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乾 東悟の行きて帰らざる物語  作者: 高原ポーク
第1章   乾 東悟、死んで神様と出会い異世界ミーリアに降り立つの段
8/31

7.乾 東悟と神様の転生講座(5)

 ワシの説明回は108式まであるぞ!!

 と言う訳で今回は異世界トリップの仕組みとそれにまつわる特典の説明。みんな大好きチートの説明です。





 今の俺と同じ経験を持つさくらには、どうしても俺のような『彷徨える魂』とそれを利用する事に対しての罪悪感が拭いきれず存在するらしい。それは自分が同じ境遇を味わったからこそなのだろう。だから例え200年を経ても自分と同じ()()()を前に、心穏やかでいることは出来ないようだった。


 そして説明に際してまず、異世界が被害者の魂を食い物にすることをちゃんと話し謝罪するのは、彼女が神になった時に自分に課した一種の『誓い』なのだという。

 そもそも彼女は神様になった際に、地球との委託契約そのものを破棄しようとしたそうなのだ。

 だが結局世界の間違いによって死んだ魂は他の下位世界にご招待(ドナドナ)されて行くことに変わりなく、しかもそのほとんどの世界でその被害者は自分と同じように大した事前説明を受けないままに放流されていると聞いて、せめて自分の世界だけでは出来る限りのことはしようと思い直したのだという。


 そんなことを聞けば、なおのこと俺がさくらに悪意を抱くことは難しかった。むしろよくぞ間違えてくれたと感謝する立場なのは俺の方なのだ。しかし、そのことを言うとさくらは眉根を寄せて心底イヤそうな顔をした。

 まあ例えば誰かが泥棒をして花瓶か何かを盗み、それ以降罪の意識に苛まれていたとして。ある日その花瓶を盗んだ家の人がやってきて「火事で家が全焼してしまって家財道具が全て焼けてしまった。でもあなたが盗んでくれたおかげで父の形見は焼けずに済みました」なんて感謝されたら泥棒はさぞ居心地が悪いに違いない。





 ――――2人の間で話し合いが持たれ、そして議論すること約10分。



 その結果。俺たちは今後一切お互いにこの件に関し謝罪なり感謝の言葉を吐かないと誓い合って水に流したのであった。





「……ほら、もう手打ちは済んだろ。そんなしけたツラすんなよ」

「……すいません……」


 俺が傍らにあったティッシュの箱を渡してやると、さくらがちーん、と鼻をかんだ。そして籐細工の屑かごにシュート。惜しくも外れる。


「……はあ。……ご迷惑おかけしました……」

「いいさ。誰だって感情をどうにも出来なくなることはあるだろ」

「……何と言うか、そう言う乾さんが取り乱してるところは想像出来ないんですが……」

「そんなことないだろう」

「だって、今だって物凄い落ち着いてるじゃないですか……」

「ああ。これはきっといろんな事がありすぎて感情が麻痺してるだけだろ多分」

「……(じとー)」

「……まあ、そんなことはともかく、話を進めようや。」

「ですね。すいません」

「だから、謝るのはもうナシだろうに」

「……はい」


 さくらがようやくその顔を小さくも綻ばせた。そして話の続きと思ったが、彼女は狙いを外して床に落ちたティッシュを片付けるためにいそいそと立ち上がった。締まらないことこの上なかった。

 俺の口から少しだけ疲れ混じりのため息がこぼれた。気が付けば、ずいぶんの時間話し込んでもいるのだった。





「……でさ。地球産の魂はこっちの世界の良い肥やしになるって言うのは分かったんだが」


 説明が再開される。さっそく水で膨らんだ腹をさすりながら俺が言った。腹は犠牲になったのだ。場の空気のな。

 で。どんな世界に生まれ変わるかも分かった。生まれ変わることが手違いで殺された俺に対する神様の善意だけでは無いことも理解した。次は具体的にどう生まれ変わるかである。



「……なんか、『世界をレベルアップさせるためのエネルギー』なんて聞かされると、身体をジューサーで搾られてエキスを吸われるようなイメージがあるな……」


 さながら某銀○鉄道の終着駅で機械の身体が貰えると思ったら機械のネジにされました、みたいな?

 しかし、俺がそう言うと「そんなことありませんよ!」とさくらがすかさず否定してきた。


「世界に魂を注ぐっていっても、単に乾さんをそのままミーリアに生まれ変わらせるだけですから」


 さくらは「異世界への生まれ変わりには、基本的には2つの方法があるんです」とピースサインを作って見せた。「ふたつ?」と俺もピースサインを作って言うと「ふたつです」とピースサインのままさくらが頷く。お茶の間でピースを向け合うおっさんと中学生の完成である。



「さっき言ったかも知れませんが、異世界に生まれ変わるためには、乾さんの肉体を新調して、そこに『生』状態にシフトさせた乾さんの魂を注ぎます。そうして『生まれ変わった』乾さんは地上で第2の生を受ける訳ですが、地上に転移する方法には2つの異なった方法があるんです」

「ふうん、なるほど?」

「ひとつは、今現在の状態のまま肉体をこの場で再構築して、そのまま転移する方法。つまり単純な『移住』です」

 さくらがひとつ指を折った。


「そしてもうひとつは、母親の胎内の受精卵に、乾さんの魂を送り込んで現地で肉体の再構成を行う方法。こちらはまさに別の人間に生まれ変わるに等しい方法で、言うなれば『転生』ですね」

 そしてさくらはもうひとつの指も折った。



「……『移住』と『転生』ねえ……?」

 移住の方はまあ容易に想像が付くが、転生は今聞いた話だけではよく分からない点もある。俺は自分のピースサインを眺めて、さくらに質問を投げかける。



「……転生って言うのは、要するに誰かの子どもとして生まれ変わるって事だよな?」

 ええ、と頷くさくら。

「じゃあその場合、俺は見た目から何から全くの別人に生まれ変わる訳か?」

「はい。基本的に生まれる子供は今の乾さんとは赤の他人になります。乾さんの魂の性質に引っ張られて見た目が多少は似るかも知れませんが、ウチ(ミーリア)の場合そもそも人間以外にも生まれ変われるんですし」

「ああ、そもそも人間に生まれ変わるとも限らないのか」

 タコとかな。するとさくらは「生まれる種族はある程度希望に添った形で選ぶことが出来ますよ」と付け加える。そうか。タコにもなれるのか。ならないが。



「……じゃあ、記憶はどうなる? 『ボクの○球を○って』みたいに、前世の記憶が蘇ったりするのか」

「うわ! その漫画懐かしい!!」

「あー、確か俺が小中学生頃の漫画だと思ったから言ってみたけど通じるか?」

「結末をみる前に死んじゃったんですけどね!」


 いわゆる『前世もの』の中でも当時一大ブームを起こした少女漫画である。ざっくりしたあらすじは、同じ内容の夢を見て、それが自分たちの前世であると気が付いた何人もの男女を中心に、前世の因縁とか愛憎とかが絡まりあったお話しだったはずである。

 俺は高校の頃に漫画好きの知人に読ませて貰った記憶があったので引き合いに出したのだがさすが同年代女子、彼女は連載当時からリアルタイムで読んでいたらしい。完結前に他界したようだが。


「まあ『ぼく○』はいいとして……。

 ええと、前世の記憶については乾さんのご希望に添う形になりますね。最初から記憶を持って生まれ変わってもいいですし、逆に全てを消してまっさらな生をやり直すことも可能です」


 懐かしい漫画の名前にテンションを上げていたさくらが気を取り直して急角度の軌道修正を行う。その他にも、ある年齢に達した時に徐々に思い出す、と言うようなことも出来るそうだ。『ぼ○球』よろしく夢にでも見るのか。とにかく記憶についてはこちらの自由自在と言うことだった。



「このふたつの方法のメリットデメリットはなにがあるんだ?」

 そうですね、とさくらが少し考える。


「ええと……。移住の場合最大のデメリットは、移住当初の困難でしょうか……?

 ここで多少のレクチャーを受けて頂いてもやはり実際に異なる世界での生活に慣れるのは大変でしょうし、天涯孤独で頼る人間もいませんし」

「まあ、住所不定無職のおっさんが突然外国に紛れ込めばそりゃ苦労するだろうなあ」


 なるほど、と俺は納得して相槌。


「……その点、もう一方の転生は最初から両親の庇護を受けて生活出来ますからこちらでの生活に慣れるのも比較的簡単ですね。その後もちゃんと周囲に認められた現地人として暮らせますから、生活基盤を築くのも容易だと思いますよ?」


「……なんか、今聞いた話だけだと『転生』の方がメリットが大きいんじゃないか……?」


 身元不明の異邦人として生きるのと、ちゃんと社会に認識された人間として生まれるんじゃ雲泥の差だ。今の自分が大好きで何としても変わりたくない人だとか、そう言った特殊な事情がない限り移住を選ぶメリットってあるのだろうか。転生なんて当面は三食昼寝付きである。赤ん坊なんだからそれしか無いとも言うが。

 ただし、転生だと親の急死とか育児放棄などと言った保護者の喪失が発生すると即死活問題に発展する。本人にその意思があっても赤ん坊に自活は出来ない。身動きも取れないまま餓死なんて目も当てられないのだ。

 しかしさくらが言うに「生まれる先は最低限中流程度の経済力があり家庭環境も良好な家を選びますよ」とのこと。こちらが希望すればいわゆる貴族階級とか王族と言った上流階級へも転生可能だそうだ。だとすればますます持って至れり尽くせりである。


 今の話だけだと好悪の感情は別として『転生』の方がより有利に思える。これじゃあみんな転生を選んだんじゃ無かろうか。しかしさくらは、俺の感想に「そうでもないんですよ」と首を横に振った。



「話が前後しますけど、地球産の魂ってこっちのそれ()と較べて上質なエネルギーだって言いましたよね。

 ――――乾さんて、昔のアニメ映画で『重力が地球よりうんと少ない星の話』って見たことありません?」


 ……それは、例の耳のない猫型ロボットの劇場第2作の話だろうか。かなり古いアニメ映画だが彼女が言っているのはそれで間違いないと思う。なにせ同年代だから、見てるアニメや漫画の話が面白いぐらいぴたりと合う。案の定、俺がその映画の題名を言うと我が意を得たりとばかりにさくらは頷いた。



「そう、その話です!

 アレって、その星だと重力が地球よりかなり小さいから、地球出身の主人公達の身体能力が物凄くなってスーパーマンみたいな活躍をする、って筋じゃないですか。


 つまりですね? ミーリアに地球の魂を持ってくるとそれと似たようなことが起こるんです。

 まあ腕力が倍、みたいな単純な話じゃなくて、もちろんそう言う選択肢もあるんですが、魂の輝きの強い分だけミーリアで天才的な才能を示したり、数奇な星の巡り(強運)に愛されたりするようになるんですね」


 最近の言葉で言うと『ちーと』っていうんでしたっけ? とさくら。チートって、パソコンゲームとかでデータを弄って(ズルをして)強くなることを言うんだよな。


 そう言えば前世の会社で若い奴が、元請け会社の若社長が国立大出で顔も良いのを羨んで「リアルチート乙!」とか何とか叫んでいたっけ。さくらに「よくそんな言葉知ってるな昭和世代のくせに」と言うと、以前に俺のご同輩の地球人が彼女の説明を聞いて「チートキタコレ!!」と奇声を上げたので意味を教えて貰ったそうだ。

 あのイケメン若社長がチートかどうかはともかく、地球生まれと言うだけで現地人の苦労を一足飛びに飛び越えて優秀になれるって言うなら、それは正しく()()だろう。



「分かりやすく言うと、乾さんがミーリアに移る時には、100(ポイント)の特典を持っていると考えてください。乾さんはそのポイントを使って様々な優遇措置を得ることが出来ます。10Pで無病息災、20Pで強い金運、と言った具合にです」

「その、特典の内容は俺が選べるのか?」

「はい。乾さんの魂の残量(ポイント)で可能な限りの特典を自由に付けることが出来ます」

 ……ポイント制で人生に有利な特典を付けられるとか


「……なんか、RPG(ゲーム)のキャラクターデザインみたいだな」

「最近こちらにいらっしゃった若い方もそう言ってましたねー」

「『チートキタコレ!!』って叫んだ奴とか?」

「ですね」


 何と言うか、急に話がゲームっぽくなった。正しく剣と魔法のミーリアらしくなったと言うべきか。もともとゲームやファンタジー好きの神様の作った世界の理屈だ。らしいと言えばらしいのかも知れない。

 それにしても、学生時分にはゲームもいろいろやったが、よもや自分をキャラクターデザインする日が来ようとは。俺は軽く首を左右に振る。



「……お話し続けても良いですか?」

「ああ、話の腰を折ったな。続けてくれ」

「はい。

 ……ええと、とにかく。そう言う風に、乾さんはポイントを使って今後に有利になる力なりを得ることが出来ます。

 しかし転生の場合なんですが、そもそも中世程度の社会あるミーリアで『中流以上の家庭に生まれる』事そのものがかなりの幸運なので、生まれる親を選ぶという行為自体に相応のポイントを使ってしまうんです。

 例えば伯爵レベルの貴族の嫡男に生まれるのに80P、その国の王太子なら99Pぐらいは使いますかね」

「それじゃ、ほとんど残らなんじゃないか」

「だってミーリアで今一番大きい国で人口は約500万、その中で伯爵家は100家あるかないかですよ? 500万分の100の当たり(くじ)を力技で持ってくるようなものなんですから、それぐらいはエネルギーを使っちゃいますよ」

「そう言われれば確かにそうだが」

 つまり、『高級貴族の嫡男』という立場に生まれること自体が『数奇な運命』という特典ポイントを消費する一種のチートとして扱われるのだ。


「だから、そう言う風に転生という手段を選んだ時点でポイントを使い込んでしまって、他に割り振ることが出来なくなってしまうんです」

「……要するに、転生だと社会的には優遇されるが本人の資質はあまり強化出来ず、ただの移住だとはじめは単なる風来坊だけど自分自身の強化はたっぷり出来る、って言うことか?」

「ええ。その通りです」


 ……なるほど。そう考えると確かに良し悪しだ。

 転生の場合、条件の良い親元を選べば選ぶほど自分自身の才能の強化は出来ないという。それだと変に狙って上流階級になんて生まれると、かえってその後の人生が大変なんじゃなかろうか。生まれにポイントを使い切り、何の下駄も履いていない無印の俺のまま権謀術数渦巻く貴族社会に飛び込むとか嫌な予感しかしない。無力なままドロドロとした渦の藻屑になるイヤな未来予想図しか浮かばないのだ。

 しかし一方の移住だと、逆に自分自身の強化へ十全にポイントを割り振れるということになる。渦に逆らえる力を付けられる分、むしろその方が逆境には強そうだった。


 様々な()()()の利く能力を持って身ひとつで異世界を生きるか、社会的な地位を持って取りあえずの安定と平穏を得るのか。それはキャリアを積んで能力主義の海外企業に飛び込むか安全に縁故採用の公務員になるか、みたいな選択だ。

 どちらにもそれなりのリスクがあり本人の資質如何で大成も出来るのだろうが、こう並べると確かに好みは別れそうである。


 ちなみにさくらの経験だと、移住と転生の割合は4:6ぐらいになるらしい。しかし最近は転生を選ぶ人が続いており、しかも下級貴族とかほどほどに裕福な商人クラスで地位を確保しながらポイントを残し、それでひとつふたつ使い勝手の良さそうな才能を貰ってピンポイント強化、みたいな人が続いているとか。最近の人間の安定志向が透けて見えるようである。昔はもっと「天下獲っちゃる!!」と野望にギラギラとした人が多かったらしい。閑話休題。



「――――とにかく、乾さんがミーリアに行かれる時には、転生にせよ移住にせよ、出来る限りのお手伝いはさせて頂きたいと思いますから」


 特典による優遇措置もその『お手伝い』の一環であるらしい。そう言って、さくらは移住と転生、そしてそれに伴う特典についての説明を締め括ったのだった。





 猫型ロボットの某劇場版第2作は最近リメイクもされました。某F氏が曰く、「の○太をスーパーマンにして西部劇をやりたかった」そうで、○び太が愚図なのは仕方がないので「重力が小さく地球人が無双出来る惑星」と言う設定で敵を弱体化してやったのだとか。のび○哀れ。


 ところで猫型ロボットの劇場版は作者の幼少期に多大な影響を与えたアニメですが、近年劇場版の「映画なら文句ないんだろう!?」とばかりにめくられるしずかちゃんのスカートに日本の将来を憂う今日この頃。良いぞもっとやれ。

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