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乾 東悟の行きて帰らざる物語  作者: 高原ポーク
第1章   乾 東悟、死んで神様と出会い異世界ミーリアに降り立つの段
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1.乾 東悟大地に立つ





 目を開けると、そこは鬱蒼たる深い森だった。


 皮のロングブーツ越しに腐葉土を踏む柔らかな感触を認める。頬に受ける空気は暑くもなく寒くもない。俺がいるのは、仲秋の爽やかな風の渡る豊かな原生林のただ中だった。





「……異世界って言っても、植物はそこまで突飛な感じじゃあないんだな……」


 そうひとりごちながら、俺は黒い革手袋を嵌めた手で木の幹を撫でた。それは幹がピンク色をしている訳でもなく、あるいは葉っぱが奇妙な形をしている訳でもないし、もちろん枝を伸ばして攻撃してくるはずもない。身を屈めて地面に落ちている小さな実を拾うと、それは小さな茶色い実だった。木はどこにでもありそうな広葉樹だし、その実はドングリとしか言いようのない実なのだった。


 俺は手に持った実を、何となくズボンのポケットに突っ込んだ。そして濃密な木々の気配を含む空気を一杯に吸い込み、吐き出す。自分が今、ちゃんと息をしていることに奇妙な感動があった。俺は今、確かに肉体を持ってこの大地に立っているのだ。



「……ははっ」


 なにやら独りでに笑みがこぼれた。これに似た想いを感じたのはいつ以来のことだろうか。始めて職場に出勤した日の朝か、あるいは生まれて初めて自分の一軒家(まあ借家だったが)に引っ越しして玄関に鍵を差し込んだ時以来か。つまり俺は、年甲斐もなく興奮しているのである。


 すると、そんな俺を(なだ)めるように、くいくい、と袖を引っ張るような感触があった。俺は足下に視線を移す。そこには、俺の同行者がつぶらな瞳を向けていた。

 俺は「ああ、悪い。ちょっと我を忘れてた」と素直に言う。すると()は、滑らかな()()で「よかったね」と祝福するように優しく俺の手を撫でた。彼は俺の僅かな言葉から、俺がなんで「我を忘れた」のか、その心境をすぐに察してくれたのだ。俺はその柔らかい触手状の器官を軽く握って気遣いに感謝の意を示した。彼は自分の身体である不定型な黒い肉塊ををふるふると嬉しそうに震わせた。



「て、てけり……り!」



 この、南極に住む奇妙な鳥にも似た鳴き声を上げた彼は、俺の第2の人生に付き合ってくれる同行者である。神様曰く「いにしえの奉仕種族の生き残り」だとか何とか。


 彼は黒いタールのような身体をした不定形の存在で、目とか口とかを自由に作り出すことができ、可塑性のある身体を伸ばせば10m以上先にある物もその触手で掴むことが出来るという不思議な生き物だ。

 普段はバスケットボール大の黒いわらびもちのような身体に、大きな丸い目がひとつといくつもの触手を伸ばしたような形状をしている。正直最初はその不気味なナリにドン引きしたが慣れれば結構愛嬌があるなと思えるようになった今日この頃である。

 性格も奉仕種族と言うだけあって人に喜んで貰うのが何より好きという働き者で、褒めると()()()()と触手をくねらせる様はかわいい物だ。彼(厳密には性別は無いのだそうだが便宜上俺は男の子として扱っている)は神様の所で働いていたのだが、俺の何が気に入ったのか付いて行きたいと志願してくれたのだった。物好きだと思わなくもないが、有難いことではあった。


 ちなみに名前は「にょろ」と言う。命名の由来はまあ見た通り。にょろにょろしてるからな。触手が。



 ここは現実の世界だが、異世界なのだ。

 手にじゃれついてくるにょろの触手をあやしながら、俺はいっそう笑みを深くする。

 この世界には、にょろのような奇妙奇天烈な生き物がごくごく普通に存在するらしい。


 異世界。上等じゃないか、と思う。

 どうせ生まれ変わったんだ。とことん新鮮な気分って奴を味わえばいいのだ。



「――――これからよろしくな、にょろ」

「てけりっ♪」





 そうして俺とにょろは、異世界の大地に記念すべき第1歩を踏みしめたのだった。





 近年だいぶ市民権を得てきたクト○ルフ要素をおもむろにぶち込んでみる。シ○ゴスかわいいよショ○ス。実に日本人らしいクト○ルフ神話のとらえ方。すでに20年前にはクト○ルフネタのエロ小説が存在した国を舐めるなと言うことですよ。近年の萌えクト○ルフの萌芽はすでに始まっていたのです。ところで私は何を熱く語っているのでしょうか。きっと疲れているんだ。すると私の部屋の扉を叩く音がする。ああ! 窓に! 窓に! 

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