追憶03:欲しかった言葉は?
「あー……。まぁ、さ?無理してるのが分かったって言うか……。俺、そういうの見破るのは得意なんだわ。」
見破るのは得意って、どんな奴だよ。
でも、僕の演技に直すところがあるなら直さないと。
「……えっと、どこら辺が無理してるって思った?」
そう聞くと夜十神君は、首を傾げた。
え、まさか……。特に理由は無いとか無いよね?!!
そんな理由で見破られたとか、ショックなんだけど!!!
「……あー。うん。あんたが思ってる通り、特に理由は無いよ?……勘、的な?」
「……はぁ?!!」
「いや、悪い!!!でも、無理してるのはハッキリ分かったから……。つい気になって。」
申し訳なさそうに項垂れる夜十神君。
……何か、僕が悪いみたいになってるんだけど。
「……もう良いよ。バレたのは僕の演技に穴があったって事だし。とりあえず、誰にもこの話はしないでよね。」
とりあえず、口止めできれば良いや。
何かこいつの性格上口止めとか要らなそうだけど、念のため。
夜十神君はその僕のお願いを聞くと、目を見開いてから悪戯に笑った。
「えー。どーしよっかなー♪」
……うぜー。でも、黙っておいてもらわないと困るんだよなー。
ウザさにイラついてる僕ははっきり言って、笑顔で圧をかけてるような具合になってるけど……。
仕方ないよね☆
バレてるなら、演技する必要なんて無いし。
「ちょ……。怖いよ?!!」
本気で慌て出した夜十神君に僕は、圧のある笑顔のまま言った。
「あはは。そう?なら、言わないって約束してくれれば良いと思うんなだけどなぁー♪」
それに夜十神君は、言いづらそうに僕の様子を伺って僕の方をチラッと見た。
……何か、言いたいことがあるならハッキリ言えば良いのに。
僕がその様子に溜め息をついた。
「……言いたいことがあるならハッキリ言えば?」
そう言うと夜十神君は迷った仕草を見せた後、決意を決めたようで、僕の方を真っ直ぐ見た。
「んと。これからもこうやって話せねーかなー……って、思ったんだけど。」
駄目か?と首を傾げる夜十神君。
「……駄目とか言う以前に僕と話したい理由が分からないんだけど。」
僕なんかと話しても楽しいわけ無いのに。
そう思って聞くと、夜十神君は聞いてきたときとは裏腹に明るく笑った。
「俺が、あんたと話したいから。理由はそれで十分だろ?」
……何か、色々考えてる僕が馬鹿みたい。
真っ直ぐ曇りも無い目で見られて、僕は何も言えずに止まった。
それに夜十神君は、優しく微笑んだ。
「大丈夫だよ。俺はあんたの味方でいるから。」
あぁ、何でこいつは。
僕の過去を知らないはずなのに、何もかも見透かしたように僕がずっと欲しかった言葉をかけてくれるんだろう。
「泣くなよ。もう、一人じゃねーからさ。」
そう言って夜十神君は、いつの間にか僕の頬を伝っていた涙を脱ぐった。
「……別に。僕は、一人で大丈夫だし。」
今まで一人でやって来たんだ。
大丈夫なんだよ。他人の助けなんか、要らない。
その僕の言葉に、夜十神君は微笑んだまま頷いた。
「あはは。知ってる。でも、俺があんたと話してーんだわ。これから、ここで会おうぜ?」
それに僕は何も言わずに、鞄を手に取り教室を逃げるように出ていった。
「僕は、もう誰も信じないっ……!!!」
僕は自分に言い聞かせるように、誰もいない静かな廊下で言い捨てた。
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「……案外脆い殻だな。」
俺は手に残った碧水ちゃんが流した涙を見つめて呟いた。
そして、ふと視線に映ったのはケータイ。
「あはは。急いでたからなぁー。」
俺は碧水ちゃんが落としたであろうケータイを拾うと、電源を入れた。
「んー……。勝手に見るのは、悪い気もするけど。」
落とした方が悪いよな。
そう思うと、言ったこととは裏腹に遠慮無くケータイを操作していった。
「よしっ。これで良し♪ま、あいつの机の中に入れとけばいっか。」
俺は、俺のアドレスを新しく登録した碧水ちゃんのケータイと自分の鞄を持って教室を出た。
……もちろん、ケータイを教室に置きに行くために。




