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11話:初陣

「まず確認しておくことがある」


 魔物が無限に湧き出てくる巣窟(そうくつ)、レスティケイブの空白地帯で、僕はロイさんにそう言われた。


「ルークは低位魔導師だと言ったが、具体的にどんな魔法が使えるんだ?」

「火・水・雷系統のそれぞれの初級魔法ですね」


「じゃあいきなり難易度が高い魔物と戦っても厳しいな。レスティケイブはダンジョンみたいに複層構造になっていて、基本的に奥に行けば行くほど魔物が強くなる。浅い層は弱い魔物が多い。

 もちろん魔物は下から順にだんだんと上がってきて、やがては全魔物が人間世界を侵攻するのだから、浅い層でもめちゃくちゃ強い魔物と遭遇(そうぐう)する例外はあるがな。

 とりあえずは俺がサポートしつつ、第一階層でスキルと戦闘経験を磨くぞ」


「はい、よろしくお願いします!」

「いい返事だ」


 僕の言葉に、ロイさんはにやりと頷いた。

 それから川が流れる空白地帯から谷底沿いにしばらく歩いていく。


 すると地下につながる階段のようなものがあった。


「あれがレスティケイブの本格的な入り口だ。油断するなよ、気を抜くと一瞬で命を落とすぞ」

「分かりました」


 僕はロイさんの言葉に首肯しながら、彼の背中を追ってダンジョンの中へと入っていった。

 レスティケイブの中はひんやりとしており、当然のことだが光源がないため暗い。


「光系の魔法を覚えていないと、すでにここで詰む。視界が確保できないからな」


 ロイさんはそう言いながら、フラッシュボールという魔法を発動した。

 手に光の球を浮かべて、それがダンジョンの内部を照らす。


「だからだいたいレスティケイブを攻略する際は、前衛火力から後衛支援まで、ガチガチの構成でパーティを組む」

「今までレスティケイブの攻略には、ウェルリア王国の討伐隊がことごとく失敗しているという話ですが……?」


「そうだ。俺が知る限りでも、レスティケイブは二十層以上はある。人類が攻略に成功したのはたったの六層までだ」

「そんなに魔物が強いんですか?」


「強い上に、基本的にレスティケイブの魔物は人間みたいにお互いの弱点を補強するためにパーティーを組んで群れている。命中したら抵抗不可・回復不可の状態異常にかかる技を使ってきたり、発動したら絶対命中の攻撃があるとかで、初見殺しの魔物が多すぎる」

「それは、たとえば――」


 僕がそう尋ね返そうとしたところで、ロイさんは手で僕の声を(さえぎ)って短く叫んだ。


「敵襲! 構えろ、俺の後ろから絶対に出るなよ!」

「は、はいっ!」


 まるで迷宮のようになっているダンジョンの奥深くから、ぞろぞろと魔物が這いずり出てくる。


 やや青みがかった透明色のジェル状の魔物が4体、贅肉がぶるんぶんしているでかい図体の豚の魔物が2体、ボロボロになった赤いローブをまとった骨の魔物が3体。

 

「敵戦力の確認! スライム4、オーク2、ボーンウィザード3。並の構成だな」


 ロイさんは的確に敵の構成を見極めると、腰の銀の剣を引き抜いて魔物に突進していく。

 敵の前衛にはスライム4体が徒党を組んで壁になっている。

 

 ロイさんがスライムを斬り伏せている隙に、オークが側面に回り込んでロイさんめがけて棍棒を強打した。


「ふっ!」


 オークの一撃を、ロイさんはサイドステップで回避する。

 しかし魔物たちの攻撃はそこで終わらず、続く後衛のボーンウィザードが魔法を放つ。


 雷と氷の槍が次々にロイさんを強襲するが、ロイさんはそれをたくみな足さばきで回避していく。

 あまりに回避行動が上手いので、僕は思わず見とれていた。


 リリが騎士団で訓練しているところを王城にいた頃に見たことがあるが、その数倍は優雅な立ち回りであった。

 騎士団の団員よりも強い彼は、一体何者なのだろう?

 

「ルーク、俺が魔物の敵対度(ヘイト)を惹きつけておく。余裕があれば後衛に魔法をぶちかましてやれ! 何事も経験だ」

「分かりました!」

 

 初の実戦で、手がガタガタ震えて緊張する。


 大きく息を吐いて、僕は魔法の発動に入った。

 この世界では一度取得した魔法は、頭のなかに完全に記憶されるため、食事のときに扱うスプーンがごとく簡単に操ることができる。


 火系統の初級魔法・ファイアボールを、ボーンウィザードめがけて放った。

 火炎の球が3つ虚空に出現し、火花を散らしながら敵の後衛に殺到する。


 そのうちの一つは狙いが外れたが、2つは命中。

 ボーンウィザードが炎に焼かれて、苦しみの絶叫をあげた。


 すかさずロイさんが追撃を加え、ボーンウィザード2体を倒しきる。


「よし! 初実戦にしては筋がいいぞ、ルーク!」


 ロイさんに褒められ、思わず嬉しくなるが、僕に求められる仕事はメインアタッカーではない。

 ロイさんの援護をすることだ。


 見れば彼はすでにスライム3体、オーク1体を倒しており、残る魔物はスライム1・オーク1・ボーンウィザード1。

 僕の現在の魔法の命中精度から考えて、おそらくロイさんを直接援護することは味方への誤射へつながる。

 

 ならば、後衛のボーンウィザードが敵前衛のための援護攻撃ができないよう、徹底して妨害を行う、あるいは倒しきることだ。


 ロイさんがたまに敵後衛にも攻撃を仕掛けているため、ボーンウィザードはロイさんに気を取られていてこっちへの意識が薄い。


 今ならいけるかもしれない。


 僕は続けてファイアボールを発動。火の球を3つ作り出す。

 スプーンやフォークは幼少時から毎日使うから使用がうまくなっていくのと同じように、魔法も使えば使うほど使用者がその魔法に習熟していく。


 明確なスキル・魔法習熟度が数値的に決まっているわけではないが、同じ魔法を使い続けていればある日、上位の魔法だって覚えることができるらしい。


 ひらめき、というものだろうか。

 パン職人や革加工職人たちが日常的に行っている、修行・訓練と同じような感じだ。


 魔法も例外ではなく、使い続けることが大事らしい。


 僕はファイアボールをもう一度使用すると、さきほどよりもちょっと、大きな火炎の球を作り出すことができた。

 僕の目の前に浮かび上がった火球は、ゆるやかな楕円(だえん)を描いてボーンウィザードに殺到(さっとう)した。


「ギャアアアア!」


 火炎の球のうち、今度は3つともがボーンウィザードに命中した。

 赤くボロボロのローブが燃え盛り、断末魔の悲鳴を残しながら消滅していった。


「やった……!」


 生まれて初めて、魔物を倒すことができた。

 感動に震えながら、ロイさんを見ると、前衛の戦いも終結(しゅうけつ)していたようだった。


 ロイさんはすべての魔物を斬り伏せていた。

 魔物がすべてダンジョンの地に(ふせ)っており、やがて青白い輝きを散らしながら消滅していった。


「戦闘終了。お疲れさん」

「お、お疲れ様です」


 ロイさんは僕にねぎらいの言葉をかけてくれながら、魔物が落としたドロップアイテムを拾っていた。


「それは何を拾っているんです?」

「魔力の結晶体だよ。いわゆる、魔石だな」


 魔石は人間の生活には不可欠なものとなっている。

 たとえば水の魔石を手に入れれば、わざわざ井戸まで水を汲みに行かなくても済むし、炎の魔石ならかまどに火をつける手間が省ける。


 魔法がある世界で、魔法が使えない人にも魔法の恩恵をもたらしてくれるアイテム。

 それが魔石だ。


「魔石はそうやって入手できるんですね」

「魔物自体が魔力で作られた存在だからな。だからこうして倒したあとは核となる魔石が落ちるのさ」


「魔力を失って消滅するのなら、魔物の素材を取ることは難しそうですね」

「魔物を倒しきる前に、剥いでおくしかないな。完全に倒すと魔力が失われて魔石だけになってしまうから、瀕死にしておいて剥ぎ取る」


「なんか、大変そうですね……」

「あぁ、今みたいな低レベルの魔物の素材はたいして売れないし需要もないから、放置する。逆に高レベルの魔物は優秀な魔道具を作るときに使える素材が多いから、高レベルのパーティーには素材剥ぎ専門の職がいたりするな」


「へぇぇ」


 目からうろこという感じだ。


「ま、ざっとこんな感じだ。ほら、これはルークの取り分」


 ロイさんはボーンウィザードから獲得できた魔石を僕に渡してくれた。

 きらきらと光る赤い結晶体で、見ているだけで綺麗だった。


「ありがとうございます。安全な後ろから魔法を使っていただけですけど、僕がもらっていいんですか?」

「かまわん。それはルークの手柄だ。赤色の魔石は火の魔石だな。ギルドに持っていけば1個銅貨3枚ぐらいで買い取ってくれるぞ」


 3個手に入ったから銅貨9枚。

 銅貨20枚で銀貨1枚分の価値があるから、1回の戦闘でだいたい銀貨半枚分ほど稼げたことになる。


 銅貨10枚あれば、そこそこの飲食店ならお腹いっぱい食べても大丈夫なぐらいだ。

 僕の騎士団で事務方をやっていた時の給料が月に銀貨20枚だったから、冒険者はなかなかに効率の良い仕事と言える。

 

「魔物を倒すのって、儲かるんですね」

「その分、死と隣り合わせだからな」


 くつくつと笑って、ロイさんは言った。


「ルークは俺が思っていたより戦闘で動ける様子だったから、しばらくは敵後衛の足止めと妨害、できれば殲滅(せんめつ)を頼む。この調子で1階層で戦いに慣れて、戦闘技術を高めていくぞ」

「はい!」


「それと、ルークにはこれをくれてやる」


 ロイさんは腰につけたベルトバッグから、一冊の本を取り出した。

 表面が動物の革で作られており、中は書き込むことのできる日記帳のようなものだった。


「日記帳、ですか……?」

「あぁ。これから戦闘をこなしていくにあたって、その日記帳の中に各戦闘の反省点やうまくやれたこと、失敗したこと、修正したいことを、1戦闘につき1つだけでいいから書いていけ」


「わかりました」


 正直どんな効果があるのか分からなかったが、ロイさんの言うことだから素直に頷いておく。


「ルーク、お前のためを思ってはっきり言ってやる。お前は天才なんかじゃない」


 その言葉はずいぶんと前から覚悟していたことだったけれど、ロイさんのような神業級の戦闘技術を持つ人に言われると、やっぱりがっくりくるものがあった。


「けれど、天才に追いつけない術がないわけじゃない」

「そのうちの一つの方法が、この日記帳というわけですか」


 僕がいうと、ロイさんは破顔した。


「そうだ。毎回の戦闘記録をつけて、戦闘の内容を定期的に振り返るんだ。

 『あぁ、この日はこういうことができなかったな。ここを修正したいのに未だに直ってないな。逆に次の日のこういう戦い方は上手くいったから、今度のも試してみよう』。

 そういう、1つ1つの戦闘における思考過程、試行錯誤の過程を紙に書いて、ときおり振り返って修正内容を学ぶんだ。

 今はまだ俺がいうことが分からないかもしれない。けれど、三月(みつき)経ったころには、絶対に効果は出る」


「騙されたと思ってやってみます」

「素直なところは、ルークのなによりの長所だ」


 ロイさんはひまわりが咲いたかのように破顔した。

 こうして僕はロイさんについて、ダンジョンの魔物と戦い続け、戦闘記録を取ることになった。

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【クリックで先行連載のアルファポリス様に飛びます】使えないと馬鹿にされてた俺が、実は転生者の古代魔法で最強だった
あらすじ
冒険者の主人公・ウェイドは、せっかく苦心して入ったSランクパーティーを解雇され、失意の日々を送っていた。
しかし、あることがきっかけで彼は自分が古代からの転生者である記憶を思い出す。

前世の記憶と古代魔法・古代スキルを取り戻したウェイドは、現代の魔法やスキルは劣化したもので、古代魔法には到底敵わないものであることを悟る。

ウェイドは現代では最強の力である、古代魔法を手にした。
この力で、ウェイドは冒険者の頂点の道を歩み始める……。
+注意+

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