プロローグ
大劇場は満員だった。
荘厳たる内装は今から行われる何かの、その格調高さを物語っていた。
事実、暗闇の中、万を超えるであろう来場者の誰一人として、声を発する事はなかった。
もっとも、声が出せる者だけではないのだが。
その大広間にいる者は皆少し、おかしかったのだ。
誰も彼もが、異形。
御伽噺に出てくる、人を食べる怪物のような姿のものが大半であった。
中には人のような姿のものも見受けられたが、やはり皆、どこかが違う。
耳の長いもの。
毛むくじゃらなもの。
魚のような鱗の生えたもの。
他より少し、大きすぎるもの。
そうそれは、人外たちの集まりであった。
そうして、長い沈黙を破るかのように大劇場の幕が上がる。それと同時に雷鳴のような歓声が湧く。
まるで一世一代の大舞台が始まるようだった。
壇上には光が灯り、そこに並び立つ六つの影を顕にする。
観客たちは其々の影に向かって、思い思いに叫び声を上げた。
「諸君! 静粛に、静粛に!」
何処からともなく流れるアナウンスの声に、観客たちはゆっくりと冷静さを取り戻していく。
「諸君。今宵、我らが二百年に一度の儀。【魔王決定戦】の開幕を、ここに宣言する!」
再び沸く、劇場が割れんばかりの歓声。
それもまた次第に収まった頃、再びアナウンスの声が聞こえた。
「諸君らの中には、今宵、この時を憎むものや、関心を持てぬものも、いるやもしれぬ。しかし、数多くのものは、それぞれの想いを持ってこの場に集ったはずだ。見よ、彼らを! 彼らこそ、諸君らの熱き想いを乗せて戦いに臨む、六人の魔王候補たちである!」
三度沸く歓声。しかし、今度は誰も止めようとしない。
始まるのだと、誰もが感じていた。
始まるのだ。
戦争が。
「ルールは説明した通り! では行け、王候補たちよ! 『世界の果て』より最初に戻った者こそが、次なる王だ!」
その言葉が放たれた時、並び立つそれぞれの足元から青白い光が溢れる。それは回転を続けながら勢いを増し、やがては劇場全域を包み込んだ。誰も彼もが声だけとなり、光と共に静まった時、壇上の影は消えていた。