7月5日(土):ビキニスタイルの日
土曜日の午後。
庭の紫陽花が色濃くなり、そろそろ本格的な夏の気配が近づいている。
リビングでは、愛がノートパソコンとiPadをテーブルに並べて何やら作業中。
「えっと、これが1946年だから…あ、ここでパリコレも影響してるのか」
ブツブツ言いながらスライドを操作していると、結衣が紅茶を運んできた。
「なに作ってるの?」
「うん、今日って“ビキニスタイルの日”なんだって。
世界で初めてビキニが発表された日が、1946年7月5日。デザインの歴史をまとめてみたの」
「ファッション史のプレゼン、いよいよ家庭内初披露か?」
翔太が笑いながらやってきた。続いて、海斗もスナック菓子を片手にぴょこんとソファに座る。
「それでは、“水着の進化と時代背景”について、山本愛がお送りします」
と、愛がプレゼンをスタート。
「1946年にフランスで発表された“ビキニ”は、それまでのワンピース型の水着を大きく変える革命でした。
名前の由来は、当時核実験が行われた“ビキニ環礁”から。“世界を揺るがす衝撃”にたとえたんだとか」
「え、爆弾級に衝撃ってこと?」と海斗がびっくり。
「そう。ちなみに当時はあまりに露出が多くて、“モデルが見つからなかった”って話もあるの」
翔太が画面をのぞき込むと、1950〜60年代のビンテージ水着写真が次々と映し出される。
「お、これは……わっ、これ俺の子どもの頃じゃない?」
「パパの昭和水着シリーズ、出た〜!」と海斗が爆笑。
写真には、夏の海で浮き輪を抱える若き翔太の姿。
横にはまだ小さな愛が笑っている。砂浜の向こうに、くすんだ色合いの海が静かに写っていた。
「こういうのも、もう“ファッション史”の一部なのね」と結衣。
プレゼンが終わると、勝が静かにひと言。
「ファッションとは“身体を守るもの”から、“生き方を映すもの”に変わってきたんじゃな。
肌を見せることに意味がある時代も、隠すことに美しさを求めた時代も……それぞれが、人の心を表しておる」
「見た目だけじゃなくて、その背景もデザインなんだね」