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乾 東悟の行きて帰らざる物語  作者: 高原ポーク
第1章   乾 東悟、死んで神様と出会い異世界ミーリアに降り立つの段
17/31

14.乾 東悟のニエブラ庄探訪(1)

 すいません!!

 午後2時ごろ、何故かデータがおかしな事になって、翌日投稿予定の文章と本日分がすり替わるという不思議現象が発生しました。慌てて再投稿。

 さて。山賊達をにょろの大活躍により撃退し、クナン達小鬼族(ゴブリン)を無事助けることに成功した俺、乾東悟である。


 紆余曲折の末、俺は神様(さくら)の思し召し通りゴブリン達に恩を売ることにも成功した。そしてトントン拍子のうちに山賊連中の官憲への引き渡しも兼ね、彼らの集落であるニエブラ庄にご招待頂けることになったのである。傭兵達は犠牲になったのだ。俺の異世界(ミーリア)での円滑な滑り出しのためのな。





 クナン達との打ち合わせにより、取りあえず山賊連中はここに縛って置いておき自分達だけで集落に向かうことになった俺たち。足を怪我したニオブを含む5人(にょろ含む)だけでコイツらを集落に連行するのはなかなか骨だと俺が言ったからだ。それにこのまま連行するとして、連行中にもしコイツらの仲間にでも襲われたらニオブを抱えさらに大量のお荷物込みで対処しなければならなくなる。少なくともニオブの安全だけは先に確保しておく必要はあった。


 するとクナンやスヴェンははじめ俺の言葉に難色を示した。ここで目を離した隙に山賊どもに逃げられたら再び凶悪な犯罪者を野に放つことになる。それくらいならいっそこの場で殺してしまった方がいいんじゃないかと提案してきたのだ。彼らが言うに賞金首は基本『|デッド オア アライブ《生死問わず》』で、本人確認が出来れば文字通り()()()を連行して差し上げても賞金額は変わらないのだそうだ。殺すという言葉に山賊連中は大いに反応し、さながらフラ○ーロックのようにモガモガと呻き回った。しかし俺はその意見を却下した。

 それは別に人道主義に目覚めたからでも山賊達を直接手に掛けることを厭うからではない。そうした方が()()()のためになると、俺が天界で勉強したこっちの法律ではそうなっているからである。その事についてはいずれ語られることだろう。とにかく俺は2人を説得し山賊達を取りあえずは生かすことに決めた。


 しかしクナン達の危惧もよく分かる。なので俺は彼らの不安を払拭すべく、またしても有能な同行者にお願いすることにした。頼りっぱなしで本当に申し訳ない。当の本人(にょろ)は俺の『お願い』に身をふるふると震わせて喜んでいるが。どうしたものか。

 これまで遺憾なくその有能ぶりを発揮しているにょろは、一声鳴くとその不定形の身体をぶるぶると震わせた。そしてぽんっ、とバスケットボールサイズの身体から自分よりやや小さい、ハンドボールサイズの『ちびにょろ』を分離したのだ。分離後のにょろの身体は一回りほど小さくなっているがどう見ても割が合わない。物理法則も飛び越えるさすがの不定形。何でもありである。


 「コイツらの見張りを頼みたいんだが」と俺が頼むとちびにょろは「てけりっ♪」と親にょろと同じように触手で了解の意を示し、俺が言うまでもなくさっそく旺盛に働きだした。

 まずは地面に転がっている山賊達を軽々と運んではポイポイと1カ所にまとめ上げる。身体の小ささに似つかわしくない怪力である。次に手際よく拘束に使っていた肉紐を融合させ山賊達を数珠繋ぎにし、彼らを太い木の幹の回りに巻くようにして固定した。最後にちびにょろは親にょろと同じように触手を使って樹上に身を躍らせる。ちびにょろの姿は梢の中に消えまったく分からなくなった。そこには木に縛られた山賊4人が藻掻いているばかりである。ここまで僅か1~2分の間の早技だ。なんというワザマエ!


 彼らに自力で拘束を解くことはおそらく無理だし、もし彼らに仲間がいて助けようとすればちびにょろによって彼らと同じ運命を辿るだろう。まさに山賊ホイホイである。

 「これでいいだろう?」とクナンとスヴェンに確認すると、2人はかくかくとボブルヘッドのように首を縦に振って了承した。使い魔として紹介されたにょろの優秀さに目を剥いているようである。そこには畏敬の念すら見て取れるような気がする。2人は曰く言い難い目を俺の相棒に向けているのだった。


 まあ、想定出来たことである。にょろはモンスターや魔法に満ちたミーリアでも少数派(マイノリティ)に分類される存在だった。しかもその身にさくらによる魔改造を受けた彼は実のところ『規格外(チート)』としか言いようがないのだ。さすがに伸縮自在分離自由の不定形生命体はデタラメすぎたのである。

 そんな彼の同行については当然さくらとの間に一悶着があったが、最終的に同行そのものはにょろ本人の意志だし、にょろの力はあくまでにょろ本人のものであり過分な力はいらないと言う俺の主義主張とはまったく関係のない話だと屁理屈をこねられて押し切られた。

 そして俺とさくら、にょろの3者による厳正な協議の結果、


 ・俺に付いていけないと思ったら素直に天界に帰ること。

 ・にょろの生命に拘わるような無茶な命令、ミーリアの現行法及び社会道徳に反するような命令は絶対に受けないこと。


 と言う2つの点について遵守することを条件に、俺は彼の同行を認めてしまったのである。


 まあぶっちゃけていうと、ひたすら涙を浮かべて見上げてくるにょろの瞳に根負けしたとも言う。俺はもしかして女子どもの泣き落としに弱いんだろうか。一方は200歳越えのなんちゃって中学生でもう一方は年齢性別不詳の謎の生命体だというのに。



 なにはともあれ。

 俺たちは枝の隙間から触手を振るちびにょろに山賊達を任せ、ゴブリンの集落に向かったのだった。









 ニエブラ庄はここからだと徒歩で20~30分ほどの距離であるという。


 俺たちは遅まきながら現状が緊迫していることに気が付いた。考えてみれば、それはあんな山賊達が集落の目と鼻の先のところを彷徨(うろつ)いていたと言うことだ。集落の緊急事態だったのだ。


 そのため、俺たちはまず先触れとしてクナンが集落に注意を促すために先行して走る事に決めた。そして俺とスヴェン、ニオブとにょろの4人で他の山賊が居ないかを警戒しながら進むことにする。

 1人別れたクナンに俺が「1人で大丈夫か」と聞くと、彼は幼いニオブがいなければ生まれ故郷の山の中でヒト族(ウィル)におさおさ遅れは取らないと胸を叩いて請け負った。要はさっさと逃げるから大丈夫、と言うことである。クナンはその言葉通り、小さな身体に似合った素早さで茂みの奥へと消えていった。



 先に発ったクナンと分かれ4人で森を進む。

 先頭は道案内のスヴェンでシカの角の入った袋を抱えつつ俺たちを先導している。その後ろにはニオブを負ぶった俺が続き、最後尾は俺の槍を持つにょろが例の祟り神っぽい走り方で追随しながら周囲を窺っている。

 俺の背中のニオブは俺の首筋に顔を押しつけるようにしてしがみついていた。彼女は言葉もなく身動ぎもほとんどしない。俺が様子を見ようと横目に窺うと、少女は俺の視線から逃れるようにいっそう首筋に顔を伏せる。俺は顔の向きを正面に戻して、その様子に笑わないよう注意しなければならなかった。



 実は俺がニオブをおんぶするに当たり一悶着があったのだ。ニオブをどうやって集落に連れて行こうかと言う話になり、俺がおんぶで連れて行くと言うと彼女がひどく嫌がったのである。


 スヴェン達ゴブリンがおんぶをすると体格の問題で行動がかなり阻害されるし、にょろはウチの最大戦力なので出来ればなるべくフリーな状態でいて欲しい。そんな訳で俺が彼女を負ぶっていくと決めたのだが、今まで大人しかったニオブがそう決まった途端に自分で歩けるとか重たいからとか、ついにはいっそ置いていってくれ云々と、とにかくイヤだとぐずりだしたのである。

 最終的にはクナン達が叱りつけて無理矢理納得させたのだが、かなり必死な様子で抵抗されたので内心ちょっと傷ついた俺だった。子どもには俺の打算が見えているのか。しかしブルーな気分を隠しつつ、泣いている彼女をそおっと抱き上げると、俺はニオブが何でおんぶを嫌がったのかその理由にすぐ気が付いた。


 ずっと彼女は地面に座り込んでいたのでそれまで気が付かなかったのだ。思えば怪我の手当をしていた時にはそんな気配はなかったのであの後、俺が頭を撫でて彼女の力が抜けた時にそうなってしまったのかも知れない。


 つまり俺がニオブを背負うと、彼女の座っていた地面には濡れたような染みがあり、そして彼女からはうっすらと()()の匂いが漂ってきたのである。きっと怖かったんだろう。彼女は小さな子どもなのだ。


 そして子どもであると同時にニオブは立派な女の子(レディ)だった。きっと初対面の人間には気付かれたくなかったに違いない。なので少女は俺に気付かれることを恐れて背負われることを頑なに拒んだのだ。

 そう思えば微笑ましいし、かえって可哀想なことをしたと思う。汚いとかそんなことは口が裂けても言う気が起きない。嫌われてる訳じゃなかったんだな、とむしろホッとしたぐらいだった。


 俺は彼女にことさら何も気が付いていないという風に「軽い軽い。集落までしっかり運んでやるから、しっかり捕まってな」とだけ言った。下手に慰めたりして女の子に恥を掻かせるものじゃない。しばらく背負っていたらうっすらと背中に湿り気を感じはじめたが、まあこんなものは洗えばいいのだ。男が細かいことは気にしないに限るのである。

 それからはニオブは無言でひたすら俺の背中にしがみつき、時折ぐずるように鼻先を首の後ろに擦りつける以外は荷物に徹していたのだった。





 そして歩くこと数十分。

 危険視された山賊の仲間の襲撃もなく、俺たちは無事にゴブリン達の集落、霧の森のニエブラ庄に到着したのだった。






 ※  ※  ※






 ニエブラ庄に到着した俺は、すぐさまゴブリン達の歓待を受け……とはいかなかった。


 先行したクナンの『山賊襲来』の報に殺気立つ集落に到着した俺たちは、集落の入り口で待っていたクナンによってさっそく数人のゴブリン達へと引き合わされた。彼らは白い頭髪や豊かな口髭を蓄えた老齢のゴブリン達で集落の長老衆を名乗った。


 俺は自己紹介もそこそこに事情を説明することになり、そのままなし崩しに今後についての協議が始まった。集落の入り口で立った行われた話し合いの結果、ゴブリン達はすぐに山賊達をこの集落に護送するために人手を出すと決定した。そして俺はスヴェンを含むゴブリンの助っ人達15人と、山賊達の連行のため取って返すこととなった。集落に入る前に元いた場所にUターンすることになったのだ。

 集落の到着もまもなくまた発たなければならない俺に、クナンが申し訳なさそうに詫びてきた。彼は村の防衛と森にシカ狩りに出ている男達への連絡を指揮するため村に残るという。聞けば彼は若者衆、村の若者達によって構成される組織のリーダー的存在なのだとか。

 まあ賞金首の権利は俺にあるのだから奴らを連行するのは俺の仕事だし、むしろゴブリン達に山賊の移送を助けて貰っているとも言える。俺は気にするなとクナンの肩を叩いた。するとクナンは角の生えた厳つい顔を僅かに綻ばせる。俺のよく知る人間と見た目は違うものの、親しみの持てる良い(かお)だとそう思えた。


 今すぐ来た道を戻ることになった俺は慌ただしく出立の準備をする。俺はにょろから槍を返して貰い、そしてもうひとつ、静かな荷物になっていた背中のお嬢さんを地面にゆっくりと降ろして差し上げた。集落に到着してすぐに打ち合わせとなり、実は今まで地面に降ろす暇もなかったのである。

 足に障らないように慎重に座らせてやると、彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまった。俺は俯いたおかっぱ頭を撫でようと手を伸ばす。すると、集落の方から少女の名を呼ぶ声が起こった。





「――――きぃっっ!! ニオブ――――!?」


 声の主はやや年嵩の女性のゴブリンだった。

 彼女は息せき切って俺の周りのゴブリン達を掻き分け掻き分け駆け寄ってくる。するとそれを認めたニオブが目を見開いてぽつり「きぃっ、お母さん……」と呟いた。女性は顔中を涙で濡らしたまま、そんなニオブにひっしと抱きつく。その女性はニオブの母親だったのだ。


 母親に抱きしめられたニオブはやはり目を見開いたまま固まっていた。小さな頭蓋の中に渦巻く感情を持て余しているのだろう。しかしそのうちその感情はひとつの方向性を見出した。ニオブは見る見るうちに瞳の中の水位を増加させ、ついに決壊し堰を切ったように声を出して泣き出したのだ。

 赤子のように泣くニオブ。母親が頭を撫でるとますます声が大きくなった。ニオブは今命の危機から脱し、ようやく母親の胸の中、この世で一番安心出来る場所にようやく辿り着いたのだ。少女は人目を憚ることなく、ただ母親に縋って泣き続けた。

 無理もなかった。小さな女の子があんな目にあったのだ。むしろ今までよく我慢していたと褒めてもいいぐらいだ。


 ぴきぃぴきぃと盛大にニオブの鳴き声が辺りに響く。娘と抱き合いながら、こちらがいくら宥めても俺に頭を下げるのを止めてくれないニオブの母親を見ると、俺のしたことは間違いじゃなかったんだろうと思える。俺の頬は自然と緩んでいた。


 周囲に集まりだした若いゴブリン達も何事かとこちらを見て、すぐ事情を察して皆表情を弛める。不幸ではない子どもの泣き声を背に聞きながら、俺とにょろ、そして槍や弓矢で武装したゴブリン15名は幾分いい気分で集落を出立したのだった。





 山賊達を置いてきた場所にスヴェン達ゴブリンとまた戻り、彼らを集落に連行する間の道中には特筆するべき事は起きなかった。せいぜいが俺たちの接近を認め樹上から姿を現したちびにょろにゴブリン達数人が腰を抜かしたぐらいである。


 山賊達は俺たちがその場所を離れた時のままの格好で木に括り付けられていた。にょろはちびにょろを回収し、山賊達が自力で歩ける程度に拘束を解いて余った分の肉紐も回収する。ただし腰と腕を縛る紐からは片足首に別の肉紐が伸び、彼らが全速力で走れない仕組みになっていた。本当に優秀な相棒である。


 俺たちは多勢で囲んで槍や弓矢でさんざん脅しつけて山賊達をきりきり歩かせ、無事に移送を終了した。危惧した山賊の仲間の襲撃はなかった。やはり彼ら4人が山賊の総勢なのかも知れない。

 道すがら本人達にも聞いてみたが彼らは唾を吐くばかりで答えは返ってこなかった。その態度に腹を立てた若いゴブリンに槍の柄でぶっ叩かれていたが自業自得と言う他はない。この世界には犯罪者の権利もミランダ法もありはしないのだ。



 ぞろぞろと山賊達を取り囲みながら再びニエブラ庄に辿り着くと、さっき以上に集落内は騒然としていた。集落の入り口で、やはりクナンが真っ先に近づいてきて俺の労をねぎらってくれる。俺が集落が騒がしい訳を聞いたら彼は狩り場から大人たちが戻ってきたことを教えてくれた。まだ他の山賊が残っていない保証はないので、今は村人総出で厳戒態勢を敷いているという。そしてもうひとつ。

 クナンはふ、と集落の広場がある方へと視線を向けた。



 そこには、集落の住人であるゴブリン達に囲まれた、20人ほどの集団が居た。

 その集団はゴブリンではなく、ヒト族(ウィル)を含むその他様々な種族で構成されている。さっきの自称傭兵とは較べものにならないほど清潔感がある皮鎧の兵士の一団と、鎖帷子の上に六角形の小札を連ねた小札鎧(ラメラーアーマー)を着込んだ3人の男女。そしてその鎧の男達の中央に濃紺のマントを肩掛けに羽織った大柄な男。



「それともうひとつ。

 ――――つい今しがた、巡回騎士どのが手勢を率いて到着された」





 俺たちを認めた鎧の一団がこちらに近付いてくる。その姿を認めた山賊達は色めき立って逃げようと藻掻き、回りにいたゴブリン達によってたかって地面に押しつけられた。



 集落についても、なかなかゆっくりは出来ないようである――――





 ご迷惑おかけしました。何故こんな事になったのか。皆目見当が付きません。

 

 ※10/22 ミーリアの天地創造を1000年前から3000年前に変えました。考えてみると、エルフありの世界で1000年は短すぎました。訂正したことをお知らせいたします。

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