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未来へのカウントダウン

作者: 須良
掲載日:2026/03/06

 男は働いていない。働く気はあるのだが、努力をしようとしても楽をとって集中が続かず、大した学歴もない。もともとは実家で過ごしていたが、最近追い出され、川の橋の下のある場所で過ごしている。周りにいる人間はクズのようなものばかりでどうしてもなじめない。

 


 そもそも、自分は働く気はあったのだ。こいつらとは違う。心の中ではその考えが充満している。

 

 「おい!若者、こっちこい。」


 二つ隣から声が聞こえる。住んでいる人の中では最年長の茂の声だろう。暇なときはいつも自分や、他の人を呼び出し極小の金で賭け事をするみじめな人間だ。しかし、こんな寂れたところでも人間関係は必要である。

茂の声に答え、足を踏み出した。


 コツン、、


妙に長く足の音が響く、気づいたら一瞬自分が目をつぶっているのかと錯覚するほど暗い空間にいた。だが目をつぶっているわけではない。それを目の前に立つナニカが証明した。ナニカはぶつぶつ音をつぶやき、光の球体を目の前に差し出した。気が付くとそれに触れていた。球は男が触れたとたん体の中に入りだした。


 さて、これは何が起きたのか。それは男にとってはわからないと感じたかもしれない。しかし球は男が触れたとたん。手足を意識せずとも動かせるように、体に順応した。ここから男の人生は大きく変わる。


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「タイムスリップ、、」それをすぐに理解できた。まだ使ってもいないが、できるという確信があった。おそらくさっきのは神だ。そして自分に力をあたえたのだ。これを使えばもともとできなかった働くという行為が楽にできる。


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「あなたの名前を当てましょう。」


最近ひとつの商売を始めた。占いである。まだ数件しかしていないが、最初の一件で評判が広がり一回2万程の金を得ることができるようになった。過去に戻り、客の名前や素性がわかったら、それを客に披露し、適当な言葉を後に続けるだけで成立する。


「おい、良太。そんなに落ち込むな。ほら、ゆきちゃんに告白する前に失敗したらカラオケって約束しただろ。いくぞ」


ブランコに座り込んだ男をもう一人の男が励ましている。どうやら客は振られたらしい。過去の世界は昔の自分や自分が好きだったものを見つけることで帰ることができる。

ちょうどスーパーが近くにあったので、自分の好きだった菓子を見つけて帰った。


「良太さんですね。好きだったこの名前はゆきだ。あってますか?」


 目の前の客はまさか本当に当ててくるなど思っていなかったのか目をパチクリさせて驚いている。


「あ、あの僕が今の会社のままでいいのか当ててください」


数秒間の沈黙の末客は口を開いた。自分のタイムリープは未来に行けるわけではないので、ここは適当に受け流す。


「できませんね。そう占いに出ています。転職してください」


2万円を受け取って今日の仕事を終えた。この仕事を続け、うわさが広がればいずれ大きな仕事にありつけるだろう


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SNSで自分が有名になってきたころ、ある類の投稿が増え始めた。

「この男の占いに行ったが、最初の素性から全部間違えてて、金だけとられた。」


というものである。この手の炎上は大人数に見えて本当は少数で行われているというのを見たことがある。しかし、自分にそのような恨みを持っている人間なんているはずがない。今までちゃんとした人間関係などなかったのだから。


 そう思い始めたころ一つ心当たりが浮かんだ。茂である。最近できた唯一の人間関係であり、自分が急に個人営業で出世し茂自身が何年も出れていない橋の下から短期間で出た。これは逆恨みを買う理由にもなりうるだろう。


 久しぶりに橋の下に行くことにした。茂の過去も調べ、それを脅しの材料に使えば一瞬で解決するだろう。橋の下につくと、見知らぬ人影があった。しかも茂と話している。パーカーを深くかぶっており、体格的に男だろうが、顔まではわからない。男も自分に気づいたのかこちらを向いてきた。


 その瞬間男が目の前から消えた。

どこかに逃げたとかでもなく、いきなりその場からもともと何もいなかったかのように消えたのだ。


 もしかしたら、あれは神なのではないか。神は自分にこの力を渡すときぶつぶつと意味のわからない言葉を発していた。その時の禁忌に占いが抵触したのではないか。


 少しの間、占いを休止して考えることにした。

その時スマホがピロンと音を立て光った。自分にメールが届いている。


「占いの館様。最近の活躍をよく見ております。そこで、我々の番組に出演をしていただけないでしょうか。今、超常現象、超能力の実態を調査する番組をやっており、そこに出て欲しいのです。番組内では杉森という男をあなたの目の前へとおき、あなたには名前を知らないことにし、いつものように名前を当ててもらえれば良いのです。当番組もあなたの今現在の状況を知っており、この番組に出ていただくことで信頼回復へとつながると考えております。ギャラは当日手渡し20万円とさせていただきます。場所は~~」


どこの番組かはわからないが、ギャラを20万という高額で払ってくれるらしい。よく考えたら、さっきまでの悩みは自分の考察にすぎない。間違っている可能性も大いにあるだろう。俺は番組に出ることにした。


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「ということで登場していただきましょう!!最近巷を騒がせている占い師。なんと初対面の人の素性を完璧に解き明かすことができるそうです。」


MCのような男が盛り上げる。

垂れ幕が開き、始めてテレビの前に自分の顔が映った。


「今回番組独自で人を用意させていただきました!!彼には、その名前を当ててもらいます。、、とその前に、こちらのモニターをご覧ください」


MCが目の前にあった画面に手を向ける。その画面にはこの番組が自分に送ってきたメールがそのまま映っていた。番組の意図を理解した。ここで自分が大間違いを犯し、それをみんなで笑ってオチに使うのだろう。

 心の中で笑いが止まらなかった。


「おいおい、ほんまかいな。てかこのメールで受けてるってほぼ答えやんけ」


 ひな壇に座った芸人が言い、会場が笑い出す。


 数秒後、ほとんど全員が唖然とした。目の前の男の実際の名前が自分によって当てられたのだ。無理もない。そして、腹いせに本名を出していないアイドルの名前も当てた。生放送だったのでこの回は伝説の放送事故として有名になった。


 客足が爆発的に増え、一日4件ほどを担当し、客は一回につき10万円以上の金で依頼してくるようになった。


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今では、世界規模で有名となった。あれに続き海外の番組にも呼ばれそこでも完全に当てて見せたことで本物として認知されるようになった。SNSのトレンドにはいつも自分が上がっている。


「さて、こんにちは。あなたの素性をあてますね」今日の客にそう呼びかける。

 いつも通り、過去へと移動しようとした。しかしそこは最初の暗闇の空間であった。

 

 目の前には口から多くのよだれを垂らした神がいる。

「食われる。」そう体中の細胞が直感した。おそらく神が最初に自分に渡してきたあの光は自身を美味しくなるようコーティングするための餌だったのだろう。ブタに人間の言葉が通じないように、神の言葉も人間には通じない。


 この暗闇の空間には逃げ道がない。絶望の中で一つの案を思いついた。ここからさらに過去へと行き、過去の自分に占いをやめさせ、この能力を使わせないようにする。神は激高したような顔をしている。なんと、神から逃げることに成功した。

だが、過去では自分に会うことができない。どうすればやめさせることができるだろうか。ここで一つの案を思いついた。自分は今、過去の自分と全く同じ顔を持っている。自分も占いをやり、わざと外せばいいのだ。


 この作戦は成功した。過去の自分の評価はぐんぐん落ちている。このままいけば俺の未来はかわるだろう。そう考えているときふと茂と会いたくなった。過去の自分が堕ちて行った場合。また橋の下に戻ってくるだろう。今のうちに茂に話をつけておこうと、思いでかける。


「おお、久しぶりだな。どうした。もう社会には戻れたか。俺も戻れるよう頑張るからよぅ。戻れたら安いイタリアンとかに行ってワインでも飲もうや」

 過去の自分が疑っていたのが申し訳なくなるほど、茂は優しく話してくれた。


 待て、、過去の、、、自分?


そういえばあの時茂を疑った俺が来るのだ。自分の恰好はパーカーである。


足音がした。反射的に振り向くとそこにいるのは自分ではなく大口を開けた神だった。あぁ現在に戻ってきたのだ。


茂とワインを飲みたかった。

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