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「はつゆき企画」参加作品


名前の読み方は、颯くん(そうくん)、彩ちゃん(あやちゃん)です

 颯くんはお兄ちゃんの友達だ。

 ずっと好きで、いつかって思っていたけれど、とうとう駄目だった。

 キラキラチカチカしているイルミネーションがにじんで見える。

 片思いももうこれで最後だ。今年駄目だったらって、期限を決めていた。小学校五年生の時から今まで、九年近い片思い。二十歳になるまではがんばろうって思ってたけど、もう無理だ。二十歳まで後数ヶ月あるけど、もうがんばれない。想うのも、期待するのも、無理なのを見せつけられるのも辛い。

 颯くんは社会人だ。私は大学生。颯くんとお兄ちゃんは仲が良いといっても外でたまに会うぐらいになっているらしい。社会出た人のたまになんて、ほんとにたまにだ。年に数回程度。感覚おかしいんじゃないかと思う。

 つまり私が関わっていこうとしなければ、それでもうおしまい。もう私から連絡はしないって決めたから。

 だから颯くんとの関係は、もう切れちゃった。私が切っちゃった。

 涙がぽろぽろとこぼれた。冷たく切り裂くような夜の空気にさらされて、こぼれた先から冷たくなっていく涙は、ほほを冷たくなぞって、ぽたりと私の服を濡らした。

 世間はクリスマスイブで盛り上がっている。もう十時だというのに通りは十分すぎるほど賑やかだ。昨日が祝日で、恋人達のピークも昨日だったんじゃないの?! と、目の前を通り過ぎてゆくカップルに怒鳴りつけたい。私は、一人なのに。

 でも颯くんは私なんかとは全然違うきれいな大人の女の人といた。

 五つ年上の彼は私を友達の妹としか扱わない。友達の妹だから邪険にもしないし、友達の妹でしかないから、私がやたらと絡んでいくのをあきれるし、私が告白しても適当にごまかす。

 昨日にしておけばよかった。そしたら空けてくれるって言ってたのに。そしたら、今日、こんな夜に惨めにならずにすんでたのに。昨日を最後のデートにして、振られちゃえばよかった。

『二十三日で良いだろ』

『いや! 二十四日! ぜーったい、イブ!』

『だからー、仕事だっつーの。おまえにつきあえるような時間に終わりそうにないの!』

『良いもん! 夜中でもいいから、ね? ちょっとだけでいいから。仕事終わったら電話して!』

『無理だからな、ほんとに無理だからな!』

 無理を繰り返した颯くんを思い出す。それでも仕事終わったら電話してって言い張って、ため息をつかれた。

 颯くんは口は悪いけどなんだかんだ言って優しいから、私が譲ろうとしなかったらいつも折れてくれる。

 なのに、今回は折れる気はなかったらしい。

 無理って言われたあのしかめっ面を思い出す。

 望みがないことなんてわかったから、最後にイブぐらいちょうだいよ。


 私はもう何回も颯くんに振られている。五歳も年下なんだから相手にならなかったのは当然だと思う。でも私は今年、大学生になった。

 去年の十八の誕生日、改めて颯くんに告白をした。十八なら、犯罪じゃないでしょ? っていう気持ちがあった。今までの「無理だよね」っていう気持ちから少しだけ期待が混じって、すがりつく思いで「つきあって」って言った。

 なのに颯くんの答えは、素っ気なかった。ため息交じりに、心底困ったように返された。

『今は無理。俺も就職したばっかりだしさ、おまえは受験生だろ? おまえなんかと付き合えるか』

 そんな短い言葉でその話は終わらされた。

「おまえなんか」なんか、ってなに、それ。

 颯くんは何でもないように言ったけど、その言葉のひどさに声を失った。わずかながらも胸にあった期待は惨めに踏みにじられ、私はまた振られたのだと自覚した。

 でも「今は」って言った言葉に私はすがった。

 それがたとえ適当な言葉だったとしても、それだけが支えだった。それに颯くんは別に私を嫌いなわけじゃないこともわかっていたし。……ただ、そういう対象として好きじゃないだけで。もっともそれが一番大事な問題だったのだけれど。

 十八の誕生日にした告白を最後に、一年以上告白はしてない。記録的な長さだ。

 大学生になってからもう一度って思ったけど、振られたばかりでなかなか勇気も出なかったし、自分の忙しさを理由に先延ばしにしてきた。

 誕生日も過ぎて、告白するきっかけがつかめずにとうとう冬になって。クリスマスを口実に、ようやく勇気を振り絞ったのに。クリスマスイブのデートを取り付けて、最後の告白をしようって。

 思い出すと、またぽろぽろと、涙がこぼれた。

 無理矢理取り付けた約束だってわかっている。でも二十四日を空けてくれるのなら、ほかに女の人の影はないんだろうって思った。それに昼間なら半分妹な扱いだから健全な雰囲気になるけど、夜なら勝負をかけやすい……かもしれないと期待も込めた。

 でも九時を過ぎても颯くんからの電話はなかった。

 その事にしびれを切らして会社まで迎えに行ったのはついさっきのこと。


 颯くんの会社に着いた時、時間は九時半になっていた。会社の出入り口の近くで颯くんが出てくるのをこっそり張る。電気はついていて、確かにまだ仕事をしている人がいるようでほっとした。

 よかった。ちゃんと仕事だった。

 息を吐くと白くなって冷たい空気に溶けてゆく。

 寒い。早く終わらないかな。

 そう祈りながら待った。ガードレールに腰掛けて、体を震わせながら建物の光を見上げる。ビルの扉が開く度、目をそちらに向けて彼でないかを確認する。

 出てきた時声をかけたら、颯くん、驚くかな。なんていうかな。

 想像すると楽しくて顔が笑ってしまう。

 何人目だったか、やっと颯くんが出てきた。

「あ、颯……」

 颯くん、そう呼びかけようとして腰を上げた私は、その隣にいる人に目を奪われて、駆け寄ることが出来なくなった。

 颯くんの隣には寄り添うようにきれいな女の人がいて、楽しげに笑いながら颯くんに話しかけていた。颯くんはそれに笑みを返しながら、見たことがないような照れた顔をして何か言葉を返している。

 女の人が少し背伸びして颯くんの耳もとに何かを言った。

 颯くんは赤くなって反論しかけて、でも叫ぶのを途中でやめて、耳まで真っ赤にして顔を隠すように右手のひらを当てて照れている。

 こんな颯くんを、私は見たことがない。

 私には簡単に怒鳴り返す颯くん。すぐにくだらないことでケンカして言いたい放題の颯くん。私が手をつないでも、好きって言っても照れたことがない颯くん。

 そんな。

 涙がにじんだ。

 もういい。

 そう思った。

 こんな所、見たくなかった。

 唇をかみしめて、離れた場所から並んで帰る二人を見送る。

 それから、とぼとぼと歩いた。苦しくて胸がいっぱいになりながら歩いた。

 颯くんは電話をかけてくるだろうか。

 そう考えた後、電源を切った。

 電話がかかってきたら、なんて言えば良いのかわからない。かかってこなくても、かかってくるのを待ってしまう自分がわかるから、それならいっそ絶対かかってこないようにしておけば悩まされずにすむ。

 電源を切ると、画面が真っ暗になって、切れた。これで、かかってきてもかかってこなくても、関係ない。もしかけてきても、つながらなかったら気にもしないだろう。だって颯くんは、私の事なんて何とも思ってないんだから。

 持ってた颯くんへのプレゼントは、途中のゴミ箱に叩きつけて捨ててきた。

 この日のために、たくさん店を回って、どきどきしながら買った財布だった。颯くんの好みはちゃんとリサーチして、やっと見つけた物だった。でも、それももう用なし。そんな惨めな気持ちの象徴なんて持っていられるはずがない。

 とぼとぼ歩いて、バスを乗り継いで、二人で行きたいと思っていたイルミネーションの綺麗な通りにたどり着いた。


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