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12話:トライ&エラー

 ロイさんと僕が前後で隊列を組み、完璧な壁役とメイン火力を両立する鬼神のようなロイさんの強さに支えられて、僕は戦闘経験を着実に積んでいった。


 あいも変わらず、レスティケイブ内の戦闘は、熾烈(しれつ)を極めている。

 そのなによりもの原因が、敵がパーティーを組んで戦いを仕掛けてくるということだ。


 敵陣形は前衛にトロール3、中衛にナイトメア2・エルフスナイパー3、後衛にレーザーアイ4。

 ロイさんが完璧なタンクをこなしてくれていないと、とっくにPTが崩壊している。


「ふっ!」


 息を大きく吐きながら、ロイさんがトロールやエルフスナイパーが放ってくる攻撃を次々と回避していく。

 あの人の運動能力は尋常(じんじょう)ではない。


 スキルによって身体強化の補正がかかっているにしろ、ほとんどの戦闘で1人対5~6体の魔物という戦闘をこなしている。

 それでいて一撃も被弾しないのだから、まさに天才と呼ぶに相応しい実力だった。


 神がかった強さだ。

 そんな完璧な前衛に守られながら、僕は後衛のレーザーアイと中距離の魔法戦を繰り広げる。


 ひたすら戦闘でファイアボールを使うことによって、段々と僕のファイアボールも練度が上がってきている。

 最初の頃に比べれば攻撃速度も威力も段違いで上だし、同時に5球まで出せるようになっていた。


 僕が手を振りかざすと、レーザーアイに向かって火球が飛び込んでいく。

 しかし大きな一つ目玉の魔物――レーザーアイも馬鹿ではなく、僕のファイアボールを光線でことごとく撃ち落とす。


「く……。今までどおりではダメか」


 修正内容を頭のなかで反芻(はんすう)する。

 今はまだ魔法の熟練度やステータスでは劣っていて、それは一朝一夕では改善できない。


 でも、戦闘の中で僕に何が足りないのか、どう工夫すればその差を補えるのかと、考え実行する思考能力は、今からでも鍛えられる。

 視界に映るものすべてを利用して、戦闘を少しでも有利に運ぶべく、僕は考える。

 これまでの戦闘経験から考えて、レーザーアイにファイアボールを当てるにはどうすればいいだろうか。

 いくつかの案が出た。


 魔法の発射速度を上げる。

 個数を増やして狙いを絞りにくくさせる。


 目眩ましで何個か陽動のファイアボールを連続して撃つ。

 袋小路に追い詰め、回避できない状態にする。


 ロイさんにもらった『戦闘記録日記』を毎戦闘後につけているおかげで、僕は思考しながら戦うことが少しずつ可能になってきていた。


 前回の戦いではどうだったか。

 修正すべき点はあったか。

 どうすれば効果的に、殲滅(せんめつ)することができるか。


 毎回毎回、修正案を1つだけでも自分の頭で考えて戦闘記録日記に書いていると、こういう戦闘のさなかでも案外と改善アイデアが思いつくものであった。


 情報が、僕の頭脳にきらめいていく。


「よし。ここは命中率・威力を落としてでも、魔法の発射速度をあげよう」


 ファイアボールの魔法を再構築していく。

 火の球の大きさはやや小さめで、命中時の爆発ダメージも効果が損なわれないギリギリまで抑える。


 その代わり、ファイアボールの発射時に回転にうねりをつけ、先端をとがらせて攻撃速度を上げる。

 新しく構築したファイアボールは、スパイラルを描きながらレーザーアイに襲いかかった。


「ピギィ!」


 レーザーアイがさきほどと同じようにファイアボールを撃ち落とそうとするが、さっきのものとは速度が違うため、魔物の一つ目玉からファイアボール撃墜のために放たれるレーザー光は空を切った。


 そのままファイアボールがレーザーアイにいくつか命中し、倒しきれないまでもダメージを与えた。

 苦痛の悲鳴声をレーザーアイはあげる。


「よし! 効果あり!」

「そうだ! その試行錯誤が重要なんだ、ルーク!」


 前衛と中衛合わせておよそ8体もの魔物を同時に相手しているロイさんが、僕のことを褒めてくれる。


「最初からフィニッシュ魔法を決める必要はない。ダメージを与えてひるませてから、じっくりと不可避の状況に持っていけばいいんだ。そこに気づけたのは成長だ! ここが勝負の決め手になるぞ!」

「はい!」


 レーザーアイはファイアボールのダメージによって被弾硬直(ノックバック)を起こして行動不能になっている。

 そうか、まずは当て玉でノックバックを起こして、次に本命の威力が高い魔法を当てればいいんだ。


 これは今回の戦いでの学びだった。

 今回のメモはこれを書いておこう。


 そんな余裕もありながら、今度は威力を高めたファイアボールを放った。

 被弾硬直(ノックバック)を起こしているレーザーアイには驚くほど簡単に命中した。


 火球が目玉の魔物を焼き切り、不快な悲鳴を上げながら消滅していく。

 僕がレーザーアイを倒したことを見てとるや否や、8体の魔物相手に立ち回っていたロイさんだったが、一瞬で壊滅してみせた。


「す、すごいですね……。一瞬で……。ロイさんが本気になれば、敵前衛から敵後衛まとめて相手にしても余裕で倒せるような……。僕なんて足手まとい以外の何者でもないんじゃじゃないですか」


「そんなことはない。お前が後衛を引きつけてくれるようになったおかげで、だいぶ安全マージンができた。余裕を持って、敵の動きが見きれる」


「そんなものですかね」

「そんなものだ」


 剣をチンと鞘に収めながら、ロイさんはこっちに歩み寄ってきた。


「で、今回の戦闘で、ルークは何を学んだ?」

「見せ球魔法を効果的に使う、ということですかね。すべてがすべて、フィニッシュ用の決め球魔法ではリズムが単調だし、敵にも見切られやすい。そのためにフィニッシュの魔法は最後まで取っておいて、戦闘序盤は発動速度の早くて手数の多い魔法で牽制(けんせい)しようと思います」


「あぁ。火力魔法のぶっ放しじゃなく、まずは敵の動きを削ることが重要だと気づいたか」

「ですね。そのために出足の速い魔法を一つ覚えたいところです」


「その調子だ、ルーク。いい感じに自分の現状を分析でき、改善案を出せるようになってる」

「ほとんどがロイさんの受け売りですけど」


「それでも、何も考えずにただ火力でゴリ押ししようとするほとんどの脳筋魔導師より、百倍マシだ」


 ロイさんと戦闘の振り返りをしながら、僕は戦闘記録日記をつける。


※今回の戦闘記録・フィニッシュ魔法を効果的に使うべく、見せ球魔法を取得する。攻撃速度が速く、手数の多い魔法が望ましい。


 今回の発見はこれだった。

 次の戦闘までにはこの出足の速い魔法を会得したいものだが、修正内容に気づけたのとそれを実行して実力を得るのは全然違うことだ。

 こればかりは地道な練習をするしかない。


「そうだな……。このままレスティケイブでひたすら潜って戦ってもいいが、ルークも新しい魔法を覚える必要性が出てきたことだし、一度エジンバラの街に帰るか」

「いいんですか? ロイさんって、ずっとレスティケイブで暮らしてるんじゃ……」


「馬鹿か、お前は。こんなところで何十日も暮らせるかよ」

「あぁ……ロイさんなら、なんとなくやりそうだなって」


「お前は俺を、過大評価しすぎだ」

「出会い方が出会い方だっただけに、ここの住人なのかと思ってました」


「……死にたいか、ルーク」

「すみません……」


 たまに、ロイさんは怖い。



 ◇ ◆


 僕とロイさんはレスティケイブを脱出し、地の果てまでつながっていそうな大渓谷(だいけいこく)をひたすら西に向かって歩いた。


 すると次第に岩肌の山々は終わりを見せ、草木が徐々に生えている大陸へと景色が変わる。


「ここらはもう、エジンバラ皇国の領土だな」

「入国審査とかはいらないんです?」


「エジンバラは来るもの拒まず、去る者追わずの精神だからな。大渓谷にかかってる大橋に簡単な関所があるぐらいで、他は特にそういうものはない」

「寛容な国家ですね」

「まぁな。俺みたいなのが暮らしていけるぐらいだからな」


 ロイさんと雑談をかわしながら、僕たちはひたすら大陸を歩く。

 しばらく歩いたところで、小さな街が見えた。

 街の中に入っていく。


「ここが俺が拠点にしているエジンバラ皇国のシリルカの街だ。ど田舎の街だが、冒険者ギルド、装備品店、美味い飯屋、綺麗なねえちゃんと酒を飲む飲み屋と、一通り必要なものは揃ってる」


 最後のは特には必要ではないように僕は思えたが、まぁ英雄色を好むと言うし、ロイさんならモテるだろう。


「とりあえず俺は所用があるから、いったんここで別れよう。一人で適当に街を見て回っててくれ。また俺がレスティケイブに潜るときは、必ず声をかける」


「あ、はい。分かりました。お気をつけて」

「ルーク。街で迷子になったり、詐欺にあって身ぐるみ剥がされるなよ」


「されませんよ、子供じゃあるまいし……」

「そうか? 過保護ですまんな」


 にやりとクールな笑いを残して、ロイさんは歩き去っていった。


 改めて街の中を見渡してみる。

 街の中央にある広場では色んな人が雑談に興じていた。


 会話の内容が聞き取れるのは、ウェルリア王国とエジンバラ皇国では、大陸共通言語だからだ。

 多少のなまりはあるが、言葉が通じるのならなんとかなるだろう。


 とりあえず僕は戦闘で手に入れた魔石を売るために、冒険者ギルドに赴くことにした。

 ウェルリアの冒険者ギルドは『杯に両剣がクロスしている』紋章だったが、エジンバラ皇国ではどうなのだろう。


 しばらく街をふらふら歩きながら探していると、どうやらそれっぽい紋章がある看板を見つけた。

 『剣と盾』の紋章だ。

 外から見る限り装備品店でもないみたいだし、ここで間違いないだろう。


 僕はその紋章の看板がかかっている建物の木扉を押して中に入る。

 むわっとした熱気が僕に降り注いだ。


 建物の中は猥雑(わいざつ)としており、人でごったがえしている。

 右手にカウンターがあって職員っぽい人と冒険者が商談していた。


 中央奥には紙が張り出された掲示板があって、これまた冒険者に思える人たちが群がっている。

 左手は食堂になっているようで、たくさんの人たちがテーブルで飯を食っていたり、会話に夢中になっていたりした


 とりあえず僕は魔石を売るため、冒険者ギルドのカウンターへと赴いた。

 ギルドの受付係は、笑いえくぼがある中年の人の良さそうなおばさんだった。


「冒険者ギルドへようこそ。当ギルドへどのような御用でしょう」

「冒険者のルークです。魔石を買い取ってくれると伺ったのですが、こちらでよかったでしょうか?」


 僕が言うと、受付のおばさんは「もちろんです」と笑って頷いた。

 僕はロイさんに借りていたバックパックから魔石を取り出す。


 火の下級魔石×6

 水の下級魔石×3

 雷の下級魔石×2

 風の下級魔石×4


 これだけの量の魔石をカウンターの上に広げると、おばさんはややびっくりした表情をして、「では鑑定させていただきます」と微笑んだ。

 少しの間じっと待っていると鑑定が終わり、


「すべて本物の魔石のようでございますね。下級魔石は1個銅貨3枚で買い取らせていただいているので、計15個で銀貨2枚、銅貨5枚でいかがでしょう?」


 ロイさんに聞いていたとおりの相場だし、銀貨2枚もらえるなら文句のつけようが売却額だった。

 僕は即答する。


「それでお願いします」

「かしこまりました。ルーク様は当ギルドのメンバーでいらっしゃいますか?」


「いえ。ギルドには加入していないですね」

「それでしたら取引手数料が銅貨3枚かかることになります。もしギルドのメンバーに加入していただけるのでしたら、最初は登録料として同じく銅貨3枚がかかりますが、以降の取引は手数料がなし、さらに当ギルドの食事処が格安でご利用できます」


「ほう……それは入らない手はなさそうですが、他に制約があったりしませんか」

「実はございます」


 おばさん受付嬢は、悪戯(いたずら)っぽく笑った。


「冒険者ギルドに加入すれば、その時点で商人ギルドや工房ギルドで魔物から穫れた素材や魔石を売却したりすることができません。まぁ簡単に言えば、うちと売買の専属契約を結んでくださいね、ということですね」


「ふーむ……。ちょっとそれは簡単にはお返事できませんね。一度、商人ギルドや工房ギルドでも、どのようなメリットが受けられるのか話を聞いてみなければ」


「えぇ、そうされるとよろしいでしょう。では申し訳ありませんが、今回は取引手数料で銅貨3枚を差し引かせていただきまして……銀貨2枚と銅貨2枚ですね。お納め下さい」

「ありがとうございます」


 僕は銀貨と銅貨を受け取ると、受付のおばさんに礼を言って冒険者ギルドを後にした。

 とりあえずは、懐が潤った。


 まずは美味しいご飯でも食べて、装備品店で安価な装備を買おう。

 いつまでも麻の服にズボンという王国の平民スタイルではよろしくない。


 少しは被弾しても耐えれる装備にしなければ。

 僕はそう思い立ち、街の中を散策した。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
+注意+

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