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50話:封じられた階段

 4階層の終わりで、僕とロイさんが交代で仮眠を取っていた。

 まず最初に半刻使ってロイさんが寝て、それからもう半刻の休憩を僕が寝る。


 合計で一刻(2時間)の大休止を取っていた。

 迷宮の硬い地面の上に寝転び、毛布をかぶりバックパックを枕にしてうつらうつらしていると、その大音響は突如として起こった。


 ゴゴゴゴゴォォン……!


「っ!?」


 耳をつんざくような爆音に、僕は思わず跳ね起きる。


「敵襲ですか、ロイさん!?」

「いや、違う。魔物が襲ってきたわけじゃない」


 彼は辺りを慎重に見回して言ったが、魔物は周辺には存在していなかった。


「だったら、何が?」

「どうも近くで岩壁が崩落したような音だったな」


 眠気眼だった顔を自分の手で叩き、身体を無理やり起こして、僕は言った。


「すぐに調べに行きましょう」

「あぁ」

 

 荷物をまとめ、再び迷宮探索ができる状態にして、僕らは轟音の調査に乗り出した。


 4階層の出口周辺を調べても、問題は何も見当たらなかったため、僕らは5階層に通じる階段が怪しいとアタリをつけ、階段を降りてみた。

 するとその光景が目に飛び込んで来た。


「原因はこれか」

「みたいですね」


 僕とロイさんは、それを呆然とした表情で見つめた。


 4階層から5階層へつながる通路には、天井が崩れ落ちて土石が積み重なっていた。

 5階層へ降りる道が土石流で完全に封鎖されている。


「…………」


 ロイさんは、腕をくんで崩れた岩盤を見つめている。

 やがて彼は、ぽつりと言葉を漏らした。


「……前にもあったよな、こういうことが」


 記憶をたどるまでもなく、思い出すことができる。


「ありましたね。2階層の探索時でしたっけ。まだ僕が探知の杖を持っていなかった頃、転移魔法陣のトラップを踏んだ時ですね。トラップを踏んでも罠が起動せず、どこかで大きな音がした。不発だったのか? と思ってスルーし、行きに通ったその道を、帰りにも通ってみると、土砂崩れで封鎖されていた。跡に残されていた羊皮紙には『ノアの方舟計画について』という文言があった」


「だよな」

「そしてあの時を境にして、僕らの身にただ迷宮探索を行うだけでない不可思議なことが、だんだんと起こり始めた」


「ルーク。この地下迷宮で、何が起こってる?」

「…………分かりません。一つ、確かなことを言うとしたら」


 僕が言葉を区切ると、ロイさんは無言で首肯して先を促した。


「レスティケイブの地下迷宮には、なんらかの意図を持った僕ら以外の知性ある生物が存在する。おそらくそれは、人間である可能性が非常に高い」


「だろうな。そしてそれは」

「ユメリア、または未来からやって来たリリ……?」


 ロイさんの言葉を僕が継ぎ足すと、彼は大きく頷く。


「こないだ、ユメリアの件を冒険者ギルドに調査依頼したんだろう? あれはどうなった」


「大した情報は得られませんでしたよ。まとめると、

 1、ユメリアも未来から来たのではないかということ。 

 2、ノアの箱舟計画が僕らやリリ、ユメリアにとってなんらかの大きな意味を持つということ。

 これぐらいですかね」

 

「…………。どうする。階段の土石を無理やり除去して先に進んでもいいが、今日は4階層の探索まで終わったことだし、収穫がなかったわけでもない。一度、情報を整理するために冒険者ギルドに引き返すか?」


「そうしましょう。僕の魔法で土砂で塞がった道を爆破してもいいですが、入念な準備もなくトラップ除去のプロでもない僕がやると、さらなる地盤沈下や崩落を引き起こしそうで怖いですね」


「そうだな」


 こうして僕らは、ひとまずシリルカの街に引き返すことにした。

 迷宮の帰り道は無系統の『小範囲探知』を忘れずつけて、地道に習熟度を稼いだ。



 ◇ ◆



 数日かけて迷宮からシリルカの街に戻って、まず始めに僕らがやったことは冒険者ギルドに直行したことだった。

 いつもは街中ではロイさんと一緒に行動することは少ないのだが、この日はロイさんも一緒に冒険者ギルドへと同行した。


 ギルドの木製スイングドアを腕で押し開け、中へと入る。

 

「お。見ろよ、ルークとロイだ」

「トップ冒険者が2人揃ってるのは珍しいな」


 ギルドのテーブルで酒を飲んでいる冒険者たちの視線が僕らに突き刺さる。

 僕はトップどころか中級で色々模索しているところだというのに。


 日中からこんなところで酒を飲んでいないで、仕事をしなさいと思ったが、もちろん口には出さないでおいた。


 そのままカウンターに座る、受付嬢のアシュリーの下へやってきた。


「あ、お疲れ様です。ルークさん、ロイさん」

「お疲れ様。ちょっとアシュリーに聞きたいことがあるんだ」


 カウンターのスツールに2人そろって座りながら、単刀直入に切り出した。


「私にできる範囲であれば、なんなりとお申し付け下さい」


 少しびっくりした様子で、アシュリーは目を瞬かせる。


「レスティケイブの地下迷宮で、自然に天井の岩盤が崩落して、通路が塞がれることってよくあるのかな?」

「……ないはずですが。地下迷宮の壁や地面には、魔力の素が存在して状態保存能力があるので、自然劣化でそうなるとは考えられないですね」


 その言葉を聞いて、僕とロイさんは目を見合わせた。


「じゃあ、僕ら以外にあの迷宮に入って探索を行っているパーティーって、今は他にいるのかな?」


「昔は一攫千金を夢見て潜る冒険者が多かったと聞きましたけど……。今はほとんどの冒険者が地上に出た魔物を討伐したり、商隊の街道護衛や、盗賊の討伐といった無難で必要性の高い仕事につきますので。地下迷宮までわざわざ出かけて魔物を狩るということは、あまりしないのではないかと」


「そうだよね」


 アシュリーの言葉に頷いて、物事を考えてみる。

 どう考えても、5階層につながる階段の封鎖は、作為的なものが感じられる。


「ロイさん。これは2階層の転移トラップの件と、同一犯だと思いますか?」

「可能性は高いだろうな」


「だとすると、主犯の目的は、僕らを5階層に入れたくなかった……?」

「ユメリアか未来リリか分からないが、今、俺たちに5階層を攻略されるとまずい事情があるのだろう」


「5階層に何があるのか、確かめてみたいと思いませんか」

「奇遇だな。俺もそう思っていた」


 そう話す僕らに、アシュリーは話の意図が見えないのか、ぽかんとした表情でいた。


「アシュリー」

「は、はいっ」


「岩石の爆破や、土砂の除去のプロに仕事を依頼したい。迷宮の5階層に通じる階段を封鎖している土石流を取り除いてほしいんだ」

「はぁ……ちょっと待って下さい。調べてみます」


 そう言って、アシュリーは革張りの本をカウンターの奥の机から取ってきて、ぺらぺらとめくった。


「……あ、ダメですね。炎系統の爆破魔法やそういうトラップの除去に優れたパーティーが、現在他の地域で起こった問題の解決に駆り出されいて不在です。彼らが戻ってくるのは一月後と予定されていますが……どうします? 待ちますか?」


 僕は隣に座るロイさんの顔を見て、それからアシュリーにまた聞いた。


「多少ランクや仕事人の質が下がってもいいんだ。他に土石を除去できるパーティーは?」

「うーん……ミースたちもアッシリア街道の護衛中だからダメ、アインのパーティーもウェルリア王国に渡って仕事を行っていますし……。残るは本当に新人とか、専門外の方ってなりますけど……あっ!」


 アシュリーがぺらぺらと羊皮紙の本をめくり続けて、後ろの方のページにやってくると顔を輝かせた。


「工房ギルドの見習い職人である、ヒメリという子が、トラップの除去能力に優れた魔導具を作れるようですね! ただこのヒメリちゃん、冒険者ギルドに仕事を依頼中になっています」


「何の仕事を依頼しているんだい、アシュリー?」

「大陸西部にある皇都までの護衛ですね。皇都近くのデミウス鉱山で特殊な鉱石を採掘したいそうで、デミウス鉱山は最近魔物が巣食うようになったらしく、冒険者に護衛を依頼したいのだとか」


 続くアシュリーの話をまとめれば、こういう話だった。


 僕が作製を依頼した杖を持ち歩くことの宣伝効果によって、以前はさびれまくっていた工房ギルドにもそれなりに仕事の話が舞い込むようになった。

 しかし、長らく仕事がなかったために素材の発注を行っておらず、武器を作るための素材が不足しだした。


 そこで、工房ギルドはエジンバラ皇都の近くにあるデミウス鉱山に赴いて、アダマンダイトやムーンクリスタルと呼ばれる数々の特殊な鉱石を採掘したい。

 が、一流の職人たちは目の前の仕事を外すわけにいかず、鉱山まで出かけている暇がない。


 そこで職人見習いであるヒメリという少女が工房ギルド代表として、冒険者の護衛つきでデミウス鉱山で採掘したいのだとか。

 デミウス鉱山は近年になって魔物の住処と化しており、有毒なガスが鉱山に蔓延するので並の冒険者では太刀打ちできない。


 工房ギルドはいまだに再建途中で貧乏だから、難しい仕事に反して報酬も多くは払えないので、なかなか仕事の受け手が見つからずにいる。


 任務報酬は、金貨1枚と、工房ギルドが依頼人のオーダーメイドで魔導具を作ってくれると言う。

 旅費はいちおう工房ギルドが負担してくれるらしいとは言え、何日かかるか分からない遠征任務に金貨1枚は、たしかに少ないとも言える。


 それよりも、この魔導具をオーダーメイドしてくれる話。


「…………。これ。どう思います、ロイさん」

「なにか、仕組まれているものを感じる」

「でしょうね」


 彼の言葉に同意だった。

 それは、純粋に工房ギルドの最大のメリットを活かし、金貨という現金の流出を抑える巧い報酬であることは確かなのだが、この迷宮の行く手を封鎖する土石が登場したこの時点において、こういう依頼があることは出来過ぎの感があった。


 この依頼を解決し、報酬として工房ギルドに土石流を爆破する魔導具を作ってもらえれば、冒険者ギルドへの筋の通し方から言っても、すべてが解決する。


 誰かが、この依頼を僕たちに受けさせたがっている……?

 それは、邪推というレベルではないように思えた。


「どこの誰かが裏で糸を引いているのかは知りませんが、僕らによっぽどこの依頼を受けさせたいんでしょうね。どうします? 皇都付近のデミウス鉱山まで行くとなると、何日かかるか分かりませんよ」

「別に迷宮は逃げない訳だし、他に方法がなければこいつの依頼を受けてもいいだろう。それにお前は、工房ギルドで新しい杖を作りたいんだろ?」


「まぁ、それは」

「だったら、依頼をこなしてわたりをつけておくのも悪くないんじゃないか? 報酬の魔導具は迷宮を封鎖する岩石を爆破するものが望ましいが、依頼をこなせば冒険者ギルドにも恩が売れる」


 腕組みして、僕は考え込む。

 そんな僕にロイさんは言った。


「それにルークは、これまでずっと迷宮とこの街の往復の毎日だっただろ? 皇都には色んな娯楽がある。この機会に行って羽根を伸ばしておくのも、いいんじゃないか」

「ロイさんがそういうのなら、この依頼受けましょうか」


 僕が言うと、彼はにやりと笑った。


「皇都の賭博場は非常に賑わっているからな。綺麗なねえちゃんも多い」

「あぁ……いつもながら見事なまでに欲望に忠実ですねロイさん……」


 僕はため息をつきながら、アシュリーに頷いてみせる。


「ま、僕もエジンバラ皇国の最大都市で色々見たい品もありますし、この機会に皇都へ行くのもいいでしょう。アシュリー、その依頼、僕らが受けよう」

「かしこまりました。処理しておきますね」


 あとは忘れず、皇都に出発する前に、教会に寄って魔法を覚えておきたい。

 迷宮からの帰り道はずっとパッシブスペルの無系統『小範囲探知』をつけていたので、そろそろ無系統上級魔法の『リンクアタック』が取れるだろう。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
+注意+

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