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29話:シリルカの街攻防戦 1

 間断(かんだん)なく起こる轟音(ごうおん)が、人々の恐怖心を(あお)る。

 冒険者ギルドの外からは悲鳴が聞こえていた。


「見張りのヤツは何やってたんだ!?」

「言ってもしょうがねえ。行くぞ、お前ら!」


「おう!」

「はいっ!」


 熟練の冒険者が声をかけ、ギルドの中にいた面子が武器を構えて外へと出て行った。

 こういう時に市民を守るのが、冒険者の役割だ。


 シリルカの街は、僕たち冒険者が守らなければならない。

 しかし策もなく、現状把握もせずに戦地に飛び込んでいくことが、正解とは限らない。


 僕は素早く杖を手に取り、魔力を流して広範囲魔物探知を起動させた。

 頭の中に半径50ヤルド(約65メートル)ほどの空間が浮かび上がってきた。


 その空間に赤い光点が浮かぶ。

 これが魔物の所在位置なんだろう。


 50ヤルド(約65メートル)で認識できる範囲は、街の中央から0.5割ぐらいの範囲までだった。

 さいわいにして魔物にはまだ、それほどの数の侵入を許していなかった。


 だとするとさきほどから続く振動音は、中~遠距離から魔法攻撃でも受けているのか。

 僕はギルドに飛び込んできた男を捕まえて、話を聞くことにした。


「失礼、冒険者のルークです。大侵攻の現状はどうなっているんですか?」

「魔物が街の東に戦陣を作って、大量に押し寄せてきてやがる!」


「まだ街の内部に敵本隊の侵入は許していないんですね?」

「あぁ! 上空から偵察兵の役割をするコンドルやハーピィー、それから先遣隊(せんけんたい)のスライムやゴブリンなんかはいくらか侵入していると思うが」


 ならばまずは、市街戦で雑魚を掃討しつつ敵本陣を迎え撃つ布陣を、冒険者たちを指揮統率して作ったほうがいい。

 戦場をシリルカの街の外に設定して、会戦に持ち込みたい。


 敵本陣を市街地に入れれば、尋常ではない被害が出てしまう。


「敵本陣との、彼我の距離は分かりますか」

「およそ、2クピテ(約4.5キロメートル)ってとこじゃねえか」


 いまから戦陣を組んで、間に合うだろうか……。


「ここで手をこまねいてる暇はないな……。アシュリーさん、僕も出ます!」

「あっ、お、お気をつけて!」

「ありがとう」


 見送ってくれるアシュリーさんにかすかに微笑を浮かべて、僕は冒険者ギルドの外へと飛び出した。


「そっち行ったぞ! 市民の家屋(かおく)の中には入らせるなよ!」

「分かってる!」


 外に出てまず目に入ってきたのは、魔物の先遣隊・ゴブリンやスライムと戦っている冒険者たちの姿だ。

 振動の原因――魔物による遠距離からの魔法攻撃も飛んできていたが、防壁の上に陣取った魔導師たちが防御魔法を張り、被害を防いでいる。


 彼らは普段から同じパーティーで組んでいるのだろう。

 意思疎通や連携(れんけい)もバッチリで、家屋に避難している一般市民を守るようにして戦っている。


 幸いにして、魔物の先遣隊(せんけんたい)のランクは、1階層レベルの魔物だった。

 スライムたちはそれほど強くないため、普通の冒険者たちでも隊列を組んで戦えば十分狩れる。


 しかしこの先遣隊に手間取っていれば、やがて後続戦力(こうぞくせんりょく)となる敵本陣が到着する。

 目先の人を助ける場当たり的な市街地戦が意味が無いとは言わないし、それも人助けには必要なことだろう。


 しかし大局的に見れば、敵本陣の後続戦力を断ち切らない限り、魔物はどんどん市街地へと押し寄せ増えていく。

 それでは結局、人間サイドの消耗戦となってしまう。


 そうなる前に、冒険者を集めて戦陣を組み、敵本陣を市街の外で迎え撃つ会戦(かいせん)を仕掛けたい。

 しかし冒険者として周りの信頼を勝ち得ていない僕の言葉に、一体どれだけの人間が耳を貸してくれるだろうか……。


「ルーク!」


 懊悩(おうのう)していると、建物の屋根からロイさんが飛び降りてきた。


「ロイさん!」

「まずいことになったな。いつもなら冒険者が定期的に街の外に偵察へ出て、大侵攻の予兆をつかむものなんだが、今回は偵察隊がいい加減な仕事をしていたらしい」


 舌打ちしたい衝動にかられるも、なんとか我慢する。


「偵察隊が仕事をサボらずに発見していれば、と考えるのは意味がありません。次善の策を考えましょう。まずなんとしても止めたいのは、敵本陣の市街地侵入。これは絶対に防がなければ、民間人から多数の死者が出ます」

「あぁ、そうだな」


 ロイさんが僕の言葉を受けて、(うな)り声を上げる。


「しかし一度勢いに乗った魔物の大侵攻は、並の冒険者じゃ太刀打ちできないぞ」

「個々がバラバラになって戦うからダメなんですよ。冒険者が一団となってきっちりとした戦型を組み、町外れの東で大侵攻を迎え撃ちたいと思います」


「魔物相手に会戦を仕掛けるのか」

「そうです」


 目を見開くロイさんに、僕は頷いた。


 戦術の本質は、選択と集中。


 敵のどの部隊を集中的に叩くかを決め、自軍を一極集中させる。

 そして魔物の主力部隊を非戦力化することができれば、それは最高の戦術となる。


「そのために、まずバラバラに戦っている冒険者を集めて戦陣を()きたいんですが……、おそらく僕では発言力が足りないでしょう。ロイさん、頼まれてくれませんか」

「分かった。それなりの権力と人望を持ってて、俺の言う事なら素直に聞くヤツが何人かいる。街外れの東に戦力を集めればいいんだな?」


「お願いします!」

(うけたまわ)った」


 ロイさんは短く応えると、建物を蹴って上っていった。


 僕も早く敵部隊の戦型を確認し、それに対応する策を考えなければ。

 一刻も早く、街の東に到達しなければならない。


 そう思って大通りを駆け抜けようとすると、複数のスライムに襲われていたパーティーが劣勢に立たされていた。


「くっ……!」

 

 スライムが体当たりで冒険者にぶつかり、彼は剣を弾き飛ばされた。

 前衛剣士だった彼は態勢を崩し、その隙を逃さず別のスライムが襲いかかる。


「アレックス、後ろスライムが来てるわよ!?」

「しまっ……!」


 僕はとっさに杖をかかげて、サンダーランスで火力支援を放った。

 液状の口を大きく開けて、冒険者を捕食しようと飛びかかるスライムに、雷の槍が突き刺さる。

 

 雷槍がスライムの身体に電流を流し、焼き切った。

 ジュワァ、という音がして、やがてスライムは魔石へと変わっていった。


「大丈夫ですか」

「す、すまん! 助かった!」


 アレックスは尻もちをついたまま、僕に感謝の言葉を述べた。


「いえ、礼には及びません」


 そう言いつつ、建物の内部へ侵入しようとしていた近くのオークをサンダーランスで始末する。


「中級のサンダーランスなのに、すげぇ威力なんだな……。俺たちと一緒に戦ってくれないか!」

「そうです! 良ければ、私たちのパーティーに臨時で入ってもらえると助かるのですが」


 アレックスのパーティーメンバーたちが誘いの声をかけてくる。


「申し訳ないのですが、市街戦をしている余裕がないんです」

「市街戦をしている余裕はないって……俺たちが戦わなきゃ市民が死ぬんだぞ!?」


 僕の言葉が足りなかったからか、冒険者のアレックスは烈火のごとく怒った。


「目先の民間人を救うことが無益であるとは言っていません。

 しかし、この戦いは。大侵攻は。敵本隊を止めなければ終わらない。

 偵察で大侵攻の予兆を事前に発見できなかった以上、敵本隊がシリルカの街に侵入する前に会戦で叩くことが、結果として一番多くの民間人を救う策だと思っての言葉です」


 僕がそう言うと、アレックスは言葉をつまらせた。


「浅学が偉そうなことを言ってしまい、申し訳ありません。できればあなたたちもこの付近の魔物を掃討したら、東口に来てもらえませんか。そこで魔物の本隊を迎え撃ちます」

「わ、分かった! いちゃもんつけた俺が悪かった。必ず魔物を倒して、駆けつける!」


 僕は微笑んで、彼に言った。


「そう言ってもらえると非常に心強いです」

「約束する! すぐにこいつらを片付けて救援に行く!」


 笑顔で頭を下げ、彼らの元を去る。


 シリルカの大通りは街の中央部から、南北と東西に通っている。

 僕はいったん中央広場へと戻り、そこから東の出口へとめがけて走る。


 その道中でも冒険者たちが魔物と戦闘を繰り広げており、戦いが危うい人たちがいればサンダーランスで適宜(てきぎ)援護する。


 ありがとう、助かった、恩に着る。

 彼らの感謝の言葉を受け取り、市街地戦が終われば東口に救援に来てくれる約束を結び、僕は魔物が押し寄せて来ている東口へと到達した。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
+注意+

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