18.乾 東悟と宴もたけなわ(1)
宴会開始。今回は少し文章短め。
皆様のご愛顧により10000PV、1000ユニークに到達しました。ユニーク!!
ゲハハハハァー! 大台に達したでござるよ!! べ、別に嬉しくなんてないんだからねっ!? すいません。嬉しさのあまりキャラがごっちゃになってしまいました。とにかく目出度い。全俺が歓喜。
それにしてもデスよ。1000人のユニークというのは馬鹿にならない数字なのです。1000人の読者様の中の読者様、つまりそれは最精鋭。某スパルタのレオニダス閣下なら計算上300万のペルシア軍をはじき返せる数字です。史実の3倍の敵をホアーッ出来る数字なのです。まあ実際のペルシア軍は数万~10万ぐらいだったらしく、閣下は最後には死んじゃいますけど。何はともあれ有難いことです。御礼申し上げます♥
――――宴が始まった。
雛壇の下はさっそく修羅の巷となり果てて、凄い騒ぎで男達が酒をかっ食らっている。
「酒だ酒だぁっ!! 酒持って来――――いっ!!」とか
「ギギイィイ――――ッッ!! サケ!! クイモノ――――ッ!!」等々。
広場にはそんな絶叫が殷々として木霊していた。こう言うところは俺の知識にある典型的なゴブリンに近いんだなあと、俺はしみじみ思ったものである。と言うか、普段の極めて礼儀正しく温厚な彼らを知っていると、かえってほっこりとさえしてくる。
宴会開始10分でお誕生席の雰囲気にもさっそく慣れた。なにせ下の連中、もう俺の事なんてまるで眼中にないのである。歯牙にも掛けられない扱いを受けると、主賓も気楽なものなのだった。
そんな落ち着いた気分で会場を見渡せば、会場の至る所でさっそくもろ肌を脱いだ男達による飲み比べが繰り広げられていた。なんたる男臭さ。俺は思わず苦笑するが、男臭いのは当然だった。この宴会場では雛壇の上にいるポラリア卿が唯一の女性であり、それ以外の女っ気は皆無なのである。
聞けば、ゴブリンの社会制度では基本こう言う集まりは男女別で行うのが普通なのだそうだ。だからといってゴブリン社会が男尊女卑的な社会で女性が宴会を閉め出されている、と言う訳ではない。女性は女性で、別会場にて飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎをしているらしい。
その話の流れで俺は、ふと1人の女の子のことを思い出す。集落に到着して別れたニオブのことだ。俺がその事を尋ねると、彼女は集落の薬術師に見て貰い、治療のあとは薬が効いて今はぐっすり寝ていると教えてくれた。脚の怪我も薬術師の見立てでは『捻挫には違いないが骨や筋はひどく痛めてはいない』とのことで後に残る怪我ではないらしい。それを聞いて俺はホッとした。
そんな俺に長老と庄長は揃って柔らかな笑みを向けてきた。俺も微笑んで「よかったです」と声を掛けると、間髪入れず他のゴブリンが「幼子の無事に!!」と乾杯の音頭を取った。異論はないので杯を上げ、俺は今度は噎せないように加減して酒を呷った。見るとゴブリン達は水でも飲むようにしてがぼがぼと酒を空けている。この連中はザルである。
長老曰くゴブリンはこう言った祝宴以外では酒を飲まず晩酌すらしない種族なのだが酒自体は大好きなのだとか。そりゃあ酒好きが普段飲まずに溜めに溜めれば反動で空にも飛ぶというものだ。比喩ではなく浴びるように酒を飲むゴブリン達を眺めながら、俺はそう結論付けた。
雛壇の上は下の喧噪よりは幾分上品な宴席となっていた。俺はともかく騎士様のいる手前いきなり開始5分で野球拳じみた飲み比べとかは出来まい。と言うか5分でそうなる下がひどいのだ。その有様たるやまさに冥府魔道である。
それでも雛壇の乙人衆はひとりにひとつずつ小さな酒入りの壺が宛われ、酌をし合ったりあるいは手酌でおのおのに酒をかっ食らっている。見れば少年といった年齢と思われるゴブリン達が給仕として忙しなく空になった壺を交換していた。その回転速度はひっきりなしという他はなく、さすがにそのペースは真似出来ない。
ちなみに、乙人とはゴブリン社会において成人男性の中で特に発言権を持つ有力者のことを差すそうだ。酒宴開始と同時に、まだ酒のあまり入らないうちに雛壇の皆が自己紹介がてらそう教えてくれた。そして長老衆は年を重ね一線を退いた乙人たちを差し集落の相談役にあたり、成人男性である男衆の下部組織に大人未満子供以上で構成されるクナン達若者衆がいるという。クナン達ってまだ成人じゃなかったんだな。閑話休題。
そんな話を聞きながら、俺はちびちびと白い濁酒を舐める。やや酸味のある甘い酒で、飲んだ感じだと日本酒程度の度数はあるかも知れない。それをビールでも飲むように呷ったのだから噎せる訳だった。それはどぶろくに似ているがそれとも違う風味がする。しかし同時にどこかで飲んだことのあるような味がするのだった。
何で出来ているのかと右隣の庄長に聞いてみたら、さっそく赤ら顔(彼らの血は緑なので緑ら顔とでも言うべきか)になった彼がゴブリン達の主食にしている『ヤルル芋』と言う芋から醸した酒だと教えてくれる。
あ、分かった。どこかで飲んだことがあると思ったら芋焼酎の風味に似てるんだ。謎が解けてスッキリした。好みを言えばやや甘すぎる、と思わなくもないが後味はスッキリとして悪くない。「お気に召したかな?」と言うコルナンに俺は正直な気持ちで「良い酒ですね」と言うことが出来る。言うと彼はまるで実の子どもでも褒められたように破顔した。
「――――ところで、イヌイ殿は旅人だと仰ったが、生国はどちらなのか伺っても?」
赤(緑)ら顔のコルナンが俺の杯にヤルル酒をなみなみと注ぎながら訪ねてきた。隣のカロン翁や、その向こうのゴブリン達も興味深げに耳を傾けている。俺は零れそうな酒を口の方から迎えに行ってやってから、「ああ、それは」と前置きして言う。
まさか「異世界生まれです」という訳にはいかない。こう言う時のために俺は前もって決めていた経歴を俺は皆に披露した。
「私の両親は流れの傭兵でして、ここが生まれ故郷だ、と言うような場所はないのです。ただ両親は『翼の大陸』で生まれ、そこで結ばれて自分を産んでくれたそうですから生国は翼の大陸のどこか、と言うことになるでしょうか」
「ほほお、ずいぶん遠くからいらっしゃったのですな」
「ええ。そうですね」
実際、思えば遠くへ来たものである。
参考までに言うと、俺が生国と語った『翼の大陸』とはミーリアでは東方にある大陸の名前である。エルフとドワーフの2大王朝が長い間いがみ合っていることで有名な大陸で、俺が今いる場所からは遠く離れた遠方の地に当たる。ちなみにこの世界でも伝統的にエルフとドワーフの仲は悪い。このあたりは|古いタイプのファンタジー好き《前任の創造神》の傾向と言えた。
「旅暮らしと言うことは、イヌイ殿もご両親と同じ傭兵なので?」
次に少し離れたところにいたゴブリンからそんな質問が飛んできた。以前さくらの説明にあったように、ミーリアでは一部職種を除いて生国を離れることは稀である。そしてその例外的な職種とは交易商人と傭兵なのだ。俺が商人を名乗らなかった以上、両親も傭兵だったと言う設定もありその可能性が一番高いと踏んだのだろう。
しかしそれに俺は首を横に振った。この質問も、俺の嘘履歴は想定済みだったのだ。
「両親は傭兵でしたが、どうも両親は自分達とは違う道を歩んで欲しかったようで。10の時に両親の知人に預けられたんです。その知人、育ての親はドワーフで、『モリニア』の彼の元でしばらくは暮らしていたんですよ」
そして生国を離れてからは旅先の街々で日雇い仕事をしつつお金を貯めて旅をしていた、と俺は説明する。
傭兵を名乗った方が手っ取り早い気もするが、ミーリア滞在1日目の俺は当然傭兵ではない。この世界の傭兵は資格制で地元の『傭兵組合』に登録されてはじめて傭兵を名乗れる仕組みだ。俺の名前を名簿に潜り込ませることは『特典』で可能だったが、俺はそれをしなかったのだ。
なお『モリニア』とは正式名称『モリニア=ドワーフ16部族連合王国』と言う。翼の大陸にあるドワーフ側の国家の名前だ。それは某指輪のアレな物語に出てくるドワーフの鉱山の名前に由来しているとか。つまり創造神の趣味である。そして一応俺の偽履歴では故郷となっている。
「では、今もご両親は壮健で?」
「いえ。俺を知人に預けたあとに、両親は仕事中に盗賊の襲撃で帰らぬ人に」
それはお気の毒に、とお悔やみの言葉をくれるゴブリン一同。俺は古い話ですし、と明るくそれを謝す。このやりとりは生前から慣れたものだ。そう言えば昔さくらにも嫁さんの話をしたときに似たようなやりとりをしたっけか。
しかしゴブリンはこの後ちゃっかり「ご両親の冥福を祈って!!」と杯を干す口実に使ってくれた。いっそこれくらいの方がさっぱりしていて気分がいい。その点だけでもゴブリン達を好きになりそうである。
「――――だが、ずいぶんな腕の冴えではないか。
傭兵でもないのに、賊ども4人を一手に相手取るのはなまなまか事ではないぞ?」
すると今度は俺の左隣にいるウルスカル卿が話に入ってきた。彼は目元がやけに赤い。「くま」顔だからよく分からないのだが、だいぶ飲んでいるのだろうか。宴から30分も過ぎていないのだが。
「子どもの頃に両親に手ほどきを受けました。あとはその両親の知人も元傭兵だったので。
……見よう見まねというものですよ」
「ほほう。なるほどなあ……」
「それに4人を相手取れたのは、何度も言うようにクナンやスヴェンが奴らの注意を引き付けてくれたのと、俺の使い魔が優秀なだけですから」
そう言うとウルスカル卿は俺の話に食い付いてくる。
「そうそう!! 卿は魔術師でもあったのだったな!? それもご両親に教わったのか!?」
「魔術は私の育ての親の友人である海魔族の魔術師に教わりました。私の腕はさほどではないのですが師は優秀で、この旅に出る時に餞別にと彼を譲ってくれたのです。私はともかく、この子はたいそう優秀な使い魔ですよ」
「海魔族!! なるほどなあ!!」
海魔族は優秀な魔術師を多く輩出する一族である。タコなのに。あるいはクト○ルフ様ゆえか。そしてこの世界では、おかしな魔法の事物について『海魔族の仕業』と言うと大抵の人間が「ああ、なるほど」と納得する。彼らの感性は陸暮らしの5種族とは相容れない物も多いのだ。SAN値が0だからなのだろうか。とにもかくにも便利な言い訳なのである。
そしてその多分に漏れず「ああ! なるほどなるほど!!」と連呼するウルスカル卿。周りもほおお、と俺の話に頷いている。くだんの嘘経歴だが、今のところは特に破綻はないようだ。
実はこの嘘履歴、天界の頭脳、つまりさくらをはじめとした神々がよってたかって知恵を寄せ合いでっち上げたまさに神履歴なのである。まあ天界のお歴々が俺をダシにして遊んだとも言う。その証拠に細かくしょうもないところまで作り込まれた嘘履歴は未だその片鱗程度しか明らかにされてはいなかった。
俺や一部の真っ当な神様は少し遊びすぎだし経歴を盛りすぎて逆に不自然じゃないかと危惧したが、ゴブリン達は不審に思っている様子はなかった。これはさすが神履歴と言うべきなのか、あるいは今は酒で誤魔化せているだけかも知れない。
「なるほどのう!!
見たことのない使い魔殿だと思ったが、海魔族の産ならそれも頷けるな!!」
俺の傍らで、いままでずーっと俺のために木の実の殻を割っていたにょろは「自分の話ですか?」と不思議そうにこっちを見た。するとウルスカル卿はにょろに臆することなく手をさしのべる。ミーリアに来てにょろに自分から触りにいったのは彼が初めてじゃないだろうか。ゴブリン達もさすがに害はないと分かっても自分から寄っていくことはなかったのに。どうしてなかなか肝が太い人だった。
にょろは頭をグローブのような手でガシガシと撫でられると「てけり~」と鳴いて卿の太い腕に触手を絡めると少しだけ愚図った。どうも力が強すぎて痛いようだ。しかし卿は「おお!? 絡みよるわ!!」と逆に大喜び。
「トーゴ殿!? この子を私に呉れまいか!?」
と某風の谷のお姫様がキツネリスを強請るようなことを言ってきた。にょろは慌てて卿の手をにゅるりと抜けて俺の懐に潜り込む。すると辺りに穏やかな笑いが起こった。
「騎士様は嫌われたようですぞ!?」
「やはり本当の主の方がよいと見える!」
やんやと囃し立てるゴブリン達。俺は「大丈夫だから」とにょろを宥め、ウルスカル卿とゴブリン達にお酌をするようにお願いした。にょろは涙目になりながら怖々と卿の杯に酒を注ぎ慌てて離れる。それにまた笑いが起こり、今度はゴブリン達に普通に酌をするとゴブリン達は「何と利口な使い魔だ」とにょろを褒めて木の実や乾燥果物をあげていた。俺が食べていいよ、と言うとにょろは食べ物をくれたゴブリン達に触手でお辞儀をしてから身体に開けた穴にそれらを放り込んだ。にょろが身体を揺らしてそれを咀嚼すると何故かぱちぱちと拍手が起こった。ゴブリン達もだいぶ彼に慣れてくれたようである。
「……やはり譲っては、呉れまいなぁ……?」
「てけり……っ!!」
「……申し訳ない。本人もこう言っているので、ご容赦願ください」
俺がまた懐に飛び込んできたにょろを抱きながら頭を下げるとまた笑いが広がった。ペットショップに来た子供のように「そうかあ」と指をくわえるウルスカル卿。
するとそこにポラリア卿が、酒杯を傾けているにも係わらずまったく変わらない顔色ではじめて言葉を挟んできた。
「ご安心下さい。本人が嫌がるものを無理矢理自分のものにするような甲斐性は全くない御仁ですので」
そして表示がなくても一目で分かるほど含みのある表現で上官を評するポラリア卿。
それにウルスカル卿は赤くなった目元をいっそう赤くして噛み付いた。
「ぼ……っ! わ、わたしもやる時はやる男だぞ!?」
「そうですか……? 以前貴族館で行われた園遊会でどこかの令嬢に懸想したのは良いものの、『毛深いのはイヤ』と一言言われただけで泣いて会場を飛び出したのは一体どこの誰でしたか――――」
「わ――――っ!? ポーラ姉さ――――んっ!?」
上座に、下のゴブリン達と遜色のないげらげらという盛大な笑い声が響いた。すっかりうち解けた俺も、お誕生席で素直な笑い声を上げた――――
主人公のミブン=サショウ=ジツが炸裂する! ワザマエ!!
主人公の神履歴については、おいおいその内容の意味について明らかになることでしょう。
これからも変わらぬご愛顧の程、よろしくお願いいたします。