12月14日(土):忠臣蔵の日
12月14日、忠臣蔵の日。朝から霜が降りた庭を眺めながら、山本家の台所では祖母の澄江が湯気を立てる味噌汁を用意していた。いつもより少し特別感を出そうと、昨夜から仕込んだ赤穂風のおでんがコンロの上で静かに煮立っている。
「今日も寒いねえ…忠臣蔵の日って、昔は盛り上がったんだよ」
おばあちゃんの言葉に返事をするように、勝がリビングで新聞を読みながら「そうだなあ」とうなずく。
「じいちゃん、忠臣蔵ってどんな話だっけ?」
小学生の海斗が、まだ寝癖のついた頭でリビングに飛び込んできた。ランドセルも宿題もない土曜日に浮かれる彼の足元には、飼い猫のミミがまとわりついている。
「忠臣蔵か。そうだな、簡単に言うと…主君の仇を討つために命をかけた侍たちの話だよ。大石内蔵助っていうリーダーがいてな…」
「それって、なんかカッコいいな!僕もやりたい!」
「やりたいって…何を?」
階段の上から声がして、姉の愛が寝起きの顔で降りてきた。家族の中で一番遅起きな彼女が、この時間に起きてくるのは珍しい。
「忠臣蔵ってさ、ただの喧嘩じゃなくて、信念の話なんだよ。自分の気持ちを貫く覚悟って簡単じゃないし…」
「お姉ちゃん、なんか偉そう!」
「うるさい!海斗こそ、まだ宿題やってないでしょ?」
「それ言わないでよ…」
リビングの温かさが増していく中、父の翔太がコーヒーを手にしてやってきた。
「よし、今日は家族みんなで映画タイムにしようか。忠臣蔵のDVD、確か押し入れにあったよな?」
「お父さんがそういうときって、結局途中で寝るじゃん」
愛がぷっと笑うと、母の結衣がエプロン姿でキッチンから顔を出した。
「その代わりにみんなでおでんを食べるっていうのはどう?赤穂風の味付けにしてみたんだけど」
「おでん…いい匂いだ!」
海斗が思わず跳びはねると、それを見た勝がほほえむ。
「海斗、これも忠臣蔵の縁なんだ。赤穂浪士の赤穂って場所は、お塩が有名でな。そのおかげで美味しいおでんができるんだよ。」
「おじいちゃん、すごい物知り!」
「まあな、昔校長先生だったからな」
その言葉に、全員が一瞬静かになる。
「あれ?これ、昨日も聞いたやつだ」
海斗のツッコミに爆笑が起こる。そんな笑い声に、澄江が「こぼさないで食べるのよ」と注意しながらおでんを食卓に並べる。
その後、家族全員で映画を観ながら、時折映画の内容に口を挟む愛、途中で寝落ちする翔太、そして最後まで熱心に話を聞く海斗。
映画が終わる頃、澄江がぽつりと言った。
「やっぱり、こういう話っていいわね。自分を大切にするのも、家族を守るのも、信念があってこそだもの。」
その言葉に、勝がうなずいた。
「お前たちも、自分の道を見つけるんだぞ。忠臣蔵みたいに、最後まで諦めないでな。」
その夜。海斗が寝る前に、おじいちゃんにこう頼んだ。
「おじいちゃん、忠臣蔵の続きのお話、また今度してね!」
「もちろんだとも。次は赤穂浪士がどうやって集まったか、その話をしようか。」