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爆炎広華の生態

 爆発。轟音。爆炎。射出。

 それらの事象が全て一纏めになって破壊を残して消え去る。

 それの事は広く爆炎広華と記される。

 バクエンコウゲ、或いは、バクエンヒロハナと読むのが一般的である。

 また、地方によっては他の名前も存在する。

 ヂヅ教徒の間では打上大華、エルフ族の文献では消える炎の華、ナナユユ地方ではどかん。

 それは爆発して消え去る植物。

 その蕾はある日突然出現する。

 蕾は発生する場所を選ばない。

 土の上、石の上、樹の幹、三角牛の背、赤子の腹、どこにでもいつの間にか発生し、根を張る。

 見惚れる程鮮やかな緑色の蕾。発生する瞬間を見た者は居ない。

 観測される最も小さい蕾は大人の拳程。

 その大きさのまま一年は成長しない。

 安全に除去出来るのはその大きさである間だけである。しかし、除去は出来ても破壊は出来ない。

 儚げで慎ましやかなその蕾は、焼く事も切る事も砕く事も叶わない。

 除去するには根が張った土台を抉るのだ。

 その為に蕾の発生した生き物に待っているのは平等な死の未来だけだ。

 蕾の発生から一年が経つと蕾は急速に膨れ上がり、一月程で大人の背丈を超える。

 最終的には直径五メートル前後の大きさまで育つ。

 この頃になると爆炎広華は数十メートル四方に根を張ると言われている。

 正確な所を確かめた者は居ない。

 その環境で十分な大きさまで成長出来ないと判断した爆炎広華の蕾は爆発するからだ。

 発生した蕾の内、生体まで成長出来るのは一割に満たないと言われる。

 その一割、十分な大きさまで成長出来た爆炎広華は、黒く開花する。

 吸い込まれる様に黒く、怖い程黒い。

 形状は先端を上向きにした円錐状で、底面には個体によって数も形状も異なる花弁が付属している。触れると表面はとても滑らかだと言われる。

 その華はとても固く、熱にも強い。

 強力な氷魔法で凍結させると爆発しない事を示唆する事例が数例記録されているが、生半可な冷気では意味を成さない事は多数の事例が証明している。

 爆炎広華が開花した時に実行出来る最良の手は唯一つ。

 逃げろ、そして近づくな。

 爆発の時期を決めるのは爆炎広華自身である。

 ある日急に爆発して、華があった場所の周辺は地面が硝子化する程の高熱で固められる。

 硝子化した地面より外縁は爆風に抉られ熱線で炭化し、残るのは数十メートル四方の黒焦げた荒野だ。

 遠方からの観察で判明しているのは、爆炎広華が爆発する際に成熟体を天に打ち上げていると言う事だけだ。

 打ち上げられるのは円錐状の華である。

 打ち上げられた華の行方の追跡には成功していないが、どこかで打ち上げられたそれは時折落ちてくる。

 落ちた場所は大惨事である。

 せめてもの救いは落ちる時に爆発しないと言う事だろうか。

 そして落ちて来た華はとても脆く、触れた場所から煤になって散るのだと言う。

 不思議な事に華が落ちて来た場所に蕾が現れる事はまず無い。

 爆炎広華は繁殖する為に爆発する訳では無いと言うのが一般的な見解であり、それは人族の学者達を悩ませる事柄の一つでもある。

 爆炎広華とは何なのか。

 人族が遠い未来に辿り着くその正体。

 それは菌類である。

 爆炎広華は茸の一種なのだ。

 その生態はただ単に広範囲に胞子を撒き散らすために発達している。

 遠い未来に爆炎広華の胞袋と呼ばれるそれは、遠い未来に静止軌道と呼ばれる場所を漂っている。

 爆炎広華は静止軌道から地表に向けて胞子を蒔く事で繁殖するのだ。

 そして、人族は知らない。知る事も無い。

 爆炎広華には三段階の子実体、即ち蕾・華・胞袋の三種類以外の形態が存在する事を、人族は知る事は無い。

 琥珀有漏の樹液を汚く濁らせた様な色。

 不定形で顫動する様に震えて動く。

 それは人族が知る事の無い爆炎広華の形態。

 それは育たなかった蕾や胞袋に成れずに墜ちた成熟体の残滓。

 粘菌に似た特徴を有するそれは、繁殖の為に存在しているのではない。

 蕾も華も胞袋も何も考えずにその生に真摯なのに対して、残滓達は思考する。

 どの様な場所が、蕾を発生させるのに相応しいか。

 どの様な環境が、華に変態するのに相応しいか。

 どの様な軌道が、胞袋の軌道に到達するのに相応しいか。

 残滓は思考して、思考しない同胞の為に尽くす。

 そしていつの頃からか残滓は人族に寄生する。

 死に掛けた抵抗力の稀薄な人族を見つけると、鼻腔等から脳へと侵入して寄生する。

 人族に限らずある程度の知能を備えた生物であれば何にでも寄生する。

 寄生した爆炎広華は、宿主にある種の幻覚を見せてその行動を誘導する。

 宿主達が見る幻覚は存在しない隣人。

 幻の誰か。

 爆炎広華と人族は、そうやって何度も何度も邂逅する。

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