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18話:ノアの方舟計画

 僕とロイさんはレスティケイブのダンジョンでひたすら魔物を倒し、魔石稼ぎと戦闘経験を積んでいく。

 だいたい1階層の構造と、魔物の特性は把握できた。


 1階層で現在の僕らの危険となる魔物は、エルフスナイパーの狙撃とオーガの致命打ぐらいで、普通に戦っていればまず負けるような魔物ではない。


 もしかしたら、僕のレベルが上がって強くなったのかもしれない。

 僕の指揮もよどみなく行えるようになって、危なげなく無傷の完全勝利も多くなってきた。


 そんな頃合いを見計らって、ロイさんが言った。


「ルーク、そろそろ2階層にチャレンジしてみるか」

「階層が下に行くほどに強くなるんですよね。今の僕で大丈夫でしょうか?」


「俺はイケると思うがな。(まれ)に10~20階層レベルの魔物とも出くわすが、まぁそういうのに当たったら運が悪かったってだけの話だ」

「20階層の魔物なんかと当たれば、僕はあっけなくやられそうですね……」


「安心しろ、俺が守ってやる。もしどうしようもなくなれば、なりふり構わず逃げればいいだけの話だ」

「命には代えられませんしね」

「そういうことだ」


 そう笑いながら語るロイさんについて、僕は2階層へ降りることにした。


 

 暗闇を光球が照らしだしながら、2階層へ続く階段を降りていく。

 螺旋状(らせんじょう)の階段を降りて、僕たちは2階層へと辿(たど)り着いた。


 2階層も1階層と何も構造は変わっていないようで、しばらく魔物のを警戒しながら歩く。


「2階層からトラップがあるから気をつけろよ」

「はい。どんなトラップなんですか?」


「2階層はそれほどひどいのはない。毒とか、麻痺とか、この階層のどこかへランダムに飛ばすとか、そんな程度だ。俺がついていれば万が一もないだろう」


「トラップ探知魔法とか覚えたほうがいいですね」

「あると便利なのは確かだな。5階層以降は致命打となるトラップも多い。俺は自動探知スキルがあるから必要ないが、効果範囲がほぼ個人の領域だから、すまんがお前がトラップ踏むのを助けてやることは難しい」


「分かりました。それもこれからの課題ですね」

「そうだな」


 そんな会話をしながら、僕たちは2階層を進んでいく。

 しばらくして、ロイさんが唐突に立ち止まって、背後を素早く振り返った。


「どうかしましたか」

「…………」


 僕たちは前衛と後衛で縦一列に並んでダンジョンを探索しているため、振り返ったのは後衛の僕に何か用があるのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 僕のもっと後ろの方を、じっと睨んでいる。


「ロイさん?」

「あぁ、いや……。誰かに見られている気がしてな」


「レスティケイブで、ですか? 他の人間がいると。それはちょっと可能性が低いのでは」

「それもそうだが……妙にまとわりつく視線を感じた」


「念のため調べておきます」


 僕は威力を抑えたファイアボールを暗闇の向こうに投げる。

 虚空を進む火球は暗闇を一瞬照らして、それから壁にあたって爆発を起こした。


 火球が燃える通路には、ネズミ一匹存在しなかった。


「誰もいませんね」

「俺の気のせいだったのかもしれない。すまない、時間を取らせた」

「いえ、それはいいんですが」


 僕たちは気を取り直して先へ進んでいく。

 しばらく行ったところで、僕が足を踏み出そうとすると、ロイさんが僕の身体を引っ張って声を張り上げた。


「そこはトラップがある! 警戒しろ!」

「えっ」

 

 上体はロイさんに引っ張られていたが、踏み出した足は止まらず、床を踏み抜いて『ガコン!』という音が鳴った。

 僕の床を踏み抜いた右足を中心として、床に魔法陣が浮かびあがる。


「ロイさん、これは!?」

「転移魔法陣だ。俺の腕を掴んで、何が起こってもいいように警戒しろ!」


 と、言いながらロイさんは僕の手をとって、彼の腕を掴ませた。

 おそらく転移のトラップだった際に、どこへ飛ばされても一緒についていけるようにするためだろう。


 しばらく緊張した面持ちで僕は身動き一つとらないでいたが、時間が経過してもトラップが発動する様子はなかった。


 その代わり、ダンジョンの遠くのどこかから、ゴゴゴゴゴオンという激しい音が聞こえてきた。


「トラップは不発……ですかね?」

「そのようだな……。もしかしたら、運が良かったのかもしれん」


「やはり探知魔法の取得は必須のようですね。こういうのがちょくちょくあると、ロイさんはともかく僕の命はいくらあっても足りない」

「ここで一度、街に帰るか?」


「本来はそうしたいですが……2階層まで来て魔物と戦わないというのももったいないので、一戦してからで」

「わかった。極力俺のそばを離れるなよ」

「はい」


 罠に対応できる能力を身につける。

 2階層で発見した今後の課題その1だった。



 不発トラップの一件があって、僕は用心深く、ロイさんが踏んだところしか歩かないようにしていた。

 彼の足跡をなぞるように歩いていると、やがてロイさんが声をあげた。


「敵襲! 数秒後に接敵するぞ!」

「分かりました! 2階層の魔物の情報が僕にはないため、しばらく情報の収集と分析に時間をください! 最初にやっていたような分担戦術を取ります」

「了解だ」


 やがて通路の奥から魔物がぞろぞろと出てくる。

 敵戦力構成の把握。



 敵前衛・トレント×2、ボーンキメラ×2、ダークナイト×3

 敵中衛・リッチ×2

 敵後衛・ハイメイジ×2



「多いな……!」


 思わず魔物に悪態(あくたい)をつきながら、僕は彼らの出方を伺う。


「敵戦力を冷静に分析できるようになるまでは、敵前衛から中衛は俺に任せておけ」

「すみません、お願いします!」


 ロイさんが最初の頃にやってくれていたように、トレントやダークナイトの敵対心度(ヘイト)を完全に管理して、攻撃を一手に引き受けてくれる。


 神業だ。

 彼がいなければ、僕はとうにレスティケイブの中で屍になっていただろう。


 僕は敵後衛のハイメイジにサンダーバレットを放ちつつ、ロイさんの戦闘も見て情報を集める。


 トレントは硬い木の魔物で、(みき)ほどもある大きな腕を振り回して、痛打を与える魔物のようだ。

 ダークナイトは黒い甲冑に身をつつみ、剣を振りかぶっている。


 あの2種類の魔物ならば、1階層ででてきたエルフ騎士やトロールとそう脅威度は変わらない。

 さして警戒する必要もないと判断。


 しかし、ここに至って後衛同士の魔法戦で不利が生じてきた。

 ハイメイジは僕と同じ魔法職だ。


 ボロボロの真紅のローブに身をつつみ、肉体がアンデットのように腐っている。

 悪臭を放つため、あまりお近づきになって戦いたくないタイプ。


 そんな僕とハイメイジ2体の戦いは、僕が劣勢に押し込まれていた。


 それは純粋に、魔法力の差だった。

 ハイメイジは中級魔法をメインで使ってくる。


 火系統中級魔法のファイアランスや水系統中級魔法のアイスランスを使うので、純粋に火力の差で押し切られつつあった。

 僕の手持ち魔法ファイアボールでは中途半端だし、サンダーバレットではつつく程度のダメージしか与えられない。


 真っ向勝負を買うと、俄然(がぜん)として不利である。


 手持ちの武器で戦えないこともない。

 いつもの僕の王道戦法のように、サンダーバレットで敵の動きを牽制(けんせい)しつつ、スキを見たら素早くメイン魔法のファイアボールを叩き込む。


 それが通用することはするが、僕より格上の相手が2体いるというのが厳しかった。

 戦法の切り替えの速度と発動タイミングを工夫しなければ、自力の差で押し切られる。


 やはりどれだけ作戦だの戦術だの練っても、僕自身の魔法力を強化するのが目下の急務なんだろうな。

 ここらで頼れる火力魔法と、効果的な妨害魔法も取得しておきたい。


 この戦闘が終わったらまた街に帰って、成長の儀を受けよう。

 探知魔法もそうだし、新しい魔法を習得しなければ、2階層では歯が立たなそうだ。


 そういう意味では2階層にチャレンジしたことに意味があった。

 命さえ取られなければ、負けて学ぶことに意義がある。


 いや、この戦いも負けたりしないが。

 何もしないままハイメイジに敗北宣言を上げるのはなんだかシャクなので、できるかぎりの反撃に出る。


 ハイメイジがファイアランスを放ったと同時に、僕は大きく横にステップを踏み、魔法の着弾予測点から()れる。

 魔法は一度発動すると軌道修正をかけるのは至難の業とされていて、着弾予測点から身体をズラすとたいてい回避できる。


 ファイアランスがダンジョンの何もない地面に着弾し、ごうごうと燃え盛った。

 そして相手が魔法をスカらせたら、それはこちらの好機となる。


 魔物が使う魔法は、素の攻撃速度がよほど高くないかぎり、連続して撃つにはわずかな隙が生まれるのだ。

 それを僕は、魔法発動硬直、と呼ぶことにしていた。


 僕は息をつくまもなく、魔法発動硬直を起こしているハイメイジにサンダーバレットを叩き込んだ。

 攻撃速度の高い雷の弾丸は吸い込まれるようにして、ハイメイジに命中する。


「ガアァァ!」


 鈍い悲鳴をあげ、ハイメイジ1が悶絶(もんぜつ)する。

 ハイメイジ2が僕に向かってサンダージャベリンを放つ。


「く……基本的な魔法力で差がある上に、2体同時相手はきついな!」


 それをまた、僕は飛び退って着弾点から外れる。

 サンダージャベリンがまた虚空を切って、むなしく誰もいない空間に雷撃を起こした。


「はぁ……はぁ……!」


 慣れない身体能力に頼った回避と、格上の相手を敵にする緊張で、体力が削がれていく。


 それに魔物だけでなく、人間の僕にも魔法発動後の硬直時間はわずかながら存在する。

 魔物が数秒ならば、僕はコンマ数秒の領域なので、人間の発動硬直はあってないようなものだったが。


 それでも、サンダーバレットからファイアボールを交互にタイミングよく撃ち分けようとすると、ちょっと脳がパニックになって処理がおぼつかなくなる。


 だから魔法戦において、発動硬直時間を互いに補いあえる2体の魔物を相手にするのは、とてつもない不利だった。


 相手の魔法を魔法で撃ち落とすことはなるべく避けたい。

 身体能力で回避することによって、相手の硬直時間を狙って魔法を叩き込みたい。


 僕は飛び退った状態から起き上がりざまに、ハイメイジ1にファイアボールを叩き込む。

 ハイメイジ1は、うまい具合にサンダーバレットの麻痺効果が刺さっていたようで、いまだに行動不能から回復していなかった。


 続けて撃ったファイアボールが、面白いぐらいに命中する。

 火炎の渦に飲み込まれ、ハイメイジ1はやがて魔石となって消滅した。


「ふぅー……!」


 息を大きく吐く。

 1対1になってしまえば、多少の魔法力差があろうとどうにかなる。


 もう片方のハイメイジ2は、同胞の仇だと言わんばかりに、必死の形相でアイスランスを繰り出してきた。


 飛んでくる氷の槍。

 迎撃には、ファイアボールでは間に合わない。


 サンダーバレットで撃ち落としてもいいが、術後硬直は避けたい。

 だから、またダンジョンの床をぶざまに転げまわっての回避となった。


 僕がすでに移動した地面に、氷の槍が突き刺さって粉々に砕け散った。

 その隙を見て取り、僕はサンダーバレットを叩き込んで被弾硬直を起こさせ、続くファイアボールのとどめ技という、いつもお決まりの連携で、なんとかハイメイジ2を倒しきった。


「はぁーっ……!」


 勝った。

 なんとか勝った。


 格上の相手ではあったが、ギリギリの勝利を収めた。


 しかしやはりこのままの僕じゃ、2階層では通用しない。

 発動硬直をなくせるスキルか、それか中級魔法の撃ち合いで優位に立てる魔法が欲しいな。


 そこでふとロイさんはどうなったのだろうと、彼の様子を見た。

 途中からすっかりあっちの戦闘を見る余裕がなかったが、ロイさんはあいも変わらず神業回避を続け、被弾することなく敵前衛から中衛を殺戮(さつりく)し続けていた。


 敵魔物ももう残り1体という状況だ。

 僕が敵後衛2体を死に物狂いで倒したというのに、敵前衛と中衛の9体を相手にとって完勝を上げるロイさんは、きっと神かなにかなのだろう。


 僕が息を整えていると、ロイさんは最後の魔物を斬り伏せ、戦闘が終了する。

 その時、どこか遠くで、なにかが崩れている音がした。


「お疲れ様です」

「おう。そっちはなんか苦戦してたみたいだな」


 しっかり見られていたのか。

 なんだか恥ずかしい。


「単純な魔法力の差を痛感しましたね。速度があるだけのサンダーバレットでは非力だし、かといってファイアボールでは火力も速度も中途半端で、敵が使う魔法に劣る。やはり、下級魔法の限界のようです。僕も中級魔法を覚えないと」


「お前が言ったように、2階層で一度戦っておくことにも意味があったな。なら、予定通り街に帰るか。魔石もそこそこ溜まってるから、成長の儀を受けられるだろ」


「はい。僕もそう言おうと思っていました」


 ロイさんの言葉にうなずいて、僕たちはレスティケイブから引き上げて行く。




 途中の帰り道で異変を発見したのは、ロイさんだった。


「ルーク。ここ、さっき俺たちが2階層に降りた時に通った道だったよな」

「そうですね。どうかしましたか?」

「あれを見ろ」


 ロイさんが光球をかかげて、通路の先を照らし出した。

 すると通路は、大量の土砂によって埋め尽くされていた。


「これは一体……!」

「覚えているか、ルーク。ここはお前がトラップを踏んで、何も起こらなかった場所だ」


 そう言われれば、そんな気もした。


「じゃあ、あのトラップは遅効性の土石流とかだったんですかね」

「かもしれんが、物理的な罠で遅効性トラップだと、一体何の意味があるんだろうな」

「謎ですね……」


 頭を抱える。

 一体、この土石の山はなんのために?

 このダンジョンのマスターか誰かが、ここを通ってほしくないとでも主張しているのだろうか。


 首をひねって考えこんでいると、僕は土石に埋もれている隙間から、何か書類のようなものが出ていることに気づいた。

 僕はトラップを再び踏まないように慎重に近づき、その羊皮紙を土石から引っこ抜く。


「ルーク、なんだそれは」

「どうやら何らかの資料のようです……ええと、『ノアの箱舟計画について』と書かれていますね」


「ノアの箱舟計画だと?」

「これがなんだか、ロイさんはご存じですか」


 目をかっぴろげるロイさんに、僕は首を傾げた。


「…………。以前まだ俺が王国にいた頃、俺の恋人だったユメリアという女が、そんな単語を漏らしていたような気がする。

 ノアの……方舟計画……。

 そうだ、ユメリアはたしかに『ノアの方舟計画を遂行するためにウェルリア王国に来た』、と。出会い頭にそう言っていた」


「なんなんでしょうね、ノアの箱舟計画。何らかの大きな計画……国家級のプロジェクトかなにかでしょうか。

 とりあえずこの羊皮紙はボロボロになってこのタイトル字以外読めませんが、ロイさんの恋人に繋がる手がかりのようですからロイさんが所持しておきますか?」


「ちょっと見せてくれ」


 ロイさんが僕の手から羊皮紙を取った。


「あいつの字ではないな。このタイトルだけ見ても意味が分からんし、特別な手がかりはないように思える。ルークがいらなければ捨てるぞ」

「はい。僕も必要ありません」


 そう断言すると、ロイさんは羊皮紙を丸めて燃やした。


 ノアの箱舟計画。

 それは一体、なんなのだろう。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
+注意+

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