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33話:攻略再開

 即戦力の魔法となるヘイストと、少し先を見据えて取った光系統初級魔法のライトを覚えた僕は、その足で装備品を強化することにした。


 シャーレさんの店で既製品を買うか、それとも工房ギルドへ行ってオーダーメイドの装備を作ってもらうか。

 金には困っていないから、とりあえずシャーレさんの装備品店にやってきたところだった。



 入り口の扉をくぐり、からんからんという鈴の音とともに中に入ると、


「しゃーせー……」


 いつもどおりの気だるげな表情で、木机の上で頬杖をつきながら、シャーレさんはそう言った。

 僕のことを視界に入れると、彼女は目を少し見開いた。


「お。時の英雄くんではないかね」

「なんですか、それ。こんにちは」

「いやぁ、聞いたよ。大侵攻相手に切った張ったの大勝負を繰り広げたんだって?」


 あれから、街で知り合いに会うたびにこの会話がなされる。

 謙遜ばかりするのも嫌味かなと思って、僕は苦笑しながら肩をすくめただった。


 するとシャーレさんも僕の意を汲んでくれたのか、それ以上は深入りしてこなかった。


「で、もらった報奨金で新しい装備を買おう、と?」

「ご明察です」


 頷くと、彼女はにへらと相好を崩した。


「どんなのが欲しいんだい。相当な額を持っていそうだから、なんでも買えると思うけども」

「そうですね……。今のところ迷宮探索では特に困っていることはないので、経験値の成長加速がついた装備とかないですか」


「もちろんあるよ」


 シャーレさんのお店は、まるで魔法のお店のようだった。

 いや、事実として魔法効果のついた装備を売っているのだから、そう言えるのかもしれないけど。


 彼女が奥から引っ張り出してきたのは、紅色のローブだった。


 頭から足元まで覆うローブで、腰の左右あたりにポケットが2つ。

 杖を収納しておけるベルトもついていて、背中にはフード。


 これぞ、魔導師のローブ、と言った感じだった。

 今着ている灰色のローブと比べれば、ずいぶん見た目が良い。


「これが経験値の成長速度2倍速の装備品・緋皇(ひおう)のローブだね。もっと上の効果を目指すなら、さすがに工房ギルドでオーダーメイド作ってもらったほうがいいと思うけど、たぶん上級魔石程度じゃ作れないと思う。精霊級か、それか神級の魔石までいかないと、経験値加速のすごい効果はなかなかつかない」


 その口ぶりからすると、僕が今使っている杖を工房ギルドで作ってもらった話は、すでにシャーレさんの耳にも届いているようだった。


「じゃあ、今狩ってるレスティケイブの三階層では上級魔石が関の山ですから、工房ギルドに話を持ち込んでも経験値2倍速以上は作れないんですか」


「私はそう思う。まぁもっとも、彼らが見栄を張って『上級魔石でも作れる!』と言う可能性もなきにもあらずだけども……。言っておくけど、装備品への魔法効果のエンチャントは成功確率が100%ではないからね? 工房ギルドの彼らは優秀な職人ではあるけど、失敗して装備が壊れる可能性は常にあるんだよ」


 シャーレさんの言葉に、少し驚く気持ちだった。

 装備品への優秀な魔法付与効果は絶大な威力を持つだけに、さすがに製作にはリスクを負わなければならないのか。


 サイモンさん、そんな事一言も言ってなかったんだけどな……。


「それじゃ、とりあえず緋皇のローブを買います。いくらですか?」


 価格を尋ねる僕に、シャーレさんは僕がいつの日か『最終装備』だと憧れた黒炎竜のローブを越える、金貨5枚を提示した。

 が、そこは粘りに粘って、交渉の末に金貨3枚と銀貨10枚までまけてもらった。


「むむ……。ルークくんもなかなかやるようになったね」

「シャーレさんのご指導の賜物です」

「チッ……敵に塩を送ってしまったか……」


 などと言いながら、妙に嬉しそうな顔でローブを卸してくれた。

 代金を支払って、今着ていたローブを下取りに出し、新しい緋皇のローブを身に着けて僕は店を後にする。


「毎度~。また来てね」

「はい。何か困ったことがあったら寄るようにします」



 

 それから雑貨屋や居酒屋に寄って消耗品の類を補充。

 まず雑貨屋では、体力を回復するヒールポーションを5個、魔力の源になるマジックポーションを10個購入。


 そして居酒屋では迷宮内で摂る食事用に、保存の効く食べ物を購入。

 ロイさんがさばいてくれる魔物の肉を食べてもいいのだが、さすがに魔物に肉より人間が普段食べる食料の方が美味い。


 今は金に困っていないのだから、僕は居酒屋でサーディンという魚の塩漬けと、豚肉を塩漬けにしてから干して作ったハム、それに水で漬けたあとに酢と漬け油と塩で調理したオリーブを購入。


 いずれも、保存の効く食料だった。

 この世界では食料の扱いに困ったら、とにかく塩で保存する習慣がある。


 塩には防腐効果(ぼうふこうか)があるのだとか。


 消耗品の類を揃えたら、宿屋で一泊し体力を回復。

 またレスティケイブの攻略へと乗り出した。




 天井が突き抜けるように高い三階層の中。

 岩場の陰から魔物からの奇襲を受けないように、杖の魔物探知を発動させながら歩く。


 光系統の習熟度を一気に上げたいため、魔法による模擬太陽によって特に視界の確保が必要がない三階層でも、僕はふだんからライトの魔法を使っていた。


 前列を歩くロイさんとは、迷宮探索のほとんどの時間は無言だ。

 雑談をしながら攻略を進めると、注意力が低減する。


「ロイさん」

「なんだ」


 だから僕の言葉に、彼は少し意外な顔をして振り向いた。


「レスティケイブから出てくる魔物と人間の戦いって、僕が物心ついた時から続いていますけど、これは何年ぐらい戦いの歴史があるんですか?」

「魔物の出現とともに侵攻が行なわれたのは……たしか100年ぐらい前だったはずだ」


 首だけ振り向いて語る彼に、僕は言った。


「その頃に何か大きな事件とかあったんですか」

「さぁな。俺とて生まれていないしな」


 100年前。

 その頃の記録がどこかに保存されていれば、調べることができるだろうか。


 そう考えていたら、杖の魔物探知がひっかかった。

 

「敵襲!」

「了解」


 魔物探知に引っかかった敵は、


 敵前衛 ロックナイト×3

 敵中衛 コンドル×2 ハーピィ×3

 敵後衛 サンドウィザード×2


 うねる岩道で、射界が通らない約50ヤルド先から、魔物が隊列を組んで進行してくる。


「いったん20ヤルド後退して、その場で先制攻撃を行います」

「分かった」


 かろうじてまっすぐ通っている道いっぱいに退いて、曲がり角の先から敵が姿を現したと同時にサンダーランスによる先制攻撃。

 雷の槍が虚空を切り裂いていき、敵前衛のロックナイトに命中して、魔物が悲鳴を上げる。


 しかし、放った雷の槍はすべてがすべて的中したわけでもなく、いくつか途中で失速して消滅してしまった、


「射程距離の限界か……。狙撃魔法も取らないとな」

 

 互いの前衛が交戦距離に入る前の、20ヤルドほどのミドルレンジ魔法戦。

 敵の後衛もこの距離を保ったまま、魔法攻撃を仕掛けてきた。


 土系の、おそらく中級魔法である土の槍だった。

 土の槍が次々に降り注いできて、僕はそれをサンダーランスで的確に撃ち落とす。


 雷の槍と土の槍が相殺し、消滅していく。

 魔法戦では負けていない。


 このレベルの相手に、この距離の戦闘なら。

 自信を持って良いはずだった。


「ロイさん。ヘイストをかけます!」

「頼む」


 敵前衛に向かって走り出すロイさんに、魔法二重発動(ダブルキャスト)でヘイストによる支援を行う。

 攻撃速度と移動速度を上げる支援魔法を彼にかけると、普段でも速いのに彼の速度はなおさら上がった。


 目にも見えないほどの速度で敵前衛に到達すると、ロイさんは青白く光る剣を振り抜いてロックナイトを一刀両断。


「いいな。ヘイスト」

「はい!」


 ロイさんの攻撃・移動速度はもとより速かったが、ヘイストによって1.5倍増しぐらい速くなったように感じる。

 神速の剣技を放つ彼は、ロックナイトを速度で撹乱し、次々に沈めていく。


 敵陣前衛を崩していくロイさんに、僕は火力支援を行った。


 使ったのは、僕の唯一の上級魔法・ライジングスパーク。

 虚空に浮かび出た雷球は、無数のムチをしならせる。


 中空からロイさんに襲いかかろうしていたハーピィーたちを、雷鞭(らいべん)が地に叩き落とす。

 ライジングスパークの威力はすさまじく、ほとんどがハーピィーたちを消滅させた。


 敵中衛にばかり気を取られているわけにもいかなかった。

 僕がライジングスパークを使うのと同時に、敵の後衛も新たな攻撃魔法を使う。


 大地を大きく揺らす魔法を、敵のサンドウィザードが使った。

 大きな地震かと思うほどの大地の揺れ。


「おっ」


 足元がぐらつき、僕とロイさんが態勢を崩す。

 その隙に残り1体となっていたロックナイトがロイさんに土の剣を振りかざすが、僕が転げ様にウォーターウォールを展開。

 

 水壁によって攻撃を阻む。

 ロイさんが態勢を立て直し、ロックナイトへ追撃の剣を叩き込んだ。

 ロックナイトの体が両断され、消滅していく。


 普段なら大地を揺らす魔法に続いて、サンドナイトやコンドル・ハーピィーが追い打ちをかける戦法が敵パーティーの定石なのだろうが、あいにくライジングスパークによって敵中衛は壊滅状態だ。


 残る敵後衛も、僕がサンドロックをかけ手足を封じた上で、ロイさんが一体ずつ始末した。

 すべての魔物が消滅し、魔石に変わると、いつもの戦闘後の振り返りを行う。


「今回、あれで敵中衛が生存していたら、ちょっと危なかったな」

「サンドウィザードが大地を揺らす魔法、あれ土系の中級か上級だと思うんですけど、ああいう妨害魔法に敵火力がうまい具合に連携してきたら困りますね。今回はライジングスパークで敵中衛を掃討済みだったので、事なきを得ましたが」


「ルーク。お前、妨害魔法何か取ってるのか?」

「いや……サンドロックだけです……」

 

 ここ最近は火力で押せ押せだったから、少し妨害の意識がなくなっていた。

 ここは反省点かもしれない。


「もうちょっと妨害魔法を取ったほうがいいですかね」

「俺はそう思う。今回新しくかけてもらったヘイスト、あれは非常に嬉しかったがな」


「使えますか、ヘイスト」

「優秀だ」


 しかりと頷くロイさんを見て、あらゆる魔法を取って万能を目指すという方向性は、間違っていないんだと再確認する。


「あとは僕がいかに敵の妨害魔法・スキルに対応できるか、ですね」

「最終的には魔法無効化を目指してもいいかもしれない」


 魔法無効化。

 ロイさんの言葉に、僕は思わずつぶやき返した。


「系統は無ですか?」

「いや、確か闇だったように思うな。闇系統は土と風の上位互換で、妨害と射程に優れるからな。魔法無効化なんて、妨害の究極に位置するものだろ」


 なるほど。

 これからは、土と風も伸ばしていかなければならないようだ。


「分かりました。引き続きレベルを上げて、あとは使っていなかった系統を意図的に織り交ぜながら、妨害を伸ばします」

「あぁ。それでいいと思う」


 戦闘を行うにあたって、ただ勝つだけではダメなんだ。

 たとえば、僕の最強火力魔法であるライジングスパーク。


 これを三階層の魔物相手に初手で放てば、敵の大部分を掃討することができる。

 初撃で敵前衛から中衛をズタボロにして、あとはロイさんと連携しながら残党を殲滅する。


 二階層でバーングラウンドを使っていた時からの、先制攻撃に重い一撃を加える、必勝のパターンの一つではある。


 でも、こういう戦い方をしていると先がない。

 長期で見て、成長していかない。


 三階層で今回、敵に使われた大地を大きく揺らす魔法。


 もしあれが、こちらの態勢が整っていない状況で撃たれたら。

 敵中衛の飛行可能な魔物が万全の状態のときに撃たれたら。


 きっと僕は、パーティーを崩壊させてしまうだろう。


 だから、今の段階から勝ち方を選ぶ。

 火力的にはすぐに倒せる相手であっても、妨害や支援魔法をふんだんに織り交ぜた戦い方をして、火力一辺倒ではない戦法が敷けるようになりたい。


 それは短期的に見れば、戦闘を長引かせてつまらないピンチを招く結果になるかもしれない。


 でも、そういう余裕とか、遊び心。

 何かを試して失敗し、そこから修正していくスタイルは持つべきだ。


 そうしないと長期の成長がない。


 そのために、致命的な状況に陥らない限り、戦闘の中で新しいことを試しては失敗することを、早期の段階で繰り返してしていくべきだと思っている。

 具体的には、現段階で習熟度や性能が劣る土系と風系の魔法を、積極的に使って慣らしていくことだ。


 こんな事を考えながら、僕らのダンジョン探索は続いていく。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
+注意+

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