12月20日(金):シーラカンスの日
「7500万年前に絶滅したと思われていたシーラカンスが見つかった日だって、知ってた?」
愛がソファに座りながら、スマホの画面を指でなぞり、弟の海斗に問いかけた。
「え、7500万年前?なんでそんな大昔のこと知ってんの?」
「これ、今日の豆知識だよ。1938年にマダガスカルで見つかったらしい。つまり、絶滅したと思われてたけど、実は生きてたってこと。」
海斗は目を輝かせた。「それ、めっちゃかっこいいじゃん!隠れてたってこと?どこに?」
「深海だよ。人間が行けないような深いところ。」
「深海……。僕もシーラカンス探しに行きたい!」
愛は笑いながら海斗の頭を軽く叩いた。「あんた、そんな簡単に深海行けると思ってんの?それこそ潜水艦とかじゃないと無理だよ。」
「じゃあ、僕、潜水艦作る!」海斗は立ち上がり、大きく腕を振り回した。
その声を聞きつけて、台所で夕飯の準備をしていた母、結衣が顔を出した。
「また何の話?シーラカンス?」
「そう!ママも知ってた?」海斗が目を輝かせたまま母に詰め寄る。
結衣は少し考えてから頷いた。「知ってるよ。でも、そんなに簡単に見つけられるわけじゃないんだよ。とても珍しい生き物だから。」
「珍しいって、どのくらい?」
「それは……。」結衣が答えに詰まると、リビングに座っていた祖父の勝が本を閉じて言葉を挟んだ。
「シーラカンスは、地球の時間を見守ってきた生きた化石と言われているんだ。だから、人間に見つからないのも自然の摂理かもしれないね。」
「じいちゃん、詳しい!」海斗が駆け寄り、祖父の膝に飛び乗った。
「どうして化石じゃなくて生きてるの?」
勝はにこやかに笑いながら答えた。「深海は、人間の手が届かない場所だから、地上の変化に影響されなかったんだ。自然が作った隠れ家みたいなものさ。」
「すごい……。」海斗はしばらく考え込み、ふと顔を上げた。「ねえ、じいちゃん。僕もその隠れ家に行ける?」
「それは……まず泳ぎの練習からだな。」勝が笑うと、リビング全体に笑いが広がった。
その様子を見ながら、愛がぽつりと呟いた。「でも、絶滅したと思われてたものがまだ生きてるって、なんかロマンあるよね。」
「本当だね。」結衣が頷きながら、テーブルに並べた皿を見渡した。「もしかしたら、私たちも知らない世界がまだまだあるのかも。」
その日の夕食は、家族全員がシーラカンスにまつわる話題で盛り上がった。勝は昔話を混ぜ込みながら、深海の不思議や、地球の歴史について語った。海斗は最後まで潜水艦の設計図を考えているような様子で、デザートのプリンを頬張りながらぶつぶつと独り言を言っていた。
夕食後、愛は部屋に戻りながらスマホの画面をもう一度見た。「シーラカンス……。絵にしてみようかな。」
その夜、山本家のリビングでは、勝が孫たちにシーラカンスをテーマにした冒険譚を語り始めた。海斗は目を輝かせながら布団にくるまり、愛もリビングの隅で静かにスケッチを始めた。
「シーラカンスは、深い深い海の底で、太陽の光を知らずに眠り続けていた。でも、ある日、冒険好きな少年が……。」