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21話:機先を制する

 僕とロイさんは宿屋で一泊し、身体を十分に休めるとまたレスティケイブに潜りに来ていた。

 僕にとってレスティケイブに潜ることは日銭を稼ぐことために必要なのもそうだけれど、ただ純粋にもっと強くなりたかった。


 僕にもっと力があれば、リリのような悲しい思いをする子が少なくなる。


 僕がもっと強ければ、権力だの貴族だのとかいうくだらないことから、リリを守れたかもしれない。

 もしかしたら、いつかまたリリと巡りあった時に、今度こそは彼女の力になれるかもしれないと。


 そんな淡い期待を抱きながら、僕はひたすら強さを追求していく。


「ロイさん」

「どうした」


 レスティケイブの1階層を足早に抜け、2階層へつながる螺旋階段(らせんかいだん)を下りながら僕は言った。


「いつも魔物が襲来してくる時、僕らも魔物も、お互いに有視界戦闘(ゆうしかいせんとう)を行うじゃないですか」

「そうだな」


 有視界戦闘とは、お互いの姿を肉眼できる距離で戦うことだ。

 レスティケイブの有視界範囲は半径7ヤルド(約10メートル)ほど。


 本来であれば有視界範囲はもっと広いのだが、ここは暗闇に包まれているレスティケイブ。

 地上の戦闘よりも有視界範囲は狭い。


「これ、ちょっと変えようと思うんです」


 僕は新しく思いついた作戦をロイさんに話す。


「変える? どうすると言うんだ」


「はい。2階層は僕にとって相手が格上だからこそ、最初に戦闘の主導権を握りたいと思うんですよ。

 最初に流れをこっちに引き寄せておかないと、こないだの戦闘みたいにすべての対応が後手後手に回ってしまう」


 僕の言葉に、ロイさんは頷いた。


「ふむ。たしかに剣術でも先手を取れば七割は勝ったも同然と言われているしな。

 しかし主導権を握るといってもそう簡単にはいかないぞ」


「だからこそ、有視界外からの、先制攻撃を行いたいと思います」

「有視界外からの先制攻撃?」


 オウム返しに疑問符を浮かべるロイさんに、僕は「えぇ」と首肯(しゅこう)して続けた。


「ロイさんが魔物探知スキルでいつも戦闘開始の5秒前ぐらいには探知してくれるじゃないですか」

「そうだな」


「その5秒の間、僕らは今まで構えて待っているだけの事が多かったんですよ」

「まぁ実際、近接職の俺は敵が有効視界に入らないと何もできないからな」


「ロイさんはもちろんそれで大丈夫なんですけど、僕は魔導師です。

 中距離から遠距離攻撃までできる、魔法職です」


 僕の言葉に、ロイさんは「なるほど」と手を打った。


「つまり……ルークは敵が有効視界内に入るまでに、魔法である程度の打撃を与えておこうと、そう言っているんだな?」

「そうです、魔法による先制攻撃を行いたいと思います。魔物を倒しきるとまではいかなくても、前衛と後衛の隊列を崩すことができればだいぶ有利になります」


 僕の提案に、ロイさんはにやりと笑った。


「面白い。やってみろ」

「はい!」


 僕はそうしてロイさんに新しく考案した作戦を話し、合意を得ると先制攻撃を試してみることにした。

 そのまま2階層を歩いて行くと、ロイさんが緊張した声を張り上げた。


「敵襲! 5秒後に接敵。ルーク、さっき話してたやつ、やってみせろ!」

「了解です!」


 ロイさんが維持している光球(こうきゅう)が、7ヤルド(約10メートル)先まで照らしだしている。

 その先は暗闇で、何も見えないはずなのに、魔物が押しよせてくる重圧があった。


 僕はロイさんの横に出ると、魔法による先制攻撃を行った。

 使った魔法はサンダーバレット。


 雷の弾丸が、漆黒(しっこく)を切り裂いて飛翔(ひしょう)していく。


 暗闇の先でサンダーバレットが命中する感触があった。

 魔物が鈍い声をあげる。


 僕はそのまま止まらず、ひたすらサンダーバレットを打ち続ける。

 やがて魔物が怒り狂った姿で暗闇の向こうから姿を見せた。


「有視界戦闘に入りました! 先制攻撃を中止し、後衛に戻ります!」

「おう」

 

 素早くロイさんの後ろに下がる。

 現れた魔物は隊列を乱されており、前衛と後衛の隊列がごちゃごちゃになっていた。


 魔物の戦力構成を分析する。


 敵前衛 ミドルトロール×3 ミドルオーク×2

  中衛 リッチ×2

  後衛 ハイメイジ×3


 魔物は本来であればこの隊列なのだろうが、僕の先制攻撃によってハイメイジが前衛に出てくるなどと乱されていた。

 そして魔物は見えない距離からいきなり僕に魔法攻撃されて、動揺している様子だった。


「よし、先制攻撃の効果はあったな! ルーク、どれから潰す」

「1番の脅威はハイメイジです! 僕とロイさんでターゲットを合わせて、一瞬で倒しましょう」

「了解」


 戦闘の基本は、自軍戦力の一極集中と、敵軍の分断および各個撃破だ。

 先制攻撃によって隊列を乱し分断したところを、こちらがターゲットを合わせて各個撃破を狙う。


 ロイさんが神速を思わせるダッシュでハイメイジとの距離を詰める。

 僕は新しく覚えた魔法、サンドロックをハイメイジに標準を合わせた。


 砂の鎖がハイメイジ×3にまとわりつき、彼らの両手両足を拘束する。

 動きを封じられたハイメイジは杖を振り落としてしまい、魔法の詠唱ができない。


「ナイス援護だ」


 ロイさんが短く称賛してくれ、素早くハイメイジ×3を斬り伏せた。

 魔物の亡骸(なきがら)が魔石に変わっていく。


 前回はあんなに苦戦したハイメイジ×3が、一瞬にして亡き者へと変わった。


「次、後退射撃をしながら、また敵戦力の分断を図ります!」

「了解した」


 ハイメイジを倒され怒り狂って襲いかかるミドルトロールたちに、僕はサンダーバレットを浴びせかけながらロイさんとともに後退していく。


 そうしてまた敵の隊列にほころびが生じる。

 ミドルトロールやミドルオークは魔法耐性と耐久値が高く、サンダーバレットではほとんどダメージが与えられない。

 しかし中衛の魔法職・リッチはそうではなかった。


 サンダーバレットの威力でもひるみ、麻痺の効果が刺さったりその場で被弾硬直(ノックバック)を起こして固まる。


 結果としてぐんぐん前進してくるミドルトロールたちとリッチの距離が開く。

 十分に敵戦力を分断したところで、僕は後退射撃をやめて攻勢に転じた。


「隊列を乱しました、反撃開始です!」

「了解」


 戦場で孤立したミドルトロールたちを、ロイさんが剣を一閃させて斬って捨てていく。


 おそらくロイさんがソロで魔物を倒すだけなら、こんなめんどうな作戦はいらないのだろう。

 けど、少しでも生還率を上げたいという一心と、後々の階層で通用するために、今は徹底して敵の嫌がる戦術を採用する。


 それが窮地(きゅうち)での戦闘判断につながると思うからだ。


 ロイさんがミドルトロールを倒していくすきに、僕も新魔法のサンダーランスでミドルオーク1体を倒す。

 攻撃速度Aランクの、雷の槍が豚の魔物の巨体を貫き、一撃で絶命においやった。


「サンダーランス……これは使える……!」


 固い耐久力を誇る2階層の敵前衛に、十分に通用する。

 しばらくはサンダーランスを僕のメイン魔法に据え置きながら、ひたすらレベルを上げて総魔力量を増やそう。


 そうすればサンダーランスが無限に使えるとまではいかなくとも、かなりポンポンと撃つことができるようになるだろう。


 この戦闘で、僕は確かな手応えを感じた。

 残る魔物はリッチ×2だけだ。


 リッチはかつては人間だった魔女が魔物化したもので、本来は中衛から様々な魔法攻撃を放ってくる。

 しかし、サンダーバレットによる先制攻撃と後退射撃によってダメージを負ったリッチの動きは鈍かった。


 その隙を見逃すほど、うちの最強前衛はヤワではない。


「はっ!」


 ロイさんは気合一閃、猛スピードでリッチとの距離を詰め、剣をなぎ払う。


「グゥゥゥゥ!」


 リッチの鈍い悲鳴があがり、そのままロイさんはリッチ2体を倒し尽くした。

 戦闘終了。


 魔物がすべて魔石に変わり、僕はおなじみの戦闘記録タイムである。


 今日の収穫は……、先制攻撃が上手くいったこと。

 これは次からの戦いでも継続していきたい。

 どこまでこの戦術でいけるのか、試行錯誤を繰り返しながら改善していこう。


 記録をつけ終えると、魔石を拾ったロイさんがこちらに歩み寄ってくる。


「今回の作戦は非常によかった。次からもこういうので頼む」

「はい、了解です」


 中級魔石をいくつか受け取りながら、僕は破顔して応えた。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
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