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22話:必勝のパターン

 光球が照らす2階層を、僕とロイさんが探索していく。

 ところどころに罠が仕掛けられてあり、その罠に近づくたびに僕が手に持った杖が赤く光って教えてくれる。


 トラップ探知の魔法付与効果(マジックエンチャント)がついた杖。

 これが赤く光るということは、前方にそのまま進めば罠があるということだ。


 杖が赤く光るたびに僕は通路の端に寄ったり、道を迂回(うかい)して歩く。

 たとえ万病薬で治療可能な毒や麻痺であろうが、罠にかからずに探索できるのは非常にありがたい。

 

 そのまま危なげなく探索を続け、また魔物が襲来してきた。


「敵接近。5秒後に交戦するぞ!」

「はい。先制射撃を行います」

「頼む」

 

 ロイさんと短いやりとりで戦術を共有し、僕は暗闇に向かってひたすらサンダーバレットを打ち込む。

 漆黒(しっこく)の闇の向こうで、魔物が鈍い悲鳴を上げる。


 雷の弾幕(だんまく)をかき分けるようにして、魔物の群れが現れた。


「よし、後は俺が受け持つ! 後衛に下がれ、ルーク」

「待ってください、まだ!」


 彼我の距離、約7ヤルド(約10メートル)

 これが、迷宮での有視界戦闘の最大距離だ。

 

 逆に言えば、近接戦闘に入るまであと4ヤルド(約5メートル)猶予(ゆうよ)があるということだ。

 この猶予時間を攻撃に利用しない手はない。


 僕はサンダーバレットを中断し、エンカウントと同時に最後の一撃にと、中級魔法のサンダーランスを投擲(とうてき)した。


 雷の槍がほとばしる。

 それは魔物の群れの先頭にいたミドルオークに命中し、「ギャアアアア!」という悲鳴とともに魔物が消滅していった。


 狙いどおり。


「後衛に下がります。前衛よろしくお願いします!」

(うけたまわ)った」


 僕は素早くロイさんの背後に隠れる。

 前回の戦闘でサンダーランスなら十分にメイン火力魔法として使うことができると分かっていたため、先制攻撃はサンダーバレットによる弾幕射撃と、エンカウントぎりぎりでサンダーランスを放つことを決めていた。


 その目論見(もくろみ)は見事的中し、戦闘開幕の時点ですでに敵戦力を大幅に削ぐことに成功していた。

 僕が開幕サンダーランスでミドルオークを1体倒したため、残りの敵戦力は



 前衛 トレント×2 ミドルオーク×1

 中衛 ボーンキメラ×2

 後衛 リッチ×2



 このうち、驚異的なのは魔法攻撃を放ってくるリッチと、炎のブレス攻撃をしてくるボーンキメラだ。

 前衛のトレントとミドルオークは単純な物理攻撃しかして来ないため、ロイさんに任せておかば万に一つもあり得ない。


 見ればロイさんとトレントたちは交戦状態に突入しており、ロイさんはトレントが振り回す太い腕をかいくぐりながら、カウンターの一撃を放っている。


 僕は僕でやるべきことをやらなくては。

 素早く敵中衛から後衛の戦況を判断する。


 ボーンキメラはブレス攻撃の準備段階に入っており、リッチはサンダーバレットによるダメージでやや鈍っている。

 ならば、ここで叩くべきは、ボーンキメラ。


 攻撃速度がAランクを誇る、僕のメイン魔法のサンダーランスで。

 ボーンキメラめがけて雷の槍を射出する。


 首から上を大きく仰け反らせてブレス準備動作に入っていたボーンキメラに、サンダーランスが命中する。

 断末魔の叫びを上げながら、ボーンキメラ1が消滅していく。


 しかしその隙にボーンキメラ2のブレス準備が完了した様子で、ボーンキメラ2はほとばしるような炎の息を吐いた。

 

「くっ……!」


 サンドロックで動きを封じる間もなく、燃え盛る炎の息が発射された。

 僕はとっさの判断で後ろに跳躍する。


 僕とロイさんのあいだの地面に、高熱の炎が立ち上がる。

 僕ら2人を分断するように、戦場の中央に火柱が燃え盛った。


 視界が炎に(さえぎ)られて閉ざされる。

 ダメージや被弾はしていない。


 けれど炎の壁で行動が制限されてしまった。

 炎の壁ごしにサンダーランスを放って攻撃してもいいが、命中するかどうか分からない。


 しかしこのまま炎の壁が消えるまで待っていれば、僕とロイさんが分断されたままということになる。 

 戦力を分断されたまま戦うのは、()の骨頂である。


 ロイさんなら1人でも余裕だろうが、もし戦力が分断されたままバックアタックを受けようものなら、僕は一瞬でやられてしまうだろう。


 僕は火柱を消すために、いままで一度も使ったことがなかったウォーターボールを放ち、火柱にぶつけた。

 水球が燃え盛る炎に激突し、蒸気をあげながら鎮火(ちんか)させていく。


「ルーク! 大丈夫か!」


 鎮火(ちんか)した炎の先で、ロイさんが心配そうにこちらを振り返っていた。

 ロイさんはすでに敵前衛を全滅させた様子で、残る魔物は中衛のボーンキメラと後衛のリッチだけだった。


「はい、問題ありません。戦力を分断されてしまってすみません」

「次から敵の魔法攻撃に対応できる術も練っておかなくてはな」


 まったくもって、その通りである。

 魔物もいつまでも素直に、こっちの意のままにやられてくれるわけではない。


 先制攻撃で魔物に打撃を与えてから、次の展開も有利に運べるような。

 そんな戦術と魔法力も練り上げなくては。


 僕は態勢を立て直した後衛のリッチに向かって、サンダーランスを投射(とうしゃ)する。

 大気を切り裂く、2つの雷の槍。


 リッチにサンダーランスが命中し、リッチは悲鳴を上げながら消滅していった。

 それと同時にロイさんもボーンキメラを倒しきり、僕たちは戦闘に勝利することができた。


 戦闘記録日記を取り出しながら、今回の戦闘の振り返りと反省点をつける。


「そうだ……、初撃で打撃を与えて戦況優位を作っても、続く展開で戦力を分断されてちゃダメだ。もっと魔法戦で優位に立てるように、敵中衛から敵後衛に致命的なダメージを与えられる魔法を覚えなければ……」


 ぶつぶつとつぶやきながら一人反省会を開く僕に、魔石を拾ったロイさんが寄ってくる。


「ルーク。そろそろお前、範囲魔法を覚えたらどうだ?」

「範囲魔法ですか」


「そうだ。ルークの魔法は、だいたいが単体攻撃魔法だろう? 現状だと、サンダーバレットの先制で敵を崩して、エンカウント前のサンダーランス。それからサンドロックを絡めてサンダーランスでフィニッシュ……が多い。

 それだと現状で1体ずつしか倒せないということになる。だから今回、ボーンキメラの2体目にブレスを吐かれて分断させられた」


「大いに反省しております……」


 がっくりとうなだれる。


「あぁ、いや。すまん、責めてるわけじゃない。だからこそ、このエンカウント前の一撃を強力な範囲魔法にすれば、敵の中衛から後衛はお前の魔法なら総崩れにできるんじゃないのか、戦況優位が楽に作れるんじゃないのかって、俺は言いたいわけだ」


「たしかにそれはありますね……」


 今回はエンカウント直前に使ったのはサンダーランスで、これでミドルオーク1体を倒しただけだったが、これがたとえばまだ未習得の範囲魔法バーングラウンドやサンダースネークだったら、かなり魔物に致命的ダメージを与えることができていただろう。


 隊列も崩せるだろうし、魔物を一気に2~3体は沈めることができる。

 そうすれば敵の中衛~後衛は壊滅状態だろうし、戦闘開始時点で一気にこちらに流れを引き寄せれる。


「いいですね、範囲魔法。僕の先制攻撃戦術には持って来いかもしれません」

「だろ? お前の魔法に範囲火力が加われば、これはかなり使えると思う。俺たちの必勝パターンになるぞ」


 ロイさんの言葉に、僕はうんうんと頷いた。


「いいアイデアです、範囲魔法による先制攻撃。早速覚えましょう」

「今日はここらで切り上げて、いったん街に帰って新魔法を取得するか?」


「あ、ちょっと待って下さい。こないだ2つ魔法を覚えてしまったので、今すぐに覚えられるかどうか……。新しい魔法が覚えられるレベルになっているかどうか、鑑定魔法で確認します」


 ロイさんにそう断り、僕は自身に鑑定魔法を使った。

 僕の現在のレベルは9だった。


 レベル5から始まって7に上がってサンダーバレットを取った。

 そして8、9と上がってサンダーランス、サンドロックを取得した。


 次の魔法が覚えられるには、最低レベル10にならなければ難しいだろう。


「もう1レベル上げないと魔法取れないようです。もう少しレスティケイブ2階層でレベル上げしましょう」

「分かった。それじゃ、探索を続けて狩りするか」


「付き合わせてしまってすみません」

「気にするな。お前を育てることが、俺の仕事だ」


 いつもありがとう、ロイさん。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
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