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39話:ゾンビボーンドラゴン

 背中に背負い込むバックパックの中から、緑色の液体が詰め込まれた小瓶を取り出す。

 小瓶のコルクを空けて、中の液体を一気呵成に口へ流し込んだ。


 薬品っぽい微妙な味が舌を刺激しつつも、それを飲み込むと精神的な部分が癒やされていく気がする。

 マジックポーションだった。


 この階層に入ってから、都合で5本目の魔力を回復させるアイテムを飲んだことになる。

 4階層は常に『ウンディーネの加護』を発動させていないと毒や麻痺にかかるため、魔力の消費量が3階層と比べて飛躍的に上がっていた。


「ルーク。マジックポーションの残り、いくつある」


 空になった小瓶をパックパックの中へ仕舞い直していると、先頭を行くロイさんが声をかけてきた。


「あと3本ですね」

「不測の事態を見越して、そろそろ帰還するか」


 彼の言葉を聞いて、僕は思わずうなった。


「うーん、もう少し4階層でレベルを上げたかったんですけど、ダメですかね」

「ダメなわけではないが……レスティケイブの探索で無理はしないほうがいい」

「ロイさんが言うなら、そうしましょう。分かりました」


 ここでいったん引き返して、街に戻って大量にマジックポーションを仕入れるか、それかシャーレさんの店で大金をはたいて魔力回復効果のある装備を買おう。

 そうでなければ、これからの階層はとてもではないが、自前の魔力だけではまかないきれない。


 新しい階層にチャレンジすれば、どうしたって今までは必要ではなかったことや、新しい課題が出てくる。

 その課題に直面した時、現時点での戦力で無理に突破しようとせず、余裕を持って対策を練ることだ。

 

 優位に使える新しい魔法を覚えたり、必要な戦力と装備を揃えて再挑戦。


 トライアンドエラー。

 ダンジョン探索は、ひたすらこの繰り返しだ。


「では、危なくなる前に帰りましょうか」

「そうしよう」


 合意した僕らは、来た道を引き返すべく、踵を返した。

 ずぶん、ずぶん、とぬかるんだ地面に足をとられるのは、ヘイストの補助があっても体力を消耗する。


 4階層は単純な作りで、たいした仕掛け(ギミック)があるわけでもないのに、なかなか攻略難度の高い層だ。

 やはり、少しずつ深い階層になるにつれ、攻略難易度が増してきている。


 ロイさんを除く人類が攻略に成功しているのが6階層という話だから、これが25階層ともなると想像を絶する難易度なのだろう。

 最終層はいったいどんな悪鬼羅刹(あっきらせつ)が住んでいるのか。


 そう思ってぐずぐずの地面から足を引き剥がしていると、杖の魔物探知にひっかかる魔物がいた。

 前方から、1体だけの魔物だったが、かなり図体のでかい魔物が迫ってきている。


「敵襲です。……それも、かなり大きいです! 先制します」

「了解した」


 武器を構え、スリヴァーシュトロームを目視と同時に放てるように、待機状態にさせておく。

 そしてやがて、その魔物が姿を現した。

 

 魔物の姿を目視すると同時に、僕はスリヴァーシュトロームでの迎撃も忘れ、その威容に絶句した。


 人間の10倍はあろうかと思われる、巨大な体躯(たいく)

 腐臭が漂うその身体は、骨だけになってしまった大きな翼と、腐った肉が付着している胴体。


 吐息はそれそのものが猛毒の効果を持って悪臭を放ち、窪んだ眼窩(がんか)からは鈍い光が漏れ出ていた。


「ドラゴン……!」


 初めて出会った。

 魔物の中でも上位種族と言われる、竜族だった。


「それもゾンビボーンドラゴン。竜種の中でも際立って強い、15階層クラスの変異種だ」

「なんでそんな魔物が4階層に……!」


 愕然(がくぜん)とする思いであった。

 この威圧感だけで、今まで戦ってきた魔物とは隔絶(かくぜつ)の感がある。


 ゾンビボーンドラゴンは僕らを睥睨(へいげい)するように見下ろし、獰猛(どうもう)な牙を見せて笑った。


「浅い階層でもこういう魔物と出会うことがある。ルーク! 俺とてお前をかばいながら戦える相手じゃない。気を抜くなよ!」

「は、はいっ!」


 気を取り直して、スリヴァーシュトロームを放つ。

 ぬかるんだ地面に雷の共鳴地ができ、そこから4頭の雷蛇が出現する。

 ゾンビボーンドラゴンに雷蛇たちが襲いかかるが、それを白骨の竜は一度だけ大きな咆哮を上げて衝撃波を放ち防いだ。


『グオオオォォォン!』

「ぐっ……!」


 ビリビリと大気が震え、雷蛇が衝撃波で撃ち落とされる。


「マジか……! 聖級の攻撃魔法だぞ!?」


 こともなげにスリヴァーシュトロームを撃ち落としたゾンビボーンドラゴンは、優越心を見せて僕に白骨の尾を叩き落としてきた。

 すかさず自分にヘイストをかけ、横っ飛びの回避運動。


 ぬかるんだ地面に叩き落される骨の尻尾が、轟音(ごうおん)を鳴らした。


「なんてヤツだ……。まずいな、スリヴァーシュトロームが効かないとなると、正面突破ではラチがあかない」


 ならば、ロイさんへの支援と、妨害と織り交ぜて戦う。

 青白く光る刀身を手に持って、光の軌跡を描きながら竜に突進するロイさんにヘイストをかける。


 彼の前進ダッシュの速度が向上し、翼で叩き潰そうとするゾンビボーンドラゴンの攻撃をかいくぐって懐に潜り込んだ。


「ハッ!」


 閃光がきらめいた。

 ロイさんの一撃は、腐肉と化したゾンビボーンドラゴンの胴体をとらえ、一刀両断まではいかなくとも、腐った肉を斬り裂くことに成功した。


 ゾンビボーンドラゴンは怒り狂って猛毒のブレスをロイさんに吐くが、それを僕がウォーターウォールで至近距離の遮断(しゃだん)


「ナイス援護だ!」

「いえ!」


 そうだ。

 このパーティーの主攻は、僕ではない。

 聖級の魔法が効かなくたって、彼の援護をしながら、助攻として働けばいいんだ。



 ゾンビボーンドラゴンは猛毒のブレスを防がれたことを悟ると、今度は足の踏みつけ攻撃に切り替えたようだった。

 頭上から振り落とされる、骨だけの巨大な足。


 それをロイさんは、優雅にステップを刻んで回避していく。

 ゾンビボーンドラゴンのフットスタンプは空を切り、沼地の地表にはいくつもの竜の足跡ができた。


 そしてゾンビボーンドラゴンの攻撃の隙を縫って、僕がサンダーランスによる火力支援を行う。

 雷の槍が頭蓋に命中し、爆発。


 ゾンビボーンドラゴンの行動に一瞬の空隙(くうげき)ができる。

 そしてその隙を見逃すほど、うちの前衛は甘くはない。ロイさんがカウンターの一撃を見舞った。

 ドラゴンの腐った肉から、紫色のまがまがしい血がはじけ飛んだ。


 ゾンビボーンドラゴンは苛立たしげに咆哮(ほうこう)する。


『グルァァァァッ!!!』


 お互いの連携がハマっている証拠だった。

 このまま押し切れるか、というところで、ゾンビボーンドラゴンは次の行動に出た。


 白骨化した翼をはためかせて、上空へと上がったのだ。


「まずいな……射程圏外に逃げられたぞ」

「僕が撃ち落とします!」


 スリヴァーシュトロームをぶっ放しても効かないので、まずはサンドロックでゾンビボーンドラゴンの身体を拘束する。

 ぐずぐずの地面から作られた泥の鎖が、上空に逃げたゾンビボーンドラゴンの身体にまとわりつくが、腐肉の竜は大きく身をよじらせてそれを断ち切った。


「げ……効かないのか!」

 

 こうなってしまうと、他の手持ちの妨害魔法は対地用のアースシェイクしかないため、僕の妨害のレパートリーの乏しさが露呈(ろてい)される形となってしまった。

 どうする……。


 ゾンビボーンドラゴンは僕らが有効な決定打を打てないでいることを悟ると、上空から猛毒のブレスを再び吐いた。

 僕はウンディーネの加護で完全に守られているものの、ロイさんにはそれがない。


 とっさに彼の防御にウォーターウォールを出したが、完全には防ぎきれなかった。

 ロイさんは猛毒の霧を吸い込んでしまった。


「ぐ……げほっ」

「ロイさん! 大丈夫ですか!」

「スキルによる猛毒耐性がある。今すぐどうこうはならん! だが……このままだと厳しいな」


 勝ち誇って上空を旋回(せんかい)するゾンビボーンドラゴンを、僕らが憎々しげに見上げた。

 

「空中機動はできませんか」

「できる……が。竜種相手だと空中戦は厳しいな。もし一撃で仕留められなければ、こちらが決定的な隙を晒すことになる」

「ふむ」


 僕らが持つ現状の戦力、ゾンビボーンドラゴンに有効打を与えるためには、上空に逃げたあの竜を撃ち落とすことだ。

 それもただスリヴァーシュトロームを放つだけでは効果がない。


 もっと魔法と剣技の連携を使って、効果的な策を……。

 しかし妨害魔法も効かないとなれば……。


 そう思っている時に、戦場となっている4階層の湿地帯に新たな戦力が登場した。

 頭から爪先までを灰色の外套で覆う、白銀の剣を手にした女性だった。


「私が空中戦で竜種を地上に叩き落とします! それを確認したら追撃を行ってください!」


 凛、と響くような声。

 外套のフードからのぞく横顔は、僕がずっと一緒に暮らしてきた、ロロナ村の少女の面影に重なった。


「君は……リリ!?」

「今はそれどころじゃない! ルーク、追撃をお願いね!」

「わ、分かったっ……!」


 外套(がいとう)を深くかぶり直して、少女は剣を構え上空で勝ち誇るゾンビボーンドラゴンに向かって跳躍した。

 スキル補正があると言えど、人間の空中戦には限界がある。


 当然ゾンビボーンドラゴンもそれを分かっていて、優位な上空から少女を撃ち落とすべく、猛毒のブレスを再び吐いた。


 しかし、上空に跳躍していく少女の姿が、ふっと消えた。

 次の瞬間、彼女の姿はゾンビボーンドラゴンの頭上にあった。


『グルァ!?』

「やぁぁぁぁっ!」


 流星の尾にも似た、白銀の剣から描かれる魔法光の軌跡。

 それはゾンビボーンドラゴンの頭蓋(ずがい)に命中し、巨大な白骨竜を地上へと叩き落とした。


 ズズゥン、という地鳴りが起こり、僕はすかさずサンドロックでゾンビボーンドラゴンの身体を固める。

 ウンディーネの加護も発動停止して、二重に重ねた泥の鎖が、ゾンビボーンドラゴンの身体にまとわりついて行動を束縛した。


「よくやった! 後は俺が受け持つ!」

 

 大地に縛られたゾンビボーンドラゴンに対して、ロイさんが閃光の一撃を放った。

 それは竜種の身体をお腹のあたりで一刀両断し、ゾンビボーンドラゴンは絶叫ののち、消滅し魔石へと化した。

 竜が残したその魔石はいままで見たことがないぐらい、強烈な輝きをまとっていた。


「はぁ……はぁ……勝った……!」


 戦いのプレッシャーから開放され、思わずその場にへたりこむ。

 ロイさんもロイさんで激しく咳き込みながら、猛毒を解毒する万病薬を飲み込んでいた。


 そんな僕らを尻目に、外套をかぶった少女が言葉もなく走り去っていく。


「あ……待て! 待ってくれ! 話を……! あっ」


 慌ててリリに似た少女を追いかけようとするも、沼地に足を取られて盛大に転んでしまった。

 土砂が顔と身体を汚し、「やってしまった……」と思いながら再び立ち上がった時には、すでに外套の女性の姿はそこにいなかった。


「リリ……? 本当に君なのか……?」

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
+注意+

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