1月1日(水):元日
「おい、起きろー!初日の出見逃すぞ!」
翔太の大きな声が、静まり返った家中に響き渡る。寝正月を楽しみにしていた海斗は、布団に潜り込みながら顔だけ出して、「まだ暗いじゃん。寒いし…」と不満を漏らす。
リビングでは、すでに勝がストーブの前に座って湯飲みを片手に新聞を広げている。澄江は、温かい雑煮を煮込みながら「あらあら、翔太ったら張り切っちゃって。元日くらいのんびりすればいいのにねぇ」と微笑む。
階段を降りてきたのは愛。まだ寝ぼけた表情のまま「初日の出って去年も見たけど、毎年同じじゃない?」とぼそっとつぶやく。それを聞いた翔太が振り返り、「毎年同じでも、見るのが大事なんだよ。新しい年の始まりだからな!」と力説する。
勝が新聞から目を離し、「翔太、お前は昔から正月だけやたらと元気だな」と冗談めかして笑うと、翔太は「そりゃ、親父の血だよ!」と胸を張る。
家族が揃って庭に出るころには、空が少しずつ明るくなり始めていた。寒さに震える海斗は、姉・愛のマフラーを引っ張りながら「なんでこんなに寒いんだよ。冬休みってもっと楽しいもんじゃないの?」と文句を言う。
「楽しいってのは、自分で作るものだよ」と勝が穏やかに返す。「ほら、見てごらん。空が綺麗だろう?この瞬間を逃したら、また来年まで見られないんだから。」
その言葉に、海斗も少しだけ目を細めて空を見上げた。白んできた空が、うっすらとオレンジ色に染まっている。
「ほら来たぞ!」翔太が指をさす。家族全員が同じ方向を向くと、地平線の向こうから太陽が顔を出した。
「わぁ、綺麗…」と愛がつぶやく。その声に海斗もつられて「うん、意外といいね」と呟くと、翔太が「意外とは余計だろ!」と突っ込んで笑いを誘った。
家の中に戻ると、澄江が用意したお雑煮とおせち料理がテーブルに並んでいる。
「おばあちゃんの雑煮、やっぱり最高だな!」翔太が箸を伸ばすと、澄江は「もっとゆっくり味わいなさい」と優しく注意する。
愛はおせちの黒豆を摘みながら、「ねえ、今年の抱負とか言ってみる?」と提案する。翔太が「おっ、それいいな!俺は、仕事をもっと効率よくして家族との時間を増やす!」と即答する。
「私は、デザインのコンテストで入賞を目指す!」と愛が自信たっぷりに答えた。
すると、海斗が大きな声で「俺は昆虫図鑑を全部覚える!」と言い出す。それに驚いた翔太が、「全部ってどれくらいあるんだよ?」と聞くと、勝がすかさず「昆虫の種類は世界で100万種以上いるぞ」と補足した。
海斗が目を丸くして「そんなにいるの!?」と驚くと、愛が吹き出して「無理じゃん、それ!」と笑った。
「無理じゃない!」と海斗が反論し、家族全員が笑顔になった。
食後、リビングでお茶を飲みながら勝がぽつりと言った。「去年の地震、大変だったけど、こうしてまた新しい年を迎えられて本当に良かったな。」
その言葉に、家族全員がうなずいた。翔太が「そうだな。今年も無事に過ごせるように、家族みんなで頑張ろう。」と言うと、澄江が優しく微笑みながら「ささやかでも、こうして一緒にいられることが一番大事なのよ」と付け加えた。
「今年もよろしくお願いします!」と家族全員が声を揃えて手を合わせる。新しい年の幕開けが、こうして温かく始まった。