12月15日(日):年賀郵便特別扱い開始日
12月15日、日曜日。冬らしい冷たい風が窓の外を吹き抜ける中、山本家のリビングは少しだけ静かだった。
「年賀状、書かなきゃなぁ」父の翔太がぼんやりとつぶやいた。彼はテーブルに置かれた束のハガキを見つめ、ため息をつく。隣では母の結衣が湯気の立つ紅茶を注ぎながら「今年もたくさん来るわね、仕事関係とか」と応じる。
「でも、海斗も愛も全然乗り気じゃないのよね。ちょっと声かけてみてくれない?」結衣が苦笑いを浮かべる。
「おーい、海斗!愛!」
「なに?」愛が顔を出す。その後ろから、弟の海斗もひょっこり顔を覗かせる。
「年賀状、手伝えないか?」翔太がストレートに頼むと、愛は少し眉をひそめ、海斗は口を尖らせる。
「えー、今年もう手書きにしなくてもよくない?SNSで新年の挨拶とか、メールで十分じゃん」愛が反論する。
「僕、苦手だよ。字きたないし」と、海斗がおどおどした声で付け加える。
「まぁまぁ、そんなに難しく考えなくていいんだぞ」そこに祖父の勝が新聞をたたみながら入ってきた。「年賀状を書くのはな、ただ挨拶するだけじゃないんだ。こうやって気持ちを文字に込めること、それが大事なんだよ」
「気持ち?」海斗が少し興味を示したように首をかしげる。
「そうさ。たとえば、ありがとうとか、今年もよろしくとか。普段言いにくいことを伝えるチャンスだ」勝は優しく微笑みながら話す。
「おじいちゃん、それってちょっと説教くさくない?」愛が茶化すように笑うが、その目は少し柔らかい。
「説教じゃないよ。お前たちがどんな年にしたいか、それを考えるきっかけにもなるんだからな」勝がそう言うと、結衣が「じゃあ、まずは誰に書きたいか決めるところから始めようか」と提案した。
「僕、田中先生に書く!去年お世話になったから!」海斗が突然張り切り始めた。田中先生は彼の小学校の担任で、特に動物が好きな海斗の自由研究を褒めてくれた恩師だ。
「私も考えてみる。友達に手書きで送るの、逆に新鮮かも」愛もペンを取り出し始めた。
翔太と結衣は顔を見合わせて、ほっとした表情を浮かべる。
その後、家族全員でリビングのテーブルを囲んで年賀状を書くことになった。祖母の澄江が用意した温かいお茶とお菓子が並び、勝が「手書きってのはこうやるんだぞ」と自分の字を書いて見せると、海斗が「おじいちゃん、字、かっこいい!」と感心する。
「さて、今年もみんなで新しい年を迎えられるように頑張ろうか」翔太の言葉に、全員がうなずいた。
外は冷たい風が吹いているけれど、山本家のリビングは、心のこもった言葉でいっぱいになっていた。