三匹のドラゴン
作:青木弘樹
ブラウン:科学者。この物語の主人公。
ヘンリー:考古学者。同じく、この物語の主人公。
イザベラ:亡くなったブラウンの弟の元・妻。
フォックス:博物館・館長
ルドルバ:謎の男
(この物語はフィクションです)
時は星暦2055年。
5歳の頃からの幼なじみブラウンとヘンリー(二人とも40歳)、それぞれの才能を活かし、ブラウンは科学者として、ヘンリーは考古学者として、日々の生活を送っていた。
しかし彼らは独身だった。理由は…貧乏だから(笑)
とにかく研究にいそしんでいた彼らにはお金が無い。それでも明るく前向きに生きていた。
収入源は発明品の売り上げ、電化製品の修理、本もたまに出版。
そして昔、二人で開発した「物質転移装置」の特許料。
ある地点からある地点まで、物質を電子レベルまで分解し、一瞬にして運ぶという画期的なマシンなのだが、制約がやたら多い。
まず、運べる距離は、およそ10キロメートルまで。しかも有線方式。
次に、運べるものの大きさが冷蔵庫ほどの大きさのものまで。
次に、運べるものの重さが約300キログラムまで。
これにより、大ブレイクといかなかったのだが、それでも発売時にはなかなか売れたという。
今では、とある企業に作ってもらっているが、月に3台ほどが売れているらしい。
現在の平均収入は、ふたりでだいたい月収25万円ほど。
研究所の二階で住んでいる。
二人はこの2週間ほど、いつにもまして研究にいそしんでいた。
ブラウンは研究室に、ヘンリーは書斎にこもりきりだった。それこそ食事、風呂、トイレ以外はずっとこもりきりだった。
お互いが顔を合わせることもあまりなかった。そしてお互い少し気にしながらも、研究に夢中になっていた。
そんなある日、
「これだ…」
ヘンリーがなにやら古い書物を手に、震えていた。
「ブラウン!」
ヘンリーはその書物を手に部屋を出ようと、ドアを勢いよく開けた。
”バン!”
「ぐわっ!」
なにやら声がした。
「ブラウン!あっ!」
見るとブラウンが鼻血を流し、倒れていた。
「ブ、ブラウン、大丈夫か?」
「つつ…ヘンリー…急にドアを開けるなよ…」
「すまん、すまん…つい興奮してな…」
「どうしたんだ?」
「見つけたぞ、ついに…」
「何を?」
「ドラゴンだよ」
「ドラゴン?」
「ああ、ドラゴンが存在した時代とその場所だよ」
「本当か!?」
ドラゴン…本当にそんなものが存在するのか…?
「で、お前の研究のほうはどうなんだ?」
「ああ、それを言うために来たんだ」
「ということは…?」
「ああ、ついに完成したよ。まさにベストタイミングだな」
「おお!」
ついに完成…いったい何が完成したのか…?
「タイムマシンが…ついに完成したぞ!」
「おおお!」
「ふふふ、これで億万長者になれるぞ~」
ドラゴンと億万長者…いったい何の関係があるのだろうか…?
その時、
”ピンポーン”
家のチャイムが鳴った。
「ん?誰か来た。イザベラだな」
「たぶんな。ほーい、今開けるよ」
”ガチャ”
「やあイザベラ」
訪問してきたのはイザベラ。33歳。ブラウンの弟クラウンの元・妻だ。クラウンは5年前、交通事故で死んでしまったのだ。子供はいない。
「いつも悪いね、イザベラ」
「こんにちは、お二人さん。相変わらずわけの分からない研究に没頭しているようね」
「ふふふ、まあな」
「あれ?二人とも今日はいやに上機嫌じゃない。ま、いつも能天気なのは相変わらずのようだけど」
「ちょっと、いいことがあってな」
「ふーん…ま、そんなことより、あれ」
イザベラは車(軽トラック)に乗せてある大きなダンボールを指差した。
「持ってきたから運んでね。私はか弱いレディなんだから」
「おお、いつも悪いね」
ダンボールの中身は、主に食材や食料だ。週に一回、買出しに行ってもらっている。
イザベラは、わりと近くで一人暮らしをしている。
荷物を運び終え、三人は台所で集まっていた。コーヒータイムだ。
「それにしても、あんたたち結婚もしないで、よく研究ばっかりしてるわよね」
「まあな」
「結婚だけが人生じゃないしな」
「まあそうだけど…」
「イザベラ、詳しいことは言えんが、近々私たちは有名になるかも知れんぞ」
「ふふふ」
二人はにやけていた。
「有名?なに言ってんのさ。ここいらじゃすでに有名よ。変な研究してる二人組みって」
「ふふふ、そんなもんじゃないぞ。こんどはな」
「そういうこと、そういうこと、ふふふ」
「変なの…。まあここが爆発してニュースに出る、なんてことにだけはならないようにね」
「ああ、大丈夫」
二人は本当に楽しそうだった。
しばらくしてイザベラは帰っていった。
「さてと…ヘンリー、さっき言ってたドラゴンについて、詳しく教えてくれないか」
「おお。では本を持ってくるよ」
ヘンリーは書斎から本を持ってきた。かなり古びた本だ。
「えと…ここだ。星暦1217年7月7日、エジプト。巨大なドラゴンが突如現れ、人々を襲う。時の王は軍隊を総動員し制圧にかかる。激しい戦いの末、百人以上の犠牲者を出しながらも、なんとかこれに勝利する、とある」
「ほほう」
「すごいだろ」
「百人以上の犠牲者か。相当なバケモンなんだろうな、ドラゴンは」
「ふふふ、そんなもの、お前が作ったビーム粒子ライフルとビーム粒子サーベル、そして超・小型ナパームボムがあれば、楽勝だよ」
「まあな」
ブラウンは得意げだった。
「それで、タイムマシンは?早速見せてくれよ」
「そうだな。では」
ふたりはタイムマシンの置いてある部屋へと移動した。
タイムマシンは白い大きな布をかぶせてあった。
「さてと…」
ブラウンはタイムマシンの近くにいき、布を掴んだ。
「ヘンリー、これが長年の研究の結果、ついに完成した世紀の大発明、タイム・ヘリだ!」
”バサァ!”
ブラウンは勢いよく布を取った。
「おお!」
そこにはヘリコプターのようなマシンがあった。
「これは…」
一見、ヘリコプターにしか見えない。
「どうかね。この美しいフォルム」
「これは…飛ぶのか?」
「いや、飛びはしない。プロペラは電力を生み出す装置だ。実際はそこの操縦席に乗った者だけが違う時代に運ばれる」
「?…じゃあ、どうやって戻ってくるんだ?」
「これだよ」
そう言うとブラウンはリモコンのようなものを取り出した。
「このリモコンのボタンを押すと、帰ってこられる」
「そうか。じゃあそのリモコンは大事に扱わないとな」
「そういうことだな。しかし難点がひとつある」
「なんだ?」
「違う時代に滞在できるのが、約12時間だけなのだ」
「ほう」
「それと、同じ時代には二度はいけない」
「なぜだ?」
「それは分からない。とにかく一度実験してみたのだが、どういうわけか同じ時代には行けなかった」
「そうか…まあ、なんとかなるだろう」
「ああ。なんとかなるさ」
二人は能天気だった。いやポジティブと言うべきか。
「ところで、実験したということは、君がどこかの時代へ行ったのか?」
「ああ。5年前だ」
「5年前…」
5年前といえば、ブラウンの弟クラウンが交通事故で亡くなった年だ。
「このマシンは、クラウンを助けるために作ったわけじゃないが、とりあえず行ってみた」
「そうか…」
「事故にあった日付は分かっていたが、時間がはっきり分からなかったので、朝9時くらいに設定して過去へ行き、事故にあった場所付近をいろいろ調べたんだが…」
「助けることは…できなかった…?」
「ああ。午後2時ごろ、人だかりを見つけて行ってみたら、クラウンが倒れていたよ…」
「そうか…」
場が少し重くなった。
「まあしかし、落ち込んでばかりもいられない。そもそも歴史を変えるのはよくないことだからな」
「そ、そうだな。しかしこれから我々は歴史を変えに行くんだぞ?」
「いや、ドラゴンを退治しには行くが、歴史は変えないぞ。ドラゴンは本当の歴史でも倒されているのだからな」
「そうか。そうだな」
「それに、はるか昔の歴史を変えたところで、あまり影響は無いだろう」
「いや、むしろそのほうが影響があるかもしれないぞ。まあ今回は歴史を変えないからいいが」
「うむ。とにかく、目的以外のことは出来るだけやらないようにしよう」
「そうだな」
二人は真剣な目だった。
しかしドラゴン退治と、億万長者、この二つがどうつながるのか。
理由はこうだった。
ある博物館の館長が熱心に研究していることがあった。それがまさにドラゴンだ。博物館の館長は調査隊まで作り、ドラゴンの化石の発掘に心血を注いでいた。
そしてドラゴンの化石あるいはドラゴンの存在が証明されるものを持ってきた者には「1億円」を進呈すると公布した。
ブラウンとヘンリーはそこに目をつけたのだ。
「さてと…では明日さっそく行こうか」
ブラウンが言った。
「明日?また急だな」
「なにか不都合があるか?」
「いや、ない。明日行こう」
「よし」
二人はあっさり決断した。善は急げ。この決断力はなかなかすごいことだ。
その夜。二人は十分に睡眠をとった。
翌日。
二人は朝早くから起き、旅支度をしていた。
ドラゴンがいるであろう場所の地図、ビーム粒子ライフル、ビーム粒子サーベル、超・小型ナパームボム3個、食料、そして何より大事な過去から帰ってくるためのリモコン、それらをかばんに入れ、心を引き締めていた。
「さてと、あとはこれだな」
「ん?ブラウン、それは何だ?」
「保存カプセルだよ。ドラゴンの指か何かをいただいて保存しておくためのものだ」
「なるほど。それがないと証明にならないからな」
「ああ」
「カメラは持っていかないのか?」
「いや、写真は無意味だ。撮ってきても、どうせCG合成だと思われるだけだ」
「それもそうだな」
二人は荷物を持ち、タイムヘリに乗り込んだ。
「わくわくするな」
「そうだな」
「しかしドラゴンってどれくらいの大きさなのかな?」
「そりゃあ…ばかでかいだろう」
「なるほど、ばかでかいか。いい表現だ」
「まあこっちには強力な武器があるんだ。大丈夫さ」
「そうだな。ドラゴンと戦ったという軍隊には、せいぜい剣と弓矢くらいしかないだろうからな」
「ある意味、そんな武器で立ち向かうなんて勇敢だけどな」
「確かに」
そんなこんなで、とうとう二人は旅立つこととなった。
「では…」
ブラウンは何やら5つ6つボタンを押した。
「さあ…出発だ!」
そして目の前のレバーを力強く押し上げた。ディスプレイには「1217・7・7・エジプト」と表示されている。
”シュイイイン”
プロペラが勢いよく回る。二人は目をつぶっていた。そして数秒後、光と共に二人は消え去った。
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「うっ…」
二人は何も無い平野に倒れていた。
「ここは…」
遠くのほうに町や城が見える。
「来たな…」
「ああ…」
二人は立ち上がった。
「1217年か…」
「さて…とりあえず町に行くか」
「そうだな」
二人は歩き出した。その時、
”ブアサァ!”
強大な影が、二人を追い抜いていった。
「あ、あれは!」
まさしくそれはドラゴンだった。大きな翼を広げ、町のほうへと飛んでいった。
「赤かったなブラウン」
「ああ」
「しかし思ったほど大きくなかったな」
「そうだな」
「しかし油断は禁物だな。どんな攻撃をしてくるか分からんからな」
「ああ。気を引き締めていこう」
ドラゴンはもう見えなくなっていた。かなり速い。
「よおし…」
二人は武器を確認し、足早にまっすぐに町を目指した。
30分後。
「ふう」
二人は町の入り口に着いた。
”ドーン!”
「うわああ!」
ドラゴンはさっそく暴れていた。
「…」
数ヵ所で火の手も上がっていた。
「さすがだな…」
「火を吐くようだな」
しかしドラゴンの姿は見えなかった。そこで二人は町の人に話を聞いた。
「すいません。ドラゴンはどこですか?」
単刀直入な質問だった。
「え?あんたら…変な格好をしているな?異国の民か?」
「ええ、まあ…。そんなことよりドラゴンはどこですか?」
「ドラゴンは、城に向かったよ。けど、なんでそんなこと聞くんだ?そんなことより逃げなきゃ」
「そうですか。ありがとう」
二人は城のほうへと向かった。
「おい!あんたら!どこへ行く!?殺されるぞ!?」
二人は走って城へと向かった。
城の入り口あたりに、巨大なドラゴンと多くの兵士がいた。
「いたぞ!ブラウン!」
「ああ!」
兵士たちは剣や弓矢で応戦していたが、ドラゴンにはあまり効いていないようだった。
”ブオオオ!”
「ぐわああ!」
一方のドラゴンは巨大な口から炎を吐き、兵たちを丸焼きにしていた。
「おのれ…」
兵たちはなす術も無かった。ドラゴンは全長5メートルほどだった。
「よし…」
ブラウンがカバンからから超小型ナパームボムを取り出した。
「ブラウン、外すなよ…」
「ああ…」
ブラウンはじわりじわりと近づき、タイミングを待った。
兵たちの中には妙な二人組み(ブラウンとヘンリー)に気がついた者もいたが、それどころではなかった。
「…」
ブラウンは額の汗を拭き、
「よし、今だ!」
超小型ナパームボムをドラゴンの首のあたりめがけて投げつけた。
”ドカーーン!”
ボムは見事に当たり、大爆発を起こした。兵たちは何が起こったのか分からなかった。
「よし!」
ブラウンは思わず叫んだ。
ドラゴンはというと、首から上が吹き飛んでいた。そして
”ドーーン”
ドラゴンは勢いよく地面に倒れこんだ。
「やった!」
ヘンリーが言った。
「しかし…あっけなかったな…」
ブラウンが言った。
兵士たちは立ち尽くしていた。見たことのない二人の人間。着ている服も時代が違うから当然見たことがない。なにより、ありえない威力の武器。
中には「魔法使いか…?」とつぶやく者もいた。
「ブラウン…ここにずっといるのはまずい…」
「ああ、そうだな。さっさと退散したほうがいいようだ…」
ブラウンはビーム粒子サーベルを取り出した。兵たちはざわめいた。
ヘンリーはビーム粒子ライフルをかまえ、もし襲われたらいつでも応戦できる体勢をとっていた。
ブラウンはサーベルでドラゴンの手(手首から下)を切り落とした。そして保存カプセルに入れた。 当初はドラゴンがもっと大きいと思っていたので、指をいただく予定だったが、手でも入るので、手を持ち帰ることにした。
「よし、いくぞ」
ブラウンとヘンリーは、逃げるように走った。
「あ!まて!」
兵の隊長らしき人物が叫んだ。しかし、
”シュイイイン”
ヘンリーはリモコンのスイッチを押した。たちまち二人は時空の中に消え去った。
「な…」
兵たちは驚いていた。当然だが。
「な…なんだ…いまのは…?」
「神の使いか…?」
その問いに答える者は、誰もいなかった。
そしてかたわらには、巨大なドラゴンの死骸だけが残っていた。
☆その2へ続く☆