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乾 東悟の行きて帰らざる物語  作者: 高原ポーク
第1章   乾 東悟、死んで神様と出会い異世界ミーリアに降り立つの段
20/31

17.乾 東悟とお誕生席

 今度はゴブリン達と宴会です。今回は開会の言葉。


 PV数、お気に入り登録等の日々の増加に作者がヒャッハァー!!と肩パットを揺らして喜んでいます。ウメー、種籾ウメー。


 皆様のご愛顧に心より感謝申し上げます。





 山賊達を官憲へ引き渡し、ようやく俺は一仕事終えて身体を休めることが……出来る訳がなかった。またか。人これを天丼という。いい加減しつこい。



 夜である。日はすでに傾き、空には月が上がっていた。ミーリアは果たして異世界だった。空には6つの月が煌々と光を放っている。6種族を象徴するというそれらのお陰でこの世界の夜はひどく明るい。そして集落は夜だというのにいつにない喧噪に包まれていた。





 集落の中央にある広場にたくさんのゴブリンの男達が集まっている。そこの広さは小学校の校庭程度の広さがあるのだろうか。剥き出しの地面の何箇所かに木が組まれ、小さな焚き火が煌々と燃えていた。


 そしてそれらの周囲にゴブリン達は思い思いに車座になって腰を下ろしていた。彼らの前には蕗のような形の大きな丸い葉っぱの上に盛られた木の実やキノコの肴と、ヒョウタンのようなもので作られたカップが置かれている。焚き火の脇にはそれぞれひとつずつ、ゴブリン達の身長よりも大きな陶製の(かめ)が鎮座(ましま)しており、見ているとゴブリン達はそこから少し白濁した液体を掬っては次々と隣に回していた。



 俺はと言うとその広場の端、石積みによって一段高く作られた階段状の高台のようなところに雛人形よろしく座らされている。

 高台は幅が10m以上はありそれなりに広かった。そこに俺の他には長老であるカロン翁に庄長(さとおさ)のコルナン、その他一番最初に集落に来た時に顔を合わせた老ゴブリン達数人とその他に壮年のゴブリン達。そして巡回騎士ウルスカル卿と彼の副官ポラリア卿が、ずらーっとこんな感じの(→⌒)緩やかな半円を描くように並んでいた。


 下の段と同じように上段にも小さな焚き火がふたつあり、俺の目の前にはこちらは木製の平皿に盛られた木の実やキノコ、乾燥果物と言った肴や木製の脚付杯(ゴブレット)が置かれている。おそらくこれは酒杯であろう。しかしニスを塗ったように艶やかなそのゴブレットの中はまだ空だ。


 一段高いところから見渡せば、ゴブリン達は皆和気藹々とした雰囲気で周りと言葉を交わしていた。近くの輪で起こった「もっとたっぷり酒を注げ」だの、「この後いくらでも飲めるだろう」だのとワイワイ言い合う声が微笑ましい。下手をすれば文字通りお通夜のような雰囲気がこの集落を包んだはずだったのだ。それを思えば喜ばしいことだった。


 だが、俺個人はその和やかな雰囲気へ素直に溶け込めないでいる。


 何故って、広場のお誕生席(高台)、そこに並ぶ重役席のど真ん中でさらにもう一段高い木の座椅子に座らされた挙げ句、広場のゴブリンの視線を一身に集められれば俺だって心穏やかではいられないのである。


 『村の恩人に対する感謝と歓迎の宴』と言われてお呼ばれしたからにはそりゃこんな扱いも多少は覚悟していたのだが、正直100人以上の規模で宴会をするとは思っていなかった。それに頭で考えるのと体感するのでは大違いである。俺は強張った顔で固まる以外にしようがなかった。


 本来、こう言う席(お誕生席)は俺の記憶が確かなら地方議員とか建設業組合の組長とかが座る席なのである。場違いである。なんだかんだ言っても俺の前歴は土建屋のしがない平社員なのだ。死んでも習い性(下っ端根性)は消えないのだった。





 広場にいるゴブリン達全員に酒が行き渡ると、俺の右隣にいた庄長が立ち上がり高台の縁に歩み寄っていった。ついに宴が始まるようだ。



 庄長コルナンは貫頭衣の上に30㎝ほどの幅がある、細かな紋様が見事に織り込まれた布を肩掛けにし、腰には濃紺に金糸をあしらったやはり煌びやかな腰帯を締めていた。これがゴブリンの正装なのだろうか。他のゴブリン達も庄長ほど見事なものではないものの、それぞれに色とりどりの肩掛けと腰帯を着けている。


 ちなみに俺の格好は皮の上着と鎖帷子(チェインメイル)を脱いだだけだ。鎧下代わりの白い綿のシャツに黒い皮ズボン、革のベルトには一応ボウイーナイフだけを帯びている。正装とは言い難いが、異世界初日で服は垢染みてもいないし旅人を名乗った以上そこまで失礼ではない装いだと思う。



 コルナンが両手を広げるとがやがやと騒がしかった広場が波の引くように静かになった。彼はひとつ空咳をすると大きな腹をふるりと揺らし、声量豊かに語りかけた。





「ニエブラ庄の男達! 我が同胞よ!! 今夜は喜ばしい夜だ――――!!」



 庄長の素晴らしいバリトンの声が広場に響き渡る。



「皆も知っての通り、今日の昼に我が庄の若者衆頭クナンと右手組頭スヴェン、そして幼子が山賊どもに襲われた。しかし、山賊どもは通りがかった侠気(おとこぎ)ある旅人の助けによって捕らえられ、(さと)の同胞は無事であった!!」


 すると広場のゴブリン達から「ぐぎぃ――――っ!!」と言う歓声が沸き起こった。コルナンは少したってから手を挙げてそれを制する。そして続ける。



「山賊どもの正体は街で暴れていた盗賊傭兵団(クラン)ぼろもうけ(ジャックポット)』と言うそうだ。街でも鼻つまみな者どもで賞金も掛けられていたという。しかしこれで山賊どもは全て捕まった。ちょうど巡回に立ち寄っていただいた巡回騎士様にご確認いただき、明日にも連中は引っ立てられる!

 それと念のためにしばらくは手勢を我が庄にお留めいただき、もし残党がいた場合にも備えてくださることとなった。――――巡回騎士様に感謝を!!」

「感謝を――――!!」


 再びの歓声。それに俺の左側、俺と同じように木の座椅子に悠然と腰を下ろしたウルスカル卿が手を挙げて答えた。すると歓声はいっそう大きくなる。さっきは話の種にした彼だが、その様子はいかにも人の注目を浴びるのに慣れた風だ。さすがは騎士様。俺よりよほど落ち着いている。16歳などと馬鹿に出来ないのだった。



「此度の事は、きっと救世の女神様が(よし)みたまう事ではある! その事に感謝の尽きることはないが、いまひとり、我らは深い感謝を送らねばならない方がいらっしゃる!!」


 するとコルナンが俺を手招きしてくる。……ついに来たか。


 宴会が始まる前にあらかじめ打ち合わせてあったのである。「開宴の前に一言を」と。

 正直勘弁して欲しいんだがこれも主賓のつとめだしゴブリン達との重要な顔合わせでもあった。それに、俺にはもうひとつ目的もあるのだ。

 俺は意を決すると立ち上がり、緊張にふわんふわんする脚を動かしてコルナンの隣まで歩いていった。


 お立ち台に到着すると、十重二十重のゴブリン達の視線に俺は取り囲まれた。知らず知らず固唾を飲む。コルナンは俺が自分の隣に着いたことを認め、俺が小さく頷くのを見てまたゴブリン達の方へ向き直った。



「このお方がイヌイ=トーゴ殿!! 単身で4人の山賊どもを生け捕りにし、我が同胞を救ってくださった(さと)の恩人である!! ――――侠気ある旅人殿に感謝を!!」


 歓声。うわあ、顔が赤くなるのが自分で分かる。



「此度は庄の恩人への感謝と歓迎のため、ささやかではあるがこのような宴席を設け、イヌイ殿をはじめ巡回騎士様方にもご列席を賜った!! 我らも同胞の無事を大いに祝い、ともによしみを深めたいと思う。


 ――――だが、我ら小鬼族(ゴブリン)は誇りと恩を知る者である!!

 我々乙人(おとな)衆と長老衆は、イヌイ殿に心から感謝し、宴の他に何か報いるべきものはないかと考えた。そしてイヌイ殿への恩に、かの御仁が望むように答えることを乙人、長老全員の賛成によって決めた!!


 小鬼族の恩義は我が故郷なる森よりも深いことを、神々にも御照覧あれかし!!」


 後照覧あれかし!! と唱和するゴブリン達。確かに、神様(さくら)はあなた方がいい人達だと言うことを知っている。そこに付け込みましょうと決めたのも彼女だけれど。

 そしてコルナンは俺を腕で示す。



「――――その内容については、イヌイ殿ご本人に窺った方がよいだろう。――――イヌイ=トーゴ殿!!」


 そしてまた爆発する歓声。喉がカラカラに乾いてひっつきそうだ。とは言えこれが正念場である。

 ついさっき、俺はカロン翁や庄長に恩人として()()お願いをした。そしてそれは前もって庄の有力者に(はか)られすでに上の認可は受けている。これから俺はそれをなるべく反対の空気を醸し出さずに集落の大多数のゴブリン達に受け入れて貰わなければならないのだ。


俺は今までの間ずっと捻っていた文面と、勤め人時代に培った酒宴の席での経験を総動員して頭の中で台本をでっち上げていた。ゴブリンがするように胸に拳を当てる。なんて事はない、手の震えを誤魔化すためである。俺は大きく息を吸った。



「たっ。……だいま、ご紹介に与った、乾 東悟です!!」


 最初の「た」が少し上擦ったが、何とか声が出てくれた。あとはどうにでもなれと腹をくくり、俺は言葉を続ける。



「こ、このような宴席にお招きいただきありがとうございます。さらに過分なお言葉を賜り、その上御礼まで頂けるとのこと、小鬼族のご厚情に心より感謝申し上げます。


 先ほどはお褒めいただきましたが、庄長様が言ったように、森で山賊どもに出くわし、私程度の腕で皆様のご同胞を助けることが出来たのもまた神様の思し召しに他なりません。私も神様に感謝したいと思います――――」


 ぎぃぃっ!! と上がる歓声。これが嘘偽りのない『神様(さくら)の思し召し』だと知ったら、彼らは一体どう思うのだろうか。



「……ところで、先ほど庄長様がたに何を望むかと問われ、私は厚かましくもいくつか提案をさせていただきました。この場を持って、ご報告させていただきたいと思います。


 先ほどのご紹介の通り、私はただの旅人です。『連邦』の土を踏んでまだまもなく、この地に知るものとてない風来坊に過ぎません――――」


 これも嘘ではない。俺はこの地(ミーリア)を踏んで1日にも満たない正真正銘の根無し草だ。しかし嘘もある。恩着せがましく報酬を強請ったのは俺の方からであり、ただ彼らの外聞と沽券に係わる問題によって小鬼族側から報酬を打診してきたという話にしているだけである。

 続く話にゴブリン達の視線がいっそう俺に突き刺さる。一体俺が何を望んだのかと注目しているのか。しわぶきひとつ起きない中に俺の言葉だけが響いていた。



「……なので、私は未だこの地に来て日が浅く、ここの風土しきたりに詳しくはありません。そして私はできるなら、この地に出来るだけ長く居たいと思っており、どこかでそれらを学びたいと思っていました。ですから、私は厚かましくもお願いをしました――――。


 ――――私を数週間の間だけ、この集落に滞在させて頂けないでしょうか、と!!


 私は、その間に皆さん方とひとつ屋根の下に寝起きし、同じ物を食べ、一緒に働きながらここでの暮らしを学ばせていただき、そして皆様方と(えにし)を結びたいのです――――!!」



 俺は山賊の引き渡しのあと長老や庄長たちに行った『お願い』とは、しばらく集落の厄介になりたい、と言うことだったのだ。


 これはまず安全にミーリアでの生活をはじめるための準備期間であり、こちらの生活に慣れるための準備運動でもある。同時にこの小鬼族の集落と良好な縁故関係を築いて天涯孤独な俺に多少の伝手(ツテ)を作ろうという狙いも含んだ、神様直伝、一石三鳥という優れものの策なのだった。

 特に今後、この地域周辺で暮らす上で地域の一集落と優良なコネクションを築ければ心強い。しかもこの集落はさくらが太鼓判を押した優良物件だ。いわば神公認のコネクションである。


 『恩を売ってしばらくは集落でご厄介になり、その間にミーリアに慣れ彼らと良好なコネクションを作る』――――これが俺の『下心』なのだった。



 そしてまだ、俺の『打算』は終わっていない。


 ざわざわと、俺の提案を吟味するようなざわめきがゴブリン達の間で起こる。実はこの提案をした時にカロンやコルナンが似たようになった。

 つまり「へ? そんなんでいいの? 追加報酬とか要らないの?」とこちらの軽すぎる要求に首を傾げたのである。ずっと居着きたいというのならともかく数週間と期限を区切り、その間の応対も「特別扱いは無用」と言ったのでなおさらだった。そこに俺は畳み掛けるように言葉を連ねる。



「そして、もうひとつのお願いなのですが!

 先ほど庄長は私がひとりで山賊を倒した、と仰いましたがそれは誤りです!!」


 俺の告白にさらにざわめきが大きくなる。どこかでクナンはまた苦虫を噛み潰したような顔をしているかも知れない。



「私は確かに山賊達を撃退しましたがそれは私ひとりで為したことではありません。

 怪我をした少女を助けるため、決死の覚悟でその場に留まった若者2人の勇気があればこそ、私は山賊達の不意を突き、運良く倒せたに過ぎないのです!!


 ですから、私はもうひとつ提案させていただきます!!

 今回の功績は私だけではなく勇敢な2人の若者達と1人の少女、あなた方小鬼族達と分け合うべきものであると!


 具体的には、私は賞金首に関わる権利のうち、彼らの装備品についての権利をあなた方小鬼族にお譲りしたいと思います!!」



 俺が言い終わると、ゴブリン達のざわめきはどんどんと大きくなってついにはどよめきに近くなった。


 「俺たちに賞金を分けるって事か?」と言う声がそのどよめきに掻き消されることなく俺の耳に届く。俺の報酬の話をしていて当の俺に「報酬をそっちにあげます」と言われたら、「サンキューやったー!」と言う前にやはり一度は戸惑うのだろう。

 そのどよめきが頂点に達した時、コルナンが「同胞たち!!」と大音声を発した。それだけで全員の意識が彼に向く。さすが庄長。場慣れしているのである。



「同胞たち!! 恩人の願いは届いたか――――!?

 イヌイ殿は僅かな間だけでも我らの同胞となることをお望みになったのだ!! 我らと同じ物を食い、同じ屋根の下で寝ることを望まれた!! その事に私はもちろん、乙人も長老達も異論はなかった!! 我ら小鬼族に恩人を拒む扉はあらず!!


 そして、さらにイヌイ殿は山賊どもの『剣の権利』を我らと分かち合いたいと仰る!!

 イヌイ殿は功を誇ることなく、我ら小鬼族と糧を分かち合うことを前もって示されたのだ!! 私はその心根に真心を持って返そうと思うがどうか!?


 同胞達よ!! 恩義を知る小鬼族達よ! 汝らはどうか!! 汝らは恩義を知るか――――!!」


 ――――一変、会場が爆発したような歓声に包まれた。



「然り!!」

「我らは恩義を知る!!」

「俺も認めるぞ―――!!」


 叫ぶように、口々に賛成票を投じるゴブリン達。


 報酬の折半は俺の滞在費代わりのようなものだし、同時にご機嫌取りのようなものでもあった。それに『剣の権利』と格好良く言ってみても追い剥ぎめいて得た金に違いなく、やはり多少は気持ち悪い気がしたのでお大尽よろしくひと思いに使ってやれと開き直った点もあった。

 まあゴブリン達にしても自分達の仲間が勇敢だったと言われれば悪い気はしないだろうし、さらに自分達にも臨時収入があったと思えば俺のことを邪険にはしないだろう。そして山賊護送の協力に対する感謝の印という意味も持つという、これが俺の打算である。


 はたしてそれが功を奏したのだろうか。会場はだいぶ盛り上がっている。いつの間にか「イ・ヌ・イ!! イ・ヌ・イ!!」とどこかのプロレス会場のように俺の名を呼ぶゴブリン達。結構ノリがいいなゴブリンって。

 思えば庄長の煽り方も上手かったと思う。ああ言う風に感情的に煽られれば「違う!!」とは言い辛いものだ。男ならなおさらである。横目に窺うと小鬼族の長は満足げに頷いていた。頷きながら両手で「もっと騒げ!!」とゴブリン達を煽っている。そうか。このイヌイコールはアナタのせいか。

 そして会場の盛り上がり方に大いに気をよくした庄長は、さながら某闘魂の人のように拳を高らかにあげて宣言した。





「――――よろしい!! ならば乾杯だ!!」


 その瞬間、100を越えるカップが打ち鳴らされる音が耳を聾する勢いで辺りに響き渡った。庄長の乾杯の合図にフライングじみたスピードでゴブリン達が自分の周りの連中と乾杯をはじめたのである。気が付くと誰が渡してくれたのか、いつの間にか俺の手に酒の入ったゴブレットがすっぽりと収まっていた。不思議!!

 俺と同じように、まるでマジックの如く杯を手に出現させたコルナンがまた俺を窺う。するとあっと言う間に1杯目を飲み干し、凄いスピードで2杯目の酒を回している会場のゴブリン達と目があった。すでに自分の酒を持っている連中はいまにも酒甕に頭から飛び込みそうな目で俺を見ている。俺が何を期待されているのかはすぐに分かった。俺はコルナンに目礼をして確認を取ると、最後のお勤めだとばかりに勢いよく手の杯をかざして叫んだ。



「……あー、――――小鬼族に!!」

「――――新たな同胞に!!」


 号令と共に俺は中身もよく確かめずに杯を呷った。すると少しとろりとした液体が口の中を滑り降りて喉を焼く。異世界ではじめて飲んだ酒はどぶろくに似ていたが匂いと甘みには一種独特な風味があった。そして飲み口の甘さの割に強い酒で、勢いよく入れた俺は思わず酒精に噎せてしまう。それにゴブリン達はどっと湧いて、どこかのお調子者が「同胞の健康に!!」と音頭を取って新たな乾杯をはじめた。


 涙目になっている俺にコルナンが「なかなか良い口上でしたぞ」と耳打ちして俺の手際を褒めてくれた。俺は咳き込み、そして小さく苦笑して「最後にオチも付きましたしね」と少し震える声で答える。腹を揺すってコルナンは笑い「さあ新しいご同胞、今日は貴方が主賓だ」と背中を叩いて俺を席に誘う。

 自分の席に戻りながら、俺は未だに震えている体で大きくため息を吐いた。



 最後の仕事がこれで終わった。訳が分からぬ盛り上がりによって行われた乾杯のなし崩しに、俺の滞在は集落の男達に承認されたのだった。あとは楽しい酒盛りの時間である。お誕生席の気後れはあるものの、緊張感の緩んだ俺は少しだけ楽しみな気分で手に持った杯から慎重に酒を舐めたのだった。



 こうして、宴は始まったのである――――





 これにて主人公はしばらくゴブリンの集落に厄介になることになりました。


 次回以降はしばらく酒盛りが続きます。その間にひとつだけ、飯テロと言いますか、子どもの頃から憧れている料理をひとつ入れました。楽しんで頂ければ幸いです。

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