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乾 東悟の行きて帰らざる物語  作者: 高原ポーク
第1章   乾 東悟、死んで神様と出会い異世界ミーリアに降り立つの段
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0.プローログ的な何か

 掲載中の小説に詰まりに詰まり、煮詰まった挙げ句気分転換に書いていた小説が10万字を越えたので投稿するという駄目な筆者です。罵ってください。

 前作を書き続けたい意思はあるのですが、どうにも進むのはこちらの筆ばかり。前作をお読み頂いていた方には申し訳ないことでございますが、創作の神様が右手に降りてくるまで、こちらを楽しんで頂来ますようお願いいたします。前作など知らんという方は、こちらの事情ですのでどうぞお気になさらず拙作を楽しんで頂ければ幸いです。




 俺、こと(いぬい) 東悟(とうご)は死んだ。死因は列車事故。享年35歳。



 長くはなかったが短くもない一生だった。そして我ながら起伏に富んだ人生だった、とも思う。「人生山あり谷あり」と言うが、俺の場合は最期に断崖絶壁が待っていたという訳だ。


 ところで、死んだはずの俺が何を暢気に人生の回想をしているのか疑問に思う方もいらっしゃると思う。これは死ぬ直前に見るという、いわゆるソーマト(走馬燈)リコール、という奴ではない。


 じゃあなにか。

 これはいわゆる「死後の世界」という奴である。



 これから始まるのは、俺の死後から始まる物語なのだ――――









 俺は列車事故に巻き込まれて死んだ。横転する車内で他の乗客とか引きちぎられた部品や何かと一緒に小粋にシェイクされたのが主な死因だった。


 自分が最後に見た光景は、自分に向かって空中を横向きですっ飛んでくる、馬鹿デカいバックパックを背負った体重100㎏超はあろうかという白人男性の腹だった。視界が彼のTシャツにプリントされた「I♥京都」の文字に占領され、次の瞬間俺の世界は暗転した。名も知らぬ白人男性渾身のフライングボディアタックは俺の頸椎とか、生命維持に必要な諸々を粉砕するに十分な威力を持っていたのだ。



 死ぬとどうなるか、と言うのは昔からいろんな宗教で様々に解釈されている問題だ。まあ死んだ人間に「あの世ってどんな感じ?」と聞くことは出来ないのだから、言ったもの勝ちゲフンゲフン……そりゃあ多種多様な解釈がある訳で、輪廻転生するもいつか神の国に召されるのも、個人の信心の自由なのだろう。

 ちなみに俺は希望的には死後の魂が訪れる天国的な何かの存在を信じたいが、おそらく死んだら自分の存在は全くの無になるんだろうなと考えていた。実に神も仏もない日本人的な感覚では無かろうか。


 しかし。

 俺のそんな予想は盛大に的からはずれていた。その事を俺は身を持って知ることになる。





 気が付くと、俺は白を基調とした不思議な空間にぼけーっ、と突っ立っていた。


 呆然と周囲を眺めていると、俺の目の前に「神様的存在」を名乗る、どう見積もっても10代中頃以上の年齢ではありえない女の子が現れた。


 そしてその女の子から、俺は自分の死を聞かされた。


 死後の世界はあったのだ。そして神様は中学生ぐらいの女の子だった。





 神様は長い黒髪をお下げ髪にして、どこぞの学校の制服のような、飾り気の少ないシンプルなデザインのセーラー服を着ていた。どこから見ても立派な中学生だった。


 彼女はこの世界(地球)の神様たち(ブッ○様とかイ○ス様とかアッ○ー様とか八百万のエトセトラ様がた)から、一部業務の管理委託を請け負っている別の平行世界の神様だという。

 地球は世界の『格付け(ランク)』的には結構上位に位置するらしく、彼女のような『格下』の世界の小神クラスの神様が煩雑な神様業務の一部を引き受ける(押しつけられる)ことはよくあるそうだ。



「わたしクラスの神なんて、こっちの主神様クラスに較べたら小僧さんレベルの使いっ走りなんですよ?」


 とは彼女の言。神様の世界にも親会社と下請け会社みたいな世知辛い関係があるらしい。

そして彼女は、その業務の一環として俺の前に現れたのだと言った。彼女の仕事とは、死者の『魂』の管理である。



 ひとしきり現状の説明が終わると、「ここからが本題なんですが」と彼女が居住まいを正す。そうすると()()と表情が引き締まり、一種清冽な威厳めいたものが彼女から滲むように見えた。なるほど彼女は確かに小神とは言え神様なのだ。

 しかし神様は俺がそうして息を飲んだ瞬間、あっさり威厳的なオーラを全力でほっぽり出した。彼女は何故か俺に向かって深々と頭を下げてきたのだった。



 彼女の様子に疑問符を浮かべる俺に彼女は語る。俺の死は、こちら(神様)側に落ち度があった、一種の事故なのだと。


 ……まあ確かに、俺は列車「事故」で死んだのだが。


 その言葉に、ますます頭上へ疑問符を打ち上げている俺に彼女は言葉を続ける。『事故』とはそう言う意味ではなく、俺の死そのものが神様の業界的には『イレギュラー』な、本来予定されていなかった死であり、簡単に言うと、神様の予定では本来フライングボディアタックを食らうはずだったのは俺の隣りに座っていた人で、俺は隣の人と取り違えられて死んだそうなのだ。なるほど、そう言う意味で俺の死は『事故』なのか。あるいは神様の『業務上過失致死傷』とでも言うべきか。


 そして、俺の死は間違いだったのだが一度死んでしまったらどんな理由であれ生き返らせることは出来ない、とのこと。彼女はもとよりお釈迦様でも時計の針は元には戻せないのだそうだ。ブ○ダシット!

 さらに。神様が言うに死ぬはずじゃなかったのに死んでしまった俺は、いわば予定にない『員数外の魂』となってしまい、神様が動かす()()()()()()()から完全に外れてしまったらしい。

 どう言うことなのかと問えば、迷える俺の魂は、お釈迦様の手で輪廻の輪に入れて貰うことも無神論者の虚無に飲み込まれることも出来ず、つまり宙ぶらりんの状態になってしまったのだとか。俺をこのまま放っておくと、列車事故の現場近くで浮遊霊的なアレとして夏の心霊特集を騒がせる存在になるとか暗澹とした未来しか無いという。

 まあすでに死んでるんだから未来もへったくれもないんだが、責任者出てこいと言いたくもなる。すると申し訳なさそうに目の前の女の子が小さな手をそうっと挙げた。ああそうか責任者か。自分がこの不思議空間にいる理由に心底合点がいった瞬間であった。



 クレーマーの矢面に立たされた受付嬢の如き不憫なアトモスフィアをその(かんばせ)に滲ませた神様は、今回のことが神様側の不手際であったこと、そしてどうあっても俺がこの世界(地球上)に復活することだけは不可能なことを心底申し訳なさそうに謝罪した。そしてこう続ける。



「これがお詫びになるとは思わないのですが、ひとつだけ、浮遊霊にならなくていい方法があるんです――――」





 覆水は盆に返らない。

 だがしかし、こぼれた水は元の器に前と同じように戻ることはないが()のこぼれた先に別のバケツ(世界)を差し出して受け止めることは出来るそうだ。

 そうすれば、水は地面にぶちまけられることはなくバケツの中で綺麗なままと言う理屈だ。

 そして、中学生ぐらいの背格好で、お下げ髪をした自称神様は、寄る辺の無くなった俺に真摯な視線を向けて言った。





「――――この世界に戻ることは出来ませんが、わたしの世界(異世界)で、第二の人生を送るつもりはありませんか――――?」









 人生は山あり谷ありで時には断崖絶壁もある。しかし崖の底にトランポリンが敷いてあるなんて誰が思うだろうか。


 しかもそのまま成層圏まで打ち上げられた挙げ句、スイングバイで外宇宙に放り出されるなんてお釈迦様でも思うまい。いや今回のことは彼女がお釈迦様にも報告(しまつ)書を出すと言っていたから恐れ多くもご照覧あるらしいけれど。





 何はともあれ。


 そんな事情で、俺は一度死に、死後の世界で、見た目中学生の神様に自分がしろしめす異世界で第二の人生を送らないかと勧誘された。

 何を言っているのかわからないがとネットスラング的定型句が出てきそうな話だが、そうなんだから仕方がない。



 そして結論から言うと、俺は彼女の提案を受け入れることにしたのだった――――






 王道的王道。神様の勘違いによる死亡からの異世界転生コンボここに完成。トラックじゃなくて100㎏超の白人男性によるフライングボディープレスであることだけがささやかなオリジナリティであります。そこを誇ってどうする。


 何はともあれ、よろしくお願いいたします。

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