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28話:魔法付与効果

 工房ギルドのサイモンさんに「トラップ探知の杖を大幅強化してやる」と言われて、僕は半信半疑のまま問い返した。


「大幅強化って、そんなことが可能なんですか?」

「普通の職人にはできねえよ」


 にやり、と笑って彼は言う。


「鑑定スキルの上位スキル・慧眼(けいがん)を持ってる腕利きの職人しか分からないことなんだけどな、装備にゃ装備スロットって概念があるんだ」

「装備スロット、ですか」


 サイモンさんは頷いてこう続けた。


「あぁ。素材から装備を作った際に、その装備に魔法付与効果(マジックエンチャント)をいくつつけられるかを決めるのが、装備スロットだ。たいていの装備は1スロット。優秀なので2スロット、この上なく品質が高い装備の3スロットが、理論的に上限値だな」

「なるほど……。それじゃ、その杖の装備スロットは2か3なんですか?」


 よくぞ聞いてくれた、と言う表情でサイモンさんは破顔する。


「なんと聞いて驚け、こいつの装備スロットは3つだ。(にく)たらしいが、さすがに仕入れ屋としては目利きのシャーレが選んで売ってるだけはある。質が高い」

「ということは……1つの装備スロットをトラップ探知に使っていて、あと2つの装備スロットが自由にできる訳ですね」


「そういうことだな。で、どうする。俺たちに魔石を安価で卸してくれるなら、お前さんの杖を強化してやるが」

「具体的にはどういう方向性で強化してもらえるんですか?」


 それを聞いておかなければ何事も始まらない。


「そこは装備をオーダーメイドで作ってた俺たちだ。ルークの要望があれば可能な限り応えてやれるぞ」

「本当ですかっ?」


 装備が改善できれば、3階層での狩りがもっと楽になる。

 それはより速く強くなれることと同義だ。


 心が小躍りする気分だった。


「実は3階層で魔物を狩っていて、地形が不利な場所で戦うことも多くあるんです。

 パーティーを組んでいる人の魔物探知スキルもあるんですが、範囲が狭くて。

 魔物の奇襲やバックアタックを警戒できる、広範囲の魔物探知効果をつけることは可能ですか?」


「なんだ、そんな程度でいいのか。それならお安い御用だ」


 サイモンさんは二つ返事で首を縦に振った。

 久しぶりの仕事による充実感だろうか。

 彼の笑顔はやる気満々と言った感じだった。


「ただし、経費として1つの魔法付与効果(マジックエンチャント)に対し、1つの上級魔石をいただく。これは装備に魔法効果をつけるために絶対に必要なものだから、ここは譲れない」


 それぐらいの代償は支払ってしかるべきだろう。


「分かりました。それで大丈夫です」


 僕は土の上級魔石を1つ、サイモンさんに差し出した。


「よし、契約成立だな。つける魔法付与効果は広範囲の魔物探知。効果範囲はだいたい50ヤルド(約65メートル)だ」


 素晴らしい。

 これがあれば、魔物による奇襲をほぼ完全に防げると言っても過言ではない。

 

 それどころか魔物が僕らを発見するよりも速く、緊要地形(きんようちけい)を奪取し、一方的な狙撃戦も仕掛けられることになる。

 3階層の戦闘で圧倒的な有利を握れることになった。


 シャーレさんには悪いが、やはり工房ギルドに来てよかったと思う。


「どうする。ルークさえよければ、早速とりかかるぞ」

「お願いします」


 僕の応えに満足した風で、サイモンさんは弾けたように笑った。

 彼は僕の杖を取って、後ろに控える職人たちに手渡す。


 部下の職人さんたちにいくつか口頭で指示を飛ばして、カウンター越しの背後にある工房に僕の杖が運ばれていった。

 魔法付与効果をつける作業が職人さんたちの手によって開始される。


「もう1つの上級魔石で3つ目の効果もつけられるが、何か希望はあるか?」

「そうですね……。魔力の回復効果とか、難しいでしょうか」


 僕が尋ねると、サイモンさんは難しい顔をした。


「あー……、上級魔石でも付けられない事はないが、魔力の回復効果は本来であれば最上級の魔法付与効果(マジックエンチャント)だからな。十分な効率を出そうと思えば、やはり聖級か神級の魔石を使わないといけない」

「そうですか、うーんそれはしょうがないですね。なら、どうしようかな……」


 僕は首をひねって考えこんだ。

 どういう効果がいいだろうか。

 あまり使えない効果をつけても、意味がないだろうしなぁ……。


「一応、上級魔石でつけられる主な魔法効果をリストアップしておくぞ」

「あ、はい。お願いします」


 サイモンさんがすらすらと羊皮紙にペンで付与可能な魔法効果を書きだしていく。

 やがて彼が書き終わるのを待って、それを見せてもらうと、付与可能な魔法効果は以下だった。



1、全ステータス異常 半減抵抗

※毒や暗闇、凍結、混乱等の状態異常効果を半分以上の確率で防ぐ。

 またステータス異常にかかったとしても、回復までの必要経過時間も半減する。


2、魔法攻撃力 50%上昇

※全属性の魔法攻撃力を1.5倍上昇させる。


3、攻撃速度 30%上昇

※攻撃速度を1.3倍上昇させる。


4、魔法習熟度 成長速度1.5倍速

※魔法の使用による成熟度を、1.5倍に加速する。



「お」


 目を見張る。

 羊皮紙の最後に書かれた文字列を見て、僕は感嘆(かんたん)の声をあげた。


「サイモンさん、この4つ目の『魔法習熟度 成長速度1.5倍速』っていいじゃないですか!」

「あぁ、それか。まぁ魔導師には嬉しい効果だよな」


 嬉しいどころの騒ぎではなかった。

 これがあれば、魔法取得の選択肢が一気に広がっていく。

 

 上位系統らしき無系統や光・闇系統は未だにお目にかかったことはないが、この習熟度加速効果があれば、早いうちに覚えられる可能性が高くなる。


 これで経験値の成長速度加速があれば鬼に金棒なのだが、まぁ贅沢(ぜいたく)は言っていられない。

 あとはひたすら、レスティケイブにこもって狩りをし続け、レベルを上げるだけだ。


「ぜひ、習熟度成長度の加速でお願いします!」

「分かった。じゃ2つの魔法付与効果で経費として上級魔石2ついただく。それから……」


 サイモンさんは切り出しずらそうに、おずおずと言った。


「恥ずかしい話、実はうちは経営が圧迫していてな……。経費だけで魔法付与効果をつけてやりたいところなんだが、いくらか魔石をうちに安く卸してくれると、非常に助かるんだが……」


 僕はサイモンさんの話を聞いて、明快に笑った。


「あぁ、いいですよ。安くというより、作業代として魔石を差し上げますよ。中級魔石なら32個ありますから、20個渡すということでどうでしょう?」

「あぁ! ありがとう! これで今月の商業手形が払えるよ! 助かった、ルーク!」


 まるで暗中を照らす光を見つけたかのように、サイモンさんが笑い、僕の手を握って何度も感謝してくれた。


「ただトラップ探知の杖を使っているから分かることだろうが、魔法付与効果はいつでも効果を発揮できるわけじゃないんだ。これは装備者が杖を手に持って、微力な魔力を常に支払い続けないと効果が発揮されない。3オプションも付けるから、魔力消費も馬鹿にならないだろう」


「分かっています。ダンジョン探索時以外は、なるべく魔力供給を断って効果を切るようにしています」

「なら、問題ない」


 広範囲魔物探知と魔法習熟度成長加速の魔法付与効果(マジックエンチャント)がついた杖を、新しく手にすることになった。



 ◇ ◆



 工房ギルドによる装備強化の後、商業ギルドで残りの魔石を売って金稼ぎをする。

 中級魔石12個を売却し、銀貨12枚の利益を得た。


 これで手持ちの資産は銀貨15枚となった。

 だいぶ懐に余裕ができたため、冒険者ギルドに立ち寄ることにした。


 冒険者ギルドや情報屋に金を(つか)ませ、ホロウグラフの情報収集をするのと、できればユメリアという人物の正体も探りたい。


 杯に両剣がクロスしている紋章の看板をかいくぐり、厚い木の扉を押し開けて冒険者ギルドの中へと入る。

 入るやいなや、むわっとした熱気に包まれた。


「D級の新規依頼がありますよー! 近くの集落を襲うコブリンの集団の討伐依頼です! それなりに美味しいクエストなのでお早めにー!」

「C級の冒険者で手が空いてる前衛火力はいないか? 近くの魔物を狩るのに助っ人で来てくれ! 1日銀貨5枚出すぞ!」


治癒師(ヒーラー)! パーティー無所属の治癒師(ヒーラー)です。上級の回復魔法・支援魔法を覚えています! 金貨1枚で臨時加入しますよー!」


 久しぶりにこのギルドに来たが、冒険者ギルドの中はいつも猥雑(わいざつ)としている。

 あちらこちらでパーティーの勧誘の声が上がり、新規に掲示板に張り出されるクエストはギルドの職員がお知らせていている。

 

 ここも初めてではないため、勝手知ったるとまでは行かないが、気圧されることなくカウンターへ向かう。

 若い女性の職員が笑顔で出迎えてくれた


「本日は当ギルドへようこそいらっしゃいました。受付はわたくし、アシュリーが担当させて頂きます。どのような御用でしょう」

「冒険者のルークです。今日は一つ、貴ギルドに依頼をお願いしたいと思いまして」


「はい。新規クエスト依頼のご要望ですね。詳しい用件をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「情報屋の斡旋(あっせん)をお願いできないでしょうか」


 僕がそう言うと、職員の女性・アシュリーさんはわずかに目を見開いた。


「情報屋の質と、ルーク様の信頼度にもよりますね。失礼ですが、当ギルドのメンバーではいらっしゃらないとお見受けしますが」

「そのとおりです。冒険者ギルドには加入していませんし、これまで冒険者ギルドでクエストをこなしたことも、依頼したこともありません」


 こくりと頷いて正直に述べると、アシュリーさんは難しい顔をする。


「だとすると……こちらといたしましてはルーク様の信頼度は新米ギルド員のE級と同じとみなすしかありません。大変申し訳ないのですが、E級程度の信頼度しかないと相当な金額を積まなければ、当ギルドも優秀な情報屋は紹介できかねますね……」


 うーん、やはりそうか。

 手元には銀貨15枚しかない。


 宿はいつもロイさんが取ってくれるから野垂れ死ぬことはないにしても、全額使ってしまうといざというときに身動きが取れなくなる。

 それに銀貨15枚程度じゃ、どれだけ優秀な情報屋を雇えるかも分からない。


 だとすると、ここは冒険者ギルドに登録して、地道にランクを上げて人脈を作るのが賢い手だろうか。

 しかしそうすれば、金輪際、商業ギルドで魔石を売却することはできなくなる。


 どうするべきか……。


 僕が首をひねって悩んでいる時、その衝撃(しょうげき)は起こった。

 大きな地震でも起きたのかと思われるほどに、衝撃は冒険者ギルドの建物を大きく揺らした。


「きゃっ!」


 目の前に座るアシュリーさんが態勢を崩して椅子から転げ落ちそうになるのと、手を差し伸べて助けてあげた。

 断続的に続く振動と、建物が崩壊する破壊音。

 ギルドの外から悲鳴が聞こえてきた。


「あ、ありがとうございます……」

「いえ。この衝撃は?」

「わ、分かりません」


 冒険者ギルドの中にいた他のメンバーは、さすがに歴戦の強者と言ったところだろうか。

 全員が言葉数少なく武器を構え、臨戦態勢を取っていた。


 やがて、状況を知らせる叫びがおとずれる。

 慌てふためいた男の登場とともにギルドの中へと入ってきて、言った。


「レスティケイブから出てきた魔物が群れをなして襲ってきたぞ! 大侵攻が始まった! シリルカの街まで襲ってきやがった!」


 その言葉に、冒険者ギルドの内部がざわついた。


 魔物の、大侵攻。

 その単語を聞いて、僕の心はささくれ立つ。


 村に残してきた彼ら彼女らの顔が、脳裏に浮かぶ。


 魔物はレスティケイブから湧き出てきて、地上にバラバラに出た後、山地や森林の奥深くに潜んで生きる。

 そして不定の周期でまた大きな群れを形成して、魔物は人里を襲う。


 これが大侵攻と呼ばれている現象だ。

 大侵攻によって魔物が小さな村や街を滅ぼしたあとは、しばらくその場に留まり何かを探しているふうな行動を取る。


 死体を漁ったり、無人の廃屋をかぎまわったり。


 一体何をしているのか、何を探しているのか。

 何故、魔物は群れて人里を襲うのか。


 この魔物の行動原理は今でも解明されていなかった。

 謎に包まれている。


 カウンターの向こう側で仕事していた大男が、大侵攻の事態を重く見て声を張り上げた。


「冒険者ギルドのギルドマスター・クロスだ! シリルカの街が魔物の大侵攻によって襲われている、緊急事態だと判断する! あとで報酬はたんまり払うから、全ギルドメンバーは魔物の討伐にあたってくれ!」


「おうっ!」

「了解した!」

「分かった!」


 ギルドメンバーが頷いて、次々に冒険者ギルドから出て行く。


 僕の意を決して、杖を構える。


 今の僕は着実に力をつけている。

 ロイさんに戦闘の技術を徹底的に仕込まれている。


 結果的に見て見ぬふりをしてしまった、ロロナ村の二の舞いには、絶対にさせない。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
+注意+

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