12月19日(木):日本人初飛行の日
「お父さん、今日は何の日か知ってる?」
海斗が学校から帰ってくるなり、ランドセルを放り出して翔太に問いかけた。翔太は夕飯の準備でキッチンに立っていたが、包丁を一旦置き、眉をひそめて考え込む。
「うーん…今日って何か特別な日だったかな?」
「ヒントあげる!飛行機に関係ある日だよ!」
海斗の声に、祖父の勝が新聞をたたむ音が響いた。
「ほほう、それはもしや…日本人初飛行の日じゃないか?」
「正解!さっすがおじいちゃん!」
勝の言葉に、海斗は嬉しそうに手を叩いた。翔太も驚いたように目を見開く。
「そんな日があったのか…初耳だな。」
「お父さん、歴史弱いなあ。」
海斗はため息をつきつつも、自信満々に話し始めた。
「1910年の今日、徳川好敏さんっていう人が飛行機に乗ったんだよ。フランスのアンリ・ファルマンっていう飛行機を操縦して、東京の代々木で飛んだんだって。」
「へえ、そんな昔から日本で飛行機の歴史が始まってたんだな。」
翔太が感心していると、澄江が刺繍の手を止めて微笑んだ。
「海斗くん、学校の授業で習ったの?」
「うん、社会の時間に先生が教えてくれたの。しかもね、操縦士の免許を取ったのも世界で一番早い方だったんだって!」
その話に、愛が二階から降りてきながらつぶやいた。
「なんか…それって夢があるね。今の飛行機と比べたら、すごく簡単な作りなんだろうけど、それでも空を飛ぶなんて。」
「そうだね。」勝は孫たちを見渡しながら、目を細める。「当時の人々にとって、空を飛ぶことは夢そのものだった。それが今では、みんなが当たり前のように乗る時代だ。人間の努力と想像力はすごいもんだな。」
翔太は鍋の蓋を開けながらふと提案した。
「次の休みに空港でも行ってみるか?」
「空港!いいね、それ!」
海斗が飛び跳ねるように喜ぶ。
翔太の提案に、結衣が笑顔で加わる。
「じゃあ、お母さんも美味しいお弁当作るよ。みんなで展望デッキで食べながら飛行機を眺めるのも楽しいかも。」
「お弁当…卵焼きは絶対入れてね!」
海斗のリクエストに、一同が笑う。
その夜、勝はいつものように孫たちに物語を語り始めた。
「昔々、まだ飛行機が空を飛ぶ夢のような時代、人々は空を目指して大きな風船を作ったり、鳥のような翼を作ったりしていました。ある村では、若い発明家が竹と紙で滑空機を作り、小さな丘から飛び立とうとしました。風が強い日、彼はみんなの前で勇気を出して翼を広げ、大地を離れることに成功しましたが、あっという間に風に流されて池に落ちてしまいました。それでも、その瞬間に人々は『空を飛ぶことは不可能じゃない』と信じるようになったのです。」