なんてこった
一歩一歩走るたびに肩から背中にかけての傷がズキッと痛み出す。だが今はそれを無視するしかない、そんな事を気にしていたら次こそ怪我じゃすまない。
学校で襲われたのは少し運があるかもしれない。ここの構造ならほぼ知り尽くしている、地形を把握するのは戦闘において重要だ。そのおかげかなんとか奴との距離を保っていられた
「ヒャッハハアッッ!!逃げろ逃げろ!!面白い!!お前面白いぜッッッ!!」
ベルルはカマイタチで通路をボロボロにしながらアキラを追っていた。都合がいいことに廊下に人は誰もいない。ちょうど休み時間が終わったからか、それとも異様な気配を察して教室から出てこないか・・・・
時間と体力が許す限り逃げ回る。カマイタチの余波で小さな傷は無数にあるが肩の傷以外痛くはない。奴は遊んでいるらしくあまり距離を詰めてこようとはしなかった、時間の感覚があまりないから分からないがもう結構な時間逃げていると思う、人影も見えないし体力も減ってきた、このまま走ってたらそれだけでばててしまう。そろそろ反撃に出たい頃合だ
「丸腰じゃきついよな・・・・」
階段を下って一階の家庭科室に駆け込む。いろんな場所を経由したがめぼしく武器なりそうな物は見つからなかった。奴相手に効きそうな物がこの学校にあるとしたらここにしかない。
「良しこれだっ!」
壁にかけてあったモップをバッキっとへし折り適当な包丁を手に取って先端にくくりつける。近くにあったガムテープやらビニールテープやらでくくり付けたため強度に少し心配があるがこの際そんな事言ってられない
奴がいつ来ても言いように入り口を見据えて即席の槍を構える。だがなんか変だ。槍を作るのに20秒はかかてっるはず、奴が来ていてもおかしくない時間は経過している
頼りない槍によりいっそう力を込めた。周囲を警戒し集中力を高める
「気抜いてんじゃねーぜえっっっ!!ギャハゥハハアっっ!!!!」
「何っっっ!?」
その瞬間横から物凄い衝撃とカマイタチが襲ってきた。
「ぐっ・・・っ!」
体が宙に浮き壁に激突した。背中と左腕にハンマーで殴られたような痛みが起こる。この痛みはやばい、相当やばい。朦朧とする意識を何とか立ち上がらせて今起こったことを確認する。さっきまで立っていた場所のすぐ横の窓ガラスがバラバラになっている、奴が外から突撃してきたのだ。何があってもすぐ逃げられるように窓側を陣取っていたのが仇になってしまった
「ただの半狂乱かと思っていたけど・・・以外に頭使ってやがる・・・」
奴的には正面から突撃したんじゃ面白くないからいったん外に出て窓から襲ってやるって単純な考えだろう、しかしこっちにしては大誤算だ。まさか敵が退路から現れるとは考えもしなかった。さっきまで廊下にいたと思ってたのに。良かった事と言えば力を入れていたおかげであの衝撃を食らっても槍を手放さなかったことぐらいか。だが左腕が麻痺してきてまともに槍を握れそううにない。片腕じゃ十分にダメージを与えられるか分からない
「ケケケッお前の驚いた間抜け顔面白かったぜ!!さっきの攻撃を食らっても倒れないとこを見ると人間にしては結構やるぜ。人間にしてはだけどな、ギャギャッハア!」
奴が近づいてくる。まずい。せめて腕の痺れが取れるまで時間を稼がないと、だが体が重くて自由に動きそうにない。やっぱりさっきのダメージが相当肉体に響いている・・・が何とか立ち上がり逃げる場所を探す
「ゲッヘッへまた逃げるつもりかよ。だがもう駄目だゼっ!!お前ここの地形を把握してるから今まで旨く逃げれたとか思ってないか!?チゲーよ!!俺が遊んでたから逃げられたんだよッ!!絶対的な能力の差にはそんな浅知恵通用しねーんだよ!!!ヒャハャヒャハハギャハッッッ!!!」
くそっ!!確かにその通りだ。奴が本気を出せばいつだって俺を追い詰められたはずだ。やられる、近づいたらやられる。距離を保たなくては切り裂かれる。
「うるせー!こっちだって本気出せばいつでもお前程度倒せるんだよ!!」
心にもないことを言う。ちょっとでも時間を稼がないと勝機は絶対無い。
とにかく近くにある物を自由に動く右腕で手当たりしだい奴に向かって投げまくる。皿、鍋、胡椒、椅子、包丁・・・奴は避けようともせずすべてをカマイタチで切り裂いていた。包丁でさえボロボロになっている
すかさずいろんな物をブン投げる。フライパン、ポリ袋、ポリバケツ、ポリタンク、小麦粉・・・・・すべてが空中でバラバラにされた。胡椒やタンク、小麦粉をを切り裂いたせいで体は濡れて胡椒と小麦粉をばっさりと被っている。
「ヒヒ、粉で俺の視界を塞ごうってか?考えたな!ホント飽きないぜお前っヒヒッ!!っと、体が汚れちまったなぁ、そうだお前の血で洗えばいいんだっ!!俺って天才だゼェェェェッェ!!ヒヒヒッヒッハヤヒャッッッ!!」
どこに小麦粉を人の血で洗う馬鹿がいるんだよ、っと言う暇もなくググっと首をつかまれ持ち上げられた
「ギャギャハッッ!!このまま首を切り裂けばシャワーみたいに血が飛び出すぜッ!!それにしても今日は最高の気分だぜっヒヒッ!!そうだ!!楽しませてくれたお礼に一つだけお前の望みを叶えてやるよッッ!!せめてもの慈悲だヒャヒャ!!」
「・・・・うっ・・っぅ!」
「早く言えよッッ!!こっちはお前が投げた粉と水で体がぬるぬるしてて気持ち悪いんだからよッッ!!ちなみに逃がしてくれってのはなしだぜゲヘヘゲゲヘェェ!」
「っっ・・・・じゃ・・ねぇ・・」
「アンだって?聞こえねーよ。全然力入れてねーのにもしかして苦しいのか?ギャハギャハアアッッ!!ホント人間って弱っちいぜっ!ヴぇへヘ」
水じゃない
「でもなんで弱いくせにこんな質の高い魂持ってんだお前??まあいい、お前の魂を食ってどれだけ強くなるか・・・・・まずは小言うるせーナブルの野郎を食い殺すッッ!!それからゼガルの奴もバラバラにしてやる!!それを考えると笑いが・・笑いが止まらなくなるぜーーーービャハッハアハハハアアアっっ!!」
俺が投げたのは
「おいっ!何も願いがないのか?・・・・・最後の最後でシラケちまったじゃねえかっっ!!もういいよ、死んじゃえよお前」
油だ・・・っ!!
「・・・っ・・焼き鳥になりやがれっ!っこのイカレ野郎ッッ!」
力を振り絞り駿足の速さで右手に隠し持っていたライターを奴の腕に着火させた。
「ゲェェェ!!!な、なんじゃこりゃっぁぁ!?アチィ!!熱い!!か、体が燃えてるっ!!こんな速さでっっ!?ギャアアァァアッッッ!」
全身に水ではなく油を被っていた奴の体は一瞬にしてボボボボボっと燃え上がる
あまりに炎熱のせいか首を掴んでいた腕を離し床でのた打ち回る、炎を消そうとしているが全く消えそうにない。ただでさえ燃えやすい体毛をしているのにその体に油を染み込ませたのだ、そう簡単に収まる筈もない
やっとこさ殺される寸前で奴に反撃ができた。自由になった首をさすりなんとか呼吸ができるようにする。全然力を込めていないと言っていたが完璧に痣になって後が残るぞこれは。痛みを我慢して槍を拾い奴を凝視する
「余裕ブッコいて俺の投げた物避け様ともしなかっただろ?だからそうなるんだよバーカ!まあ俺も最初は油が入ってるなんて気付かなかったけどな」
気付いたのは首を掴まれた後だ。奴の「体がぬるぬるしてて気持ち悪い」って言う台詞で完璧に確信した。ホント九死に一生って感じだ、まあ家庭科室にあるタンクだからもしやとは思っていたが予想が的中したのだ。だがまだ安心はできない。形成が変わったといってもこっちもボロボロだ、正直立っているのも辛い。
「頼むぅぅっっ!!消してくれ!!この炎を消してくれっ!!死んじまうっっ!!死んじまうよォォォォォ・・ッッ!!!」
簡単には近づかない。せっかくここまで道を繋いできたのだ、近づいた瞬間スパッとやられたら全くシャレにならない
「お前みたいに慈悲深くないんでな、できればそのまま焼け死んでくれ」
奴から焦げ臭い黒い煙が上がる。どうやらアイツはカマイタチは起こせても単純な風や突風は起こせないらしい。炎も衰える気配がなく淡々と奴を燃やしている、あの苦しみ方は演技とは思えない。もしかしたらこのままただ見ているだけで決着がつく可能性かもしれない、そう考えると気が緩みそうになってくる
「あれぇ?・・・・ねぇアキラ・・なんか焦げ臭くない・・・?」
右腕から場違いな声が聞こえてきた、腕輪から顔を出し辺りを見回していてその顔はモロ寝起きって感じだ。言いたい事を必死に押さえ優しく声を掛けることにした
「おはようリースちゃんやっと起きたねぇ・・・今まで何回も声を掛けたのにどうして起きてくれなかったのかなぁ?」
小さい子供に話しかけるような口調で話す。しかのも名前の後に「ちゃん」付けで。だがそれを無視して勝手に喋りだす
「なにあの燃えてる悪魔・・・もしかしてアキラが倒したの!?すごいじゃない!腕輪の力を使ったとはいえ魔術を使えない人間が一人で悪魔を倒すなんて早々できないわよ普通、しかも初めての戦闘で武器の用意もなしでやるなんて。やっぱり私とレットが目を付けただけのことはあるわ」
リースは何かブツブツ言いながらウンウンと頷いている
「・・・・・・・・」
コイツ・・・・何か物凄く勘違いしてないか?俺は腕輪の力なんて1ミリも使ってないぞ、ってか使い方がわからないし。リースの見当違いな台詞を聞いて完璧に頭にきた
「このっバカ野郎っっ!!!寝ぼけてんじゃねーぞリースっっ!!お前腕輪の使い方なんて一言も俺に教えてないだろうがっっ!!だいたいなんですぐ起きねーんだよ!!おかげでこっちはもうズタズタなんだぞ!!」
家庭科室中に怒声がが響き渡る、こんな近くで大声を出したんだ、たぶんリースの耳はキーンという痛みに襲われてるだろう
「・・・・あれ・・・腕輪の力・・・・引き出し方言ってなかったけ・・・・」
リースの顔が急速に青くなっていく、これは完璧に図星だな
「ゴメン・・・ゴメンね・・・」
リースが泣きそうな顔で謝ってくる、これはずるい!こんな可愛い顔して泣かれたらもう何も言えなくなる・・・・だがこっちは生死がかかってるんだから甘くはできない
「でも人間ってやれば何でもできるのね・・・・ホント見直しちゃったよぉ、この調子ならこれから全然不安がないね」
いや、不安だらけだ。だいたい俺の体がこんなにボロボロなのを見てよくそんな事が言えるなコイツは
「もういい・・・だけど次何か重大なミスしたら俺にだって考えがあるからな。だいたいお前は俺を護衛しに来たんだからしっかりしてくれよ」
「わかった・・・次に何か失敗したら私のこと好きに使っていいから・・・・」
・・・好きに使っていいってどう言う事だ?もしかしてリースに○○○や○○○○とかピーとかしたりしてもいいって事か?それともテレビのリモコン取ってもらったり、ちょっとお茶淹れてきてもらったり、姿が見えないことをいいことにテストのカンニングさせたりしてもOKって事なのだろうか?多分リースが言っているのは後者の方だろう前者のほうはあまり想像しないでおこう・・・顔が赤くなる。まあどちらにしても体が小さいからあんまり役に立ちそうにない。それに全然分かってない、次に何か大きなポカをしたら今度こそ命が無くなっているかもしれないという事を。今回はたまたま運が良かっただけだ
「まあ今まで俺も悪魔をなめてたよ・・・だけど今回の件で恐ろしさを実感できた。これからは何か武器になるものを持ち歩いたほうがいいな。それととにかく今は気を抜かないでくれ、奴は死んだわけじゃない・・・・・っって!!?」
奴の体を包んでいる炎が見る見るうちに小さくなっている、やがてそれも消え中から傷だらけの悪魔が出てきた
「ククク・・・お前の血で洗えないから自分の血で洗うことにしたぜ・・・俺は火が苦手でな・・・少しパニクっちまったが良く考えれば俺様があんなチンケな炎で死ぬわけねーんだからよ」
とんでもない事に奴は自らの肉を切り刻みその血で炎を完全に鎮火させたのだ。体がいた痛しいがさっきより数倍脅威に感じる、嵐の前の静けさというのはまさにこういう感じなのだろう、さっきまでのリースとの会話の内容が凄く小さくてくだらない事に思えてきた
「リース・・・腕輪の使い方を・・・」
もはやこれしか話すことが無かった
「わかったわ・・・まず腕輪に血を染み込ませてから一周右に腕輪を回す、それから意識を集中させて「ブレイクアップ」って心の中でも口に出してもいいからとにかく叫んで。そうすれば全身に特殊なアーマーを纏える筈よ、とりあえず今人の目は無いからすぐ「変身」しても大丈夫だよ」
「ああ分かったぜ・・・・サンキュー」
腕輪にはすでに十分な血が付着している、後は右に回して叫ぶだけだ。俺は瞬間的に腕輪を回し心の中ではなく口に出して叫ぶことにした。
「ブレイクアップッ!!」
ちょっと分かりづらい部分があると思いますが頑張りました。カンソウオネガイシマス・・・前回感想くれた方本当にありがとうございます。かなり嬉しかったです