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41話:つながっていく、点と線 1

 レスティケイブでリリと思われる女性と、彼女が落としたペンダントを拾った僕らは、シリルカの街まで帰って来た。


 僕らが拠点としているシリルカの街は、エジンバラ皇国の中でも最重要地点と言える。

 レスティケイブから湧き出てくる大量の魔物を、皇国の中枢(ちゅうすう)に入れる前に発見し叩く、という重要な任務を帯びている。

 

 前回の大侵攻は偵察隊(ていさつたい)がサボっていて発見が遅れたが、本当は早期の段階で発見して皇帝軍の動員を依頼するのが普通なのらしい。


 シリルカの街までたどり着いてすぐに行ったことは、前回依頼していたユメリアの調査結果を聞くために、冒険者ギルドに赴いたことだった。

 

「では、今回の魔石買い取りは総額で金貨15枚です」

「ありがとうございます」


 まずは魔石を売って、受付嬢のアシュリーさんから黄金色に輝く貨幣を受け取りながら、僕は頭を下げる。


 ゾンビボーンドラゴンが残した魔石は聖級のもので、金貨10枚換算の価値があった。

 これでより一層、金を稼ぐことができたわけだ。


 しかし問題はそんなことよりも、


「アシュリーさん。こないだ依頼した件ですが」

「あ、はい。ユメリアおよびホロウグラフの調査の進捗報告が、今朝方に届いています」

「お……。ぜひ、聞かせて下さい」

「その前に」


 指を突き立てながら、彼女は言った。


「私のことはアシュリーでいいですよ。敬語なんか使わなくったって、私は一介の受付嬢に過ぎないんですから、ルークさんはもっとどーんと構えていただけると、私も安心してお話ができます」

「僕の態度がでかい方が安心できるんですか……?」


 それも謎の理論だな。


「えぇ。別に自分たちを卑下(ひげ)するつもりはありませんが、しょせんは私たちはただの事務員ですし。冒険者は命の賭ける職業なので、やはり立場は違います」

「はぁ……分かりま、いや……、分かったよ」


 彼女が「えぇ」と満面の笑みで頷くので、渋々ながらも「アシュリー」と呼ぶことにした。


「じゃあ、アシュリー。こないだ依頼した件を教えてくれるかな」

「はい。……ええとですね、まずはユメリア」


 羊皮紙をめくりながら言う彼女に、僕は期待感を持って頷く。


「どうやら彼女、エジンバラ皇国の生まれでも、ウェルリア王国の生まれでもないですね」

「……どこか辺境の国の生まれという事なの?」


 大陸に存在する国家はあまたあれど、圧倒的な二強と呼ばれているのがウェルリアとエジンバラだ。

 それ以外の国家は弱小で、両二強国家から見れば辺境の国にしか過ぎない。


「いや。その可能性も低そうです。というのも、彼女の足取りを追えたのが今から3年前ほどまでで、そこから過去のユメリアの消息がまったく分かりません」

「どういうことか、詳しく教えてもらえるかな」


 こくり、と頷いてアシュリーは言った。


「順を追ってご説明しますね。ルークさんもご存知かと思われますが、3年前当時のウェルリア王国には歴代最高の騎士と呼ばれた、ロイ・エメラルドがいました」


 わずかに身じろいで、彼女の話の続きを促した。


「そのロイ・エメラルドとユメリアが出会ったのが3年前。彼らが17歳の頃です。おそらくユメリアが偶然を装ったのではないかと思われますが、ユメリアとロイ・エメラルドの2人は宮廷の晩餐会(ばんさんかい)で出会います。どうもユメリアは当時からたいそう美しい女性だったようですね」


 以前、シャーレさんの装備品店で出会った時の彼女の姿を思い出す。

 全身を覆う外套(がいとう)に身を包んでいたが、フードのあいまから見える顔は非常に整っていたし、美しいウェーブがかった銀髪は今も目に焼き付いて忘れられなかった。


「彼女のあでやかなドレス姿に魅せられたロイは、おそらく惚れたのでしょう。彼女に近づきます。ユメリアもそれを狙っていたようで、彼らは急速に仲を深め、いくらかの月日のあと恋人関係にいたったようです」


 知らない情報もあるが、ここまでのアウトラインは周知の事実だった内容だ。


「その際、ユメリアは剣神ロイの恋人ということで、ウェルリア王国の中でも特別扱いされ、政治の中枢に深く関わっていたようです。おそらく、それがユメリアの本当の目的だったのでしょう」

「ロイさんと付き合っていたのは表面だけで……ロイさんはユメリアに利用されていた……?」


「その可能性が高そうです」


 眼鏡を光らせて、アシュリーが頷いた。


「いったいウェルリア王国の中枢に関わって何をしていたんだ、彼女は」

「ホロウグラフと呼ばれる魔導具の捜索を行っていたみたいです。しかし、どうやらそれは失敗に終わったようですが」


 ユメリアは3年前からずっとこの世界にいて、ホロウグラフを探していた。

 ロイさんを利用して王国の中枢部に居座って捜索を行っていたが、それは失敗に終わる。


 おそらくそれからロイさんの前から姿を消したのも、彼と王国に利用価値がなくなったと判断したからだろう。

 ギルドのSランクの依頼を受けたままレスティケイブの中で失踪したとロイさんは言っていたが、たぶん適当な理由をつけていなくなったのだと思われる。


 そこまではいい。


 だが彼女は、そのホロウグラフの捜索が失敗した後。今度は僕に近づいてきた。

 彼女はなぜ、ホロウグラフの存在すら知らなかった僕に接触してきたのだろう。


 黙って考え込んでいると、アシュリーが羊皮紙の一枚を、静かに僕に差し出してきた。

 その羊皮紙に書かれていた文面は、『ノアの箱舟計画』。


「またか……」


 頭痛がする思いだった。

 一体この計画は、どういうものなのか。

 なぜユメリアはこれに固執するのだろう。


 アシュリーは眼鏡をくいと上げると、こう言った。


「ノアの箱舟計画。優秀なレイスさんの調査でも、断片しか調べることはできなかったようですが、これはどうも、史上まれに見る凶悪な計画のようですよ。詳しくは資料を御覧ください」


 僕は羊皮紙をめくる。

 その中に書かれていた内容は、想像を超えるものだった。



『ノアの箱舟計画 概要』


1、天空に浮かぶ人工大地『ノアの箱舟』を作り上げる。


2、増えすぎた人類を選別し、作物すら実らない不毛の大地を捨てて生きるため。


3、ノアの箱舟に選ばれる人間は、有力な王族や貴族、実力のある魔導師など、ごく一部の人間だけ。それ以外のものはすべて死の大地へ取り残される。


4、ノアの箱舟に選ばれた民は『天上人』とし、それ以外の死の大地にへ残された人間は『下層民』として、一生天上人のための奴隷のように働かされる。


5、人工浮遊大地を作り上げるためには、『ホロウグラフ』という魔導具が必要。



「ひどいなこれは……」


 一体どこの馬鹿が、こんな大それた選民思想丸出しの計画を立ち上げたのか。


「ユメリアはどうも、この計画を遂行しようと画策(かくさく)しているみたいですね」


「待ってくれ。『不毛の大地を捨てる』やら『死の大地』やらと書かれているけど、今のエジンバラもウェルリアも、そこまで酷い環境のわけではないだろう? いったい何をトチ狂えば、こんなバカげた計画を構想するにいたるんだ」

「……それは、私にも詳しいことは」


 天空に人工の浮遊大地を作るなど、そもそも設計可能なのか。

 常識の埒外(らちがい)のことだった。


「一体何者なんだ、ユメリアという女は」


 彼女の真相に少しずつ迫るたびに、疑問が増していく気がする。


「それが、私がお話の冒頭で言った『ユメリアはウェルリア王国の生まれでも、エジンバラ皇国の生まれでもない』という話につながります」

「と言うと」


 アシュリーの話の意図が見えなかったので、思わず尋ねた。


「調査にあたったレイスさんは彼女が残したわずかな痕跡(こんせき)からこう推察されています。『もしかしたらユメリアという女は、別の時間軸あるいは世界から飛んできた人間じゃないのか?』と」


 やはり……。

 4階層で出会ったリリと言い、装備品店でのユメリアと言い。

 彼女たちはどうも、この時代の人間ではないフシがある。


 未来のウェルリア王国あるいは別世界の王国があると仮定して、その時代の大陸は荒廃していて、それを解決するためにユメリアが時と世界を超えてこの時代にやってきた、か……。

 そう考えると色々と都合が合う気がしてくる。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
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