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57話:皇都到着

 荷馬車での旅を続け、僕らはついに大陸西部にあるエジンバラ皇国の皇都へとやってきた。

 皇都は周囲を高い城壁に囲まれており、平地から丘の上に昇るようにして広がっている。

 一番てっぺんにそびえ立つのが、皇帝陛下のおわす皇宮だ。


「はー、いつ来ても皇都はおっきいですねぇ……」


 荷台に僕の隣に座っているヒメリが、荷馬車の上から皇都を見上げるようにして言った。


「皇都に前も来たことがあるの?」


 僕の疑問に、彼女はこくりと頷いて続ける。


「生まれ育った港町から皇都に最初に出てきて、ここで工房ギルドの初めての仕事を得ました」

「ほぉ」


「ま、仕事でミスをやらかして、女性の先輩技師さんに嫌われて居づらくなって、それでシリルカ支部に移ったんですけど……」


 あはは、とヒメリは乾いた笑いでそう言った。


 重いな。

 どうやらあまり突かない方が良さそうな過去だ。


 そのまま荷馬車に乗って整備された街道を進む。

 終着駅には皇都に入るための検問所があって、門兵による警備チェックが待ち受けていた。


 僕たちは荷台から降りて、入都チェックを受けている列に並ぶ。

 行商のおじさんが荷馬車を門の前へと進めた。


「お前らも皇都に入りたいのか? 許可証はあるか」

「はい、そうです。入都許可証はここに」

「どれ……」


 行商のおじさんが割符のような木片を差し出し、門兵がそれを確かめる。


「確かに……シリルカの街から皇都に来る行商だと、商業ギルドが公に認めているようだな。よし、通ってよし!」

「ありがとうございます」


 偉そうな門兵に礼をし、荷馬車はそのままカラカラと車輪をゆっくり前に進める。

 僕らもその後に当然のようにしてくっついて行こうとすると、門兵に槍を突きつけられた。


「お前らは通っていいとは言ってないぞ。身分証明証を出せ」

「身分証明書がいるんですか?」


「当たり前だろう。敵国の間諜を通すわけにはいかないからな」


「ヒメリ。持ってる?」

「えっ、み、身分証明証ですか……? 工房ギルドのステータスカードがあったはずですけど、どこやったっけかな」


 ヒメリがあたふたと慌てて、ショルダーバッグの中を探る。

 そういえば、僕とロイさんも冒険者なのだから、ステータスカードがバックパックの中にあるはずだ。

 取り出そうとすると、ロイさんが首を振った。


「あー、いい。ヒメリ、ルークがいればそんな物はいらん」

「え?」


 ヒメリはきょとんとした顔で首をかしげた。


「身分証明証を提示できなければ、お前らのような怪しげな奴らは、皇都には入れてやることはできんぞ」

「そのセリフ、数秒後に後悔することになるだろうな」


 くっくと笑って、ロイさんが僕のジャケットの胸元を指差した。

 そこには、エジンバラ皇国での権勢の高さ示すと言われている、皇女殿下直々に贈られた、緋龍褒章(ひりゅうほうしょう)が輝いていた。


 あぁ……そう言えばこれがあったな。

 たしか上級貴族と同等の価値があるんだったか。


 緋龍褒章を見た偉そうな門兵の顔が、一気に青ざめる。


「ひ、緋龍褒章だとっ……!? そんな、まさか……実在するなんて……! ぎっ、偽造品ではなかろうな!」

「そう思うんだったら皇帝陛下に直々に確かめてみるか?

 あぁ、真偽を確かめたあと、お前の首は飛ぶかもしれんがな」


 ロイさんがニヤリと笑って、門兵に言った。

 槍を構えた彼はごくりとつばを飲み込んで、態度を一変させた。


「たっ、大変失礼致しましたっ! どうぞ、お通り下さい! エジンバラ皇国、皇都へようこそ! 歓迎いたします!」


 そうして僕らは、皇都の中へと入れてもらうことができた。



 ◇ ◆


 皇都の街に入った僕らは、


「また機会があれば、ぜひ」

「はい」


 と、行商の夫婦と握手とともに別れて、僕とロイさんとヒメリの3人で、エジンバラ最大の都市・皇都の街並みを歩いていた。


「ロイさん……、さっきの検問のところ、少し門兵の人に意地悪だったんじゃないですか」

「お前が普段、緋龍褒章をどれだけぞんざいに扱っているか分かって良かったじゃないか」


「これ、そんなに凄い宝石だったんですね……」

「並の貴族なら、財産すべてを供出しても買いたいものだろうな」


 ルーン皇女殿下も凄い物を贈ってくれたものだ。

 皇都の町並みを並んで歩けば、そこは活気に満ちた商業の中心地という感じだった。


 一番大きな通りに露店や市場が出ていて、そこでは林檎や桃、苺、柑橘類などの果物が売られている。


 即席で料理を振る舞う屋台では、香辛料がふんだんに使われた炒飯がジュウジュウという音を立てて炒められていて、甘辛く煮付けられた鳥の手羽先の美味そうな匂いが立ち込めていて、砂糖でまぶしたドーナツや蜂蜜(はちみつ)につけこまれた林檎の甘い香りが漂っていた。


 他にも、通りには各ギルドの組合寄り所(ギルドホール)がある。

 金貸し業を営む高利貸しの店なんかはいかにも羽振りが良さそうで、デザインがいかめしい豪奢(ごうしゃ)な建物を構えていた。

 スキンヘッドの怖そうなおっさんが出入りしていたから、お近づきになるまいと密かに心に思う。


 それから、聖教会の大聖堂もあった。

 天に向かって高くそびえ、聖なる世界の象徴とも見て取れる。


 街路には買い物をする一般市民で溢れかえっていて、暗い顔をしている人間はあまりいない。


「現皇帝陛下の治世がいいんですかね。ウェルリアより活気があります」

「それもあるだろうな。地理的に、エジンバラは自然資源に恵まれているというのもあるが」


 少し路地を入った先には、娼館や賭博場、公共浴場がある。

 エジンバラ皇国の皇都は、人口20万人の大都市だ。


 この皇都に周辺地域のすべての人口が入っているはずもなく、皇都の10~20クピテ《約25~45キロメートル》圏内に、人口5000~1万人ほどの衛星都市がいくつもある。


 その衛星都市で、毛織物製作や農耕、製造業、鋳造業などの各種に特化した街があって、原材料を加工して作られたものが、この皇都に運ばれてきて市場で売りに出される。


 ――と、ロイさんとヒメリが言っていた。


 皇都の街路を歩き、僕らは冒険者ギルドを見つけて中に入った。

 そこはシリルカの街のギルドとは別物の盛況ぶりだった。

 基本的な冒険者の人数からして違う。


 シリルカはふだんギルドの酒場でたむろしている冒険者は多くて数十だが、皇都の冒険者たちは百人近くはいる。

 ギルド内は喧騒に満ちていて、隣の話し声すら分からないほど混雑していた。

 

 誰も僕らが入ってきた事に気づいていない。


「とりあえず受付を済ませよう。ヒメリ、工房ギルドからの依頼書は持ってきたよね?」

「あ、はい。この紙があれば、デミウス鉱山に入れてもらえるはずなんですが……」


 ヒメリが宙に掲げる羊皮紙を、横から眺める。

 そこには大陸共通言語で、【デミウス鉱山 入山申請書】と書かれていた。


 そのまま受付の列に並び、しばらく待っていると僕らの番が来た。


「皇都の冒険者ギルドへようこそいらっしゃいました。此度の御用はなんでしょう?」

「これをお願いします」


 ヒメリが入山申請書の羊皮紙を差し出す。

 すると受付嬢は目を見開いた。


「これは……! あぁ、とすると、貴方がたがルーク様とロイ様ですね?」

「そうですが」


 僕は律儀に応えたが、ロイさんは興味なさそうにギルド内部の酒場の方を眺めている。


「ルーク様とロイ様が冒険者ギルドにお越しになったら、皇宮へお呼びしろと、皇帝陛下から仰せつかっております」

「皇帝陛下が?」


 目を点にして、聞き返した。

 一体何の用なんだろう。

 そこへロイさんが話に割って入る。


「レティスが俺たちを呼んでいるのか?」


 彼はあろうことか皇帝陛下を呼び捨てにした。


「えぇ。なんでも、個人的に親睦を深めたいとかで、冒険者ギルドに来たら皇宮までお連れしろ、と」

「ふん……。どうせあいつが使える手駒(ルーク)を増やしたいからだろう。気にするな。無視でいいぞ、ルーク」

「えぇ……」


 そんなんでいいのか。

 相手は皇帝陛下だぞ。


「いえ……しかし、皇宮にお連れしないことには私どもが怒られるわけでして……。それにデミウス鉱山の入山許可証は、レティス皇帝陛下の裁可がないと出せないんです」

「チッ……めんどうな……」


 ロイさんが舌打ちする。


「皇宮へ行けばいいのか?」

「はい。道順が分からなければ、冒険者ギルドの者がご案内する手はずになっております」


「誰だって分かる。あんな丘のてっぺんにある馬鹿でかい宮殿がそうなのだから。俺が案内してやる。行くぞ、ルーク、小娘」

「あ、はい。分かりました」


 僕とヒメリは慌てて、冒険者ギルドを出る彼の背中を追った。

 ロイさんは、皇帝陛下とも知り合いなのか……。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
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