表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

掌握小説まとめ

幸せもの

作者: あきら

 卵。黒々つやつやしたその真球は透明なバリアによって守られている。それをジャブジャブとお玉でひとすくい。

 次は乾燥させたハーブを数種類。ラベンダーにミント。マイナーだけど重要なのはチャイブ。そうそう、キャットニップも忘れてはいけない。それもこれも摘みたてから十日以上たった「新鮮な」乾燥ハーブだ。天秤を使ってどれも寸分狂いなく測る。これに限って言えば大は小を兼ねると言うことがないのだ。

 ここまで来たらお玉でしっかりと鍋をかき回す。くるくると底から水面へ。上と下を入れ替えて。

「……ねえ、マリア。聞きたいことがあるんだ」

 場外から声援が、飛んでくる。部屋の真ん中でソファーにもたれかかっている若い男だ。マリアにとってはまだ少年に感じてたが、成人を迎えたと本人が言うので青年ということにしている。

 その彼が真っ赤な顔をして目をうるませ気だるげにインタビューをしてくるのだ。

 もちろん、マリアは出来た人間なのでこれを聞くことにした。

「なあに、ジャン?」

「否定して欲しいのだけれども」

 くるくるぐつぐつ。鍋の火力は衰えない。薪はぱちぱちと勢い良く燃えていて、煙を量産している。その煙が、部屋中に充満してるのがジャンの潤んだ目の原因の一端を担っているのは明白だった。

「それ、なに? お願いだから、害虫駆除剤だと言って欲しいんだ。もちろん、山賊撃退装置でも、新種の肥料でも構わない」

「あら、残念ね。外れよ」

 ジャンは「ああ」と大げさに声を上げた。直ぐ様胸の前で手を組んで神への言葉を紡ぐ。そして聖書の言葉を唱えだした。

 その動作の勢いの良さと言ったら、まるで有能な牛のようだ。肩にかけていた毛布が落ちて床に広がる。

 マリアは、お玉を置いてそれを拾いに行く。

「ちゃんと暖かくしていないとダメでしょう? 熱があるのだから」

 そう言うとジャンの頭に毛布をかけてやる。

「寝ないで大丈夫? ベッドへ行かないの?」

「いや、鍋が心配でとてもじゃないけれど目を離せないよ」

 ジャンは握りこぶしを作って、ふらついた。

 まったく、寝てればいいものを。だって……

「大丈夫よ! 私、病人食作るの得意なの」

 それを聞くと、ジャンは悪化した頭の痛みを抱えて倒れ伏すのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ