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37話:調査依頼

 聖教会で新魔法を3つ取得した僕は、ロドリゲスさんの屋台に寄ってご飯を食べることにした。

 いつもどおりにシリルカの大通りに店を構えている彼のところに赴くと、笑って出迎えてくれる。


「よう! 今回のレスティケイブ探索も無事に終わったようだな」

「はい。攻略の進捗は、遅々とした進みですが」

「そりゃあしょうがねえよ。あれだけのダンジョンだからな」


 僕が言うと、彼は明快に笑った。


「今日も飯、食っていくんだろ?」

「えぇ。今日はなんですか」


 そう言いながら、屋台の席へつく。

 肉の香りが鼻孔をくすぐった。


「こないだエジンバラよりももっと西の方から新しい香辛料と香草を仕入れてな。それを使ったタレに漬け込んだ、鶏胸肉そのソテーだ」

「へぇ……」


 会話のあいだにも調理を進めていく彼の手元を見ると、大きなチキンが鉄板の上で焼かれている。

 タレの中にはコショウやガーリックも入っているのか、食欲を刺激するような香りが辺にりたちこめている。


「美味しそうですね」

「おう。出来上がるまで、もうちょっと待ってろよ」


 ロドリゲスさんはそう言って、鶏胸肉を鉄板の上でひっくり返す。

 ジュウジュウという音がして、スパイシーなタレの匂いが一層強くなる。


 僕より先客の人たちがいるため、自分に順番が回ってくるまで手持ち無沙汰だ。

 しばらく高温に熱された鉄板の上で焼かれる鶏を眺めていた。


「そういえば」


 思い出したように、屋台の店主・ロドリゲスさんが言う。


「近いうちに、皇女さまがこの街に来るようだぜ、ルーク」

「皇女さま? エジンバラ皇国の皇女と言えば……ルーティア皇女殿下ですか」

「あぁ。なんでも、シリルカで重大な任務があるらしい」


 へぇ。それはそれは。

 こんなレスティケイブの近くで、屈強な冒険者たちしかいない街に、皇女殿下が何の用なのだろうか。


 ロドリゲスさんは鉄板の上で皮がカリカリになる焼いた鶏肉を二、三裏返しつつ、最後の仕上げにマスタードと思われる調味料をふんだんにかけた。


「ほら、お待ちどう様。よく焼けてるから、熱いうちに食えよ」


 ロドリゲスさんは僕の目の前に皿を用意し、そこに大きなコテを使って鶏肉を移した。

 香草と香辛料のタレに漬け込まれた焼き鶏肉を見ると、空腹が刺激される。


「では……いただきます」


 そう言って、僕は屋台の用具立てからナイフとフォークを取り、鶏肉を切り裂いていく。

 パリパリに焼けた皮を突き破り、中の肉へとナイフが進んでいくと、肉汁が溢れ出た。


「おぉ……」


 食べごろに切り刻んだ胸肉を、フォークに突き刺して口へと運ぶ。

 新しく仕入れた香辛料に味付けされた胸肉は、スパイスの味がよく効いて舌を刺激した。


 それは例えるなら、ウェルリア王国よりもさらに東にある、極東の国で使われているトウガラシのような味だ。

 僕も一度しか食べたことはないが、トウガラシはピリッと辛くてそれ自体はあまり美味しくないはずなのに、麺類や出汁に混ぜると何故か美味い。


 この香辛料もトウガラシのような、素材の肉の味を引き立てる効果があった。

 スパイシーなタレに漬け込まれた鶏肉は、ライスと合わせてが食べたくなる。


 そこへさすが食のプロといったところか、屋台の店主がすっと皿に乗せられたライスを差し出してきた。


「さすが。分かってますね」

「一応、この道で飯食ってるんでな」


 彼は苦笑しながら言った。


「どうだ。新メニューは」

「美味いです。それもめちゃくちゃ」


 端的な感想を告げると、彼は嬉しそうに笑う。


「ライスはおかわり自由だが、どうする」

「もちろん頂きます」


 香辛料がよく効いた鳥の胸肉を食べながらだと、白いライスがよく進む。

 特徴的な味の鶏肉と、美味しいけれど特別な味のしない米を交互に食べる。


 この組み合わせなら、いくらでもご飯が食べられそうだった。

 結局この日は、鶏肉を計3羽分頼み、お腹がいっぱいになるまでライスをおかわりした。




 ロドリゲスさんの屋台でご飯を食べて、それからダンジョン探索で手に入った魔石を売りに冒険者ギルドへと赴いた。

 冒険者ギルドに登録しているため、もう商業ギルドで売却することができないからだ。


 今は特に金に不自由はしていないし、魔石の売却単価が下がって困るようなこともないが、それでもやはり少しは損をした気分になる。

 もっとも冒険者ギルドに登録するメリットは、金よりも大切なことかもしれないが。


 ギルドの受付嬢のアシュリーさんに魔石を換金してもらって、金貨袋がまた一段と肥える。

『さて、また装備でも新調するか』と考えていたら、そういえばユメリアとホロウグラフの情報を探ることを忘れていたのを思い出した。


「あの、アシュリーさん」

「はい。なんでしょう」


 カウンターの椅子から立ち上がる素振りを見せていながら、もう一度席に座り直した僕を、アシュリーさんは少し怪訝(けげん)な表情で首をかしげた。

 

「実はちょっとした調べごとをお願いしたいんですが」

「ギルドへの依頼ですね。承知しました。ルーク様は先の会戦で功績をあげて信頼度も十分なので、正当な費用さえいただければ、依頼をお引き受けいたします。どのような案件でしょう?」


 羊皮紙のメモを取り出しながら、アシュリーさんは尋ねてくる。


「『ユメリア』という女性の素性と、『ホロウグラフ』と呼ばれる魔導具は一体何に使うのか、冒険者ギルドの方で調べていただきたいのですが」

「ユメリアという女性と……ホロウグラフという魔導具ですね。かしこまりました」


 アシュリーは、さらさらと羊皮紙にペンで走り書きしていく。

 本来はこの件は自分で調べるべきなのだろうが、あいにくとそんな暇はないし調べるスキルも持っていない。

 

 こういうのは、専門家に任せたほうが良い結果になるだろう。


「ちなみに、ホロウグラフと呼ばれる魔導具はともかく、エジンバラ皇国やウェルリア王国を含めた大陸全体から、ユメリアという名前のついた全女性を調べるには、相当程度の時間と労力と金銭が必要になりますが、このユメリアという人物をある程度特定できる情報はお持ちですか?」


「この街のシャーレさんが経営する装備品店で、一度出会いました。ウェーブがかった銀髪の、少し不思議な印象を持つ女性です」

「ふむふむ」


「それから僕がパーティーを組んでいるロイという人がいるのですが、彼が過去にウェルリア王国にいた時に交際していたようです」

「あ、それはかなり絞りこめる情報ですね。剣神ロイのウェルリア時代のご友人、と……」


 羊皮紙に赤い丸をつけて、アシュリーさんはその情報を書き込んだ。


「あとは……そうだ! 『ノアの方舟計画』。こう呼ばれる計画に、彼女が関わっていると聞きました」

「ノアの箱船計画……。いえ、寡聞(かぶん)にして存じ上げませんね。まぁ私などの木っ端受付嬢が知っているはずもないんですが。ともあれ、承知いたしました。冒険者ギルド側で信頼できる情報屋、あるいは諜報屋を見繕い調査させていただきます」


「お願いします。費用はどのぐらいかかりますか」

「着手金として、金貨2枚をいただいても? それから調査にかかった実費と、あらためて追加報酬をいただく形になると思います」

「分かりました。この件に関しては、金に糸目はつけません」


 金貨袋から黄金の硬貨を2枚取り出して、アシュリーに手渡す。


「たしかに頂戴いたしました。また追って調査の進捗をご連絡するので、時折冒険者ギルドに顔を出して頂ければと思います」

「分かりました」


 冒険者ギルドに調査を依頼し終えると、僕はギルドから出て宿屋に向かった。

 それからまたレスティケイブに潜るために、雑貨店で消耗品の類を揃えたのであった。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
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