれが使えてどれがダメなのかハッキリしなくて……」


「つまり、予定通り最奥部の本来の採掘場となっている場所まで行った方が、確実に採取できるってことか?」

「そういう事です。すみません、あたしが未熟なばかりに……」

「いや、いいよ。もともとそういう話だったし」


 工房ギルドの職人がそう言うのであれば、クエストを受けた僕らとしては素直に従うしかない。

 松明の炎に照らされた坑道を、そのまま進んでいった。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
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