7月10日(木):納豆の日
朝、山本家のキッチンから漂ってきたのは、どこか懐かしい発酵の香り。
「うわっ、納豆のにおい!」
海斗が洗面所から駆け込んできて、テーブルを覗きこむ。
「今日は納豆の日だからね。納豆トッピング祭りよ♪」
結衣がにっこり笑いながら、テーブルに納豆の器と、キムチ、ネギ、とろろ、オクラ、ツナなど様々な“トッピング素材”を並べていた。
「おぉ〜…なんかすごいことになってる!」
愛が半分寝ぼけたまま着席し、思わず二度見。
「納豆の日って、語呂合わせで7(なっ)10(とう)なんだって」
結衣が説明すると、翔太が新聞から顔を上げた。
「知ってるよ、だから今日は“ねばり強く”仕事に励まねばな」
「うわ、お父さん朝から寒いダジャレ…」
愛が顔をしかめると、澄江がふっと笑った。
「でもね、納豆ってね、昔は藁に包まれてたのよ」
「わら?って、あの田んぼの…?」
海斗が目を丸くして振り向く。
「そう。今みたいなパックはなかったからね。藁のなかに茹でた大豆を詰めて、自然に発酵させたのよ」
澄江が優しく語ると、勝も隣から補足する。
「冷蔵庫もなかった時代、納豆は冬のごちそうだったんだ。祖父の家では、囲炉裏のそばに吊るしていたそうだよ」
「いろり!?なにそれ博物館みたい!」と海斗が食いつく。
「納豆って、そんなに昔からあったんだね。僕、納豆って最初から“スーパーで売ってるもの”だと思ってたよ」
海斗がしみじみ言うと、翔太がうなずいた。
「便利ってすごいことだけど、昔の手間には愛情がこもってたんだよな」
「じゃあ、今日は“納豆愛”を込めて、最強トッピングを作る!」
海斗が張り切り、山芋+卵黄+ネギ+海苔を大胆に混ぜる。
「ぐるぐるぐる…いっけぇ〜〜!!」
「それ、混ぜすぎじゃない?」
愛が笑いながら突っ込む。
「私は、オクラと梅でさっぱり系にしよ」
「お母さんはキムチ納豆かな〜」
「わしは…シンプルに醤油のみ!」
「昔ながらの味、ね」
澄江がほほ笑む。
食卓は、ねばねば、つるつる、くるくるの音に包まれ、なんともにぎやか。
「納豆ってさ…なんか、家族っぽいよね」
ふと、海斗が呟いた。
「ん?どういう意味?」




