4.乾 東悟と神様の転生講座(2)
説明回、スタートです。今回は世界観説明編。
「――――まあ結局、一言で言うとウチの世界ってファンタジーなんですよね」
「……ファンタジー、って……」
神様による説明を総括すると、さくらの治める異世界はファンタジーだった。凄まじくざっくりとした説明だが、聞けば聞くほどファンタジーなんだから仕方がない。
彼女の世界は、名前を「ミーリア」という。
隣り合って海に浮かぶ3つの主要な大陸とたくさんの島嶼部からなり、そこに世界のほとんどの人が暮らしている。人口は今この瞬間で1936万人1289人(神様調べ)ほど。ずいぶん少ないなと思って聞いたらそもそも世界の大きさが地球の約3分の1程しかないのだそうだ。しかも、その狭い世界に山あり谷あり砂漠ありとありとあらゆる自然をぎゅうぎゅうに詰め込んだような世界のため、単純に人が住める土地が地球のそれと較べものにならないほど狭いのである。
そしてその世界に俺と同じ人間、つまり目と鼻と口があり手足が四本生えていて言葉を話すほ乳類が普通に生息しているらしい。ここまでは別段奇妙なところはなかった。つまりここからあとが、ファンタジーのファンタジーたるゆえんである。
ミーリアには神様、さくらの前任者であるこの世界の創造神によって6つの種族が創られた。それはまず、神の姿に似せて創られたという始めの種族たる「ヒト族」、大精霊の愛し子「精霊族」、龍の眷属である「竜人族」、その姿を獣に模した「獣人族」、知恵の守護者たる「海魔族」、そして夜に生まれし「夜鬼族」の6種族だ。
ヒト族はもうそのまま人間である。肌の色が白かったり黒かったり黄色かったりして、とにかく俺の想像する人間とほとんど変わりない。
次が精霊族。またの名を妖精族と言い、彼らの容姿的特徴はさくら曰く「エルフにドワーフにホビット(原文ママ)」だそうだ。しかも名称まで新緑の民に青波の民に赤鉄の民に白雲の民に黒土の民と、お馴染みの名前そのままだとか。
竜人族は人身竜頭でビジュアルイメージ的にはゲームの敵役に出てくる蜥蜴人に近い。獣人族は狼男とか猫娘とか、とにかく身体の一部が動物か動物に変身できる人達の総称で、犬や猫はもとよりネズミ、熊、羊、鳥、モグラといった多種多様な種族がいるらしい。
そして海魔族は海に住む種族で姿は体長2~3m程の翼の生えた蛸である。……タコ?
彼らは地球の蛸なら内臓が詰まっているはずの頭に巨大な脳を有し、極めて高度な知性を誇る種族なのだとか……っていやいや。翼の生えたタコって某外宇宙から来た神話的存在のアレだろう? 海底の宮殿で超弩級のお寝坊カマしてる例の。そもそもエルフドワーフ竜人獣人と来て次は蛸ってどうなんだ。落差が酷すぎる。
まあ、気を取り直して最後は夜鬼族なのだが、彼らもまたさくらのぶっちゃけた説明に曰く「ゲームに出てくるヒト型モンスターを想像して頂ければ大体それで」合っているそうだ。肌の青い悪魔風の種族(蒼鬼族、と言うらしい)もいればモンスターの定番小鬼族犬鬼族豚鬼族に大鬼族とつまり「そういう」人達の総称である。
古来より特にヒト族とは酷く争った歴史があり、彼らの一部からは「魔族」なんて蔑称で呼ばれたりもする。なんというか、お約束である。
それを聞いたところで俺はすでに、どこかで聞いたことがあるような話だなあ、と奇妙かつ微妙な思いを抱き始めていた。
そして。さらにさくらが言うことに、これらの種族が住む世界の文化文明のレベルは地球で言うと中世に準じるようだ。中世的な異世界。日本じゃ『ドラ○エ』以来の大定番である。
割拠する国家の政体は基本的に世襲制の封建国家で、厳然とした階級制度が存在し、戦争が起これば兵隊は馬に乗って剣と弓を持って戦う。交通機関は最も一般的な乗り物が馬車レベルでそもそも一般庶民が自分の生国から外に出ることはあまり無いそうだ。
技術レベルは水力や風力を用いた初期的な大型機械がある程度。ただし技術の関しては部分的にはかなり尖っている。例えば中世程度の技術力にもかかわらず、この世界でも技術者の一族であるところのドワーフの職人は厚さの均一な板ガラスや一種のアルミニウム合金めいたものまで作り出せるらしい。何故かと言えばやっぱりあったと言うべきか、ミーリアには在るのである。そう。魔法なんて物が。
科学の発展の代わりに魔法ががっちり根付いた中世的な世界。まさに「剣と魔法の」異世界だ。
さくらが大雑把に「一言で言ってファンタジー」と断言する訳である。俺もそれ以上の形容は絶対に浮かばない。まさにそれは、俺が若い頃にいろいろと触れたゲームの説明書だとか、小説の舞台説明で見たような世界なのだった。
つまり異世界ことミーリアは、非常にありがちなお約束に満ちた、和製ファンタジー風世界なのだった。
「……それにしたって、なんだかなあ……」
「……なんか、突っ込みどころ満載、っていう顔してますね?」
「そりゃあだって、ここ異世界なんだろ? なんだって違う世界に、メイドイン地球の空想上の存在がワンサカいるんだよ。しかも同名で」
だってエルフとかドワーフとか、まんまこっちと同じ名前だろう。しかも海魔族って、東京○元社の黒い短編集じゃあるまいしいあいあ呪文でも唱えるのか。その上いかにも悪役臭い夜鬼族とか。誰かがノートに書いたファンタジー小説の設定を見せられたような気分である。
「……これはアレか?
『地球で伝えられているファンタジー的伝承は、全てかつてこちらから地球にやってきた異世界人を地球人が目撃し語り継いだ物だったのだ!!』みたいなオチなのか?」
そんな設定の小説は結構あったのではないか。すると俺の言葉にさくらが小さく吹き出した。そして「それ、逆なんですよ」と言う。
「……逆?」
「あはは。あのですね? いま乾さんは『こっちのものが地球で目撃されたから地球の伝承に残った』っていう風に言ったでしょう? そうじゃなくて、その逆なんですよ」
「はあ」
「実は、わたしの前任者、この世界をつくった創造神も日本出身でして」
「……はあっ?」
「つまりですね。こっちのエルフとかドワーフこそ、正真正銘メイドインジャパンなんです」
「はああ――――っ!?」
要するに。
ある時、何かしらの理由によってある1人の日本人がこの世界の創造神になった。その理由についてはさくらにもよく分かっていない。これ以降便宜上創造神と呼ぶが、とにかく彼はこの世界を1から作り上げたのだ。それがこの異世界「ミーリア」なのだという。
創造神の降臨はこっちの時間で約3000年前。とすれば約300年前の日本人と言うことになるのだろうか。だが俺がそう言ったらさくらが首を横に振った。
さくらが言うに、平行世界間の時間の速度差は世界の大きさとか複雑さに左右されるらしく、出来たばかりの「若い」世界の時間の流れは地球のように「成熟した」世界に較べてすごく速いのだとか。それは「ハエとヒトの体感時間の差みたいな物」なのだそうだ。
今でこそ10年で1年の流れの差はかつてはもっと開いていたらしく、現に彼女が一度だけ会ったことがあるという創造神は、さくらが異世界に渡る数年前まで日本に住んでいた20代の男性だったという。
「で、どうも前任者はマニアとでも言いますか、どうもそういう『ファンタジー的なもの』が大好きだったらしくて、趣味全開でこの世界を創ったみたいでしてね?」
「あー、あの頃は「オタク」って言葉まだなかったかー」
「そう言えば今はそう言うんですよね。地球での仕事の関係上、知識としては知ってます」
オタク、と言う言葉が社会的に認知されはじめたのは平成に入ってからだ。
「そもそも「ミーリア」って言う名前も、前任者がロシア語の『世界』から取ったんですって」
「ああ、ロシアの宇宙ステーションの。アレってそう言う意味だったんだな」
さらに言えば種族の名前もラテン語などから取られたものらしい。ラテン語でウィルは『人間』で、ノクスは『夜』、あとファータはイタリア語で『妖精』の意味だそうだ。海魔族についてはラブ○ラフト先生の某宇宙神話が由来だろう。タコだもの。
それにしても、誰かが描いたファンタジー小説の設定みたいだというのは言い得て妙だった訳だ。創造神は数年後に恥ずかしくなったりしなかったのだろうか。俺の知人は学生時代に書いた小説の設定を数年後に発掘して吐血せんばかりに身悶えていたが。
で、その趣味全開な前任者は200年ほど前にお隠れになったそうだ。どっかの哲学者も言っていたが神もどうやら普通に死ぬらしい。彼が自分の黒歴史に身悶えたかはすでにもう知るよしもない。
そして今現在。神様業を受け継いださくらがミーリアで一番信仰を集める主神なのだった。それにしても二代続けて日本人が主神とか、異世界なのに日本との奇妙な縁を感じる世界である。ちなみにミーリアでも東の方にある某地方では米も食べるし味噌と原始的な醤油もあるそうだ。つくづくお約束だった。
「……ファンタジーか……」
「ええ。ファンタジーなんです」
『世界は神の書いた小説である』と言った昔の人がいなかったか。
創造神はファンタジー好きだったと言うからには、きっとその手の小説の愛読者だったに違いない。
そしてミーリアは、そんな神が趣味を炸裂させて創った「小説のような」世界なのだった。『事実は小説より奇なり』と、ここは笑うところなのだろうか。
※10/22 ミーリア天地創造を3000年前に変更しました。あとになって考えるとエルフありの世界で1000年は短すぎました。