7月9日(水):ジェットコースターの日
「今日は何の日か知ってる?」
朝のリビングで、ニュースを見ていた愛がぽつりとつぶやいた。
「7月9日…なんか語呂ある?」
翔太がトーストをかじりながら首をかしげる。
「ジェットコースターの日、だってさ。日本で初めて開業した日なんだって。」
「へぇ~!」と海斗が目を輝かせた。「乗りたい!ジェットコースターって憧れだよね!」
「私は…ちょっと苦手かも。あの落ちるときの浮く感じ…」
愛が言うと、結衣が笑いながら頷く。
「ママも実は得意じゃないの。でも乗るとつい叫んじゃってスッキリするのよね。」
そのとき、勝が新聞を置いてひとこと。
「昔の遊園地は、今よりずっと揺れたぞ。木製のジェットコースターなんて、まるで板の上を跳ねてるようだったな。」
「うそ!危なくないの?」と海斗が身を乗り出す。
「それもスリルのうちさ」と勝がニヤリと笑うと、澄江が「私は観覧車専門でした」とお茶を運びながらぽつり。
「じゃあさ、みんなで“スリル体験トーク”しようよ!」
と、海斗が提案した。
夕食後、リビングに集まった家族は、それぞれの「スリル体験」を語り始めた。
「お母さんはね、学生時代にジェットコースターで気絶しかけたの。」
「え、怖っ!」と海斗。
「私はこの前、プレゼンのときの方がよっぽどスリルだったな…」
愛は苦笑しながら言うと、翔太が腕を組んで口を開いた。
「実はさ…」
「ん?」と全員の視線が集まる。
「俺、高所恐怖症なんだ。」
一瞬、沈黙。
「…え!?」「マジで?」「工場の上の方とか行ってるじゃん!」
家族が一斉に驚く。
「仕事では仕方ないから頑張ってるけど、実は観覧車すら怖くてな。昔、愛と乗ったとき、笑顔だったけど、内心ガチガチだった。」
「えぇー!あのときの笑顔、演技だったの!?」
愛が叫ぶ。
「演技っていうか、父の意地だな。」
翔太が照れくさそうに笑うと、結衣がそっと寄り添って「そういうところ、好きよ」と笑った。
「よし決めた!」海斗が手を挙げた。「次の休みに、みんなで遊園地行こう!お父さんとジェットコースター乗るの!」
「やめとけ、それは別のスリルすぎる…」
翔太が苦笑し、家族みんなが笑い声をあげた。
その夜、勝が布団に入る前にぽつりとつぶやいた。
「怖さを認めるってのも、ある意味スリルだな。でも、それを伝えるのは…強さだ。」
怖さも、笑いも、思い出になる。
「ジェットコースターみたいな人生を、家族と一緒に楽しむことができれば、それだけで十分幸せだ。」